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第一次多次元世界大戦! 完全武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ 無垢なる神器「スフィダンテ」 編
11/32

11) ぎこちない笑み


 まるで違法建築でひたすらかさ上げされた幽霊ビルのように、材木が無秩序に組み合わさりながらヒト型を形作っているスフィダンテの外観。砂浜でそれを見上げる智也の表情はイマイチ浮かない。

 あれだけ別世界の真衣香や、結果左手に宿ったポータルが口酸っぱく「契約しろ」と迫った割には、現れたのは今にも崩れそうな古びた巨大木造建築物であった事から、アニメや特撮ヒーローものに登場するようなカッコ良い巨大ロボットとこの現実との差にがっかりしたのかも知れない。

 だが、このスフィダンテを駆使して敵と戦い人類同士の生存競争に勝ち続けろとポータルが言っていた事も確かである事から、外観で判断すべきではないと腹の底で警鐘がなっているのも間違いはない。


「ポータル、スフィダンテをここに移動した結果を教えてくれ。敵の動きはどうなった? 」

『回答、スフィダンテに最接近していた敵先遣部隊は撤収を開始。後方に現出した敵本体は進路を変更、こちらに向かい始めた』

「そっか、とりあえず父さんの生存確率は上がったか」


 それで、俺はこのスフィダンテに乗って戦えって事なんだろうけど、何をどうしてどうやれば使いこなせるんだ? と、腕を組んで首を傾げながらスフィダンテをマジマジと見上げてたままの智也。父親に及んでいた命の危機が回避された事で、幾分緊張感が抜けているようでもある。

 だが、敵がスフィダンテを狙って進路を変えた事は間違いの無い事実。左手の甲にあるポータルは切羽詰まったような緊迫感溢れる声で智也に警鐘を鳴らす。


『警告、警告! 敵の長距離射程圏内に捕捉されるまで後四十七分! 犀潟智也は至急スフィダンテに搭乗し、システムを起動させよ! 』

「な、何だよ!? それくらいしか時間の余裕無いのかよ」

『回答。敵本体に随行するリバティギア・アレスタイプは長距離投射武器を装備している。アレスタイプの攻撃を受けた場合、スフィダンテ及び搭乗者犀潟智也の生存確率は現状低確率である』

「負ける、負けるのか? じゃあどうすれば俺は助かるんだ? 」

『回答。提案1、スフィダンテ搭乗後十五分以内に全ての操縦スキルと戦闘スキルを覚えてアレスタイプに対抗する。提案2、操縦スキルを優先的に覚えて安全圏に避難する』


 ――増長してた。そうだ、そうなんだ。何か異世界のヒーローにでもなった気分になっていたが、死ぬか生きるか、殺すか殺されるかの瀬戸際に立ってるんだ。必死になって追いかけて来る敵にド素人の俺が勝てる訳無いじゃないか――

 改めて自分の置かれた状況を冷静に考察し始めた智也。考えれば考えるほど判断すれば判断するほどに彼の顔から余裕が消えて行く。


「ポータル、逃げるぞ。とりあえず逃げるんだ! 操縦方法を教えてくれ! 」

『了解、スフィダンテ操縦席に移動する』


 左手に何かの熱っぽさを感じたと思った途端、智也は柔らかな光にふわっと包まれる。そして前後不覚になったと自覚した途端、硬いシートにすっぽりと身を沈めているかのように、尻や背中や後頭部に硬い質感を覚えた。


『確認。犀潟智也よ、スフィダンテ起動を開始するか? 』

「ああ、頼む。早く動かせるようになって、逃げるだけ逃げるぞ」

『了解。スフィダンテの起動を開始する。犀潟智也は左右の操縦桿を握れ、犀潟智也の契約者塩基配列を感知して主動力のプレイヤー・ウィールが回転を始める』


 ――プレイヤー・ウィール(祈りの車輪)とは「マニ車」を意味し、呪文が刻印された車輪を1回転させると呪文を一つ唱えた事になり、回転させればさせるほどにその威力は増大する。

 人類が作った模倣マニ車は、魔力を得たりなどの様々な魔法効果を得るのが通常だが、大いなる存在から送られたリバティ・ギアには神を記す刻印が打たれてあり、つまりリバティ・ギアを動かすと言う事は神の顕現と同義なのだ。


 ポータルの説明を真剣に聞きながら操縦桿を握る智也。すると身体中の気力と言うか生命力と表現すべきか、それがすうっと両腕から手の先に流れるよう感覚に襲われる。まるでスフィダンテに自分の魂が吸い取られるような感覚だ。だが不思議な事にそれを恐怖だと認識はしていない。まるで等価交換のようにスフィダンテから自分の中に流れ込む力も感じているからだ。


「……バグパイプの音かな? 高貴で狂気に満ちた、高揚感をくすぐられるような行進曲が聞こえる……」


 無機質と有機質がコラボレーションしたかのような異様なコクピットの中に、ポータルが説明していたプレイヤー・ウィールの回転音が振動とともに聴こえて来る。何故か智也には、それが荘厳な行進曲に聴こえるようだ。


『プレイヤー・ウィール正常回転、スフィダンテ起動』


 プレイヤー・ウィールが発生させるエネルギーがコクピットにも回って来たのか、それまで自分を包むように圧迫していた狭い天井と前後左右の壁が透き通り、真夏の海と水平線そして高い高い空がはっきりと見えるようになる。


「すごい。異世界に魔力にSFに巨大ロボットとか、空想世界に迷い込んだようだ」

『主動力安定稼働確認、駆動系エネルギーバイパス完了、スフィダンテ本体外殻に神聖翡翠鎧展開! 犀潟智也に報告、スフィダンテ移動準備が完了した! 』


 スフィダンテが動く準備は完了した。準備が完了して後はいよいよこれを動かすのみ。

 ポータルは前画面にスフィダンテと敵の位置関係の地図を投射し、智也に逃走方向を提示しながら、操縦方法をレクチャーし始める。――敵に追跡されている時間との戦いにおいて、細かいテクニックなどを全て無視した、強引で直線的な移動方法をだ。


「何となく分かった、とりあえず移動しよう……行くぞスフィダンテ! 」


 ぐぐっと身体に重力を感じる。

 最初は置いてけぼりにされそうな重さを身体に感じ、コクピットに映し出される水平線がどんどん丸みを帯びて来ると、今度は身体がふわっとシートから放り出されるような開放感に襲われる。


「うわ。ふっ……ふふふ! いいぞスフィダンテ、俺は今空を飛んでるんだ! 」


 遥か下方に地面と海原を見詰める智也は、目をひん剥きながら笑っているのか怒っているのかまるで分からない表情で凝り固まってはいるのだが、意外にもその口からはぎこちない笑みが溢れて来た。

 それまでは全くもって表情が死んでおり、眼つきが腐って生きる屍だった彼が、久々に笑ったのである。

 それだけこのスフィダンテと智也の出会いは、人生が変わるような衝撃的な出会いと言っても良かったのだ。



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