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短編集

楽観

作者: 豆苗4

 たいていのことは笑い飛ばせる。というより笑い飛ばさずにはいられなかった。笑い飛ばすしかなかった。悲観的であるよりも楽観的であれ!ありもしない土壺にはまるぐらいなら。バタースコッチとコーヒーをここに。笑い飛ばせていないならば今頃太平洋のど真ん中で海鳥に突かれていただろう。どんなものにもシリアスな側面とコミカルな側面がある。どんなものにもだ。もれなくすべて。薄っぺらな靴。油ぎったオーブン。くぼんだスイカ。強烈な照明。ぽつんとひとつだけ取り残された透明な傘。1円玉をひっくり返してみたら5円玉に。シリアスな側面が表だとしたら、コミカルな側面はもちろん裏だ。ではその側面は? コミカルに決まっている。シリアスな面は誰かが上からシールで貼り付けただけの紛い物に過ぎないのだから。


 いや、それは違う。コミカルというのはシリアスなしには成り立たないものだ。緊張と緩和。だから、コミカルはシリアスに準ずる。従属するしか能のないわたあめはずぶ濡れになることを知らない。ペンギンのいたずら書きはいつしかメッキが剥がれる。シリアスはコミカルに先立つのだ。


 冗談言うな。7等分されたフルーツタルトだってそんな思いつき口にはしまい。たとえ喉から9割がた出かかったとしても、そんなこととてもとても恐ろしくて。そもそもシリアスはコミカルの亜種だ。コロコロ転がしてみろ。喉で鈴を奏でるように。先の見えない急勾配に向かってダイブ。どうなるかなんて分かりきっているだろ。必ず手元に戻ってくるのさ。呪いの書。傾いた看板。よれたシャツ。止まりかけたコマ。五重のオブラート。


収束に向かうコインの縦回転。

徐々に高くなる救急車のサイレン。

オーケストラの張り詰めた終曲の予感。

埋まることのなかった最後のピース。


側面のないサイコロ。

踏み外すことのない一本道。

閉鎖された出口。

いつまでも続く雨。


 はっきりとした二面性、予定調和のカタストロフィー、先の見えない洞窟、うだつの上がらない日々など格好の餌。これらこそ笑い飛ばす最たるものだろう。笑い飛ばすにしても結局引きずることに変わりはないのだが。しかし、引きずるにしても香り高いレーズンバターサンドをひとかけら加えよう。それならばさして珍しくもないことだ、取り止めのない記号の羅列に春の息吹を見出すことなど。


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