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第一話 召喚

 九月某日、温暖化の影響か、暑さの残る日。

 埼玉県南部の私立高校に通う笹原樹(ささはらいつき)は、欠伸を堪えつつその日最後の授業を受けていた。


「眠い……」


 どうやら勉強する気などないらしい。

 眠気に抗う術を持たない樹は、あっという間に微睡まどろみへと落ちていった。





「ん?」

 樹が目覚めると、樹は『白い』場所にいた。

 起き上がって周りを見渡すと、周りには見知ったクラスメイトたちがいた。

 まだ倒れている者もいるし、既に起き上がり話している者もいる。しかし、その背景は全て白で統一されていた。

 そして樹のそばには、一番の親友である男子生徒がいた。


「お、樹、起きたか」

「え? ああ隼人(はやと)か。なんなんだこれ」

「わからない。でも、みんな授業中に眠っちまって、起きたらここにいたらしい」


 樹は深くため息をついた。突然の事態に頭が錆びついてしまっている。

 しばらくすると、最後まで倒れていた生徒が起き上がった。


「ようし! 全員目覚めたな、大丈夫か? 気分の悪い奴はいるか?」


 クラスの担任の河内(かわち)が声を張る。

 河内が全員の無事の確認を取ろうとした。

 ——その直前。


 空間に声が響いた。


 空気を震わせるようなものではない。直接空間に響いて頭に染み込むその声は、理解しがたい一種の圧力を伴って生徒の口を塞いだ。


『愛しき私の子供達よ。あなたたちはとある愚かな神の戯れにより、異世界に召喚されます』


 その言葉は圧倒的な違和感と、それが真実であるという不気味な説得力を、無理矢理むりやりその場の全員に刻み込んだ。

 有無を言わせずに全てを信じさせる程のプレッシャーに恐怖を感じる高校生たち。

 声はさらに言葉を重ねていく。


『あなた達がこれから向かう世界は、人だけが支配する世界ではありません。様々な種の者が暮らし、争い、そして生きている世界です。その世界であなた達は極めて脆く、弱い存在です』

「ちょ、ちょっと待ってくれないか?」


 声をあげたのは河内だった。彼は混乱と、得体の知れないものに話しかける恐怖の中で言葉を紡いでいく。


「結局、俺たちは帰れるのか? それに、その、なんだ……俺たちが連れて行かれる世界は危険なんだろう? 何か安全の保障はないのか?」


 河内は教師として、人として、この先の安全と帰還の方法を知ろうとしていた。生徒達を守る、それだけを考えて。

 今まで事務的だった声に、ほんの少しだけ感情が混じる。


『心配でしょう。私もあなた達をあんな場所へは送り出したくはないのです。しかし、あなた達は既に私の管理を離れ始めています。なので、私の贈り物として、苦難を超える力をあなた達に送ります。

 ——我が子達に祝福を与える。異界の言葉で困らぬように。そして、異界の壁を乗り越える力と、大切なものを守る盾を子供達に』


 神秘的な響きを含む声が止まると、樹の足元から透明な宝石が浮かび上がってきた。

 樹だけではなく、他のクラスメイトの前にも現れた宝石は、それぞれの胸の前で止まるとふわりと色を変え、光となって吸い込まれていった。

 非現実的な現象に皆が唖然とするなか、「最後に」と声が続ける。


「最後に、あなた達の外見はあちらではとても目立ちます。なので一時的にあなた達の身体を預かり、あちらでも問題なく行動できる身体へと魂を移し替えます。さあ、もうすぐ転移が始まります。我が子達よ、生き抜きなさい。かの愚神に惑わされずに、強く在るのです」


 樹たちの体が輝き始める。

 転移が始まる。思わず身構えた樹は自分の身体が重くなるのを感じた。

 強い眠気に襲われた樹は、すぐさま暗闇の中に飲み込まれていった。





 誰もいなくなった空間に、ぽつりと落ちる声があった。


「子供達よ、どうか……どうか、あの者の企みに負けないで。私も、すぐに……」


 その声はまるで、我が子を奪われた母親の悲しい祈りのようだった。

 しかしその声は、我が子を助けんとする強い意志と、決意に満ち溢れていた。



拙作ですが、読み続けていただけたなら光栄です。

五話までは一日一話ずつ投稿します。

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