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りたーにんぐ!  作者: 消しカス
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84 郷愁縁起編5 昔の話

「さて、それじゃあお話しをしましょう。まず、うちの子のことをどう思っているか聞きましょう。それと、あなたが自身で思っているあなた自身の長所、短所などを伺いましょうか」


 イディナは真面目な顔で、まるでアルバイト採用の面接みたいなことを言い出した。

 ふむ。元就活戦士をなめるなよ。俺がどれだけの会社の面接に赴いたと思っているんだ。バイトみたいなやつも含めると相当な数だぞ。……まぁ、そんな苦労をして入った会社は倒産してしまったわけだけど。それに、なんというか、こんなところまで来てまた面接か、と少しげんなりしてしまう。だが、こんな時にそれを顔に出したりはしない。そっちがそうくるならこっちもそれに合わせるだけだ。人は一度身についたことはそう簡単に忘れない。俺は過去の面接時における対応を思い出しながら気持ちを切り替える。


「はい。貴女のお子様であるハルさんには常日頃より大変お世話になっております。縁を得て行動を共にさせていただいておりますが、その実力は言うまでもなく、先日もハルさんの活躍で命を救って頂きました。また、ハルさんはその実力だけでなく性格面においても大変明るく活発な方で、思慮深く周囲に対する思いやりの心を持っておられます。その点においても私や仲間たちは大変助けれております。また、私自身の長所、短所、ということですが、長所は協調性だと思っております。過去に経験したアルバイトやボランティア活動で、仲間たちと何かをやり遂げることの尊さを感じました。その点においては少しだけ自信があります。そして、短所ですが、自分で言うのもなんですが平凡なことです。苦手な事はいくつかありますが、飛びぬけて得意な事や人に自慢できるようなものがない。私自身ではそう思っております」


 とりあえず、テンプレのような当たり障りのない事を言う。まぁ、言っていることは俺個人の主観だし、まるっきり嘘でもないので問題無いはずだ。ここで、歌が得意です、とか言うと、じゃあ歌ってみろ、と言われたりするので注意が必要だ。それを逆手にとって印象付けるという上級者向けのテクニックもあるが、この場でそこまでやる必要は無いだろう。

 俺の返事を聞いたイディナはしばらく俺のことをじっと見ていたが、やがてゆっくりと口を開いた。


「はい。貴方の考えはわかりました。特に嘘やごまかしは無いようですが、私が聞きたいのではそうではなく、うちの子の事を異性として……」

「わー! ストップ母様! 僕の言った通りイチローはウソついてなかったでしょ? だからこの話は終わり! 僕は約束を守ったんだから、母様もこれ以上口を出さないで!」

「そんなこと言ったって気になるじゃない。貴方も気になるでしょ?」

「そりゃぁ、気にならないわけじゃないけど……でもそういうのを母様が聞くのは……」 

「何百年も引きこもって、ろくに人間のことを知らないくせに、生意気言うんじゃありません。私はあなたの事が心配なの。それに……」


 なんだか親子で言い合いを始めてしまった。異性がとうとか聞こえたが、そこに触れるとややこしいことになるに決まっている。確かに異性ではあるが女性じゃないだろ。……聞こえなかったことにしよう。俺はたった今から鈍感難聴系男子だ。それになにやら嘘かどうかがわかるみたいな不穏な会話をしている。イディナは人の心が読めたりするのだろうか。べつにやましいことは無いが、もしそうなら、それはそれで面倒そうだ。

 そんなことを考えながら言い合いをする二人を眺めていると、イディナはチラリとこちらに視線を向けたあと、ハルに向かってガウガウと唸り始めた。それに対してハルもガウガウ、グルルと返している。どうやら竜の言葉で会話を始めたようだ。


『それに、この人滅茶滅茶弱そうじゃない。魔力も感じないし、ひょろいし、なんというか強者が持つようなオーラがまったくないわ。お母さん逆にびっくりしちゃったわよ。あなた、ホントにこんなのに負けたの? ……コボルトの方が強いんじゃないかしら』

『……いくら母様でもあんまり酷く言うと、僕怒るからね! それに、イチローの強さはそんなのじゃないよ。僕はそれを知ってる。それと、言っとくけど僕はイチローの仲間たちの中じゃ弱い方だよ。トアやエリーはたぶん僕より強いんだから』

『……指揮官として優秀、ということかしら。それはそれで厄介ね。変な命令とかされたりしない?』

『だからぁ、それも言ったでしょ? 僕もユキもイチローに命令された事なんか一度もないんだ。僕はもっと頼ってほしいくらいなんだから』

『……そう思わせる作戦かも……』


 ハルはそこで一つため息をつき、今度は人間の言葉で言った。


「母様。内緒話のつもりかもしれないけど、イチローは竜の言葉がわかるからね? 今言ったこと全部筒抜けだから」

「………え?」


 イディナはハルの言葉に驚いた様子で、口元に手を当てながら俺の方にチラリと視線を向ける。


「だからそれも言ったじゃないか。僕のハルって名前は、母様が付けてくれた名前を、イチローの故郷の言葉で言い直した名前なんだって。竜の言葉がわからなきゃ、そんなの出来るはずないでしょ」


