表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/16

第9話 バーサス魔王 |継承《けっちゃく》

前回までのあらすじは

魔王との戦いは突然に呆気なく前触れ無く幕切れる。

そして闖入者の参上は物語を揺れ動かし揺さぶった分だけ波を呼ぶ。



八月1週目 終戦

第3話、第8話のI.A.の戦闘モードの名前を変更しています。


ルビが上手く作用して無かったので修正しました。

ニュアンスが変化しました。

意味は同じです。



 真夜中の0時、魔界と呼ばれる土地にある悪の巣窟──魔王城──総本山であるドラゴンハーフ城は半壊していた。

黒城を中心に森が拡がり(えん)に成るように街が栄えて、その街を巨大な外壁が囲んで敵の侵略を阻んでいる。

街の(かなめ)ともいえる魔王城に突如現れ暴虐の限りを尽くしたと伝えられる(のち)に第665代目の魔王で有るその者こそが起こした事件なのだから驚きである。

これは魔界が出来て以来の大珍事であり新たな始まりに過ぎなかったと後年の歴史家達は(こぞ)ってクチを揃えては記述するのだった。

しかし、その彼等も知らない真実が1つ隠れていた。

その(モノ)に、一早く気付いたのは他でもない665代目の魔王である当事者本人なのだから。


 何気(なにげ)なく気配(けはい)や音に魔力(マナ)波長(におい)さえ、もさせず只、不意に抱させた違和感。

つい今しがたに、フッと現れたような。

それでいて最初からこの戦いを観戦して居たのかと思わせるような。

そんな佇まいに見えてくる。

敵意があるのか何がしたいのかも感じられず分からない項目だけが増え(つら)ねられる。

それ程に魔力反応──魔力を練る揺らめき──を感知させずに近付けたのだろうか?

不意の2つの眼光の動きと運で察知出来たと言える。

つまり生物(ひと)では無いI.A.(イア)でさえも、この存在を危険網で把握出来ず、マップに表記(はっけん)されていなかったという事実は単純に彼へ寒気(きょうふ)を感じさせた。

彼が振り向けたのは偶然の偶々なのか或いは必然の運命だったのか。

それは神さえ知らない。

されど返事の無い影にもう1度、問い掛けるのを躊躇いはしない。


「お前は誰だ!?」

答えはやはり返ってこない。

変わらずに見詰められるような気がするだけ。

緊張の時間が続くと思われたその時、城壁の瓦礫の山から人影が素早く動いてフードを目深く被ったローブの人物がゆっくりと姿を晒す。

月明かりに顔の影を強くして性別が分かり辛くてローブのせいで全貌も見えないが、その人物は(なに)をするでも無くジッと見詰めて右手を伸ばそうとして動きを固める。

雲に少し隠されていた月が顔を出した事で依り照らされるようになるとローブの全体が明らかになる。

そこに立っていたのは左手に(つるぎ)が握られていた姿だった。

警戒を強める一同(ぜんいん)にローブの人物は静かに謎の言葉を告げた。

それを理解出来ない言語だったが倒れ伏している魔王だけが、この場で1人知っていた。


「…………古代語?

失われた龍代(しんだい)の言葉だなんて!?

これは “動くな” と言っているのか」

それを言われて名もない次期魔王の少年は気付く。

既に体が動かないという事実に、そしてI.A.(イア)とのコンタクトにノイズが入ったようにバグで乱れ途切れに会話が遅れ不信となっていた。

ローブの人物からは依然と魔力の反応は感じられずにいる。

いきなりの急激な急変の出来事に動揺よりも興味を(そそ)られてしまい彼は吸血鬼の腕力で無理矢理に謎の拘束を解こうと試みる。

だが今の所は成果が見られないようだった。


「動くなだとっ!?

それはコチラのセリフッ!!

