あるユーザーの体験談
「あー、なんかゲームやりたいなー」
休日、俺は自室でぼやいていた。
スマホの故障でソシャゲのデータがパァになり、どうせ惰性で続けていただけだしと吹っ切れてソシャゲを辞めて遊ばなくなったものの、そのせいで暇をもて余していたのである。
「それなら、これはどうかな~」
そんなぼやきを聞いて、遊びに来ていた友人はスマホを取り出し俺に見せびらかす。
『アオリイカくんのゲーム大全』
スマホ画面にはそうデカデカと表示され、その文字の周りでマスコットキャラらしきデフォルメされた生き物がわちゃわちゃしている。
「なにこれ」
「ゲーム大全の名の通り~、いろんなゲームが出来るんだ~。将棋とかトランプとかのテーブルゲームもあるよ~」
昨今はいろいろな遊びが世に溢れている。デジタルゲームの進歩には驚かされるばかりだが……だからだろうか。
たまにはこんなのもいいだろう、と古典的な遊びに浸りたくなる反動に駆られたのである。
俺はそのゲームに興味を持ち、まずは友人にプレイ風景を見せてもらうことにした。
「そうだな~、じゃあポーカーをやるよ~」
言葉も動作もおっとりしている友人は、ちょ~いちょいと操作してポーカーを開始する。
シャッフルされた山札からプレイヤーに配られた5枚のトランプカード。友人の手札には9の数字が3つ、つまりスリーカードの役が揃った。
なるほど、ちゃんとしたポーカーである。ゲーム性におかしな部分は見当たらない。
ポーカー部分には。
『おやおや~?』『おやおや~?』『おやおや~?』
「さっきから相手からのスタンプ連投がうるさいんだが」
対戦相手側から発せられてるスタンプがいちいちイラつかせてくる。
「これがこのゲーム1番の特徴なんだよ~」
イカが両端の触手で腕組みポーズしてこちらを覗き込んでいる絵が『おやおや~?』の文字とともに描いてあるスタンプ。
これ単体なら別に『おやおや~?』普通なのだろうが、こうもボイス付きで連投され『おやおや~?』るとイラッとする『おやおや~?』ものなのだなと関心するレベル『おやおや~?』うぜぇ!!
「うざすぎるだろこの連投! なんでクールタイム設けなかったの!?」
「感想はいつでも呟きたいよね~って開発者のコンセプトなんだって~」
感想じゃなくて煽りだろ。呟きじゃなくてラップバトル並みの音量だろ。
「僕もスタンプを送るぞ~」
友人が左隅にあるボタンをタップすると、スタンプ一覧が現れる。
『負けないぞ!』
馬と鹿がそれぞれ片腕上げて抗議しているようなポーズをしているスタンプ。可愛らしさはある。それはいいんだが……
「なんか悪意を感じる……感じない?」
馬と鹿て……馬鹿にしてるだろ。
「なにが~?」
他人からの評価にも鈍感な友人にとって、本当に負けないという意思表明のつもりらしい。
『かかってこい!』『どうだ!』『かかって『おやおや~?』こい!』『かかってこい!』
相手の煽りが止まるところを知らない。たまたまなんだよな? たまたま今回マナーの悪い相手と当たっただけなんだよな?
