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リンデンブルグ皇国騎士団

空の戯れ

作者: 真柴理桜

 ガチャガチャと乱暴に扉が開く音。それに続きバタバタと響く足音。どうやら同居人の一人が帰ってきたらしい。この賑やかな帰還はテオバルトだろう。歩く騒音と揶揄されることもある彼は挙動が常に賑やかだ。

「おかえり」

 リビングのソファーでコーヒーを片手に読書していたカルスティンは本から顔をあげると帰ってきた相手に声をかけた。

「おぉ……」

 襟足だけを背中の中程まで伸ばした赤銅色の髪と茜色の瞳という夕暮れ時の空と夕陽を思わせる色彩をした男はその綺麗な顔を忌々しげに歪めていた。長い睫毛に縁取られた瞳に宿る不機嫌な色を隠しもせずに答えながらテオバルトは辺りを見回す。何かを探しているかのその様子に。

「エリーなら夜勤だ」

 読んでいた本に視線を戻しながらカップへと手を伸ばすカルスティン。短く刈り上げられた澄みきった夏空を思わせる青色の髪に穏やかな陽の光の様なカナリア色の瞳を持つ美丈夫が告げるもう一人の同居人、エレノアの不在にテオバルトは小さく舌打ちする。

 纏った騎士服の上着を乱暴に脱ぎ捨て、どかりとカルスティンの横に腰をおろすとスラックスのポケットから煙草を取り出し一本咥えて火を着けた。

 煙を深く吸い込み吐き出す。真っ直ぐ伸びていく煙をテオバルトは見るともなしに見ていた。

 コーヒーを飲もうとして、カップが空になっていたことに気づいたカルスティンは本を閉じた。

「テオ」

 呼び掛けに視線だけを向けた相手にカップを持ち上げ飲むかと示す。

「……酒がいい」

 言外に付き合えと滲ませながらの言葉にカルスティンは微笑むとソファーから腰を浮かせた、その刹那。

 横から伸びた手が胸倉を掴んだと思えばぐっと引き寄せられ唇が押し付けられた。浮いた腰が再びソファーに落ち着き、テオバルトが纏う煙草の煙と香水の香りに混じり見知らぬ臭いが鼻につく。

 無理やり捩じ込まれてきた舌が口蓋を舐めあげ、舌をじゅっと根元から吸われる。好き勝手に口内を蹂躙(じゅうりん)する舌を受け入れつつも主導権を握られているのが何となく悔しくて。反撃とばかりに舌を絡めた。

 ちゅくちゅくと響く互いの唾液が交わる音。互いに一歩も引かぬが故に深さを増した口付けはやがてどちらともなく離れた。繋ぐ様に伝った透明な糸が切れ、互いの口の端から顎にかけてを濡らしていく。

 僅かに上がった息を一呼吸で整えて、訝し気に視線を向けるカルスティンへテオバルトはニヤリと笑って見せた。

「ただの口直しだ。気にすんな」

 あぁと得心いったように首肯し、今度こそソファーから腰を上げた。カップを手にキッチンへ向かう。

 テオバルトは今夜は飲み会だと言っていたはずだ。機嫌の悪さの原因は大方あの嗅ぎ慣れない臭いの元が原因だろう。あまり品が良いとは言えない女物の香水だった。

 どうやら今宵の酒も色もテオバルトのお気に召すものではなかったらしい。嗜好品は好みに合ってこそだ。そうでなければどれだけ摂取したところで満足などいかないだろう。

 テオバルトの好む蒸留酒とそれに合うつまみを幾つか用意する。酒であれば満足するまで付き合うことは可能だ。色は……あの程度の戯れでいいなら構わないがそれ以上はお互いが血を見るだけだ。そこは今はいない同居人に任せるのが得策だろうなと考えながらリビングへと酒を運んだ。