貴様こそ動くなーー!」

エマは腰に提げていた太刀を抜くと果敢に走り出そうとしたが後ろに控えていた執事に止められる。


「違います。

これは特定の人物だけに向けた呪詛なのでは?」


「いいや、呪詛というより言霊に近いはずだよ。

それも……とても強力な……ね………。

おそらく僕でも振りほどく事は出来ないだろう。

(現代の代物ではないオーバーテクノロジーだ。

きっとこれは………しかしそれを告げるなと目が語っている。

この先を生きる若者達にこの真実は酷だ。

墓標と伴に君たちに託し試せと言うのか)」


「それ程のモノだと言うのですか!?」

次の瞬間にはローブの人物は左手に持つ黄金の(つるぎ)を軽やかに平行に向けると剣先からオレンジ色の膨大なエネルギーの波動を溢れさせ放とうとする。

魔力の塊はエマを狙うでも無く、少しの間は無軌道に魔王達の間を動き回ってから名無しの少年に突き刺さった。

動けないままに体は貫かれて誰もが張本人でさえも死を過らせた。


覇魔勇破魔神大戦(フォア・シュピール)

序曲は書き換えられた……………真の前奏は()っくに始まっている。」

紡がれた言葉は冷酷に突き放す、一方で何処か優しさも覗かせるような態度に、一陣の突風が(みな)の視界を奪うと同時に摩訶不思議な現象は解かれ少年とI.A.(イア)は動きを再開させる。

開いた瞳にはもう先程までいた怪しい人影は塵さえ残さず幻覚のように忽然と消え失せていた。


「日本語、地球の言葉ッ…………!?」

床に叩きつけられながら名無しの少年は悟る。

だが奇しくも()の人物が現れてから少年の魂に鎮座(ねむ)る聖剣は脈動し共明(きょうめい)鼓応(こおう)しているのを少年もI.A.(イア)も見逃していた。


*


 闇夜を目映(まばゆ)いオレンジの閃光が弾けて身体の奥底に染み渡る。

害意は不思議と感じられず懐かしい感覚すら思わせる。

外傷は見受けられずダメージもない。

オレの意志で動けるようになるとI.A.(イア)との会話やメニュー画面も使用が再開されて可能なのを確認する。

奴の能力なのかオレのスキルとかを管理するメニューに侵入・介入して停止されたのは確かだ。

メニューは多分、神が運営監視してると、ぼんやりながらに考えてたけど謎が深まる感じに成っちゃったじゃんか。

なんだよア~レ?

おかし過ぎるだろ?

いきなり現れて、いきなり謎な事して変なセリフ吐いて消えやがった。

日本語って事は同じ召喚者?

勇者なのかな?

プンプン(*`エ´*)もう!


『声・身長・体格から男性。

15歳~25歳だと断定出来ましたが日本人なのかは顔を確認出来なかったため不明です。

スキル等の擬装も視野に入れれば判定は更に困難を極めます。』

そっか、ん?

スキルの覧に新しいのが追加されてる。

読めない、文字化けしてる。


『ボスのホームメニューへの異変は見受けられません。

現在の我々の技術で確認する限りに成りますがハッキング等の攻撃はされていないと思われます。

ワールドシステムに割り込まれるとは仰天の、一言に尽きます………。

この解読不可能の不可解な獲得スキルも件の人物から贈与されたと考えて良いか思われますが敵意や時間差の罠の危険も可能性が考えられますので触れないで下さい。

尚、解析は引き続き行います。』

マジか!?

そう?

実はオレさ、(なん)か害意を感じないんだよね。

謎の安心感って言うか~?

なんて言えばいい分からないけど。

親近感みたいのかな。

ホンのちょっとくらいの感じだから間違ってたら大事(おおごと)になりそうだけど。

うん、分かんない事が多すぎて判らんから切り替えて行こう。

周囲を確認するために首を動かしてみたら間抜けに(くち)を大きくする事になる。

そういや魔王が最後まで持ってた、もう1つの宝剣はドコいった~なんて思ってはいたかも知んない。

けども、いや忘れてたんだけど、まさか魔王の巨大な玉座に刺さってるとは。

龍戰王バサラダクラスプリミュウの邪旒剣って鑑定結果が出てる。

これは予想外だな、避けて飛んだ先にぶっ刺さってるなんて(笑)


「ワタシ達は夢や幻でも見ていたというのか。

錯覚ではないはずだ、この魔力の残滓が証拠だ。

曲者の人間よっ、大丈夫だったか?」

顔を宣しなく振っては警戒しながら理解が追い付かず終わっていない絶賛混乱してる納刀中の女の人。

曲者って何だよ失礼だな。実際そうだから否定こそしきれないけども。


「エマ、どうしてここに来たんだい?