その言葉を聞いたイディナは何度か俺とハルの間で視線を往復させていたが、やがて俺の方に向き直り小さな唸り声をあげた。


『………あの、私が何言ってるかわかる?』

『……あー、コボルトより弱くてホントすみません……』


 俺は竜の言葉で返答した。発音が難しかったが、なんとかうまく言えたと思う。タマムシがこの世界の言語を俺の脳に刷り込んでくれたおかげで、ある程度の言葉は喋れる。タマムシ曰く「使いそうなやつはだいたい入れておいた」とのことだが、その範囲が何処までなのかはわからない。もしかしたらコボルトの言葉なんかもわかるんだろうか。

 俺の返事を聞いたイディナは両手で顔を覆い俯いてしまった。しばらくその状態で少し気まずい沈黙が流れたが、やがてイディナは顔を上げた。


「……今のは少し貴方を試しただけよ。さすがにうちの子に認められるだけはあるようね。ホホホ……」

「………ははは」 


 俺はどんな反応を返せばいいのかわからず。とりあえず笑ってごまかすことにした。そして、そんなことを言い出したイディナをハルはジトっとした目で見ている。

 なんとも微妙な雰囲気になってしまい、どうしたものかと考えているところに、部屋のドアをノックする音が響いた。ギルバートがメイを連れ、お茶を持ってきてくれたのだ。

 イディナはわざとらしく一つ咳ばらいをした後、用意された新しいお茶に口を付けた。


「……私、少しイチローさんと二人でお話しがしたいの。あなた達は外してちょうだい」


 真剣な表情でそう告げた。弛緩していた空気が少し緊張したように感じる。ハルやユキは暫く逡巡していた様子だったが、俺が軽く頷きかけると、渋々と言った様子で部屋を出て行った。


「それでは私も扉の外に控えております。なにかご用命がおありでしたら、その自動人形にお伝え下さい」


 ギルバートは最後にそう言って出て行き扉を閉めた。メイは残るようだ。俺の少し後ろに立っている。


「………あなたも普通の人形ではない様だけど……まぁ、いいわ」


 イディナはメイに視線をやると、そう呟くように言った。そして俺に向き直り話始めた。


「白竜を……ユキを助けてくれたことに礼を言います。……ありがとう」


 そう言って頭を下げる。俺はその姿を見て少し慌ててしまう。


「俺が助けた、というわけではありません。無力化するために戦ったのはハルだし、使徒のかけた呪いを解いたのは他の者です。その為に名付けを行う事が必要だったので、その名前を考えただけで、俺は……」

「いいえ。この世界のあらゆる勢力に属さない、異人である貴方が名付けを行った、という事に意味があるの。そして、うちの子……ハルと同じ性を与えることで、貴方がいなくなった後のことにまで慮った。そうでしょ?」


 俺は少し驚いてしまった。ハルが何処まで説明したのかわからないが、あまりハッキリと話したことのないユキの名付けの思惑を見事に言い当てられたからだ。何も言い返せないでいる俺を見つめながらイディナは続ける。


「それに、私の子は……ハルは自分のことを弱いと言ったわ。古竜は種としてとても強力な不死の存在。その強さに驕りいつか足元をすくわれる。……そうならないように色々と教えたりはしたけど、結局最後は自分で経験して学んでいくしかないのよ。そして、あなたとあなたの仲間たちに敗北した。自身の弱さを知り、その上であなた達と対等な友人関係になっている。それは竜にとってはとても得難いものなの。名付けを行ったのが貴方の様な人であったのは、考えれば幸運なことかもしれないわね」


 イディナはそう言ってしばらく考え込んだあと、言葉を続ける。


「それに、貴方がさっき言った、明るくて優しい子だという言葉に嘘はないようだったし、あの子がそんな風に育っているとしたら、それは私にとっても嬉しいことだわ」


 彼女はそういって少し微笑んだ後、少し間をおいて俺の返事を待たずに話はじめた。


「さて、貴方の事情は聞いているわ。故郷に帰る為の界渡りの方法と〈原初の混沌〉について知りたい、ということだったわね?」

「……はい」


 どうやらハルはその辺り事は話しているようだ。それは別に構わないのだが、俺としてはつがいになりたいとか、卵を産む方法を尋ねたのではないか、という事の方が気にならなくもない。しかし、その話題を下手に出すと藪蛇になりかねない。あまり余計な事は言わずに黙っていよう。