 ローテーブルに蒸留酒のボトルとつまみを並べ、先程まで座っていた場所に再び腰を落ち着けてからグラスに酒を注ぐ。互いにグラスを手にし合わせれば、カチンと涼しげな音を立てた。クルリとグラスを回してから口に含むと繊細な芳香がふわりと鼻を抜けいく。するりと滑らかに流れていくアルコールの熱さが喉を焼き、口に残るのは香りと心地よい余韻。ふぅと小さく息を吐き隣を見れば一気に煽ったのか空になったグラスが目についた。

 煙草を咥えたテオバルトに火を渡してやってから、空のグラスを酒で満たしてやる。煙を肺まで吸い込み吐き出したテオバルトの横顔は満足そうに口角を上げている。機嫌が直ったらしいその顔にカルスティンの口元にも自然と笑みが浮かんだ。

 一日の終わりは幸福な方がいい。気分を害すことがあったとしても最後に気分良く終われるのならそれはきっと相殺されるとカルスティンは思っている。

 不意にテオバルトの身体が揺れた。ふわぁと一つ大きな欠伸を零したかと思えばそのままカルスティンの方へと倒れこんでくる。時計を見れば重なり合った短針と長針が少しずつずれ始めた辺り。日付が変わる辺りで眠気を催す男だ。アルコールをいれているのなら尚更そろそろ限界なのだろう。

「テオバルト、寝るならベッドに行け」

「……んあ?……あぁ……」

 半分以上閉じかけた瞼を瞬かせる相手に肩を貸し、寝室へと連れて行く。180を越える長身をシングルを三台繋げた大きなベッドに転がし、皺にならないようにとスラックスだけ脱がせてやる。シャツはどうせ洗濯するのだ。このままで構わないだろう。

 完全に瞼を閉ざし、すやすやと寝息を立てはじめたテオバルトにシーツをかけてやり形の良い額に静かに唇を落とす。

「明日は非番だろう、ゆっくり休め」

 テオバルトが起きるころにはきっとエレノアも帰ってくるはずだ。そうしたら少し遅めの朝食でも取ってのんびり過ごせばいい。幸いにしてカルスティンも明日は公休だ。二人とゆっくりする時間はある。明日の朝食は何が良いだろうか。そんなことを考えながら、カルスティンはリビングを片付け始めた。








***************








 瞼の裏に射し込んでくる光。夢と(うつつ)を微睡ながらテオバルトは枕へと顔を埋めた。眩しい。眠い。もう少しこのまま……。

「……ると、テオバルト、起きろ」

 体を揺する柔らかな手と耳に心地よいアルト。甘さを含んだような優しい声音。あぁこの声は……。

 声のした方へと顔を向けた。そこにいたのはミッドナイトブルーの髪にブルーグレーとクリームイエローのオッドアイという宵の空に輝く月と星を宿した美女で、眩い光の中でそこだけが夜を残した様に彩られている。広いベッドの上に乗り上げて自身を揺すっていたエレノアをまだ開ききらない目でぼーっと見つめる。あぁ朝か。帰ってきてたんだな、こいつ。

「おはよう。もうすぐ朝食ができるって」

 起きたなら早く来いと声をかけ、ベッドから降りようとするエレノアの腕を掴み、グッと引き寄せる。

「わっ!」

 突然のことにバランスを崩し、よろけたエレノアの身体を腕の中に抱き込んで、テオバルトはふわぁっと大きな欠伸を一つこぼした。帰ってから入浴を済ませたのだろう普段の香水とは違う、柑橘系の柔らかな香りが鼻腔を(くすぐ)る。あぁやっぱりまだ眠い。このままもう一眠り……。自身の上に倒れこんだ、細身でありながら肉付きの良い柔らかな身体に抱き枕よろしく密着しながら二度寝を決め込もうとするテオバルト。けれどもそれを遮るかのようにエレノアは身を捩る。

「ちょっ!?馬鹿!あてるな!」

 あてるって何をだ?……あぁナニか……。まぁ朝だしな。逃げようとする相手をぎゅっと左腕で抱きしめ右手を下部へと伸ばし柔らかな臀部をやわやわと揉む。

「うっせぇ、生理現象だ」

 言いながらぐっと腰を押し付けた。右手を双丘の間を添うように前へと滑らせればエレノアの口から小さな吐息交じりの声が漏れる。ニヤリと口角を持ち上げてテオバルトは耳元へと口を寄せた。

