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第一次多次元世界大戦! 完全武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ 対決!リバティ・ギア「アレスタイプ」 編
25/32

25) 巡空艦神州の戦い 後編


『こちらCIC徳永から操舵室へ。CIC徳永から操舵室へ達する!戦術航法“蜃気楼”を要請、時計合わせ二十秒後から適用されたし』


 ――時計合わせ十秒前!――


 戦術長である徳永少佐の艦内通信が操舵室に響き、辺りに緊張が走る。岸田副長麾下神州の艦橋要員たちがこの艦隊戦に課された使命を胸にその時を待っていた。今は引き絞った弓矢が放たれる寸前の状態。“激動”に繋ぐ前段階の“静”なのだ。


『三、二、一、今! 』


 自身の左腕にはめた腕時計のリューズを押した岸田副長、両の眼をカッと開き、その巌のような意志と表情を自身の言葉に変える。


「戦術航法“蜃気楼”まで十秒! 操舵手アメリは面舵から開始、操舵手補の(ともえ)は上昇下降に専念せよ! 航海長復唱を」

「アイサ、戦術航法蜃気楼を敢行、面舵上昇から開始する。良いか、とにかく慌てるな。艦の背中や腹を敵に見せて主砲の射線を消すなよ! 」


 航海長の檄が飛ぶ中、まるで少女のようなうら若き操舵手、アメリ・石塚と、その助手である操舵手補の巴司(ともえ つかさ)は、隣合わせの操縦席で互いを見合い、決心の表情でうなづく。


『戦術航法開始五秒前、四、三、二、一、今! 』


 再び艦内通信から徳永少佐の号令が飛んで来る。それに伴い岸田副長と航海長が艦の速さを最大戦速から第三戦速に落とす指示を出し、大声で戦術航法始めの合図を送った。すると操舵手のアメリは目の前のモニターにある水平器の中心が横軸水平値許容限界点を超えないようにとそれを睨みながら、円形操縦桿をジリジリと右に回し始める。そして副操舵手として臨席する巴は、同じく水平器の縦軸水平値が許容限界を超えないように円形操縦桿をジワジワと引き始めた。


「面舵(右折)七秒、直線七秒、取舵(左折)十四秒、直線七秒……! 」

「仰角(上昇)七秒、水平七秒、俯角(下降)十四秒、直進七秒……! 」


 息を合わせたかのように言葉を合わせ、己に課された作業をこなし始めるアメリと巴。この戦術航法“蜃気楼”とは一体何なのかと言えば、神州の進行方向に向かって螺旋を描きながら進む航法である。

 そのため艦を傾けない程度に上下左右に振りながら進むのだが、それがどのような結果をもたらすのかはまだ見えてはいない。

 ただ、並走して艦砲戦に突入したソ連艦隊に対してジリジリと距離を詰めて敵より一回り小さな砲で攻撃せねばならず、神州はこのまま敵弾をかいくぐりながら射程距離に入らなければ活路は無いのである。そのための戦術航法である事は間違いなかった。


「方位角97度、北東からヴィクトロヴィチ砲! 着弾します!」


 操舵室付きの電探要員が金切り声を上げる。それまでは外れっぱなしだった敵の砲弾が、どんどんと修正計算をかけて神州に近付いているのだ。


 その時、バキンと言う金属同士の激しい衝突音が唸りを上げ、同時に東向きの窓から真っ赤な輝きが操舵室内を照らす。

 敵のヴィクトロヴィチ砲が神州の至近距離をかすめ、艦の周囲に展開していた魔力による爆発反応バリア「魔装アクティブアーマー」に接触して爆発したのである。


「命中した訳ではない、落ち着け! 」


 うろたえて落ち着きを失った操舵室要員たちの鼓膜を、凛とした岸田副長の怒号が揺さぶる。


「何のための戦術航法だ、敵の弾が当たらないための戦術航法じゃないのか! 自分の仕事に集中しろ! 」


 艦橋の操舵室で岸田副長が喝を入れている頃、CICでは次の段階に入るための秒読みが進んでいる。それはもちろん神州が射程距離圏内に入る秒読みであり、反撃の狼煙を上げるための秒読み。戦艦、巡空艦でありながらも今まで逃げ回っていたその屈辱を晴らす、リベンジの時間がやって来るのだ。


