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りたーにんぐ!  作者: 消しカス
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80 郷愁縁起編1 状況確認


 帝都の中央広場での大騒ぎから数日、ずっと眠っていたエリーも目を覚まし、俺の怪我もだいぶ良くなった。これはシルビアが調合してくれた霊薬のおかげでもある。目を覚まさないエリーを心配したハルが辺境から強引に連れて来てくれたのだが、どちらかというとエリーより俺の方がお世話になってしまった。全身ボロボロの俺を見て、シルビアは呆れていたが、なぜそうなったかという理由を聞くと言葉を失っていた。

 エリーは目を覚ましてから数日すると完全にもとの調子に復調した様だったが、俺の怪我は思っていたよりも重傷だった。左腕や右肩以外にも最後の投擲の時に左足も痛めていたようで、歩くことさえままならなかったのだが、昔アリオンが足を怪我をした時に使っていたという車椅子をミラが倉庫から引っ張り出してくれたおかげで、あまり不自由なく生活できた。

 

 ゴブリンの村は春先は色々と忙しいらしく、シルビアはハルの送迎で帝都と村を行ったり来たりしていた。俺は本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだったのだが、シルビア本人は帝都で役に立ちそうな魔道具や調剤に使う道具を買い込んだりしたようで、これで色々と仕事が捗るとホクホクしていた。俺が気負わないようにそう言ってくれたのかもしれないが、その言葉に幾分か気が楽になった。


 余談だがシルビアは自身に必要な買い物の費用は自身ですべて賄っている。というのも、シルビアは高価な魔石を大量にため込んでいたらしい。魔石とは魔素の結晶のようなもので、ゴーレムの魔石核やメイのような自動人形の心臓部も魔石を加工したものだ。主に鉱山から産出されるのだが、稀に大型の魔物の体内からも採取されるという。魔素の濃い辺境の強力な魔物は魔石を持っている割合が高いらしく、シルビアは村が立ち行かないほどの災害や飢饉に備えて、いざという時の為に数十年に渡りコツコツとためていたらしい。今回はその蓄えのほんの一部を持参し帝都で換金したのだという。魔石は昔から貴重なもので魔道具や錬金術に使用されていたようなのだが、近年の魔工学の発達により需要が急増し価格が高騰しているらしい。どのような大きさでも使い道は有るのだが大きいものほど価値が高く、ある程度以上の大きさの物はとんでもない値が付くという。

 そんなシルビアの行動に戸惑いを隠せなかったのがラステイン家の面々だ。アルティアナの命を救った最大の功労者であるシルビアに恩を返そうにも、金銭的、または物質的な支援やお礼は出来なくなってしまった。結局、ミラが土下座するような勢いで頼み込み、かねてより購入を検討していたヤギや鶏といった家畜をラステイン家で手配することになった。なんだかあべこべな話だがシルビアがミラやラステイン家の顔を立てるような形だ。その家畜の輸送の段取りをしていると、ハルが自分から名乗りを上げた。大きな荷車に詰め込んで布でもかぶせて空を飛んで運べばいい、ということらしい。ハルはあのゴブリンの村が相当気に入っているようで、村のゴブリン達が喜ぶのなら、と張り切っていたのだが、ミラやアリオンは伝説の古竜を荷馬車のように扱う事に抵抗というか罪悪感の様なものを抱いてしまった様でなんとも複雑な表情をしていた。

 

 そんなこんなで二十日ほどの療養を経て、やっと車椅子から解放されたのだが、まだ杖が必要だったりする。左腕と左足に軽い麻痺が残っているのだが、これは怪我のせいというより、あまりにも脳味噌を酷使しすぎたせいで、脳細胞のダメージがタマムシがカバーできる範囲を超えてしまったことが原因らしい。まぁ、きちんとリハビリすれば治るようなので、それほど気にしていない。俺以上に俺の脳に詳しいタマムシが言うのだから間違いなだろう。

 俺の治療にも目処がついたという事でシルビアは辺境に帰ることになった。だが、俺はシルビアに告げなければならないことが有る。ニサとエデ病の治療薬の件だ。これは皆にも話しておいた方がいいと判断して主だったメンバーに集まってもらったのだが、ついでに俺たちを取り巻く現状とこれからの事を再確認しようということになった。


 俺は、ダナの事は伏せつつ、あの日ニサという人物と〈山猫〉という組織に接触したこと、その時に話したことの内容を説明した。そして、エデ病の治療薬がある程度流通し、入手が可能な物になれば、ゴブリンの村が襲われたり、辺境に人が押し寄せたりするリスクを減らせるのではないか、という俺の考えを付け加える。だが、これはシルビアの協力が必須だ。原料となるマンドラゴラの扱いの事もあるし、治療薬がどの程度量産できるのか、という点もかかわって来る。しかし、それ以前にシルビアが否といえばそれまでの話なのだ。

 俺の話を聞いたシルビアはしばらく考え込んでいたが、難しい顔をしながらその口を開いた。


「……確かに、フチの言う事にも一理ある。あの病気に関わったことが有る身としては協力することやぶさかじゃないんだが……もしアタシがこの話を断ったらどうなると思う? フチ、アンタの予想でいい」


「そうですね………ニサという女性とその組織の情報収集力は半端ないです。酒と娯楽が有る場所にはすべて根を張っていると言っていましたがあながち嘘やはったりと言う訳でもなさそうでした。そして、決定的な情報がなくともその周囲の状況や情報から推測する聡明さを持ちあわせています。すでに辺境に当たりを付けているようですし、今回この話を断っても、いずれは村に、シルビアさんに辿り着くと思います。その時、彼女がどういった行動を取るかまではなんとも言えませんが、もし、彼女の周囲にエデ病を患う者が現れたなら多少強引な手段を取って来てもおかしくはありません」