 あと、嘘かどうかがわかるような口ぶりだが、それが経験や勘に基づいた洞察力的なものなのか、魔法やスキルの効果によるものなのかわからない。あとでハルに聞いてみようか。


「そのことについて幾つかお答えできることが有るわ。ただ、その話をする為にこの世界の成り立ちと私達古竜についての触れる必要がある。私の憶測も入るし、貴方が理解できるように話せる自信はないけど……これは貴方の知性や教養の問題もあるけど、私の話術や語嚢の問題もあるわね」

「はい、お願いします」


 俺はイディナの言葉に頷く。彼女はゆっくりと語り始めた。

 

 それは一部で竜の言葉やまったく未知の単語を交えながら語られた。その上、ある事柄を説明するための予備知識としての説明も必要で話が飛び飛びになる。たいぶまとめてわかりやすく話してくれたようだが、それでも話についていくのがやっとだった。

 その中で印象に残った話としては、現在の文明と呼べるようなの人の営みはイディナの知る限り三番目の文明であるという話や、始祖のエルフが生み出した十二人のハイエルフの話。そして最古の竜とされる六頭の竜。まるで神話の様な話だが、これは彼女が実際にその眼で見てきた史実だ。滔々と語られるそのスケールの大きさになんだか頭がクラクラしてしまう。


「……この世界と別の世界があることは知ってはいたけれど、私はあまり興味が無くて……界渡りについては詳しくはわからないわ。ただ、六頭の最古の竜のうちの一頭、金竜はこの世界から別の世界に旅立ったと言われている。それが真実かどうかを確かめる術は無いけれど、もし本当なら貴方たちが問題にしている存在値の大きさなんて関係ないような方法があるのでしょうね。金竜と交流があったのは青竜。どこにいるかはわからないけど、あの子なら何か知っているかもしれない」


 最古の六頭の竜はそれぞれ金竜、銀竜、黒竜、白竜、赤竜、青竜、ということらしい。古竜は基本的に個人主義というか、他の竜がどこで何をしているのかもあまり興味が無いそうだ。金竜が別世界に転移したという話もどこで聞いたのか覚えておらず、今まで忘れていたという。しかし、その話が本当なら、存在値がネックになっている既存の転移の問題がクリアできるのかもしれない。

 だが金竜という存在がこの世界から別の世界へ旅立った理由とは何だろう。ふとそんなことが気になってしまう。


「金竜が旅立った理由は知らないわ。ただ、青竜が言うには、金竜は、自身が滅びる方法を探していた、と。……私達古竜は完全に不死の存在だから……」


 イディナは俺が疑問を口にする前に答え、少し補足してくれた。

 古竜は死んでも復活する。それは実際この目で見たし知っている。だが、例えば死んでいる間に首を切り落とされたり、細切れに切り刻まれたりしたらどうなるのか、つまり、活動停止している間に復活できないような処置を施されたような場合だが、その時はその肉体を破棄して別の場所で卵の状態で復活するらしい。記憶や経験も引き継いで数年で元の姿まで成長するという。そんなの有りかという気がしないでもない。

 それはともかく、イディナはもしかして本当に心が読めるのだろうか。だが、俺のそんな考えも読んだようにまた先回りして答える。


「私は心が読める訳じゃないの。人の感情の表層がわかるのよ。喜怒哀楽や怖れや疑心、嘘をついているとかそういうのはわかるわ。そして私の強い感情が他に伝染することも有る。エルフたちは【精神感応】って呼んでいたわ。私の特技の様なものね」


 イディナはそう言って笑った。そしてその笑顔は少し寂し気なものに変わる。


「私達のように永い時間を生きる者には、心は時に邪魔なものでしかないわ。色々余計な事を考えて時々気が滅入っちゃうのよ。たぶんそういうのに耐えられるように作られてはいるんでしょうけど、……それでも、ね」


 金竜は永い時間を永遠に生きることに疲れ自身を滅ぼす方法を探し、ユキは辛い記憶を捨てたのだろう、ということだそうだ。


「金竜とはあまり接したことはないけど、白竜……ユキのことは気になっていたのよ。あの子はまるで人のように繊細な心をもっていたから……」


 イディナは、ユキがなぜ記憶を捨てたのか、その理由を知っているような口ぶりだった。その事を思い返しているのか、しばらく会話が途切れる。そして、俺はそれを尋ねることはしなかった。記憶をすべて消したならそれは生まれ変わりと同じだ。つまり死にたくなるほど悲しい記憶だということだ。そんなものをわざわざ掘り返す必要は無い。

 イディナは冷めたお茶を口に含むと気を取り直したように言った。


「さて、次は〈原初の混沌〉についてお話ししましょうか」

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