プロムナード2 日本における最高(に自由な)神
皆の衆、気分はどうかのー?
これで上手く撮れておるのかの?
バーチャルYo○Tuberとして受肉したアマテラスじゃ。
色々告知などをする為にこのチャンネルを開設したのじゃが……この姿は如何なモノかの?
確かに人気が出るようにしてくれとは頼んだが、これではもう引退した狐娘おじさんとカテゴリーが被るではないか!!
まぁ、向こうはおじさんであったし、妾は生粋の「のじゃ」であるからして、彼の者のようなグダグダにはならんがの!!
……まぁグダグダで一杯々々な狐娘おじさんは初い奴だがの。
まぁ、バーチャルY○uTuberになったからにはアレじゃ。歌を吟じてみたり、ゲームを実況すれば良いのじゃろ?
顕現してから色々ネットを見てきたからの。妾は詳しいのじゃ。
多くの者達に見て貰おうと思えば正しく「郷に入りては郷に従え」じゃからのう。
では又投稿する故、皆の衆よしなにのう。
……………………………
「初めての投稿はこれくらい軽い方が良いか」
とある薄暗い部屋の一室にて女性の顔がパソコンのディスプレイの光に照らされて、幽霊のように浮かび上がっていた。ボソッと呟いた台詞には動画を見漁ってきた強者のような確信染みた自信を感じとる事が出来た。
「企業案件とか、コラボ案件が来たらどうしよう。ピンクリボンの娘とかと一緒に動画作れたら嬉しいなぁ、ぐふふ」
取らぬ狸の皮算用である。
たかだか一分に満たない動画を上げた位で四天王やらボスやらと言われるトップバーチャルY○uTuberとコラボ企画が飛び込む訳が無い。
パソコンの機動音と彼女の妄想が生み出した戯言しか居ない部屋にドアのノックする音が残響を微かに伴って二度、鳴って塗り替えた。
「私です」
男の声にしては少し高い、それでいて柔らかな印象を持てる声が続く。
「入っていいわよ」
今までの妄想の残滓など無いかのように、凜とした声で応えた。
ドアを開ける音と共に四角い光の面の中に男の影が床に映るが、天井の照明器具がそれを許さじと光り、書き消した。
「目に悪いですよ」
30代後半であろう七三分けの髪型をした男は、子供を諭すような声色で促すが、ただですら狐のような細い目を更に細めた視線から、明らかに非難じみた皮肉である事は明らかだった。
「私を誰だと思っているのです?」
微動だにしない後ろ姿から、彼女の意思を感じとる事は出来ないが男の視線には恐ろしく美しい長い髪が見えるだけだ。
「御尊き御柱たる天照大御神にて。奉じるのであれば、伊勢の宮司達も喜ぶでしょう」
つまり今のお前の振る舞いは神のモノじゃねーよ、ちゃんとしないなら伊勢に送って退屈な儀式でがんじがらめにしてやる。と凄く遠回しに伝えた。
女性は椅子を少しだけ回転させ、透き通るような肌と無垢な少女が見せるあどけない瞳の表情で男を軽く見やり、八重桜のような唇が軽く上がったと思うと再びディスプレイに向かう。
「何も判ってないのね。確かに御柱ではあるのよ。でも同時に神話でも稀な引きこもりの神でもあるのよ!私は!!」
……あぁ、自慢して言う話じゃ無いんだよなぁ。そもそも稀でも無いんだよなぁ、太陽神が引きこもる話。とタメ口で罵りたくなる気持ちを抑え男は言葉を繰り出す。
「お気持ちは分かりました。それにしてもパソコンで何をされていたのですか?」
「戦争には準備が必要でしょう?」
何を言った?
今までの履歴でどう戦争の準備を始めるというのか?
男はそう思った。男にとってこの女は元々異常者でしかなかった。宮中の儀式を執り行う神嘉殿に現れたかとおもうと宮内庁職員に皇族への面会を要求し、何故か自分の父と謁見し世話を自分がする事にさせた、不審人物……いや、異常人物である。異常な人物故に男は貸し与えたパソコンのチェックを宮内庁にさせていたし、報告も受けていた。
女の見ていたページは世界の神話や、各神の神性等の神に関係するサイトからYouTubeなどの動画サイト、3DモデリングのいろはやバーチャルYouTuberデビューへのしおりなど、およそ戦争などとはかけ離れたサイトばかりであった。そこから何故戦争に結びつく?
多分この女の異常性は自分を神と思っている所と他人に自分を神と思わせるところだ。最近知った都市伝説創作サイトのように確保、収用、保護しなくてはと、パニックなのか男は明後日の方向に思考を巡らせていた。
「私のように平和然とした神だけなら問題は無いわ。でもね、そんな筈無いわよね。他の宗教には排他的で独善的な宗教が多くある筈。それらに対抗しうる力を持たなくては、この国は無くなってしまうわ」
男は自分の毛穴が広がり、冷たい汗が分泌されるような寒気を感じた。
百歩譲って、この女を神としよう。顕れたのが我等の神だけでは無いという事なのだろうか?
一人の女ですらこんなに面倒なのに世界各地で面倒な奴らが現れるなんて、夢見心地が悪すぎる。
まずは各所に確認しなければ、イギリス王家とバチカン辺りが良いのだろうか?それにしてもどう聞けば良いと言うのか……下手をすれば皇室の品位を落としかねない。宮内庁に丸投げした方が無難か。などと思考しながら男は口を開く。
「それは我々の仕事ではありません、内閣や自衛隊の領分です。私達にその様な力を持つ事は許されておりません。それより、他の神々の顕現について、お教えして戴きたいのですが」
「私だけが顕れた、なんて都合が良すぎると思わない?世界最大の神って私達では無いでしょ?なのに私は顕現した。受肉までしてね。他の神々も同様の現象が起きていると考えるのが自然よ。力云々なんてのはあなたはまだ人間だから、そんな事言えるのよ。皇位を継承したらあなたに入ろうとしてる力を解放してあげる。その時に人間らしい思考が残っていたら思うでしょう。私が正しい、とね。さあ、私には動画編集があるの。言いたい事が終わったら出ていってくれると気が散らないのだけれど」
男は長いため息を吐き切ると、部屋を出ていった。微かに乱暴に閉められたドアの音だけが彼の感情を表していたのだが、彼女にそれは通じなかった。
「ステータス」
光るディスプレイと彼女の間、中空に光る画面が現れると彼女はその画面を睨み付けながら声にならないような音で
「これが問題なのよね」
そう呟いた。