「いっつもこんな相手ばっかりじゃないよね?」
「うん~、もっとスタンプ送ってくれる人もいるよ~」
治安が終わってやがらぁ。
FPSだの格ゲーだの動物園ゲームセンター支部だの、ユーザーのマナーが悪いと噂されているゲームは数あれど。まさか自分がリアルで体験したゲームがこんなテーブルゲームだなんて。
「よ~し、勝負だ~!」
目の前で起きている世紀末スタンプ煽りに現実逃避しかかっている間に、互いの手札が公開される決着の時。
先に公開されたのは友人の手札。9のスリーカードで変わらず。
『うわぁ~』『やられた~』『うわ『うわぁ~』ぁ~』『やら『やられた~』れた~』
相手のスタンプが鬱陶しいなマジで。友人はなぜイラつかないのだ。
しかし反応的に相手は負け濃厚なのか、手札が弱いらしいぞ。
「もしかしたら勝てるかも~」
相手の手札が公開される。
スペードが5枚、フラッシュの役。相手の勝ちである。
『やったぁ!』『おやおや~?』『やったぁ!』『やっ『や『や『やったぁ!』ぁ!』ぁ!』ぁ!』『おやお『おやおや~?』や~?』『おやおや~?』
「うっっっっっっっざぁぁぁぁぁ!!!!」
くっっっそ陰湿で悪質な煽り爆撃を見たわ。当事者じゃないのにここまでクソゲーと叫びたくなるポーカーは初めてだぁ。
挙げ句、リザルト画面に移る間際。最後に送られてきたスタンプがこれである。
『ごめんなサ~イ』
片手で頭をコツンと叩いた、絶対に申し訳なさを感じてないサイのスタンプ。
クソがよ。
「くやし~やられた~」
なのに友人は楽しそうに悔しがっただけである。こやつ将来は大物だぁ。
そうして俺だけがイライラしてる中、リザルト画面でも友人はなにやら操作していた。
「……なにしてんだ?」
「ゲームに負けたら~、専用スタンプを送れるんだよ~」
何から何までスタンプまみれだなこのゲーム。ズッ友宣言してそうな女子よりスタンプ送ってるんじゃなかろうか。
とりあえず友人が送ったスタンプを見せて貰った。
『ひぃぃぃぃぃ~~~わたくしめのぉぉぉぉぉぉ~~~負けでございますぅぅぅぅぅ~~~およよぉぉぉぉぉ~~~』
イタチが泣きわめきながら10秒を軽く超えるほど長ったらしい三下台詞を叫ぶスタンプだった。
イラついてらっしゃる?
「やられ役みたいで楽しいんだよね~」
そうですか。
そんな友人は、思い出したようにゲーム選択画面から戻りつつ、こう言った。
「せっかくだし~、ガチャやるね~」
まあ今時あってもおかしくはない。このゲームならスタンプをガチャの対象にしているのだろう。
「欲しいスタンプがあるんだよ~」
その通りだったようで、友人は狙いのスタンプを表示する。
猫のキャラクターで、お洒落なドレスを着ていることからお姫様のようだ。
「可愛いから欲しいんだ~」
まあ……キュートなデザインではある。猫は目がキラキラしたり、にっこりした顔ばかりだし。
猫は。
「……これって少女が本体なのか?」
「ど~なんだろ~」
このキャラはドレスを着た猫……の着ぐるみを被っている少女なのだ。例えるなら……ドラえもんの口部分から女の子の顔が出ている、そんなデザインなのである。
先述の通り、猫の部分はマスコット的な可愛さで良いと思える。なのだが……この少女の部分が問題なのだ。
この『凄いですぅ!』のスタンプ。猫の表情はキラキラとした目でこちらを誉めているように見える。
だが少女の部分はあからさまに『はーくっだらねぇ』と言いたげに目線を逸らしてやがるのだ。
この『参考になりますぅ!』のスタンプは、猫は勉強と書かれたハチマキを巻いて鉛筆とノートを持っている。
でも少女は着ぐるみの中から出した手で鼻くそほじってやがる。
「これ猫を被ってるってこと?」
「なるほど~」
ドレスはシンデレラ要素か。猫被りと灰かぶりを掛けたわけだなーハハハ。なんだこのギャグ。アオリイカだの馬と鹿だのごめんなサイだのは安直どストレートのくせに。
それで、友人が欲しいスタンプは『ビックリしましたぁ!』のやつだそうだ。猫が両手で驚いているポーズをしているが、少女は『知ってたけど』といわんばかりの真顔なスタンプである。
友人への腹黒疑惑が湧いてきたものの、あえて突っ込まずにガチャを見てみよう。
「なになに。声優別、キャラ別、ピックアップ……種類が多いな」
「1周年記念でスタンプに声が付いたんだよ~。しかも~、スタンプ1個1個に全部の声優さんがアテレコしたんだよ~」
なにその力の入れ所。だから声優別とかあるのかよ。
「狙いは野沢雅子さんのやつなんだ~」
「野沢雅子さんやってくれたんだ……」
野沢雅子さんの声で『うわぁ~』は苦戦しているカカロットじゃん。
と、ガチャの中に確定ガチャなるものを発見。
「なあ、このガチャは?」
「それは好きなスタンプを確定でゲット出来るんだよ~」
必要ポイントこそ他のガチャと比べれば多いものの、友人いわく無課金でも楽に手に入るレベルらしい。
え、めっちゃ良心的じゃない? なんだよ神ゲーかよ。
「それじゃ駄目なのか?」
「よく見て見て~」
なんだなんだと確認すると、確定ガチャのスタンプは背景が銅色になっている。
他のガチャを見てみると、10連ガチャは銀色、単発ガチャは金色であった。
ん?
