ロッキングチェア
テーマ:ゆれ
きぃきぃと音を立て、ロッキングチェアが揺れる。
ここは日当たりも良く、ついウトウトしてしまう。
そんな穏やかな時間を過ごしながら、昔の思い出に心を馳せる。
和彦さんと一緒にこの家に住み出して早10年。
色んなことがあった。
ケンカもした。仲直りもした。
遠くの温泉地に旅行にも行った。
どんな時も一緒だった。
普段はあまり家事をしない和彦さんは、それでも年に一度だけ、私の誕生日には料理を振舞ってくれた。
味気のない簡単な物だったけれど、私にとっては何よりのご馳走だった。
無愛想で不器用な人。あまり笑っているところを見たことがない。
それでも私は、愛されている実感があった。
緩やかに過ぎていく日々がとても幸せだった。
今日も私はロッキングチェアに座り、きぃきぃと音を立てて揺らす。
揺りかごのような安心感につい眠くなってしまうけれど、それでも頑張って和彦さんが帰って来るのを待つ。
幸いなことに私は音に敏感だから、彼が帰ってきてドアを開ける音が聞こえてきた。
そのままゆっくりとこちらに向かってくる。
今日もまた難しそうな顔で、だけれど、誠実で芯の優しそうな顔をしている。
私が惹かれた時と同じ。ずっと変わらない彼の魅力。
彼の本当の優しさは、今ではもう私しか知らないけれど、それでも良いと思える。
まるで彼を独り占めしているような感じがして、少し後ろめたいけれど、少しだけ嬉しい。
和彦さんに名前を呼んでもらって、抱きしめて貰うこと。
それは私だけの特権だから。
コートを脱いでハンガーに掛けると、彼はすぐにこちらに向かってきた。
無表情なのにどことなくソワソワしているように見えて、少し可愛らしい。
ああ、愛おしいなと、そう思える。
彼はロッキングチェアに座らる私を抱き抱えて、一言。
「ただいま、ミケ。今日はアイツの墓参りに行ってきたよ」
「にゃあ」
燻るような線香の香りに、揺れるロッキングチェアの音。
それを感じながら、喉をゴロゴロと鳴らした。




