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第一次多次元世界大戦! 完全武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ 無垢なる神器「スフィダンテ」 編
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03) 亡命事件


 全国的に梅雨が明け、太陽が青い空を従えながらこれでもかと真夏のアピールを始めた。あまりの眩しさに目を細めなくてはならない世界。そんな燦々(さんさん)と光り輝く世界においては、見た目が黒く荒々しいと言われる日本海も、その暗い海の底にまで光が届くのか、見るもの全てが穏やかで清正とした青に囲まれる……そんな時期の事。

 七月も折り返し地点を過ぎたある日の午後の事。午前中に降ったスコールのせいで蒸した霞に包まれた日本海の高空を、一直線に駆け抜けて行く二羽の鉄の鷲がいる。鉄の鷲とは航空自衛隊小松基地から発進したF―15Jニ機の事であり、彼らは航空自衛隊中部航空方面隊第6航空団隷下の第303飛行隊に所属する戦闘機だ。


 空気を切り裂いて白い航跡を残しながら、ひたすら早くひたすら真っ直ぐに……と、一心不乱に飛行し続けるのには理由があった。

【国籍不明もしくはフライトプラン未提出の大型航空機が北方から防空識別圏に異常接近。領空侵犯の恐れあり】

 航空自衛隊のレーダーに捕捉された不明機のデータをもって防空司令所が判断し、空自小松基地飛行隊に対して不明機の確認及び退去指示行動などを含めた緊急即応発進を命令したのだ。――つまりはスクランブル発進であり対領空侵犯措置、撃墜の可能性も含めた正真正銘の実戦である。


 『イーグル1、イーグル2、指定空域到達! 有視界飛行でボギー(国籍不明機)を探す』


 “こちら小松GCI了解、ボギーは尚も南下中、領空まであと20マイル”


 小松基地内にある通常管制官とは異なり、スクランブル作戦専門の管制部所であるGCI (グランド・コントロールド・インターセプト)地上要撃管制官との連絡を詰めながら、当該空域で国籍不明機を搜索し始めたスクランブル発進機。いよいよその国籍不明の大型航空機を発見したのか、小松基地GCIに「エンゲージ(接敵)」を連絡して来た。

 ――だがおかしいのはここからだ――

 基地の地上要撃管制室のレーダー画面には日本の領空に突入して来る謎のブリップ(光点)と、イーグル1及びイーグル2のブリップが並走を始めているのだが、エンゲージを宣言してからこの数十秒間、何らイーグルチームから続報が入って来ないのだ。


「ディスイズ小松GCI! イーグルチーム応答せよ、イーグルチーム応答せよ! 」


 管制官がイーグルチームを呼び出し続けるも空白の時間が続く。慌てた管制官の声がどんどん大きくなるにつれて室内にもそれが轟くのか、要撃管制室自体にもただごとではないと緊張が伝播する。この異変から考えられる最悪のケースを、誰もが想像し始めていたのだ。


『……こちらイーグル1、小松GCIどうぞ』


 程なくしてようやくイーグルチームから連絡が入って来た。杞憂(きゆう)であったかと誰もが安堵したのだが、続けざまにイーグルチームが入れて来た報告の内容に、担当官たちは大きな衝撃を受ける事になる。

 ――日々の恒例行事となっている某国との鬼ごっこではなく、まるで雲を掴む様な支離滅裂の報告を送って来たからだ。


『こちらイーグル1、ボギーを視認し並走中。対象“赤国(あかこく)”ではない、対象赤国ではない。ボギーはフレンドリー(友軍)繰り返す、ボギーはフレンドリー! それにしても、何だこの機体は……』


 イーグルチームのパイロットは国籍不明機を目前で確認し、そして友軍であると報告して来た。それが航空自衛隊に所属する機体なのかそれとも、日本に駐留するアメリカ軍の航空機なのか全く判別がつかず、管制官はその点をはっきりさせろと指示する。だがパイロットから返って来た答えは「日の丸」がペイントされているとの驚きの内容。GCI管制官たちは目を白黒させながら首を捻っている。

 慌てて調べてみても、どの方面航空隊からもフライトプランが出ていない。尚且つ上部組織の防空司令所がアンノウン(国籍不明機)を認定した以上、このまま領空接近はさせるべきではないと判断せざるを得ないのが現状だ。GCIは悩みながらも通常のスクランブル規定に沿って、イーグルチームに警告発信実行を指示する。


『アテンション! アテンション! ディスイズ、ジャパン・エア・セルフディフェンスフォース! 』

 ――貴機の進行方向には我が国の領空が控えており我々はそれを認めない。すみやかに進路を変えて日本国領空から離れるように!――


 アテンション……つまり「注意」と言う言葉で相手側の応答を待つのだが、反応は全く無い。GCIのレーダーに映る機影も進行方向はそのままに、いよいよ日本国の領空ラインを侵犯するかの瀬戸際だ。


「ディスイズ小松GCI!目標機は領空侵入、領空侵犯機と判定された! 警告開始せよ!」


『了解、イーグル1警告を開始する。ワーニング! ワーニング! ディスイズ・ジャパン……』


 とうとう領空を侵した“国籍不明の日の丸機”は、イーグルチームから警告を発せられる事となる。警告の無線を無視して侵入を続ければ、信号射撃による撃墜予告を受ける事になり、最悪の場合は撃墜されても文句は言えない。

 だが、それまでイーグルチームの注意喚起から警告に続く無線に対して、全く反応を示さなかった大型日の丸機がアクションを起こした。イーグルチームの無線に返答したのである。


『……当方世界での航空公用語は英語ではないため、このまま日本語で返答する。当機は日本共和国空軍所属の巡空艦“神州”で、我は艦長の榎本中佐である。当発信をもって我らは貴国への亡命を求める、我らは貴国への亡命を求める』


 素直に信じられないような、驚くべき内容の返信。日本共和国などと言う、聞いた事の無い国家。そし巡空艦神州などと言う、聞いた事の無い大型航空機。

 航空自衛隊の航空機がスクランブル発進までして遭遇したこの理解不能の存在。果たして彼らは一体何者なのだろうか。



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