大商人
彼はアラリコ・ロエベ。
この国の1、2を争う大きな商会の会長です。
もともとは平民だった彼は1代でロエベ商会を国でも有数な大商会にした程の人で、その偉業を称え男爵の爵位を賜っていました。
そんな凄いやり手の商人がなぜうちに来たのかしら?
ロエベ氏が帰った後、お父様に呼ばれ書斎に行くと難しい顔をしたお父様が座って待っていました。
「お父様ロエベ男爵様は何の用でしたの?」
私の顔を見たお父様は少しだけ顔を緩め
「ロエベ氏は事業拡大の為に協力をしてほしいと言ってきたんだよ
その代わりうちの伯爵領の為に無期限、無利子で融資をしてくださると」
「まあ、いいお話ですね、でもなぜうちにそこまで有利になる条件なんですか?」
「うん… この融資の条件は他にあるんだよ…」
「お父様?」
何か他にも条件の提示が?
「事業の協力と言うのが今よりも高位貴族との繋がりを作っていきたいから、私に後ろ楯をお願いしたいと言ってきたんだよ」
?? 確かにうちは伯爵家の中でも古い家系だし、由緒ある家柄だけど…
高位貴族との繋がりを求めるなら、うちよりもっと上の家格のある家の協力を得た方がいいわよね?
私がそれをお父様に問うと言いにくそうに
「ロエベ氏の後ろ楯と言うのは婚姻による家同士の繋がりを強くする事なんだよ」
「それは男爵家の子息女とうちの兄妹誰かと、と言うことですか?」
「お前への結婚話だよ」
「私ですか?」
まあ、私も数年前に社交界デビューはしていますから、いつそう言った話がきてもおかしくはないですもんね…
逆に今まで社交に力を入れないで、全然本気で相手を探してなかったですし、殿方への印象付けもしてませんからね。
そこは両親に怒られても不思議じゃないところなんですが…
お兄様もまだだしいいかな~とのんびりしてましたからね。
貴族の婚約、結婚は家の為ですから、否はないのですけれど。
「あの、お相手はロエベ男爵家のご子息ですよね?
私全然知らないのですが…」
「ああ、それが少し事情があって社交界には顔を出していないらしい」
じゃあ少ない私の貴族年鑑的知識の中にお顔がなくても仕方ないですね。
記憶がないのは自分のせいではないと安堵しました。
「それでだ、書類上の婚姻をお前とご子息のテオバルド殿と結んでほしいと言われたんだ」
「書類上?」
「ああ、あちらの事情で、テオバルド殿は後2年程はこの国に帰って来れないらしい。
だから、結婚してもお前は今と同じ暮らしをしていける」
「へ?」
「書類上は夫婦となり、お前はリディアーヌ・ロエベになるが、この邸で今まで通り生活をして構わないというのだよ」
「その代わり、ジャルジェ伯爵家の後ろ楯を得ていると公言させてほしいとね。
そして援助も惜しまずしますと言われたんだ」
「そう言うことですか… 別にうちの名前を使って悪い取り引きをなさる訳ではないですわね?」
「ああ、その辺に関しては確認したよ」
「うちと懇意にしている、いくつかの侯爵家への足掛かりがほしいと言われたんだ」
確かにロエベ商会は大きな商会ですが、うちを含めていくつかの侯爵家は他の商会との繋がりがあるから、今まではあまり取り引きがなかったものね。
「2年後、子息が帰って来て改めて2人が顔合わせをして、納得がいかなければ離婚も出来ると言われたんだ」
なるほどそしてその辺の細かい事もちゃんと契約書を交わして、もし離婚になっても、融資はそのまま継続出来ることにもなるらしい。
私が承諾すれば、すぐに融資も始まるし領地再生も進む。
2年間、変わらない生活が出来るのはありがたいけど、社交界には顔を出さない方が良さそうだわ。
夫婦同伴が基本の社交界だもの、結婚したのに、1人で行ったら噂の的になってしまう。
でも、もともと社交は好きではないし、そんなに苦になる事もないだろう。
「お父様お受けしていいですよ」
「リディアーヌ!本当にいいのか?」
「はい、今は融資を最優先にいたしましょう」
そんな訳で私は顔も知らない方の花嫁となりました。