第2話【癒し系トラップ】
青空を隠すように立ち並んでいる木々の間を、ハルトは歩いていた。
速く、強い足取りで。
その足取りには、強い決意が込められていた。
さっきまでの俺は俺じゃない、俺は、もっと強い。
逃げるように走っていた時間は
丸まって、下を向いていた時間は
崖の下を見つめていた時間は
ただの悪い夢だ、そんなもの、とっとと忘れてしまえ。
もう一度死ぬなんて絶対にごめんだ。
絶対絶対絶対に生きて生き抜いて生き残ってやる。
そんな、強い決意が
そして今、生きる為には、まず_________
「腹減った!喉乾いた!」
まずはこの空腹と渇きを癒さなければ。
ハルトは、何かしらの食物が生えている事に期待して、とりあえず森の中に入った。口にできそうな物はあるにはあるのだが、イマイチ決心出来ずにいた。例えば、
マンドレイグらしき葉を見かけたが、引き抜いたら叫び出しそうなのでやめておいた。
木の根元にキノコが生えていたが、キノコ=危ないというハルトの偏見でやめておいた。これは自分が悪いのではなく、やたら殺意の高い進化ばかりするキノコが悪いんだ、と心の中で言い訳をした。
先程見かけた怪鳥を思い出し、動物を狩る事も考えるが、狩ったとて調理法もわからないし調理道具もないので実行には移さなかった。
「おっ、これよくね!」
いよいよ空腹が限界を迎えそうな頃、大量に実っている果実を見つけた。ピンク色で、ゴルフボールぐらいの形とサイズだ。もしこれが食べられるのなら、空腹も喉の渇きもどちらも解決する......のだが、ハルトはその果実を食べあぐねていた。
理由はもちろん、毒の心配だ。喉の渇きと空腹どちらも癒せる点は同じ心配をしたキノコに勝っているのだが、余りにも未知な点で、キノコに劣っていた。
鮮やかなピンク色は食欲を掻き立てるが、その鮮やかさで惑わす性格の悪い果実かもしれない。
どうするかと頭を悩ませている時、視界の隅で、白い何かが映る。目を向けると、そこには数匹の白くて丸っこい兎がいた。兎達は不思議な物を見る目で、ハルトに近づく。
「おぉ〜、可愛らしくて癒されるな。いろんな悩みがどうでもよくなっちゃうね。触りたくねぇけど」
何匹かの兎が、足に擦り寄る。足に当たるモフモフとした感触に癒される最中、ハルトは閃く。
「お前ら、これ食うか?」
木からちぎった果実を地面に落とす。足に擦り寄っていた兎は果実に飛びつき、小さな、可愛らしい口で齧る。ハルトは、その様子を観察する。しばらく待っていても、兎にはなんの変化もない。これは、果実に毒がないことの証明だった。
「天才っ!」
閃きと言うほどでもないアイデアを自画自賛。
早速、果実をちぎり、口に運ぼうとする。
だが、ハルトは果実を手から落としてしまう。
__________足が、痛い。
そう思った直後、顔を顰めるほどの熱さを足に感じた。前の世界での喧嘩で、時々、噛みついてくる奴がいた。その時の痛みと、同じ。
ハルトは、足を確認する。
「ッッ...!!」
兎が、脛に噛みついている。大きく、むき出しの口で。