え?
は?
「ガチャによって色が違うんだよ~」
「とんだ拝金主義だなこのゲーム!」
思い返せばさっきのゲーム、相手の出してきたスタンプにも金やら銀やら、果てには虹色もあったぞ。
「金銀銅をコンプリートすると虹色になるんだよ~」
「とんでもねぇ拝金主義だなこのクソゲー!!」
これがお前たちのやり方かぁぁぁ!! 煽ってるなぁ!! 運営も争いを煽ってるなぁ!! 別名義にアナハイム・エレクトロニクスとか持ってらっしゃる~~~?
「やっとスタンプを手に入れた~ってSNSに投稿するとね~、みんなが虹色のスタンプを自慢してくるんだよ~」
運営が運営ならユーザーもユーザーだな! 世界から戦争が無くならないわけだぁ! 終わりです終わり! 平和なんてここにはありません!! ほんとの哀はここにある!! この世はアーマード・コアでした!!
「で……単発で狙う、と?」
「ちょうどピックアップされてるからね~」
CV野沢雅子さんのネコデレラだけが出るガチャを今日やってるらしい。字面おもろ。
「まずは1回~」
画面がぺカーと光り、現れたのはネコデレラ(CV野沢雅子)の……
『好きになっちゃう!』
ぶりっ子ポーズの猫に対し目が死んでる少女のスタンプだった。野沢雅子さんに何やらせてんの。
持ってなかったからOKとか言いつつ、友人はそんな調子でガチャガチャして数回。
『ビックリしましたぁ!』
「やったよ~!」
とりあえず望みのスタンプは手に入ったようだ。良かったね、それ戦争の火種だよ。
友人が嬉しそうにゲット報告をSNSに投稿すると、たちまち他ユーザーからの返信が届く。案の定、虹色スタンプ自慢の画像まみれだった。ほれ見たことか、黒の章に映ってそうな連中め。
「それで~、どうだった~?」
この蠱毒を見せつけてなお勧めてくる心意気。ある意味この友人にはピッタリだったんだろう。
「いや……どうって……」
こんな世紀末を見せつけられたらさぁ。そりゃ……お前……
『やったぁ!』『おやおや~?』『ボクの勝ちぃ!』
「クソゲー!!!!!!」
その夜、俺はスタンプ爆撃で煽り散らかしてきた相手にボロ負けしてスマホを叩きつけた。
運営よりお知らせです。
本日12:00頃実施したメンテナンスにて、以下の不具合を修正しました。
・将棋で玉側の飛車が特定の位置で成るとクマくんの『参ったなぁ』スタンプが王側に表示される
・ババ抜きにて、負けた後イタチくんの特定スタンプを送ると次のゲームが終わるか別のゲームを選ぶまでイタチくんがずっと卑下し続ける
・トントン相撲にて、クマくん力士とツル力士の組み合わせの際、トントンする度に行司が「はっけよーい」と喋る
・人生ゲームにて、スタンプを連打し過ぎるとターンの対象者が所持金の減らない無敵モードになる
皆様にご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。