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第一次多次元世界大戦! 完全武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ 無垢なる神器「スフィダンテ」 編
15/32

15) 無垢なる神器


 『殺気立っている』――それも階級の上下に関係無く、巡空艦あさまに乗り込む全ての兵士たちが、忸怩たる思いを爆発させず胸の底に秘めたまま、黙々と自分の仕事に専念している。


 ソビエト連邦日本自治州軍所属の巡空艦「あさま」は、新潟県佐渡ヶ島沖にあるレアアース採掘基地を強襲。陸戦隊と言う名の歩兵一個小隊三十名と、模造プレイヤー・ウィールを主導力とする機械甲冑「重装機甲歩兵小隊」六機を投入して採掘基地を無力化した。海底深くに眠るリバティ・ギア、スフィダンテタイプの奪取又は破壊を目的に、後方から現れるソビエト連邦軍本隊の合流を待っていたのだ。

 しかし本隊が現世界に現れてレアアース採掘基地に向かい始めた途端、スフィダンテは次元境界転移の強烈な反応を最後に消え去り、全く別の場所にその存在を移してしまった。スフィダンテタイプが契約者と契約したのか、又は契約を行う直前であり、スフィダンテを緊急避難させたのだと言う見方が妥当なところであろうがここまでは良かった。

 スフィダンテ逃走はあくまでも想定の範囲内であり、後は本隊と合流してスフィダンテ追跡に専念すれば良かっただけなのだが突如方針が変わってしまったのである。


 【弐号作戦終了につき、巡空艦あさまは後方待機。スフィダンテ追跡は本隊のみによって行う】と、ソビエト連邦軍本隊から命令が下ったのである。


 ソビエト連邦、正式にはソビエト社会主義共和国連邦。極東のユーラシア大陸海岸線にあるウラジオストクの軍港から発進した二機の巡空艦とリバティ・ギア・アレスタイプを搭載した輸送機が一機がその本隊。

 巡空艦あさまが指示を受けていた本隊と言うのは、ソビエト連邦日本自治州軍の上部に位置する、ソビエト連邦極東空軍の事を指しているのである。


 つまりは、このヴィクトル級巡空艦、一番艦アドミラル・グリゴリエヴナと二番艦ミロスラーフ、輸送艦イリジチ1の三隻を操っているのは純粋なロシア人であり、下部組織の日本自治州軍に華を持たせる訳にはいかないと、手柄を独り占めするべく巡空艦あさまを引き退かせたのだと推察出来る。

 日本自治州軍の最新鋭艦が最速の速さでスフィダンテを追跡出来ると言うのにこの仕打ちは、人種差別と特権意識が顕著に現れた露骨な嫌がらせであり、巡空艦あさまの乗組員が怒らない訳が無い。

 だからあさまの艦内や艦橋は剣呑な雰囲気が漂い、宗主国艦隊の失態を願うようなネガティブな空気に包まれていたのだ。


「九条艦長、いかがしました? 」


 艦橋の艦長卓に深々と腰を落とし、背もたれを壊すのではと言う勢いで天井を見上げる九条艦長。誰一人無駄口を叩いたり小声で雑談すらもしない、鋭い静寂に包まれた艦橋をぐるりと見渡した政治将校が、皮肉たっぷりの下卑た笑みを口元に浮かべ、艦長にそう言って近付いて来た。


「バシリコフ赤軍少佐、いかがしたとは、どう言う意味か? 」

「言葉通りの意味ですよ。スフィダンテ追跡の任はアレスタイプを積んだ本隊こそが適任。私にしてみればあなたたちがふてくされる方が不思議に思いましてね」

「政治将校殿、私も含めてここの乗組員はふてくされてはおらんよ」


 日本共和国所属の巡空艦神州、その神州の副艦長である岸田少佐とはまた違った雰囲気を持つ凛とした女性。ーーそれがあさまの九条艦長なのだが、さすがにソビエト連邦の主軸たる共産党から送られて来た政治将校の言動にイライラするのか、目を合わせようともせずに何とかこの人種差別の皮肉野郎をやり過ごそうと奥歯を噛み締め我慢している。


「ふてくされてないと? 艦長はふてくされていないとおっしゃりましたね。ならば答えは簡単、ウラジオストクの艦隊司令部から待機命令が来た、本隊にスフィダンテを追跡させろと命令が来た。それに黙々と従っていれば良いのですよ」

