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第15話【汚ねえ火花】

今日は幸運な日だ。ジュートは顔を綻ばせる。


ジュートは今に至るまで、ロフトルド山という巨大な岩山で伝説のドラゴンを探していた。

仲間から存在を聞きつけ、ロマンを胸にかれこれ5ヶ月は探しているのだが、足跡一つ見つかりやしない。

毎日今日こそは見つけてやろうという思いで夕方辺りまで探してもだ。


「ちぇっ、無いのかよ手がかりの一つくらい」


いくら未知の存在だとしてもここまで手がかりがないと、ジュートの中でロマンが薄まっていくのを感じる。


その時、ジュートは空を飛ぶ巨大な影を見た。影は、大きな翼をばたつかせ、近くの洞窟に隠れる?

ジュートは興奮を抑えれず叫ぶ。


「あれか?あれだよな!?」


ゴツゴツとした岩の上を危なっかしく走り洞窟は近づき、期待で輝く眼で暗い洞窟を凝視する。

そこにいたのは、ただの怪鳥だった。ジュートはあまりの落胆に頭の中でガッカリという音が響く。

そして段々怒りが湧いてくる。


「くそ...!期待させやがって。紛らわしいんだよ!!!!」


ジュートの手から魔法が放たれる。親を、友を、故郷を滅ぼした魔法が、怪鳥へと。


____怪鳥を殺した後、ジュートは岩にもたれかかる。

自身のやる気が削がれていくのを感じた。今日はまだ昼にもなっていないのにもかかわらずだ。


「なんか萎えたし、帰る」


町に帰っている時は、今日は最悪だと思っていた。それは、ちょうどいた魔獣を殺しても変わらなかった。


だが今は違う。目の前には自分の次に強い仲間を殺した男がいる。ジュートはその事実に笑みが抑えきれなかった。


__________________________________________


今日は最悪の日だ。ハルトは顔を顰める。

チンピラ達に囲まれ、訳の分からない雷男と殺し、今そいつらのボス格と対峙している。

町を見つけた時の興奮などもう忘れてしまった。

今感じるのは怒りだけだ。一度殺しの経験をしたハルトにもうブレーキはない。


ハルトが地面を蹴りスタートを切る。それと同時、ジュートは両手を重ねて突き出し魔法を発動する。

ジュートの両手からは虫の大群の如く、輝くちりがハルトへと向かってくる。


ハルトは走りながら身を屈める。ちりが地面に当たる瞬間を見て、ハルトは正体に気づく。


(火花か!)


敵の扱う魔法の正体は火花だと判明した。


「火のシャワーだよ」


最初の火花は避けれたが、ジュートが腕の角度を変えると、火のシャワーはハルトを追跡する。だがハルトには追いつけない。ついにハルトはジュートの立つ家へと辿り着く。


突如、ジュートの真下から大きな破壊音が伝わる。

破壊音の正体はハルトが家の壁をぶち壊した音だとジュートはすぐに気づく。

必然、警戒するのは後方にある階段だ。ジュートは少しの間注視するも、ハルトが現れることはなかった。


「オラァ!!」

「ギッ!?」


ジュートの背後から強烈な蹴りが入る。壁を壊したのはブラフで、ハルトはジュートが自分を見下ろしていた壁からジュートの元に駆け上がったのだ。

蹴りを喰らい地面に倒れるジュートにハルトは拳を振り下ろそうとするが、直前でジュートが腕を振り火花をばら撒いた事でそれは阻止される。


ハルトが火花に怯む間にジュートは窓から脱出する。ハルトも追おうと窓枠に手をかける、が、立ち止まる。


(なんだ)


