人喰い花弁の少女と一生の恋
満月の日、少女は目覚める。
辺りが赤く染まる中、樹と蔓で繋がれ、ねばりに包まれた状態で産み落とされる。白く輝く肌は珠のように美しい。
何も話せなかった少女は、半刻のうちに言葉を覚え、立ち振る舞いも麗しくなっていく。
月が上がり、花が開く。少女から蔓が外れ、少女は村の方へと歩いていく。
夜、この時期は外に村人の姿はない。少女は、無人の村の中を歩いていく。
すると、村にただ一つの宿屋、その客室に明かりが灯っている。少女が中を覗くと、青年が魚油の火で本を読んでいる。
少女は、縁側の草を踏んで音を立てる。青年は、美しい少女が外に立っていることに気づく。青年は、夕食時に宿屋の主人から受けた忠告を思い出し、目を逸らそうとする。しかし、少女は見たことがないほど瑞々しく麗しい姿。青年は、忠告に背いて障子を開け、少女を部屋に招いた。
数刻の後、少女と青年は夜の森を歩いていた。青年は、少女の姿に目を奪われ、少女の唇が紡ぐ言の葉に耳を奪われ、森を歩いている自覚すらなくなっていた。
少女は、青年を自身が生まれ落ちた樹の前まで導く。樹についた花は、白く輝いていた。少女は、花の前で青年を振り返って差し招く。少女は、すらりとした腕を青年に巻きつけ、たっぷりと涎を載せた唇を青年に被せた。この世の言葉では表せないほど甘い味に、青年の魂は奪われ、樹の下に身体を横たえた。少女は、青年をいつまでも抱きしめ続けた。
朝日が昇る。陽を浴びると、花は光を失っていく。
少女の意識は、花が萎むに従って薄れて消えていった。二人の身体は輪郭を失って溶けていき、根から少女と青年を吸い上げた樹には沢山の実が付いた。