「無用な心配だよ政治将校殿。我々は黙って従い、しっかりと待機しているではないか」


 そう言って左手を上げ、これ以上の議論は不毛だと九条艦長は会話を強引に切り上げる。

 お前らの態度が気に入らないと、全身から好戦的なオーラを放っていた政治将校はまだまだ言い足りなかったのだが、九条艦長が尻尾を出さない限りは噛み付く訳にもいかず、渋々と艦橋から出て行った。


「いくら待機中と言っても気を抜くなよ! こちらの世界では国軍を自衛隊と言う名称で呼んでいるそうだが、奇襲をかけて来る可能性もある。いざと言う時に備えよ! 」


 艦橋にいる要員全てに向かって檄を飛ばし、気持ちを引き締めさせた九条艦長だが、心なしか彼女の口元に微かな笑みが漏れているようにも見える。

 部下たちには気の緩みを諌めながらも、当の本人がどこかしら愉快な感情を内に秘めているのには理由があった。


 ――スフィダンテ逃走の進路上に新たなプレイヤー・ウィール反応が現出し、スフィダンテに合流した――


 本隊であるロシア艦隊側でもそれは察知しているはずなのだが、魔力紋を分析したところ日本共和国所属の新鋭艦「神州」である事が判明したのである。

 魔力紋とは、プレイヤー・ウィールから発生した魔力を動力源とする乗り物が発する、魔力の波長パターンの事を意味する。プレイヤー・ウィール一つ一つにに個性がある事からその魔力の波長パターンも一つとして同じものは無く、そのパターンを解析する事で何処の所属でどんな乗り物なのか識別出来てしまうのだ。


 ソビエト社会主義共和国連邦が世界の半分を占める世界。その世界が九条艦長の住む世界であり、その巨大軍事国家世界の末端に日本自治州がある。

 そのソビエト連邦軍が様々な別世界へ次元境界転移を行い、世界征服にも近い形で完膚なきまでに叩きのめし勝利を重ねて来たのだが、あの日本共和国だけはしぶとく抵抗をし続けていた過去があった。

 最終的には日本共和国が無条件降伏を申し出てソビエト連邦世界に編入されたのだが、その中でソ連に膝を折らずに難民たちを救いながら見事に逃走の旅に出たのがあの「巡空艦神州」であったのだ。


「……榎本中佐だったな、あの艦の艦長は」


 九条艦長はそうぽつりと呟き、乗組員が何事かと振り返るのだが、もちろんそれは艦長の独り言。目も合わさず遠くを見つめたままの艦長を(おもんばか)ったのか、乗組員たちは再び自分の仕事へと戻る。

 ――撤退戦の榎本、瀬戸内海戦役で確か彼はそう呼ばれていたはずだ。歴戦の勇者相手に我が本隊さんはどこまでやれるか、見ものではあるな――

 除け者にされていた怒りが幾分晴れて来る。単純に見方を変えただけとも言えるのだが、今後も巡空艦あさまが待機状態にある事に変わりは無く、蚊帳の外の傍観者はひたすら傍観し続けるしかない。

 もしかしたら我々の出番があるかもと思ってしまうのは悪い事ではないが、あくまでもそれは胸に秘めておくべき言葉。口にしてしまえば極めて危険な発言だと判断され、政治犯収容所送りになってもおかしくはない。


「お手並み拝見といくか」


 言葉を選んでそう呟きながら、従卒を呼んでコーヒーを頼む。九条艦長と乗組員たちにとって当面の間の敵とは退屈であり、つまりは退屈と戦わなくてはならないようであった。


 世界中様々な国とのパワーバランスを保ちながら平和を保って来た日本。その日本に突如飛来して亡命を求めて来た、異世界にある「日本共和国」の軍艦と、リバティ・ギア奪取を目的に強硬手段に及んだ、これまた異世界にある「ソビエト連邦日本自治州」の巡空艦。

 それぞれがそれぞれの思惑を胸にこの日本へと結集し、そして激動の時代が始まる。もちろんその時代の渦の中心にはリバティ・ギアのスフィダンテがあり、搭乗者・契約者として犀潟智也もいる。


 果たして智也と「無垢なる神器」スフィダンテは、激動の時代の語り部になれるのであろうか、それとも時代のうねりに飲み込まれて泡となって消え失せるのであろうか――

 彼と彼の乗る神器が生き残れるかどうかの前哨戦がこれから始まろうとしている。追う側のソビエト連邦極東艦隊、追われる側の元日本共和国所属艦、そしてそれらに乗っているリバティ・ギアのアレスタイプと、同じくリバティ・ギアのスフィダンテタイプ。

 果たして勝利の女神はどちらに向かって微笑むのであろうか。



  ◆ 無垢なる神器「スフィダンテ」 編  

      ――終わり



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