 それはモニターを凝視していたCICの戦術電探員の一人が、神州の主砲射程距離圏内が近付いた事を報告した事で始まった。

 何度か敵のヴィクトロヴィチ砲が艦をかすめ、何発かの砲弾が魔装アクティブアーマーに接触して爆発する「恐怖の時間」を打ち消すような、高揚を抑える事が我慢出来ない上ずった声が轟いたのだ。


 ――報告します!目標ヒトとフタが進路変更、北北西並走状態から西に十五度の交錯軌道を取りました。よって 当艦の主砲射程距離圏内突入早まります! 射程距離圏内まであと一分!――


「有効打がなかなか生まれないから、敵さんも焦れてきたね」

「思う壺です。艦長、あと一分ならばそろそろ始めたいのですが」

「発煙弾による遮蔽ならいくらでもやってくれ。距離が詰まる事を我々が酷く嫌がっていると、敵さんが思ってくれたらありがたい」


 徳永少佐は了解しましたと言いながら、戦術長指揮卓に据えられた有線マイクを掴み、真っ白なヒゲモジャの口元へと運ぶ。


「戦術長から砲術部へ、上部及び腹部主砲に発煙弾装填せよ。目標! 敵艦隊の予想進路上への扇状射撃、三連射三回! 」


 天井が低く至るところで支柱が邪魔するCICの中、艦長と戦術長の指揮卓から離れた場所にある砲術部がにわかに忙しくなる。


「レーダー測量開始、目標ヒトとフタの予想進路出ます! 」

「弾種、発煙弾! チェーン2を繋げ、九発! 三連射三回で九発だ! 」

「目標面に主砲回頭、レーダー照準合わせ、マーク! マーク完了! 」

「主砲斉射準備完了しました! 」

『こちら砲術士官峰村、主砲斉射準備完了しました』


 CIC内のスピーカーから流れる峰村中尉の準備完了宣言。徳永はそれをもって隣席の艦長に始めますよと一言問いかけ、榎本の頷きをもって承認を得た。


『戦術士官より砲術部へ、主砲三連射三回、うちーかたはじめー! 』

「上部主砲、下部主砲、うちーかたーはじめー(撃ち方始め)」


 徳永少佐の指示を受けた峰村中尉が主砲斉射命令を復唱、CICの砲術部エリアに詰めている上下の主砲発射担当官が二人、握っていた発射レバーの引き鉄を引く。

  ドンドンドン! ドンドンドン!

   ドンドンドン! ドンドンドン!

 自動装填オート射撃機構を持つ62口径5インチ単装砲が二門、ソ連艦隊に向かって火を吹いた。短い間隔で咆哮を上げるそれは、まるで心臓の鼓動のように、不規則的且つ規則的なリズムの音と振動となって神州を駆け抜ける。


『こちらCIC徳永から艦橋観測班。目視状況知らせよ! 』

『こちら艦橋観測班からCIC! 北東82度から北北東の水平線上に発煙弾を確認! 状況成功、状況成功です! 』


 スピーカーを通して聴こえて来たのは艦橋で双眼鏡などを使い目視観測を行う観測チームの声。成功に打ち震えるような甲高い声だ。


 ソ連艦隊の進行方向に発煙弾による煙幕攻撃を行い、そして巡空艦神州自体は螺旋を描く戦術航法を取っている。これは敵方が砲撃戦を敢行して来た際に、レーダーやレーザーによる自動照準合わせに対応した戦法ではなく、目視測量による砲撃戦に突入した際の下準備。煙幕で敵の視界を塞ぐ努力をしつつ、敵が神州を双眼鏡や距離計測用双眼鏡で確認しても、その倍率の高いレンズの中に収められた神州は、ぼんやりゆらゆらと蜃気楼のように前後左右上下と揺れて、照準を合わせ辛くさせるのである。