来ないように十分に言ったはずなんだけどな。」

魔王は手を伸ばしてエマと呼んだ女の子の頬に触れる。


「娘と使用人の長だよ」

誰か分かって無さそうなオレに説明すると魔王は娘との会話に戻る。


「しかし父上っ!

大きな戦闘音や振動が起これば心配にもなると言うものです。」


「旦那様っっ申し訳ごさいません。

1度は御止めしたのですが数時間にも及ばれましては(わたくし)としても引き留めるのが精一杯でございました。」

執事長は礼儀正しく、お辞儀すると今までいた女の子とは反対側に回り込んで魔王の顔の兜や鎧を取り始める。

その顔は明るい金髪に爽やか外国人っぽいイケおじキラキラーンだった。

執事に脈などを計られながら魔王は独り言のような愚痴をこぼす。


「魔力も底をついてしまったかな、もう時間が無いみたいだ」

顔は白くなり、目も虚ろ気味だ。

そしてオレの顔を探して目が合うと語りかける。


「君の、君の名前は何と言うのかな?」

ん?

………あっ!

名前っ?

名前かぁ~!!

困った。

後廻しにして考えもしてなかった。

え~と魔王になるからサタンとか?

でも勇者からの脱落とかでもあるし、いや魔王って堕落したルシファーだって言うしな。

う~ん、、、、(^◇^;)。oOピカーン☆!

こっちに来た日がバレンタインだったな~

そんな気がするよ!

うん。

ドカーン思い付いた!

でもバレンタインだと長いし短くしてニュアンスも名前っぽくしてと。

そうしよう、そうしよう。

だからオレの名前は────


「ヴァレンでお願いしますぅ」

決め顔・決め声で仕上げてみました。

気負ってカッコつけたら語尾が上擦ってしまった。


「ヴァレン………ヴァレンだね。

ヴァレンくん、君はどうして魔王を目指しているんだい?」

その問いにハッとして、ガッとなる。

握り拳で押さえた胸に目をやってから魔王を見直す。

なので素直に理由を話す事にした。


「それはですね、、、前のオレが魔王になって魔界を統一したら日光浴とかスローライフで隠居生活送りたいから、そんで城の庭とかでノンビリ~と、って感じらしいです。

・・・・でも過去(まえ)のオレは関係ないって思えて来たんで今のオレがそうしたいってピン!とした事をやろうって考え中って今は感じです多分っ、そうだ~って思えたって感じです。」

これが魔王さんとの戦いの最中に実感して体感したオレの嘘や偽りの無いマジの奴の本心なのはホントだ。

薄々分かってた。

目覚めたオレにいきなり突き付けられた指令みたいな使令は理不尽でめちゃくちゃだったって。

バカな召喚者の間抜けなアホな野望でしかないのだから。

あんなアホの願いを叶えてやるのは癪だ。

悪いのは前と今のオレで魔王さんは悪くない。

ここにいるのは加害者と被害者だ。


「でも多分、今は模索しててオレ自身の夢的な物を世界中を探してでもって、遅れてもゆっくり自分を探してみようって、それで良いかなって、ふんわり浮かんできてます。」

弱々しく消え入りそうに泣きそうな気持ちが込み上げてくるけど、その感情を咄嗟に謎にダメだと抑えてる自分がいた。


「勝者が、そんな顔をしてちゃ駄目だよ。

敗者に申し訳ない感情を向けては、それは途端に冒涜に変わってしまう。

だから君は、、、ヴァレンくんは僕の分も眼前に広がる、いやその遥か未来を見上げ見据えて歩き出さなきゃいけない義務があるんだよ?」


「義務ですか?」

前が見れない気がして上を向いて両の拳を強く握り絞める。


「そう僕はヴァレン君にいのち(義務)と言う名の希望を見ている。

だから押し付けちゃおうかな!

嫌な言い方をすれば強大な力で今代の魔王を倒してしまって魔王になる責任を負っちゃたんだからさ。

それは生半可な意志で通してしまったとしても、もう枷として君に乗し掛かり始めているよ。

これを重しと捉えるのか、覚悟と捉えるか、心強い武器と見なすのかは今後のヴァレン君の行動次第だよ。」


「難しい事は分かんないです。

ので直球に‥‥?

