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変わりゆくもの、変わりゆく心

テーマ:バレンタイン


 小学生の頃は、よくお菓子を貰う日だなと思っていた。

 僕の家にはお母さんがいなくて、お父さんも仕事であまりいないから、どうしたらいいか分からなくて先生に相談した。


 お菓子をたくさんもらったけど、大丈夫ですか?

 学校にお菓子を持って来て怒られませんか?


 先生は優しく笑いながら。


 今日だけは大丈夫だよ。良かったね。


 そう言って頭を撫でてくれた。




 中学生の頃は、僕にはよく分からない行事だと思っていた。

 たくさんのチョコレートを貰ったけれど、甘いものは苦手なんだけどな、とか思っていた。

 周りが浮かれ騒ぐ中、一人で不思議に思っていたけれど、受験勉強に忙しくてそれどころでは無かったというのもある。

 たまたまお父さんが家に居たので相談してみても。


 そういうものだ。お前もいつか分かるだろう。


 そう言いながら、笑われてしまった。




 そして、高校生。

 一人称が「僕」から「私」になった時、生まれて初めて手作りチョコを作った。

 教えてくれる人もおらず、動画やレシピサイトを見ながらの試行錯誤。

 何度も何度も失敗した。

 それでも諦めず、納得がいく物を作り上げた。


 可愛いと言ってもらいたくて、初めて私服でスカートを履いた。

 ファッション誌を参考にして、服を買ったり髪を整えたりしてみた。

 そうして準備が整ったから、君の下駄箱に小さな手紙を残した訳だよ。



 正直に言おう。私はすごくビビっている。

 君に受け取ってもらえないかも知れないと思うと、心の中はぐちゃぐちゃだ。

 今までの人生でこんなに悩んだことは無かったよ。

 それでも私は、君に直接手渡したかったんだ。


 よく男っぽいとか言われるけど、私だって女なんだ。

 好きな人にチョコレートを渡したい。

 もちろん、あげるのは君だけだよ。




 私の気持ちを受け取ってもらえますか?




 震えながら伸ばした手。

 そこからチョコレートと受け取り、ありがとうとそっぽを向きながら言ってくれた。

 そして、小さな声で、私とは目も合わさずに、一言。



「実は、俺もお前の事が……」


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