旦那さまの行方
テオバルド様の事を聞いた私に、男爵様は笑顔で答えてくださいました。
「もちろんでございます。すぐに会わせられずリディアーヌ様には申し訳なく思っています。
リディアーヌ様はワグナー共和国をご存知ですか?」
ロエベ男爵曰く、子息のテオバルド様はこの国から東の山脈の先にあるワグナー共和国へ行っているらしい。
たまたま商会の取り引きで訪れた時に、ワグナー共和国の代表者と知り合い、国の建て直しに協力しているそうだ。
そしてロエベ商会が今の規模までに大きく出来たのは、ワグナー共和国との取り引きが出来たからだと言われた。
なるほど、テオバルド様は随分やり手なんですね。
容姿をお聞きすると、黒髪で濃いブルーの瞳で背の高い方らしいです。
ロエベ男爵も青い瞳なので、お父様似なのかしら?
ロエベ男爵もスリムで行動力のあるのが分かるような体型をしています。
その辺は貴族と言うよりは商人と言われる方がしっくりきますものね。
ご本人も男爵位は賜ったが自分はあくまでも商人ですと仰います。
男爵は貴族との取り引きに使う道具のようなものだと。
ロエベ男爵の言い方は決して嫌な感じはせず、商人である自分に誇りを持っているようです。
私の質問にも、真摯に対応しようとする態度が好感をもてました。
少しだけ不安や疑う気持ちがありましたが、男爵とお話をして、そんな気持ちは消えていました。
「融資の話だけ聞くと、随分ジャルジェ家に有利に聞こえますが、こと結婚に関してはこちらの非礼やワガママが目立ってしまうのですよ。
本当なら貴族間の婚姻ですから、婚約からはじめて、1年以上置いて結婚が当たり前ですからね」
言われて見れば、婚約の申し込みではなく、結婚でしたね。
「しかし、私の商売の都合でそこを急がせてもらっているのです。
そう言う意味でもリディアーヌ様には失礼と迷惑をかけているんですよ」
「そんな、私はあまり気にしておりませんし、家の為になるのならかまいませんよ」
「そう言ってもらえると、救われます。
まあ息子もすぐには帰って来れないので、この2年間は婚約期間だと思っていて頂ければ、こちらも気が楽ですよ」
そう男爵は安堵したように言った。
もともと私は気にしてないことだし、決まったら前向きに考えたい。
「とりあえず、テオバルド様にご挨拶のお手紙を差し上げてもいいですか?」
私としてはまずは文通でもして、交流をはかろうと思います。