※ウドレッダ視点 使えそうな鬼だこと
「シュラ、見てくれる?」
クローディアが、試着室から出てきた。
ちっ、楽しく話していたのに。
彼女を見た途端、長の態度がガラリと変わる。
「おう」
また、あの声。
普通の“おう”じゃなくて、優しく“おう”て言ってる。
これじゃ、そのまま“愛してる”とか、続きそう。
さっきまで、毅然とした態度だったのに、今はまるで別人、て感じ。
こいつの前では、こんなに変わるの?
こんなやつの、どこがそんなにいいの?
……あら?
「どうしたんザマス? ウドレッダ」
マザージモミが、ポカンとした私を見て首を傾げてくる。
え、だって、だってこの衣装……トルソーにかかっていたやつじゃない!
それに、さっきの衣装より洗練された、ハイレベルなデザインだわ。
じゃ、それじゃ、あの衣装は何?
小刻みに震える手を、必死に握り締める。
計画が台無しじゃない!
焦る私の前で、三人は関係なく盛り上がっていた。
「長、見惚れてないで、何がおっしゃってくださいザマス」
「……眼福……」
「もう。シュラったら」
「他に言いようがないんだよ」
「嬉しい。恥ずかしいけれど」
「へへ。あ、羽を出せるか?」
「待って。やってみる」
クローディアは目を閉じると、両手を胸の前で重ねて祈りのようなポーズをとった。
カッと全身が光って、側頭部から、小さな羽が広がる。
そして、後を追うように、背中から大きな純白の羽が現れた。
彼女が目を開くと、目の色は薄いピンクゴールドに変化。
髪の色も、白金へと変わり、元のままなのは、肌の色だけ。
なによ、なんなのよ、別人じゃない!!
しかも、体重を感じさせない軽やかな動き。
何、勝手にグレードアップしてんの?
軽く羽ばたくと、ふわりと浮き上がり、ゆっくり戻っていく。
「んー、美しいザマス。羽の動きに、支障はないザマスか?」
「ありません」
「完璧ザマス」
「ありがとうな、マザージモミ」
「いえいえ、長とクローディア様の役に立てれば、幸せザマス」
「ありがとうございます、マザージモミ。着替えてきますね」
「はい、クローディア様」
クローディアは、変身を解いて試着室に戻ると、着替えて出てきた。
見ているだけしかできないの!?
悔しい……何かしたい!!
私が満たされる何か。
クローディアを見返せる何か。
足を引っ掛けて、転ばせる?
わざと体をぶつける?
ああもう! なんてしょぼい。
考えこむ間に、二人は帰ってしまった。
「ウドレッダ」
マザージモミが、手招きをしてくる。
何よ、なんなの?
あ、私がハサミをいれた、衣装を持ってる。
「この衣装を着て、外を歩いてみるザマスか?」
「ええ!?」
「何を焦ってるザマス?」
「あ、いえ、その」
「まるで、この衣装を着たら、破れて恥をかくかのような焦り方」
「な、何を……いうの?」
「ふん、やっぱりあーたがやったザマスね」
「わ、訳が、わからな……」
「この千目鬼のマザージモミは、誤魔化せないザマス。あーたの目の動き、呼吸、体温の上昇。全てあーたがやったと教えてくれるザマス」
「あ……ぐ。し、証拠は?」
「往生際の悪い」
「証拠がないのに、勝手に犯人扱いするんだもの!!」
「そこまで言うのなら」
「!?」
「これは、何ザマス?」
マザージモミは、私のポケットから、衣装の飾り羽根がついたハサミを見つける。
「あ……」
「急いで切ったんザマスな? ハサミに飾り羽根をひっかけたことに、気づかないくらい」
「う……く」
「ふん、よくも私が作り上げた衣装を、こんなにしたザマスね」
「……れば?」
「は?」
「修繕すればいいだけでしょ!」
「こんなにズタズタになるように、ハサミを入れた分際で、偉そうに」
「あいつが……!」
「?」
「クローディアが悪いの!!」
「なぜ、ザマス?」
「あいつは……!!」
言いたいことがありすぎて、うまく言えない。その……こう、なんて言うか。
「私よりいい思いするなんて、生意気なんだもの!! 長に媚びて気に入られただけの、あばずれのくせに!!」
───え?
今の誰が言ったの?
私じゃないわよ?
後ろから、聞こえたわ……。
振り向くと、そこにはかなり美形の鬼が立っていた。
角が一本。
耳が大きくて、首筋にエラのようなものが見える。
「サトリ鬼、ノアジャクマ」
マザージモミが、顔を顰めてその名を呼ぶ。
サトリ……?
「久しぶり、マザージモミ。面白い女の子がいるね」
「お前に関係ないザマス」
「まあまあ、人間が働いているとは聞いてたけど……へぇ、なかなか美人だね」
あ、あなたは……。
「あなたは誰? て?」
「え!!」
「ふふ、ボクはサトリ鬼。人間の心が読める鬼」
「そ、それじゃまさか」
「そう、君の心は全部読める。随分とクローディア様に、恨みつらみがあるね」
「え、ええ」
「それに長が好きなんだね」
「そ、そんなことまで!?」
「長はねぇ、あの容姿だもんね。そりゃ、好きになっちゃうよね。声も格好いいしさ」
「おまけに鬼の一族のトップでしょ?」
「そうだよ。一番偉い。この世界では、誰も長には逆らえない」
「素敵……」
「そんな鬼に大事にされるクローディア様は、さらに偉いかもねぇ」
「!?」
「君がなりたかったポジションだよね?」
「あ……」
「こうしている間にも、クローディアは長に愛されて、沢山の贅沢をして、みんなに称賛されているわ。それは私のはずだったの。あいつは盗人よ? そう、泥棒なの!!……でしょ?」
こ、怖いくらいあたってる。
マザージモミは、ため息をついてサトリ鬼の前に立った。
「なんの用ザマス? ノアジャクマ」
「もちろん、お客として」
「お前が?」
「その切れ目の入ったドレス、ボクがもらうよ」
「!?」
「その代わり、この女の子と出かけてもいい?」
「何を企んでいるザマス?」
「ふふ、ボクはこの女の子の夢を叶えてあげたいのさ」
「夢?」
「クローディア様みたいな……いや、それ以上の鬼に生まれ変わりたいんだって」
ノアジャクマが、握っていた手のひらを開くと、複数の光があちこちに弾け飛んだ。
「きゅう~ザマス」
マザージモミが、目を回して横に倒れる。
ええ!? 気絶しているじゃない。
「見えすぎるのも、弱点だよね。じゃ、行こうか」
「え、私……行っていいの?」
「なりたいんだろ? 美しい鬼に。長に愛されるために」
「で、で、でも、長が、マザージモミの敷地から、勝手に出るなと」
「長に愛されたくないの? クローディア様を見返してやるんでしょ?」
「あ……う」
「クローディアに負けたままなんて、許せない。なんて可哀想な私……だろ?」
「ええ」
何もかも心を見透かされてる。
そう、可哀想な私をなんとかしなくちゃ。
「おいで」
「本当に大丈夫なのね?」
「長は今、怪我をしているそうだよ。万全じゃない今こそ、チャンスだ」
「怪我!?」
「道々説明するよ」
私は、サトリ鬼の後ろをついて行って、マザージモミの館の外へと踏み出した。
読んでくださってありがとうございました。
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