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第一次多次元世界大戦! 完全武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ 無垢なる神器「スフィダンテ」 編
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08) 智也、スフィダンテにに乗れ!


 死んだはずの真衣香が今智也の目の前にいる。それも一風変わった軍人のような服装で、何故か智也を睨むような猛々しい力を瞳にたたえながら――


 中学時代は弓道部に所属する女性アスリートとして、トレーニングウエアやヨットパーカーなどのスポーティな服装をしていた。そして中学卒業後と共に弓道をやめた彼女は、可愛らしくもおとなしめの服装で大人の女性をアピールしていたのだが、軍服のような『こんな』違和感有り有りの格好をした真衣香など始めて見る。そもそも……真夜中の浜辺で彼女が現れたとすれば、夏の怪談以外あり得ない事なのだが。


「ひい、ひいいっ! 真衣香、ま、真衣香あ!? 」


 腰砕けになって浜にしゃがみ込み、足と手をバタつかせながら智也が後ずさりすると、真衣香は懐中電灯で智也を照らしながら意気猛々しく彼に問い掛ける。


「犀潟智也、犀潟智也で間違い無いな! 」

「いやいや、そうだよ俺智也だけど! 」


 今世界で一番会いたい人。望んだとしてそれが叶う訳が無く、記憶の中でのみ二人でいられる人が目の前にいる。――それも何かしら様子は変だが正真正銘の彼女に間違いはない。


「なるほどそうか、お前がこの世界の犀潟智也か」


 険しい表情で勝手に納得している真衣香は、それまで智也の顔を中心に当てていた懐中電灯の光を彼の足元に下げて、自分の胸のポケットを探り始める。


「真衣香……真衣香なんだろ? 」


 完全に真衣香の幽霊だと認識した智也は、最初の内こそ腰が抜けるほどに怯えて混乱していたが、真衣香に再び出会えた喜びがそれらを凌駕し始めたのか、“幽霊でも良いからお前にもう一度会いたかった”とばかりに、顔をクシャクシャにしながら真衣香に詰め寄り始めた。


「確かに私は依田真衣香だが、貴様の知っている真衣香ではない」

「俺の知っている? ……何だ? 言ってる意味が分からない! 」

「今は分からなくて良い! 時間が無いから良く聞け。お前にこれを渡すから、リバティ・ギアと契約しろ! 」


 真衣香が自分のポケットから取り出して、智也に渡そうと手を差し出したのはハンカチではなく、手のひらほどの大きさの木製の古ぼけた板切れ。八角形のその表面には何やら見た事も無い文字が刻まれている。


「な、何だよリバティ・ギアって? それに真衣香は死んだはずなのに、何故目の前に……もう俺訳わかんねえよ! 」

「泣くな馬鹿者! って、この世界の私は……もしかして死んだのか? 」

「うん、うん! 春に……交通事故で、俺……真衣香に会いたかったのに! 」


 ――依田真衣香は交通事故で死んだ――

 この言葉がどんな重要性をはらんでいるのかまでは分からないが、言われた一瞬だけ真衣香は口をつぐんで智也から視線を外し、暗闇の波間を悲しそうな顔で見詰める。だが、旧国道に車のライトがちらりと見えた事に過剰に反応した真衣香は、智也を前にして時間が無いと言ったのが自分自身である事を思い出し、智也の胸ぐらを強引に掴んで道路側から死角になる岩陰へと急いで移動させ、強引に話を再開した。


「この世界は孤独ではない、いくつもの世界が多重に存在して生き残りを賭けた闘いを繰り広げている。このリバティ・ギアは“ユニット・犀潟智也”を搭乗者に選んだ。だからお前が乗るんだ、スフィダンテに! 」

「だからリバティ・ギアって何だよ!? スフィダンテって……」

「良いから聞け! 」


 旧国道を走行していた一台の車が停車した。路肩に智也の自転車が止めてあり警察ならばそれを不審に思うだろう。しかしその車はツートンカラーの警察車両ではなかったので、青少年育成条例に引っかかりそうな、不良少年少女以外の何かを探している可能性も考えられる。真衣香はその怪しい車両を岩陰から覗きながら“もはやこれまで”と悟ったのか、一度ため息をつきながら肩を落とし、緊張感を捨てて肩の力を落としながら智也に語った。


「この世界の自衛隊は、リバティ・ギアシステムを運用せずに研究すると言い出した。それじゃ遅いんだ。奴らはそこまで来ていると言うのに」

「……真衣香、すまない、理解出来ないよ」

「今は良い、どうせまた直ぐに会える。今の内にスフィダンテと契約しろ。奴らの手に渡ったらロクでも無い犀潟智也が契約してしまう」

「俺も……たくさんいるのか? 」

「ああ、クソみたいな犀潟智也がゴロゴロしてる。幸いこの世界の日本は民主主義国家だ、だから貴様に託す」


 一瞬柔らかな表情を見せる真衣香ではあったが、旧国道で停車した車から数人の男たちがワラワラと湧いて出て、浜辺へ向かって無数の懐中電灯を当て始めた事で再び険しい表情へと変わる。――つまりは時間切れと言うやつだ


「犀潟智也、せめて三十分はここから出ずに隠れていろ。そして契約だけは必ずするんだ」

「会えるんだろ? また君に会えるんだろ? 」


 真衣香はその問いには返事せず、別の言葉を最後に岩場から出て、やがて手を上げながら男たち向かって歩いて行く。何故か男たちは真衣香の姿を見つけても乱暴には扱わず、丁寧に、そして再び逃げ出さないように彼女を多勢で囲みながら、車に乗せて走り去って行った。


 岩場の陰に身を潜めたまま呆然とそれを見続ける智也。

『スフィダンテとは“挑戦者”を意味する。スフィダンテに乗れ、そして日本を……この世界を救うんだ』

 再び波打つ音だけが響く穏やかな時間が戻って来ても、彼は真衣香が最後に残した言葉の意味を理解しようと必死に思案を巡らせつつ、右手にある八角形の木片をいつまでも凝視していた。



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