ハルトは見た。自身のいる所へと飛んでくるバスケットボールほどのサイズの光の球を。何かを感じ、咄嗟に窓枠から跳んで離れる。

再びハルトが床に足を着けたタイミングで光球は窓枠から家へと侵入してきた。


「喰らえ」


ジュートが呟くと同時に球は爆ぜる。

見えない圧が弾け、数々の閃光が部屋に飛び散る。

今度こそ家は崩壊した。ハルトは爆発の衝撃で吹き飛び、ギリギリ家の崩壊に巻き込まれずに済んだ。


「イッてェなクソが...!」


吹き飛んだ先でゴロゴロと転がるハルト。手で地面を掴みなんとか体制を整え、さっきの火球について考察する。

あれは線香花火の燃える部分だ。飛び散る火花の元のようなもの、それを奴は自在に放出できるのだ。


「火花の魔法じゃなくて花火の魔法って考えた方が良さそうか」


相手の魔法への認識を改め、顔を上げる。


「!オイオイオイオイオイオイ」


なんと崩壊した家の瓦礫を大きく跨いで火花の大群が押し寄せてきていた。炭酸のような音を発しながらハルトの身を焼かんとする火花を前に、ハルトは一時戦略的撤退を選ぶ。


消滅と発生を繰り返し、結果大群を形成する火花達。

逃げども逃げども中々振り切れず、一瞬収まったと思ったら火球が襲い掛かってくる。

その繰り返しでハルトは、ザックとの決着の広場に再び辿り着いた。


そして押し迫る火花か火球のどっちかから逃げるため、階段を一気に跳んでショートカットを試みる。


「お!」


そして跳んだ先にある家に付いた大きな看板に気が付き着地より前に掴み、無理矢理壁から剥がす。着地した瞬間両手で持った看板を回転しながら振り回す。

それによりハルトに向かってきた火花は全て霧散。

そして階段の上から声が聞こえた。


「おぉおぉ豪快だな。見てて面白いよおま」

「見下ろすな」


ハルトは看板を横向きに回して投げた。それはちょうどジュートの顔面へ、


「ちょお前っ」


ジュートは体を大きく傾けて避ける。看板の横切る音と風が、当たった時の痛みを想像させ背筋が冷たくなる。


「人が話を...!」


ジュートが何やら喚くが、ハルトは無視して階段をたった数歩で駆け上がり拳を振り下ろす。ジュートは足から爆破を起こし跳び上がって回避。そのまま空で一回転し右手から火花を浴びせる様に放出する。


ハルトはそれを一歩横にズレて回避し、宙を舞うジュートへと一撃を入れるため拳を構えた。

だが、ジュートは左手から火花を放出し攻撃を阻止する。


「チッ」


「あんまり、喰らいたくないんでね」


ステップで距離を取ったジュートの両手から刃状の火花が放たれ、その場に留まる。それをもう4つほど作り、6つの炎刃が出来上がる。


「行け」


ジュートの合図と共にそれは一気にハルトは前進...するかと思いきやそれぞれがバラバラに、そして不規則に跳んでいる。

ハルトはそれを見て、そういえばこんな感じの花火があったなと、それを気円斬と名付けて面白がっていたなと思い出した。


バカな事考えたとすぐに切り替え、直線上にある刃を掻い潜りジュート目掛けて脚を振るう。


「ついてないねぇ!」


しかし蹴りは空を切る。そして、


「そうでもないよ」


6つの内2つの刃がハルトの背中へと軌道を捻じ曲げた。


「オォっ!?」


ハルトは片足で前方に跳びギリギリで回避。刃同士が衝突して発火、互いが消滅する。そして残りの4つの刃も消えた。


「やっぱ楽しいねぇー。これ」


にやけ面で合わせた両手から再び刃を作って技をアピールするジュート。対してハルトは顔を顰める。


「ぜんっぜん楽しくないんだが」


「そうか?じゃあこれだな」


ジュートは作った火の刃を消した。まだ別の技を使う気らしい。これじゃあまるでハルトが与えられた玩具に文句を言う子供で、ジュートがその我儘に付き合っている大人だ。


今度は広げた両手を重ねて放つ火花だ。その火花は一つ一つが通常で放つものより大きく、まるでレーザービームの様だった。そしてその火花はハルトを追跡するような軌道を描く。