直感的なストレートな思い付きに任せようと思います!」


「コラコラ泣かなくたって良いじゃないか?

素直な子だな。

うーん、そうかい?

行き当たりばったりを選ぶのかな?

でもヴァレン君みたいな純真な心の持ち主なら、なんでも何とかしてしまいそうだね。

………跡を見届けたかったよ。」


「父上っ!?

まさか、そんな、、。」

それまで黙って聞いていた娘のエマが急に慌て出す。


「シッーー。

エマ……この残り少なくて楽しい憩いの時間は、もう少しだけ(すご)して僕から君たちに残されておくれ。

ヴァレン君、君の与えられた力は、これからの君の望む夢に似合った姿そのモノの形を、きっとしているんだね。

何でも出来るし何にもでも成れる。

覚悟の持たらす苦難と覚悟の行き先に誘う希望。

意思を貫く強さは絶対に後ろから君を追い回すけど………。

(それも歩く道さ)

今後に期待だけど課題でもあるよ。」


「魔王ってオレに勤まりますか?」


「どうだろうね?

娘もいるからな~、一緒に頑張っていけばいいんじゃないかな?

僕らでも務まった位だからね。

力を合わせれば大丈夫だよ。」

魔王さんは優しい視線をエマに向ける。

握っていた腕の力を強くされるエマさんがオレの歪んだ視界に入る。


「分かりました。

文句は半日前のオレに言おうと思います。」


「それは豪胆だね、純粋なんだか分からないよ。

(覚悟は決まったようだね)

いいかい?」

エマ、オレと順番に見てから魔王は告げる。


「君達のしようとする魔王(いし)が何だったとしても多くの命が後ろ()いてくる。

それを君はどうする?」


「わたっ、ワタシは‥‥‥‥。」

エマは問われて固まってしまっているようだった。

いきなり命とか覚悟って言われても、そんなのオレも怖くなるし実際、今でも怖い。

でもこの魔王さんと戦っていて命の大事さとか “奪う(ころす)” 事の躊躇や意味を考えさせかれた。

答えは出なかったし戦ってる途中だから殴られたりして考えなんて吹っ飛だりして全然纏まり切らなかったけど、そもそも正解なんてオレの脳ミソじゃあ多分永遠に見つけられそうに無い。

だから。


「オレは、ハッキリとは分かりませんけど断言するとしたら。

ふんぞり返ってやろうと思います。

普通は背負ったり意思を継いで、とかって言うんでしょうけどオレはオレがオレらしく居られるように血みたいに身を任せてどうにかします。

どうせ後悔するなら後悔するなりに少しでも後悔したくないように暴れて足掻いてやります。

あとは数日後(みらい)のオレが、どうにかしないと行けませんから!」

魔王さんは頷いた後に微笑むと玉座の間や大広間(ホール)を見渡してから笑いだす。


「まさにそうだったね。大暴れしたよ!

それは僕が成そうとしていた事よりも、ずいぶんと大掛かりで大変そうだな!

なんて言ったって世界制覇だって寄り道みたいなモノなんだからね。

覇道が目的じゃ無いからこそ、ヴァレン君は面白いんだ~。

ギリギリ合格かな。

そうか、そうだね。

どうか君は君のままで大きく成長して変わらないでおくれ!

さぁ()は投げてしまったよ?

後は君達の世界(じだい)だ!!

(あぁ本当に楽しみだ。

君達の行く末が見れない事だけが悔やまれる)」

魔王は俺の答えに満足したように笑顔で今出せる最大の大声で答える。

笑った時に痛そうに身体を動かすのも辛そうにしながらだ。


「ヴァレンくん、君を認めよう!

次代の魔王は君だ!!」

エマさんは魔王さんから手を放して少し離れようとしてそれを止められる。


「父上。

決められたのですね?」

悲しそうな、辛そうな、そこにホンの一摘(ひとつ)まみの嬉しさに似た感情を涙と一緒に流した気がした。


「そうだよエマ、いいかい?

僕の命は長くない。

それにこれは家族の父親としての僕ではない魔王として決めた事!