「折角だ、鎮めるの手伝えよ」

 ヤらせろと吐息と共に吹き込む様に(ささや)いて、ぐちゅりと音を立てて差し込んだ舌で耳を犯す様に舐め上げる。

「っっ~~~!!」

 ぴちゃぴちゃと水音をを響かせれば、腕の中の身体はビクリと跳ねて軽く痙攣(けいれん)をおこした。

「ははっ!すげぇな、脳イキできるやつは」

 笑いながらグルリと体勢を入れ替えた。仰向けで抱き込んでいた身体を組み敷くと、僅かに呼吸を荒げ、瞳を潤ますエレノアがそこにいる。トロリと融けた眼差しを向けられれば後はもう止まることなど不可能で。細い首元に舌を這わせ、衣服に手をかけようとした時だ。

「テオバルト、そこまでにしておけ。まずは朝食だ」

 準備ができたぞと声をかけられたかと思えば、グイッと強い力で身体をベッドに転がされた。

「カルっ!てめぇ何しやがる!?」

 不意を突かれたとはいえ、あっさり転がされた事が腹立たしいのかガバリと起き上がり声を荒げたテオバルト。それには視線を向けず、カルスティンはベッドへ乗り上げるとエレノアへと手を伸ばした。抱き起こすとそれだけの刺激でも感じるのかエレノアは身を震わせる。

「食事が冷める。温かいうちに食べてくれ」

 エレノアをその逞しい腕の内に抱き込みながらテオバルトに視線を向けたカルスティンはそう言ってにっこりと笑ってみせた。今食べるべきはこちらではないとその目が語っている。

 あ、これ絶対譲らないやつだ。作りかけの料理を横から摘まもうとして取り上げられた時と同じ目をする相手に、そう察して。不服そうに鼻を鳴らすもテオバルトは渋々といった呈でベッドから下りる。

「わぁーったよ。まず飯な。それからヤんぞ」

 欠伸を噛み殺し、リビングへと向かう背中に目を向けて、エレノアはポツリと呟いた。

「いや、寝かせてください」

 ……夜勤明けですよ、こっちは……。眉を(しか)めるエレノアの頭をポンポンと優しく撫でて、カルスティンは苦笑する。だいぶ落ち着いた様子のエレノアを抱き上げてベッドから下りるとエレノアの身体をそっと降ろした。自然な動作で腰に右手を回し抱き寄せる。

「そう言ってやるな。テオは昨夜からずっとエリーを待っていた」

「……するためにですか?」

「……それだけエリーが好きだと言うことだ」

 眉を顰めながら複雑そうな顔をするエレノアの蟀谷(こめかみ)に優しく口づけるカルスティン。エレノアはため息を一つこぼすと仕方ないとばかりに口元を僅かに吊り上げた。何だかんだ言ってエレノアもテオバルトには甘い。それに猛獣を飼い慣らすには相応の餌は必要だ。

「さぁ、朝食にしよう」

 カルスティンに促されるままにエスコートされ、エレノアもリビングに戻るべく寝室を後にした。








「ところでカルはしないんです?」

「俺は寝てからでいい。途中でバテてしまってはつまらないだろう?」

 あくまでも紳士的で性的なものを感じさせない触り方をしてくる相手にエレノアが訊ねれば、カルスティンは優しく微笑みながらさらりと言ってのけた。

「……お手柔らかにお願いします……」

 あぁ……猛獣はここにも潜んでいたか……。



騎士が書きたい。元気が取り柄の大型犬みたいな子。

……とか思って色々考えてるうちに書きたかった子ではなくその上司三人組がとっても趣味に走った感じになりました。

そうこうするうちに本来書きたかったものではなく上司三人のネタばかりが出来上がっていきました。

そのうちの一つです。

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