「ほらほら避けてみろ!」


そう叫ぶジュートに、ハルトは嫌でも応えなきゃならない。ハルトの身を焼かんとする火花をハルトはしゃがみ、跳び、捻り避ける。火花を放つ元凶に近づきながら。


「遊んでんじゃねえ!!!」


怒りの咆哮を発し、獣のようにジュートへ猛進する。

そしてハルトの手が届く間合いに入った途端、爆音と共に視界が閃光で埋め尽くされる。


「かかったな?待ってたこの瞬間を...!」


ジュートの火球がハルトの胴体にぶちかまされた音だ。焦げ臭い黒煙に押される様にハルトの少し浮いた体が後方へ倒れる。


...のが普通だろう。だがハルトは違った。


「なに!?」


倒れる所か、ジュートの胸倉を掴み掛かる。


「舐めんなよそんなチンケな線香花火で人間様を、殺せるわけが...」


ジュートを掴んだ左足を軸にまま半回転。


「ねえだろ!!」


回転の勢いでジュートを階段の方へぶん投げる。投げられた方向にあるのは下り階段、ジュートは地面に平行に投げられたはずなのに宙を浮く羽目になった。


「なんつー怪力...!」


当たり前だが浮いた後は徐々に落ちていく。ジュートは地面に叩きつけられより早く手から爆発を起こし衝撃を軽減する。それでも全身がジンジンと痛むのだが。


ジュートは階段の上部から影が飛び出したのを見て、咄嗟に倒れたまま転がった。直後、ジュートが元々倒れていた場所に両足を揃えたいハルトが落ちてくる。

ハルトが落ちた場所にはひび割れが起こっていた。


「ブッ」


ジュートの腹に蹴りが入る。衝撃で体に溜まっていた空気が口から吐き出される音がした。

ジュートは追撃を阻止する為に腕を薙いで火花をばら撒く。ハルトはバックステップで火花を避ける事に成功するが、せっかく詰めた距離が離されてしまう。


ジュートはようやく立ち上がり両腕を広がる。片手で火球を、もう片手で大きな火花を創り、


「終わりにしよっか」


放つ。


「くっそ...!」


すると、町には爆発が起こり、火が飛び交う地獄絵図が出来上がる。ハルトは放たれる攻撃に渾身の回避をし続ける。とうに起こっている息切れが加速する。


「ハハハハハハハ!!」


相手はハルトの苦労なんてつゆ知らず、いっそ爽やかな程の馬鹿笑いをぶち撒ける。

ハルトは怒りを原動力にし、隙を見て爆発で壊された地面のブロックを投げつける、が火の魔法に難なく破壊される。


飛び交う魔法で近づけず、投擲も無意味。


(隙がない!)


段々と体が重くなり、火花が掠ることが多くなってきた。体力の限界も近く、避け続けるのは難しい。魔力切れの概念も期待できないだろう。

何か、何かこの状況を打開できるアイディアはないか?何か、考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ______。







(あっ、そうだ)


今際の際で回り続けた脳が、自身の記憶から打開策を見つけ出した。


打開策実行の為に、火を躱し、偶に打たれながらも危険なラインギリギリまで接近する。

そして、


(頼む、あってくれ!)


8割願望の考察を胸に、地面を片足で全力で踏みつけた。


__________________________________________


「!!!!!?」


踏みつけられ、瓦解する地面。ジュートはギリギリ瓦解の範囲に立っており巻き込まれる。地面が落ちる一瞬、ジュートは混乱する。


いきなり何を、とか。

踏みつけただけでなんで地面が壊れる、とか。

何が目的で、とか__________


(そーゆー事か!やばい!)


ジュートの焦りなど無関係な重力様は、ただただ壊された地面とそこに立つ者たちを地下の水路へと落としていった。



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