エマ、娘の君に残せる物がこんな物で本当に良いのか分からない。

お母さんが生きていたら怒られそうだな。」

エマさんは涙を堪えていたが、ついに泣き出して大粒の涙と大声を張り上げてしまう。


「あぁ、でもそんなエマが愛おしい。

こんなダメな父でも凄く誇らしいんだ。

‥‥‥‥‥ありがとうエマ!」

エマはその言葉に更に声を大にして泣き叫ぶ。

魔王にしがみつこうとして、それを魔王が手で制止すると手の平から淡い緑と暗い赤い光の球体が現れて俺とエマに向かって、ふんわり~っと、一目散に飛んで来る。

身構えるよりも思いの外、早くやって来た球体はオレの方には緑色。

エマさんの方には赤色が、それぞれ吸い込まれる様に入って()けて浸透してゆく。


「ヴァレンくんのモノは現魔王を倒して新たな魔王として認められた者に贈られる職業と称号だよ。

おめでとう」

つまり称号なんかを奪った形になるわけで今更ながらに直視する事になる。


「そしてエマ。

エマ?

しっかりと聞いておくれ。

君には血筋を継ぐ者にだけ渡す事が許されている継承としての魔王の職業と称号だよ、ごめんね。

でも君なら君たち(・・・)なら大丈夫だよ。

後の事はヴァレン君とで魔王を務め上げてみせるんだよ?」

目線だけを動かした後に目を瞑ってから涙を溢すと魔王さんは最後の言葉を力を引き絞りながら話しを続ける。


「若い時分には憤って生き急いで怒る事が多かったけれど今は悲しみの方が多くて大きいかな。

……年を取るごとに怒りは遠のいていく。

エマ、君達に僕は愛を授けられただろうか?

ジャック、長年の友の君に恩返しは出来ただろうか?

こんな時ばかり、やり残した事を思い出す。

やっぱり僕は魔王には向いて居なかったね。

ヴァレンも気をつけるんだよ。

ヴァレン君の夢がどうなるか楽しみだ………だからって訳じゃないけど最後に口煩い先達からの忠告でもしようかな……。

………君達には何かを1番大事なモノを1つ、この先の人生で体験してく中で探してほしい。

苦しくて辛くても得難い経験(たから)は誰にでもあるはずだから。

その何かが見つけて身に付けられたなら宝は君達の財産になる。

僕の財産はエマ、君達だよ。

ヴァレンくん、夢をいっぱい見つけて叶えてほしいエマ達と幸せになってね。

任せた。

後は任せたよ。

任せっきりで悪いね………ヴァレン君。」

話しながら涙を流し、それに比例するみたいに声も掠れてゆく、魔王さんはエマの手と触れていたが反対の手で寄せようとして頬を撫で掠りながら床に落ちて静かにゆっくりと息を引き取った。

それが、これがオレのした現実。

途切れさせてしまった動き(じんせい)はオレが起こした顛末だ。

魔王さんの顔は死を前にしながら笑顔で、まるで幸せの中で亡くなったかのように錯覚する程だった。


「父上っ!!」


「旦那様っ旦那様!!」

遣る瀬(やるせ)無い、遣る瀨無い。

こんな結末考えもしかった、そうだよな。

異世界であっても生きてる事は変わりない。

その重みをちゃんと認識してなかった。

オレ(・・・)オレ(あいつ)は。

その実感と責任がオレに乗し掛かってくるのをやっと体感する。


「魔王さん、オレ決めたよ。

これを()れたアンタの分もオレは、ちゃんと魔王するよ!!」

ゆっくりと近づきながら目一杯に宣言する。

そんなオレにエマは涙を拭いながら、こっちに体ごと向き直る。

中腰の体勢に、そのピンクの瞳は一瞬オレを睨んだかのように見えたが次の瞬間には女性らしく凛とした顔色に戻っていて片膝を着き直すと、お辞儀のようなポーズを取っていた。

執事長は魔王の服装を直したり、お世話をしていたが、それを一時中止してオレにエマと同じように、お辞儀をしてくる。


「ヴァレン殿!

