第5話 魔女、歯医者に行く ~受付編~
<登場人物>
魔女:半人前の魔女。名前はまだ無い。歯が少し痛い気がしている。
エミエル:無表情な天使の女性。歯医者で受付をしている。
場所:歯医者の受付
エミエル(以下、『エ』)「申し訳ありませんが、名前欄に書かれている『魔女』は種族名であり、個人を表す名義としては不適切な表記となります。再度記入をお願いします」
魔女(以下、『魔』)「えっと…そう言われましても、私、名前が無いので…」
エ「名前が…無い?それは、どういった理由で、どのような事情があってのことでしょうか?」
魔「魔女は一人前になって初めて名前を貰えるんです。私はまだ半人前なので、名前が無いんです」
エ「誰から名前を貰うのですか?」
魔「それは…分かりません」
エ「一人前という評価は誰が下すのですか?試験のようなものが存在するのでしょうか?」
魔「それも…分かりません」
エ「………」
魔「………」
エ「あなたから与えられた情報を鑑みるに、あなたは詐欺被害に遭われている可能性が高いと思われます」
魔「ええ……まぁ、でも…そう思われても仕方ないかも…」
エ「………(携帯電話を取り出す)」
魔「わあああ待って待って!!通報しないで!!大丈夫ですから!!」
エ「………」
魔「あー歯が痛い!歯が痛いなー!今すぐ治療してもらわないと困るなー!」
エ「…分かりました。今回は『魔女』という名前で受付させていただきます」
魔「ほっ…ありがとうございます」
エ「何か困ったことがあれば、警察や他の人に相談することをお勧めします。あなたが望むのであれば、私も微力ながらあなたの力になるとお約束します」
魔「あ…はい…ありがとうございます」
エ「こちらは私の名刺です。お受け取りください」
魔「はい…」
エ「そして、こちらは試供品の歯磨き粉と歯ブラシと歯間ブラシです。どうぞお受け取りください」
魔「歯ブラシと歯間ブラシに試供品ってあるんですか」
エ「こちらはサービス品のコップです」
魔「えっ…」
エ「あと、こちらはフェイスタオルとエコバッグとTシャツです。どうぞ」
魔「てぃ、Tシャツ!?タオルとエコバッグとTシャツ!?」
エ「それでは、席におかけになってお待ちください」
魔「あの……これ全部もらっていいんですか?」
エ「はい。すべて無料サービスとなります」
魔「でもこの歯ブラシとか、ここに200円で売られてますけど」
エ「無料です」
魔「ええ……」
エ「席におかけになってお待ちください」
魔「はい…」