作戦
モノケロガヤ、何をする気?
「元皇太子。今の宝珠の実質的な主人はあなたです」
「私は廃嫡されたのだぞ、モノケロガヤ」
「人間の制度は、宝珠には関係ございません。テス王が執政を担えない今、一番近い継承者に所有権が移る。これをウドレッダ姫に譲位していただきたい」
「ウドレッダ姫に?」
「私が花婿となり、宝珠の正式な主人になるためです」
「な!!」
「ストロベリ王家と、血の繋がりのない私が、宝珠の主人となるには、これしかないですからな」
「弟の時には、成せなかったか」
「テス王は拒みましてなぁ。まあ、ウドレッダ姫も初老の私に嫁ぎたくはない、と。今彼女が夢中なのは、あの鬼の長ですから」
「く……! 私の娘を勝手に人身御供に差し出し、鬼の贄として食わせておきながら!! そんな要求をしおって!」
「ふふふ、強引に譲位させる手もあるのですが、宝珠は主体的な行動以外の意思を拒みます。テス王は鬼神棒というエサが効きましたが、あなたは……」
シャキン!!
兵士の槍が、お母様と弟の喉に突きつけられる。
幼い弟は泣き出し、お母様も涙目で槍を睨んでいた。
「これでしょう? クローディア様を失い、さらに、このお二人も失えますか?」
「き、貴様……!!」
「この城の兵士は、高額な報酬が約束されていて、あなたの命令は聞きません。いやはや、テス王が安い給料で人間を使い続けた弊害ですな」
「仮に譲位したとして、ウドレッダ姫が拒めば、貴様は婿にはなれんではないか!」
「ふふ、武力を持った私に、血筋だけの小娘が逆らうことはできません。それに、あの鬼の長を好きにできると提案すれば、喜んで身を捧げるでしょう」
「!!」
「推しが手に入るなら、迷うこともない」
「……」
お父様、考え込んでる。
ウドレッダ姫の性格を知っているから、否定できないのよね。
「モテる男は辛いぜ」
シュラは、ボソッと後ろで呟いた。もう! ふざけてるの!?
「冗談言ってる場合なの?」
「へへ、妬いてる? その顔も可愛いな」
「誤魔化さないで! なんとかしなきゃ。すぐにでも鬼神棒でみんなを……」
「待て、クローディア」
「え……」
「あの様子じゃ、力技で助けても、宝珠に何かされるかもしれない」
「宝珠に?」
「鬼神棒のように、この“死なずの鬼蜘蛛の糸”が結んである可能性がある」
「そ、そんな」
「最悪、宝珠を道連れに自害しようとしたら厄介だ。宝珠のそばに行くまで、下手な真似はできない」
用意周到なモノケロガヤのこと。
確かに一理ある。それなら。
「シュラ、私……」
「ん?」
「ウドレッダ姫と、従姉妹だからかもしれないけれど」
「?」
「声がそっくりなの」
「!!」
彼女は、まだあの山を下りていないはず。今なら、彼女に成りすませる。
「モノケロガヤから、死なずの鬼蜘蛛の繭玉を、奪えればいいのよね?」
「そうだけど、何をする気だ?」
「ウドレッダ姫に変装して、彼に接近してみる。あなたさえ、我慢してくれるなら……」
「却下」
「シュラ!」
「俺の忍耐は、あの兵士どもを見逃した時点で切れてる。モノケロガヤみたいなスケベジジイなら、すぐ子作りしようと襲ってくるに決まってる」
「言い方!」
「宝珠の主人としての立場を確立するためには、王家の血縁者になる必要があるからな。つまり子作りは必然かつ、急を要する。俺は悪鬼に堕ちようと、クローディアを奴に触れされる気はない」
そ、そんな……。
ソラメカも、目の前にやってきて私を睨む。
「そんなことになれば、小娘。お前を我が引き裂いて喰らうからな」
ああもう!!
じゃ、どうするのよ!