ワタシはエマ・アイリィ・スカーレットと言う若輩者だ。

貴殿と共に魔王を拝命した。

こんなワタシだ。

頼りないかも知れない、だがどうか力添え願えないだろうか?」

名前呼ばれるの慣れないな。

名前呼んでくれてるし曲者からランクアップしたっぽい。

それにちょっと、こそばゆい。

意識してないと、あぁオレだよなってなる。


「あっ、うん、よろしくお願いします」

エマさんの泣いた後の顔を見ていて自分も泣き腫らしていたと思い出して照れ隠しの意味も込めてジャージのフードを掴んで被る。

後、寒いのも思い出しただけだからね。

決して恥ずかしいとか顔を見られるのが辛いとか申し訳無いとか、そんなのでは断じて無い。

にしてもエマさんは似非外国人みたいなニッポン・SAMURAIとかに憧れてる外国人美女の印象だ。

とっさに普通に返事しちゃったんだけど彼女は何故か笑顔になってる。


「それは誠だろうか?

飲水思源だ。

かたじけない。

宜しく頼む!

共に魔界を泰生に治めていこうではないか!!」

ポニーテールを揺らしながら可愛く跳ねて喜ぶ女の子のエマさん。

服装も洋風のドレスなのは確かだけど、よく見れば所々に和風っぽいアレンジや刺繍が施されている。

髪の毛は金髪・ブロンドヘアのライト・ゴールドの地毛っぽいけど光の加減で所々に光沢のある髪はピンク色の艶が見られる。

いんす?

……なんだって?


「えっとさ、恨んだりとかしないの?」

袖で目元を拭う。


「ふむ?

確かに……思わない事もないが……父上が認め。そしてワタシは直々に任されたからな。

不甲斐なくも長女として拝命したからには魔王の、一族を、一層に切り盛りし栄えさせねばと思っている。

それに魔族は実力主義でもある、ワタシもヴァレン殿の考え方に共感した。

何より父にしてしまった事を悔やんでいるのも見受けられた、こそ共に力を合わせて魔王の職に努め、これからの人生を、一緒に歩んで行こうと思えたのだ!!

うむ。」

鼻息荒くして拳を胸元で語られて勢いに飲まれてしまった。


「あっハイ、だよね(・´ω`・)」

こっちはまだブルーから立ち直れてないんだけどな~~

なんてやってると、ここで執事長がオレの方に近づいてくる。

何っ急に?

怖いや!?


「先代魔王様は息を引き取られ、ここに亡くなられました。」

言われて魔王の方をを見ると、そこから魂のようなモノがフワ~っと出てくるのが視えた。

他の二人の様子からして、これが異世界の常識なのかと納得しそうになったけど、どうやらコレはオレにしか見えて無いっぽい感じだ。

ならば思い立った勢いで実行だ。

I.A.(イア)この魔王の魂を回収してみくれる。

なんて言ってみたはいいけど、えっとホントに出来る系かな、大丈夫そう?


『かしこまりました。

問題ありません。

実行中

…………

………

……

完全回収に成功しました。』

良かった。

スゲーーー!


『戦闘結果が統計されました。

反映が開始されます。

魔王討伐の経験値を獲得しました。

レベルが上がりました。

レベルが上がりました。

レベルが200になりました。

レベル1の状態でのラスボス討伐によるシークレットボーナスが発生しました。

レベル上限が突破されました。

レベルが上がりました。

レベルが上がりました。

レベルが上がりました。

レベルが600になりました。

レベル上限の限界です。

これ以上のレベルアップ不可のため獲得経験値をスキルポイントに変換します。

レベルアップによりスキルポイントを獲得しました。

レベルアップした事で使用した魔法とスキルのレベルがアップしました。

レベルアップで新しいスキルを習得しました。

新しい魔法を習得しました。

魔王の戦利品を入手しました。

先代魔王の魂を獲得しました。

魔王の一部のスキル・魔法が流入してきました。

獲得済みの魔王の職業及び称号が変化して大魔王に成りました。

強制的に勇者の職業・称号が外され大魔王に代わりました。』

マジかっ!?

高揚感がやってくるよ~これは!!

うっひょう、ン?

………ぐわっーーーーーーーー!!!???

うわッうあーーーーーーーーーーーーーーー!!!!

あぁぁあああああああああアァァァァアアア!!!!

