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4 どうしてこうなってしまったのだろう?(皇子視点)

馬鹿皇子の視点です。

 どうしてこうなってしまったのだろう?


 地面に血塗れで倒れたまま、いくら考えても分からなかった。





 思い出すのは、初めて会った時のベスの愛らしい笑顔だ。


 婚約者になるのだと紹介されたテューダ王国の王女、エリザベス・テューダことベス。


 長く真っ直ぐな漆黒の髪も、雪のように白い肌も、宝石のような紫眼も、全てが美しく好ましく映った。


 一目で好きになった美しい彼女は、いずれ俺のものになる。その日がくるのを心待ちにしていた。


 けれど、恥ずかしいのか、俺の気を引くためか、ベスは俺に対して、いつも丁寧だが素っ気ない態度だった。


 そんなベスと違い俺に近づく令嬢達は皆、優しかった。その令嬢達の中でも俺が特に気に入ったのは、アーニャ・カナーエフ男爵令嬢だった。


 ベスのような絶世の美貌ではないが可憐な美しさは好ましいものだったし、何より貧にゅ……華奢なベスとは違い女性美の極致の肢体は魅惑的に映った。


 とはいえ俺が愛しているのはベスなので、どれだけアーニャが魅力的で俺に好意を示してくれても一線を越える気はない。


 けれど、素っ気ない婚約者(ベス)への意趣返しで学園内でベスと遭遇した時など、わざとアーニャや他の令嬢達といちゃついたふりなどしていた。


 王女としての矜持か、俺に愛されている自信故か、俺がどれだけ他の令嬢達と親密に振舞う様を見せてもベスが動揺する事はなかった。


 けれど、それは表面上だけだったようで、ある日、アーニャが泣きながら陰でベスに苛められているのだと俺に訴えてきた。


 真っ先に思ったのはベスに苛められたアーニャへの同情ではなく、いつも俺に素っ気ないベスが嫉妬でそんな行動をとった事への喜びだった。


 とはいえ、アーニャからベスに階段から突き落とされたと聞いた時は、さすがに放っておけないと思った。


 どうやってベスを諫めようかと悩んでいる時に叔父である皇弟イヴァンが俺を訪ねてきた。


 母方の伯父であるミトロファノフ公爵からは決して叔父上に気を許すなと言われているが俺は彼が嫌いではない。むしろ好ましく思っている。公務で忙しい父である皇帝の代わりに俺が幼い頃から何くれと俺を気にかけてくれていたからだ。


 皇子と皇弟だ。確かに、世間では皇位を巡って争っていると思われているだろうが、どれだけ叔父上が有能だろうと妾腹である彼は絶対に皇位に就けない。公爵が皇弟(叔父上)を警戒する必要はないのだ。


「卒業パーティーでベス王女を断罪し婚約破棄宣言したらどうだ?」


 俺がベスのアーニャへの苛めを打ち明け、どうやって諫めればいいのか分からないと相談すると叔父上がこう言いだした。


「公衆の面前なら彼女も言い逃れできないし、何より、いつも素っ気ない彼女が、お前に泣きついてくるかもしれないぞ?」


「……ベスが泣きつく」


 それは何より魅力的だった。


 これまでの俺への態度を反省し素直に愛を示してくれるだろう。


 だから、叔父上の言う通り断罪と婚約破棄宣言をしたのに――。


 事態は俺が思いもよらぬ方向に進んでしまった。





 辺境の男子修道院に行く途中の山道で山賊に襲われた。


 皇子の護衛とは思えないほど少人数だった。しかも、彼らは山賊の姿を見るなり俺を守るのではなく一目散に逃げだしたのだ。


 この少人数では、まともに戦っても荒事に慣れた山賊達に惨殺されるだけだっただろうが、命の代えても皇子を守るのが彼らの役目のはずだのに。


 ともかく残ったのは俺だけだ。


 山賊の一人に馬車から乱暴に引きずり出されそうになり俺は抵抗した。


「俺を誰だと思っている!? 俺は皇子だ! お前らごときが触れていい存在ではない!」


 父である皇帝に廃嫡を宣言されたが、俺は父上(皇帝)の唯一の子供だ。


 いずれ呼び戻され皇太子、そして次期皇帝になるのは確定されている。


 ただ公衆の面前で婚約破棄宣言したのは俺が思う以上に大事(おおごと)になってしまった。俺はただ、俺の気を引くためか、いつも俺に素っ気ない婚約者(ベス)が俺に縋る姿を見たかっただけなのに。


 この騒ぎがおさまるまで男子修道院に非難するだけだ。


「皇子様が、どうしてこんな辺鄙な山道にいるんだよ!?」


 山賊達はゲラゲラと下品に笑い出した。


「あー、お頭、金目の物はないですぜ」


 修道院に行くのだからと金品を持ち出す事は許されなかったのだ。


 馬車を探っていた山賊の一人の言葉に、お頭と呼ばれた大男は俺に嫌な視線を向けてきた。


「なかなかお綺麗な顔だ。代わりに、こいつを男娼窟に売り飛ばせばいい」


「なっ!」


 思いもしない発言に俺は絶句した。


 そんな俺を山賊達は乱暴に馬車から引きずり出し、これまた乱暴に彼らが乗っていた馬の一頭に乗せられた。


 このままでは最悪な未来が俺に訪れてしまう。


 それを理解した俺は走る馬上で暴れた。それがどんなに危険か考えもせずに。


「止まれ! 降ろせ!」


「暴れるな!」


 俺はお頭と呼ばれていた大男と同乗していたのだが、俺をおとなしくさせるためか、そいつが思いっ切り俺の顔を殴った。


 元々俺が暴れていたのと殴られた勢いで俺は頭から落馬した。さらには、後から駆けてくる山賊の馬達に体を踏みつぶされてしまった。


「げっ!」


「死んだか!?」


「生きていても、あれでは商品にならんだろう!」


「ちっ! 金目の物はなかった上、商品にもならんとはな!」


 誰一人として血だらけで地面に倒れた俺を医者の所に連れて行くつもりはないようで、山賊達は好き放題言うと離れて行った。





 本当に、どうしてこうなってしまったのだろう?


 地面に血塗れで倒れたまま、いくら考えても分からなかった。


 やがて意識が闇に呑まれそうになった。


 その直前、思うのは、晴々とした笑顔で鉄扇で俺をぶん殴るベスの姿だった。






次話は皇帝視点です。

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