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第一次多次元世界大戦! 完全武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ 驚愕!超巨大要塞「ヘラ」襲来 編
29/32

29) スフィダンテ武装計画 前編


 航空自衛隊の岐阜基地、空港の敷地内に新たに建造された箱型ドーム施設が二つある。対外的には『空陸機動団』の屋内演習場と発表されており、もっと詳しく言えば、空陸機動団内に配備された特殊部隊のCQB・CQC (Close Quarters Combat) 近接格闘訓練の為の施設がそれだ。


 ドーム内に擬似的な市街地を造って市街戦や突入作戦の訓練を行うとのだが、この箱型ドームの一つには秘密がある。国内に向けても世界に向けても発表出来ないまさしく極秘の理由があった。

『日本共和国亡命者環境順応化施設』と秘密裏に呼称されているのがそれであり、施設の利用者たちは江戸時代に長崎の出島を通じて海外貿易を行っていた事にちなんだのか、誰が命名した訳でもないのだが、自然と【リトルナガサキ】と言う名称が浸透していた。


 巡空艦神州の乗組員と神州で運ばれて来た約三百人の亡命者たちがそのリトルナガサキに居を構え、我々の住む現代日本に順応するための教育を受けさせた後に、ゆくゆくは亡命者たちに国籍と自身の歴史を与えて静かに解放する。つまりは「普通の日本人」として暮らせる準備を行わせる――リトルナガサキは強制収容所ではなく、第二の人生をこの日本で送る事を可能とする準備施設として極秘運営されている。

 ドーム球場ほどの広さを持った長方形の巨大なテント内、整然とコンテナハウスが並べられたリトルナガサキは更に二つの区画に分けられ、一般の亡命者たちの民間人居住エリアと、巡空艦神州乗組員の宿舎である軍人居住エリアがある。機密情報保持のために軍人居住エリアは一般亡命者立ち入り禁止になっているのだが、既に一般の亡命者たちには自治会組織を誕生させ、自衛隊側や日本政府側と独自折衝を始めていたため、もはや巡空艦神州の武力の庇護は必要の無い状態となっていたのである。

 そして、航空自衛隊の空陸機動団に編成された巡空艦神州の乗組員たちと、自立生活に向かって舵を切り始めた亡命者たち異世界日本人の社会において、同じ屋根の下で暮らす「こちら側」の日本人がいる……それがリバティ・ギア・スフィダンテの契約者、犀潟智也であったのだ。


 彼とスフィダンテも巡空艦神州と同じく航空自衛隊 空陸機動団所属の扱いとなり、軍人居住エリアで神州の乗組員たちと寝食を共にしているのだが、智也は最初に提示されたVIP扱いを断っていた。

 この日本が手にした唯一のリバティ・ギア契約者としての待遇は神州の艦長並みの特別待遇で、トレーラーハウスに連絡係の秘書付き、更には幹部自衛官クラスの給与待遇と恩給が約束されたのだが、智也はそれを全て断り、年相応の給与と神州乗組員の下士官クラスの狭い個室を要求するに留まる。

 ――死刑執行前に認められる茶菓子の飲食のようで気持ち悪い―― それが提示された待遇に対しての彼の回答だった。

 智也は「有事の際」に巡空艦神州と共に作戦行動に参加する事を了承した後、彼からも一つの提案が上がった。これだけはお願いだと懇願とも言える要求が智也の口から出たのである。

 “戦乱が収まったら、俺を解放してくれ”

 この言葉を受けた政府と自衛隊の担当官は漠然としたその物言いに、何を意図して智也がそう言ったのか理解に苦しんだ末、戸惑いながらも平時の条件付き外出を許可するに至り、表面上は穏やかな生活が始まっていた。


 だがその智也、今はこのリトルナガサキの屋根の下にはほとんどいない。非番の乗組員たちがこの世界についてレクチャーを受けている時間帯も、俺には関係ないとばかりに神州の格納庫に入り浸ってはスフィダンテと共に過ごす時間を送っていたのだ。


 箱型ドームから離れ、岐阜基地の滑走路脇に停泊している巡空艦神州。神州のプレイヤー・ウィール回転で発生させた魔力を用い、神州の周囲にびっしりとプリズムを発生させ光の屈折で船本体を隠す『三稜鏡迷彩』はフル回転している。

 これのおかげで地域住民や航空ファンたちの目には一切留まらず難を逃れているのだが、その結果乗組員たち全てが休暇を過ごすと言う訳にいかず、通常航海と同様のシフト制交代勤務になってしまったのは致し方無い。

 ――何か思うところがあるのか、智也は睡眠を貪るためだけに宿舎を利用する程度で、一日のその大半は否応無く自分のパートナーとなったスフィダンテの傍にいたのである――。