「シュラと入れ替わるわけには、いかないのに……!!」
「───お?」
「え?」
「クローディア、天才」
「なぜ?」
「クローディアが襲われるのは、死んでも嫌だ。でもさ……」
彼は鬼神棒を持つ私の手を、自分に向けさせてくる。
「俺なら、いつでも奴を捻り倒せる。俺をウドレッダ姫に変身させろ。そして、クローディアは俺に」
「!!」
「クローディアなら、調伏の術をかけられても、無効だしな」
「え、えええ」
「念じろ、クローディア」
私は、躊躇しながらも彼がウドレッダ姫に変わるように念じた。
みるみる彼の姿は、ウドレッダ姫に変わる。
「次は自分に向けろ、俺に変わりたいと願うんだ」
「わ、わかった」
鬼神棒に願うと、私の姿はシュラに変わっていく。
「わあ、目線が高くなった。変な気分」
「よし、簡単にウドレッダ姫のことを教えてくれ」
「ええ、彼女は……」
「ふんふん、なるほど。なら、次はソラメカ」
「は」
「お前は兵士の誰かに取り憑き、モノケロガヤに俺が悪鬼に変わったと報告しろ。奴はクローディアに調伏の法力を使い、宝珠の在処まで帯同させるはずだ」
「かしこまりました」
「次は、調伏された鬼の様子を伝えるからな」
「え、ええ」
私たちは示し合わせて、それぞれの配置に着いた。
私は一人独房に戻り、壁に開けた穴を塞いで、モノケロガヤが来るのを待つ。
気絶した兵士も隠したし、独房の柵も元通りにしたし。
血糊用のワインもばら撒いて、私を食い散らかしたような状態に仕上げている。
あとはうまくやってね、シュラ、ソラメカ……。
コツコツコツ。
モノケロガヤの足音が、近づいてくる。
あ、ウドレッダ姫……いえ、シュラも一緒に来たのね。
「おおお、私の鬼がついに堕ちたか」
「まあ、なんて美しい鬼。モノケロガヤ、本当にこの鬼をくれるの?」
「ええ、ウドレッダ姫。先ずはこの鬼を調伏致します。お待ちを」
シュラの演技も、バレてないみたい。
次は、私ね。
独房を覗き込むモノケロガヤに、私はシュラから習った唸り声をあげる。
「グルルル」
「くくく、いい子だ」
「ガルルル!!」
私はモノケロガヤに噛みつこうと、格子の柵に飛びついて揺さぶった。こんな感じでいいのかしら。それらしく見えてる?
ガシャン、ガシャン!!
「ふふふ、こうなると長といえどただの鬼だな」
「モノケロガヤ、怖いわ。こんな凶暴な鬼を、本当に使役できるの?」
「ええ、ウドレッダ姫。ご覧ください」
モノケロガヤは、私の額にお札を一枚貼り付けた。
そして、目の前で印を結んで、呪文を唱え始める。
「……」
私はゆっくり座り込んであげた。
唸り声も小さくして、調伏されたように下を向いて沈黙する。
「まあ、なんて上手い……」
「なんです? ウドレッダ姫」
「え、あ、いえ、大人しくなったわ」
「くくく、それでは宝珠の間に行きましょう。それが済めば……わかりますね?」
「ええ、もちろん。私はあなたの妻になるわ、モノケロガヤ」
「まあ、誠意は見せていただきましたので、信じましょう」
───何があったのかしら。この二人。
ガチャリ。
私の入っていた独房の扉が開き、外に出された。後は、彼らの後を幽鬼のようについていく。
道々、モノケロガヤは、ウドレッダ姫の腰を抱いたり、肩を抱いたり、お尻を触ったりしてもう夫の気でいるみたい。
いやらしい。なんて手つきなの。
対してウドレッダ姫に変身したシュラは、上手くいなしながら、私の方を振り向いて片目を閉じた。
その手には、繭玉が一つ握られている。
「!!」
『繭玉はあと一つ。今こいつは持ってない』
シュラは口パクで私に伝えてくる。
あるとすれば、宝珠の近くかしら。
厄介だわ。
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