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一般向けのエッセイ

安倍元首相殺害事件について

 安倍元首相殺害の件について、ネットで情報を取っていました。犯人の動機や生涯がわかってきて、(これは当初、自分が思っていたより、ずっと重大な事件だな)と思っています。


 この事件は私の物の見方を変える、と思います。…というより、かねてから予想していた事が現実になって、一旦、現実になってしまえば、自分の予想にはどこか甘い所があったと気づいた、そんな感じです。予想をしながらも(でも、本当にはならないだろう)とどこかで期待していた、そんな自分の心理があったと思います。


 ちなみに言えば、この予想というのは、安倍首相が殺害されるという具体的な事ではなく、もっと抽象的・一般的な予想です。


 この事件についてあれこれ言うと、面倒な議論に巻き込まれるのが予想されるので、具体的に言う気はありません。「逃げ」だと言われても別に構わないです。ただ、この事件に対する認識は、これから先の自分の表現の土台になると思います。


 抽象的に答えを書くなら、この世界からは「普通」は消えた、無効になった。そういう感じです。戦後作ってきた、何はともあれ「普通に生きるのが一番いい」とか「努力すればなんとかなる」とか、そうしたものは嘘だとはっきりしたという事です。世界は完全に混沌の中に入った、と認識しています。


 例えば、日常のほっこりした姿を描く学園ドラマは、「学園生活は良いものだ」という前提に基づいています。しかし、我々が当たり前だと思っている学園生活が、当たり前ではなくなった時、前提は崩壊します。作品を楽しい気持ちで見る事もできなくなるでしょう。


 「お茶の間」「普通」「努力」「自己実現」…。そうしたものは全て嘘だ、というのがこれまでの私の印象でした。それはわかっていたにも関わらず、完全にそれらの概念を払底できない自分自身がいた。最後の残滓を振り捨てるのは今だと感じています。


 文学の比喩で言うと、トルストイの小説は、なんだかんだと言いつつ、貴族という選ばれた人達の物語です。トルストイの小説は全て、「貴族の物語」という土台の上に形成されています。トルストイは天才なので、貴族という土台、テーブルに疑問を持ち、打ち壊そうとしましたが、完全には壊せませんでした。


 一方でドストエフスキーは、牢獄での生活を経て、彼にとっては大切だったヒューマニズム的観点、善美、シラー的なもの、そういうものを完全に破壊しました。土台を完全に破壊したとしても語りうる物語はあるのか? 人はそう疑問を持つかもしれませんが、ドストエフスキーの融通無碍の自由は当にその破壊から来ているのだと思います。


 彼は、当然と考えられていた生の前提を完全に破壊しました。それによって、人間のあらゆる諸相を描くのが可能になったのです。


 私は彼らのような才能はありませんが、自分の土台を壊す必要を強く感じました。これに関しては退路は絶たれています。とうとうこういう時代が来たか、という感じです。ハムレットのセリフ「世界の継ぎ目が外れている」を思い出します。そういう時が来たようです。


 紋切り型の説教、ありきたりの倫理は無効になった。社会の上方にいる人間は「立派な人間」であり、社会の下方にいる人間は「努力が足りない」という通念ももはや無効であると思います。そういう時代が来た。こういう時代には、人間の姿が裸形で現れてくると思います。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 安倍晋三さんの殺害に関しては、いまだに何とも消化しきれない感覚を得ています。 奇妙な世界線に迷い込んでしまったのではないかな……と、そんな心地がするばかりです。 個人的には安倍晋三首相の外…
[一言] 私も東北震災の時は同じような感想を持ちました。何でもない日常が音を立てて崩壊していくような、日本国も無くなってしまうのではないかという漠然とした不安。しかし時が経てばいつの間にか繰り返される…
[気になる点] 一言で言えば「戦後」ってやつの部類かな? 違えば良いけど。
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