気怠げの後に激痛が右眼に襲い掛かってくる。

何とかポーカーフェイスを保って声を出す事なくやり過ごしたと思われる。

どうなってんのイア!

状況を教えて~~。

そんで冷や汗が凄い。


『状況の把握が終了しました。

原因は[魔法|怨念]を多様・常時発動した副作用のようです。』

はぁ、ほぇ?

え?

そいや忘れてたかも。


『右眼を失いました。

右腕を失いました。』

言われて見れば右腕が無い。

服上からでも分かる程に裾が風に靡いている。

それに視界も確かに変だ。

パキパキと軋んで割れる音がする。

目の痛みで腕の痛さが分からなかった Σ ゜Д゜≡( /)/エェッ!

イアっ、イア!?

身体を3Dスキャンする奴で詳しく見せて。

早く、あーーーーーーーー激痛ッッッっ!!


『ご心配及びません。

先の要望等からアップデートは完了済みです。

投影機能が使えるようになっています。

照射放映します。』

現実の空中にホログラムみたいのが出現するとリアルタイムの立体映像が映し出される。

右眼の辺りと腕を失くした右肩の部分から亀裂が伸びて熔岩みたいな赤黒(あかぐろ)くドロリとして昇っては、この世の物とも違う異質なのが所狭しと元気いっぱいに燃え上がる。

呪いが根源なのか怨みの焔は(あかく)妖しい淡い熱源と一際(ひときわ)に明るい桃色にも見える光の動脈で全身全ての皮膚を焼き払わんと煜き放っていた。

鈍間に這いずり回ろうとしている、それが急激に満ち潮のように引いていくと元の肌色に戻っていく。

去れど痛みは引かず激痛の余韻さえ残している。

え?これって回復魔法で治らない系じゃない?

直感だけど、そうじゃない!?

そうだよね(;ω;`*)

一向に痛いの消えていかないんだけども~?


『残念ですが不可能です。

既に試しましが結果は全て失敗に終わりました。』

まじか~っ!?

バンパイアの特性でも治らないって、いよいよヤバい事態(ごと)じゃない!!!!


「ヴァレン殿っっっ!?

それは、一体どうしたんだ?

酷い瘴気だ。

そんじょそこらの瘴気より爛れているぞ。

これは大丈夫なのか!!」

はぁはぁはぁ、全然大丈夫じゃないでは無いです。

背中を擦りながら回復魔法を掛けてくれるエマさん、ありがとう優しい。

でも効果なさそう。

(くる)しい、声を発するのも、しんどい。

………………けど何か喋らないと。


「こっ、これは勝利の勲章って奴かな。

それだけ、あんたの魔王さん………親父さんは強かったって証明だよ。」


「うっ!

それは誇らしいなっ!」

赤く涙ぐむエマと青い顔のオレは目が至近距離で衝撃(かさ)なる。


「魔王冥利に尽きるっっと言う物だろうか、、、。」

必死に隠しているようみたいだけど嗚咽も聞こえて頬を伝った雫はしたたり落ちて魔王の顔に流れた涙の後に続くように当たる。

いやホント、なんの代償も無しに魔王を倒せる程に異世界も甘くない。

イアっ目を隠せる物とか、あとは義眼とか義手的な何かって無いかな?


『すみません。

現状では実現性の高い提案をピックアップ出来ませんでした。』

いやそんな事ないよ、イアはいつもやってくれてるから。

まだ出会って1日も経ってないけど(笑)

よし、グズグズしてられないな。

魔王さんに言われた通り、前に進もう。

オレの我が儘に付き合わせてしまった先代魔王と

その家族のエマさんに報いるためにも後ろを振り向いてもいられない。

オレは突き進む、突き進んで行かなきゃならない!

オレの戦いはまだ始まったばっかりなのだから!






って打ち切りエンドみたいなノリになっちゃた。

それより、目と右腕どうしよう

Σ(゜Д゜;≡;゜д゜)

ヤダ、コレほんと生活困らない?

大変じゃないかしら~

マジでどうしようっっっ

イアえも~ん助けて(切実)


『私は青いタヌキ型ネコ偽称ロボットでは無いので不可能です』

あぁ~なんてこった。

I.A.(イア)巫山戯(ふざけ)てる~!





8月は毎週火曜深夜1時から更新です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