第12話【continue】
再びザックは地面に両手を叩きつける。今度の雷は地を這うのではなく、跳ね返る。
稲妻はハルトへと向かうが、当たらずに横を通過した。どうやら指向性は0らしい。
「ちゃんと狙え間抜け」
口ではそう言うが、当たらなくても雷が近くを過ぎるだけで皮膚がピリピリと痛む。
「そーだな」
ザックは正面へ縦に手を突き出し、指を広げる。
「うおっ!?」
ザックの5指から雷が伸びる。ハルトは横へ回避するが、ザックはハルトの方へ腕を振るう。
雷はハルトに迫る。ハルトは体を水平にしながらのジャンプ。またも雷はハルトに当たらず通り過ぎる。
「すげぇじゃん。じゃあさぁ、これはどうよ!」
ザックがもう一方の手から雷を出し、今度は腕を振り上げた。
ハルトの真下から稲妻が迫ってくる。ハルトは水平のまま倒れたばかり。その姿勢からの回避は困難だと思われるが、
「フンッ!」
手を地面に突き、腕を伸ばすことで逆立ちをし、迫りくる稲妻の間へと回避する。
「マジかッ!」
ハルトの回避方法に、ザックは驚きを隠せない。だが、ザックもこの世界で生きた猛者だ。一度出した衝撃を引っ込め、切り替える。
縦の稲妻も、横の稲妻も避けられた。ならばこれはどうだ、と心の中で凄む。
ザックは両腕を広げ、10本の指全てから雷を放出。
あっという間にハルトを取り囲む、青い檻が出来上がる。そのまま腕を高速でクロスさせれば、囚われのハルトは雷の鞭でバラバラに______________
「ブッッッッッッ!?」
「ダァッ!!」
ザックの視界が黒で埋め尽くされた。黒の正体はザックの顔面にめり込むハルトの頭頂部だ。
ハルトはザックが腕をクロスさせる直前に前方へダッシュ。そして回転をしながらジャンプし、交差する稲妻を避けながら、頭部をスクリューのように突っ込み、突き刺した。
「ってぇ〜!」
頭部がハゲそうなぐらい鋭い痛みがハルトを襲い、涙目になる。だがにじむ視界でしっかりと敵を捉える。
「おらぁ!」
腹ごとザックを蹴り飛ばす。
そのままハルトは追撃を与えようと駆け寄る。
「?」
ザックが、両手首を合わせて、手を広げている。
「!!?」
_____町の上空を、巨大な稲妻が横切る。
ハルトは放たれた雷をマトリックスよろしく上半身を後方に倒して回避する。
(体が.......)
雷は、近くをよぎるだけで体の自由を奪う。
ハルトは間抜けな体勢のまま痺れて動けなくなる。
「やってくれたなぁ!」
ザックの叫び声と共に雷鳴がハルトに近づいてくる。
ハルトは生存本能のみで体の自由を取り戻し、上半身を起こして腕でガードを作る。
雷を握り込んだ拳が、ガードした腕に突き刺さる。
同時に、青い稲妻が拳を起点に発生する。
「ガッ!クッ...!」
腕の内部が炸裂する感覚、皮膚を猛烈な熱が襲い、肉の焦げる音がする。
ザックが腕を伸ばしきり、ハルトを突き飛ばす。そして、ハルトの横腹へ蹴りをお見舞いする。
ハルトは地面を転がり動かない。
ザックは右腕に獣の腕を模した雷を纏い
「これで終わりぃ!死ねァ!」
右腕をトドメを刺すために振り下ろす。
「ん?...あ」
そんな間抜けな声が、今からトドメを刺す男から聞こえた。何かに気づいたような、そんな声だった。
たが今更遅い。もう雷の爪がハルトの頭へ襲いかかる
______ハルトの脚が、ザックの顎を蹴り抜いた。
「!?ッッッッッッッッッッ?????」
「あっぶねー」
ザックは平衡感覚を失い、地面に手をつく。
既に眼で見たはずの現実に対して、何が起きたかと思考する。目の前に、あのガキが立っている。
さっきまで苦悶の顔を浮かべていた癖に、何事もなかったような飄々とした顔で。そして口を開く。
「なんか......慣れたわ」
「ハァ??」
やっと現実を認識し始めていた思考が、再び混乱する。だが、今は敵の前だ。
「グッ!!」
胸ぐらを掴まれて無理やり立たされ、顔面に一発。
「ボェッ!!!」
今度は腹に
「ゴフッッッ!!!!」
今度は胸に
腕に、肩に、太ももに、鳩尾にパンチが入る。
そして首を掴まれ地面に倒され、天高く上げた拳が折れた鼻にもう一度めり込んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
段々、意識が遠のいている。
ハルトは、地に背中をつけるザックとやらわ見て、そう考える。
「まあ、死にはせんだろ、てか死ぬなよ」
そう吐き捨て、空を見る。勝ったという実感が、達成感と安堵感も同時に湧き上がってくる。
「結局、まともな人間は全然いねえのな」
そう呟いたハルトはザックに背を向け、広場を、ひいては町を去ろうとする。
________________空気の割れる音がした。
背後からだ。ハルトは振り向き、倒したはずの男を見る。男の左手は、雷を纏っていた。ゆっくりと体の方へ左手が動く。まずい。そう思ったが遅かった。
「ッッッ!!!!」
男の体が跳ね上がり、立ち上がる。
「....マジかよ」
男は笑いながら、宣言する。
「コンテニューだ」