「だめだ、どうにもだめだ。そんなんじゃ戦力にならない」


 今日も今日とて智也はスフィダンテのコクピットに篭って何やら自問自答。ノートを広げて何やらしきりに書き込んでいる。


「アレスに勝って手に入れたのが【放電】。それを戦力に回せないってのが(しゃく)に触る」


 どうやらノートに書き込んでいるのはスフィダンテのレポート報告。契約者の智也本人しか操縦する事が許されないのに何故レポートを作っているのかと言えば、それは政府と自衛隊からの依頼の結果だ。プレイヤー・ウィールによる魔力供給とその可能性に圧倒的な興味を示した政府筋は、独自にプレイヤー・ウィールの開発を目的として神州やスフィダンテの調査を始めたのである。


 「日本」が唯一保持するリバティ・ギアにも興味津々なのだが契約者の機嫌を損ねる事は避けたい……よって有償で智也にスフィダンテが何たるかの調査を依頼し、智也は自身の好奇心と知識欲に後押しされ、このレポートの作成を請け負ったのだ。


 スフィダンテのポータルと会話を重ねた智也は、操縦系や駆動系の詳細を聞き出しては記載し、今判る範囲内で丁寧にレポートを書き連ねつつあったのだが、武装と基本戦術のページを書き始めて頭を抱える。

 “この世界の希望である巨大ロボが、ほぼ丸腰状態”である事で筆が止まり、思考の座礁に陥ってしまったのだ。


「何かないか……? 放電の利用方法、このままじゃまたスーサイドアタックだよ」


 コクピットのシートであぐらをかき、頭をガシガシとかきながら背もたれを倒してひっくり返る……。レポート作成が止まってしまった智也は朝からずっとこの調子。整備班のメンバーが昼メシの時間だぞと声をかけても、なかなかコクピットから降りて来ない。

 時計の針が頂点を過ぎて午後になり、あっという間に巨大な積乱雲が天井を覆い尽くし、雷を伴った大粒の雨が岐阜基地や神州に叩きつけるように降って来ても、その激しい雨音と豪雷を気にも留めずにスフィダンテのレポート作りに集中している。


 丸腰状態と報告するのは心苦しい。だからと言って、気絶するほどの激痛が走る“炎の自殺パンチ”と書き込むももなあと一旦書いておいて消しゴムで消し、更に本体が電気を発して放電出来るのだが、ただ周囲に放電するだけと書いては消しゴムで消す。――戦力の乏しさに途方に暮れていたのだ。

 確かにアレスの能力は手に入れた。戦いに勝つ事でアレスのプレイヤー・ウィールから『発電』と言う能力を手にして、スフィダンテのプレイヤー・ウィールに刷り込む事が出来た。炎のパンチで心底痛い思いをした智也は、やっとリバティ・ギア クラスの魔法攻撃が出来ると胸を撫で下ろしたのだが、このアレスの発電の魔法がこれまたクセ者だったのだ。


 【ファンタジーもののアニメなどに良くある「雷の魔法」。だが実際は発生させた稲妻などまるで狙ったところに落ちない】これが結論。

 積乱雲のような大きな雲の上層と下層の電位差が拡大すればするほどに、空中に電子が放出され気体の原子と衝突。その衝突で電離が始まり生まれた陽子イオンが暴れて新たな電子を発生させる。こうして持続的放電現象の塊が、プラスマイナスと電位差を求めて走り抜けるのが放電……つまり雷であり稲妻である。

 これをスフィダンテの体内で発生・帯電させたところで狙った敵に稲妻を叩き付ける事など不可能であり、ならば接近してカミナリパンチを繰り出そうとすれば、敵と帯電したスフィダンテの間で十万アンペア・五億ボルト・千ギガワットの短絡 (ショート)を起こし、スフィダンテ自体も無事ではいられないのだ。


「炎のパンチで右半身崩壊後気絶、今度は雷パンチで全身破裂の痛みで失神。……痛いのは嫌だ、あれだけはもう嫌だ」


 ぐうううう……!ろくなアイデアが浮かんで来ないのか、短気を起こしてバタンとシートを倒し寝転がると、突如鳴り出した腹の悲鳴に気付く。


「そっか、昼過ぎてたな。昼メシ食うか」


 面倒くさそうな表情と緩慢な動きで全身からだらしない空気を放つ智也、コクピットのハッチを開け牽引ロープのスイッチをオンに。骨格の御神木で組み上げた「(やしろ)モード」ではなく、神聖翡翠鎧をまとった「戦闘モード」でもなく、狭い場所に収納するために御神木をただ単にギュっと束でまとめてコクピットを剥き出しにさせた「格納モード」に変形させたスフィダンテから降り立った智也は、今なら食堂はガラガラだろうと独り呟きながら、左右の足をだらしなく前へ進め、トボトボと格納庫から出て行った。



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