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君の瞳は紫水晶  作者: 二頭唐辛子
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最悪な目覚め(7回目)

「おはよう、大輝君」


 目を覚ますと、紫水晶(アメジスト)の瞳が俺の顔を覗き込んでいた。


 今日ので7回目になるだろうか。目覚めは間違いなく最悪である。


 俺は鬱屈とした感情を笑顔の仮面で覆い隠し、今もなお、俺の顔を覗き込む女に外行きの声で話しかけた。


(あきら)さん、昨日も一昨日も枕元に座って僕の顔を覗き込むのは止めてくださいとお願いしましたよね?』


 すると、何故か女は俺にもの言いたげな目を向ける。しばらくの沈黙の後、女は気持ちの悪い笑みを顔に貼り付けて、媚びたような声色で返事をしてきた。


「ええ!確かに約束いたしましたね。──ですが私が約束を交わしたのは『黒上大輝君』です。そのように気持ちの悪い笑みを浮かべる貴方のことは存じ上げません」


「……」


 本当に神経を逆撫でするのが得意な女だ。その気持ちの悪い笑みは俺の真似だとでも言いたいのだろうか。俺の被っていた笑顔の仮面はいとも簡単に砕け散り、剥き出しの醜い表情が露になってしまった。


 女はそんな俺の表情を見て、パッと花が咲いたような笑顔を浮かべた。


「おはよう、大輝君!」


「……朝から気持ちの良い挨拶をありがとうございます。───俺の顔をバカみたいに眺めるのは楽しかったかよ」


「うん!めっちゃ楽しかった!」


 俺が皮肉を言葉にしても、この女にはどこ吹く風といった様子であった。気に入らない。俺は女を睨み付けて、襖の方を指差した。


「用が済んだのなら部屋から出ていってくれないか?服を着替えたいんだ。まさか、着替えるところまで見たいなんて言わないよな?」


「はいはい!大輝君は私に裸を見られるのが恥ずかしいんだねー!出ていきまーす!」


 女は俺を茶化すようにそう言った後、勢い良く立ち上がり、夜空のように黒い髪を踊らせながら歩いていく。そして閉じきっていた襖をゆっくりと開けて部屋を出ていった。


 女と入れ替わるように、朝の日差しと新鮮な空気が部屋に流れ込んできた。


 俺は日の眩しさに目を細めながら、ゆっくりと立ち上がる。女はもう居間の方へ行っただろうか。ここからみる限り女の姿は見えないが……。


 俺は部屋から縁側に出て、そして顔をしかめる。

 女の姿はすぐに見つかった。女は庭に出ていて何かを興味深そうに眺めているようだった。


 何となく、女の目線の先のものに目を向ける。そこには紫陽花が生えており、淡く青い花弁は朝露に濡れていた。


 今日は晴れだな、なんて思いながら空を見上げる。空は雲一つない快晴だ。


 梅雨の季節にここまで日が眩しいのは珍しい。そんなことを考えていると、俺の耳元で声をかけられた。


「珍しいよね、こんな季節に青一色の空なんて」


 俺は右隣の方にゆっくりと視線を向ける。案の定、そこには女の姿があった。俺は女の顔を鋭く睨む。


「……早く居間に行ってくれないか?ここに居られると、ストレスでどうにかなってしまいそうだ」



「そんな怖い顔しなくてもいいじゃん!私はただ、この気持ちを大輝君と共有したかっただけだよー?」


 そんなことを言って、女は口を尖らせる。


「そんなことはどうでもいい。早く出ていけ」


「えー……」


 冷たくあしらっても、女はこの場を離れる様子はなかった。思わず溜め息をついてしまう。俺は部屋に戻ることにした。こんなのを相手にしていたら日が暮れてしまう。俺は部屋に戻り、布団をたたみ始めることにした。


 そんな俺の背中を見て、何を言っても無駄だとようやく気が付いたのだろう。女は俺と同じように溜め息をついた後、居間の方へ歩いていった。


 しばらくして、襖の方を見て女がいないことを確認した俺は、三つ折りになった布団の上に大の字で寝そべる。布団はボフッと音を立てて孕んでいた空気を吐き出した。


「いつまで続くんだよ、この生活……」


 天井に向かってぼやいた俺は部屋の外の景色を眺める。


 何処までも青い空は、なんだか俺のことを馬鹿にしているように見えた。



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