 煙幕と戦術航法で敵の視界を妨げた……そうなれば次に神州が取るべき行動は、敵のその敏感な視覚と触覚を鈍らせる事。そしていよいよソ連艦隊が神州の主砲射程距離圏内に入ったとなれば、やる事は一つである。


「戦術長から砲術部へ、上部及び下部主砲に榴弾を装填せよ! 目標、敵艦隊の目標ヒト! 信管設定は目標手前三十メートル、爆散円で敵を焼く! 六連射一回! 」

『こちら砲術士官峰村、目標ヒトに対して主砲二門六連射一回、弾種榴弾にて信管設定三十メートル了解しました! 』


 再びCIC内の砲術部エリアに怒号が飛び交い慌ただしくなる。いよいよ実弾をもって反撃するにあたり、各員の怖れと高揚が言霊となってエリアの空気を振動させているのだ。


 実弾発射の準備が完了したその時、まさにその時だ。CIC内の各部局において一番静かだったはずの通信班……当たり前の話、味方艦隊などいる訳の無い独り旅において通信班が活躍する訳も無いのだが、この瞬間だけはどの部所よりも眩いスポットライトを浴びる事となる。

 巡空艦神州と共同戦線を張っていた一体のリバティ・ギアと無線が繋がったのか、その専属レディオ・オペレーターであるマーゴット・平塚が、榎本艦長と徳永少佐にだけでなく、CICに詰めている兵士たち全てに朗報を知らせて来たのだ。


「報告します、報告します! スフィダンテからの通信です! リバティ・ギア・アレスタイプを撃破、帰投の許可を求めて来ています! 」


 一瞬だけ歓声が溢れるCIC。思わず皆が立ち上がりそれぞれにガッツポーズを取るのだが今はもちろん戦闘航行の真っ只中であり、実弾射撃寸前の状態。

 各員たちは慌てて体裁を整えながら席に座り、これに対して艦長がどのような対応をするか、片耳だけ大きくしながら息を飲む。


「マーゴット君、まだ通信繋がってる? 」

「はい、ホットのままにしてあります。そちらに繋げますか? 」

「じゃあ、犀潟君には小松基地に進路を取りながら、通信は後一分待ってくれと伝えて」

「分かりました」


 スフィダンテに乗る智也との通信を後回しにさせ、榎本は隣席の徳永に顔を向ける。

 敵リバティ・ギアを撃破するのが最終目的である以上、これ以上ソ連艦隊と砲火を交える必然性があるのかと言う判断がそこにあり、徳永も榎本の決断を待っていたのである。


「徳永さん、このままやろう。無傷では帰したくない」

「分かりました、弾種は徹甲弾に換装しますか? 」

「いや、榴弾のままで頼む。無傷で帰せば別のリバティ・ギアを連れてすぐ再出撃して来るだろうし、派手にやれば怨みを買って敵の士気が上がる」

「なるほど。時間稼ぎを目的に敵の触覚ぐらいは折っておくと」

「その程度で良い、精密機械の修理は時間がかかるからね」


 分かりましたとニヤケる徳永はそのまま有線マイクを掴み、低くて野太く、それでいて透き通る声をCIC内に響かせた。


『こちら戦術長より、状況続行、状況続行! 目標ヒトに対して榴弾射撃敢行後は、目標フタにも同種射撃を行う! 砲術士官は復唱後に射撃指示を! 』


 ……スフィダンテを駆る犀潟智也がアレスを撃破したのと同じ時間帯、この世界で初めて艦隊戦を行った日本共和国最後の新鋭巡空艦神州も初戦を勝利で飾ったのである。

 だが、初戦はあくまでも初戦。敵方のソ連軍にはまだまだリバティ・ギアのストックがあり、各方面軍からこの極東に艦隊を呼び寄せれば、いくら最新鋭と言っても神州とスフィダンテだけではどうにかなるものではない。

 今後の展開に抱く不安をかき消したいのか、誰もが必要以上にはしゃいだ初戦勝利だったが、彼らの前途が多難である事に間違いは無く、やがて異世界同士の戦争は全面戦争と言う形で日本のみならず世界を包んで行く事になるのだ。



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