「ふむ。……わかった。向こうが下手に出ている内に会った方がいいのかもしれないね。近いうちに一度会う事にするとしよう。……しかし、アンタも本当に次から次だね。アタシは呆れるのを通り越してなんだか感心しちまうよ」


「……すいません」


 シルビアは笑ってそう言ってくれたが、俺は本当に申し訳ない気分になってしまう。


「いいさ、貴族の娘を助けると決めたときにこういう事になるかもしれないって思いはあったんだ。ミラも領主様も気に病まないでおくれ。なるべくしてなったことさ。話し合いの余地があるだけましだよ」


 ミラとアリオンはうなだれている。今回の件はラステイン家に非があるわけではない。ニサは決定的な情報を掴んだわけではなく周囲の状況や情報からアルティアナがエデ病であるという予測を立て、その治療法の存在に辿り着いたのだ。だが、アリオンからすれば情報の漏洩には最大限で気を使っていたにもかかわらず、秘密を守り通せなかった、つまり約束を果たせなかった形になっている。アリオンやミラの今の心情は察するに余りある。


「……シルビアさん。この件に関しては貴女と貴女の村は当家が必ずお守りします。家名に誓ってもいい。儂たちに出来ることはそれくらいしかないが、それはお約束する」


 アリオンは真剣な表情でシルビアにそう告げる。


「領主様がそんなこと言っていいのかい? うちの村は税金だって納めた事も無いんだけどね。まぁ、うちに徴税に来るには腕利きの冒険者チームか小隊規模の衛兵が必要だから、その費用を考えると赤字だけどね。……だけど、そうだね、それはお願いするよ」


「……ありがとうございます」


 アリオンはシルビアの言葉に深く頭を下げた。傍から見れば子供のゴブリンに領主が頭を下げているという、なかなかシュールな光景なのだが、周囲の皆は静まり返っている。

 シルビアの言う通り、あの村は辿り着くとさえ困難な村だ。強力な魔物が跋扈する荒野こそ天然の城塞と言える。その上ほぼ完全に自給自足なのでからめ手も通用しない。単純に戦力で考えてもシルビアを加えたあの村のゴブリンの精鋭たちは一筋縄ではいかないだろう。なにしろ伝説の古竜でさえも退ける力が有るのだ。そして、もし村に害する者があったとしたら、トアやハルも黙っていないはずだ。つまり、これまで何十年、もしかしたら何百年とそうだったように、余程の天災かそれと同等の事案が無い限りあの村は誰の助けもなく独立独歩で存在できる。辺境の領内ではあるが税も納めていない。それは、そもそも領主の庇護など必要がないからだ。だが、シルビアはアリオンにお願いした。そうすることでラステイン家に名誉挽回の機会を与えたという事だ。それがわかっているからこそアリオンは頭を下げたのだ。


「……だけど、これで合点がいったよ」


 長い間頭を下げていたアリオンはゆっくりと顔をあげ、一つ息をつくとそんなことを言い出した。


「今回の帝都で起こった騒動は君たちの活躍で最悪の事態は免れたわけだけど、逆に言えば君たちが帝都に居なければこの騒動は起きなかったかもしれない。そんな風な世論になることを危惧していたんだけど、儂の家や君たちに対する市井の人々の評判は好意的だ。不自然なほどにね。これはおそらく……」


「その〈山猫〉ですか」


 アリオンの言葉にエリーが相槌を打つ。


「たぶんね。裏から君たちに対する市井の人々の心証を操作したんだと思う。思惑としては色々と考えられるけど、まぁ、帝都中の人々に悪く思われるよりはましだろう」


 俺も聞いた話でしかないのだが、帝都での俺たちとアリオンの人気は凄いことになっているらしい。中でも俺は聖王国最強の神殿騎士と互角に渡り合い、狂乱した帝国兵士をバッタバッタとなぎ倒した最強の戦士みたいな扱いになっているとか。正直勘弁してほしいのだが、まぁ、それももうしばらくの辛抱だ。ニサの用事を済ませ、幾つかの約束を果たしたら俺は日本に帰る。最後の最後でひどい目にあったが、それもいい思い出……になるかどうかは別にしても、なんというか感慨深いものがある。


「しかし……まさか〈山猫の主〉が出てくるとはなぁ。ある意味でルシア様よりも都市伝説的な人物だよ。名前や性別はおろか、実在しない、もしくは複数人いる、なんて説もあるくらいなんだけど……うーん。まいったなぁ。ホントに隠居を考えるべきかなぁ」


 アリオンはそう言って胃の辺りをさすっている。


「私達の評判が上がって、どうして、そのような話になるのです?」


「簡単に言うと他の貴族のやっかみだな。ラステイン家は力をつけ過ぎた、ということだ」


 エリーの質問にミラが答える。


「フチやエリーがどう思っていようと、他の貴族からすれば、ラステイン家は稀代の英雄を抱え込んでいるように見える。竜の力を有する英雄と、帝国の監視者であるルシア、そして帝国の裏を牛耳っている〈山猫〉とも懇意にしているとなれば、皇家や三公ですら捨て置けない話になってくる。他の貴族からすれば我がラステイン家は帝国をひっくり返せるほどの力を持っているように見えるのさ。私達にその気がなくとも、そう見えるというだけで問題だ。そこで当家の力を少しでも抑え込もうという動きも出始めている。具体的な話だと、私とギルの騎士団への編入案などだな。しかも栄光の第一騎士団だぞ」


 ミラはそう言ってため息をつく。第一騎士団、正式には帝国騎士団第一部隊だ。他の部隊とは別格の扱いで、主に皇家やそれに類する貴人の護衛が主な任務となる。所謂近衛騎士団、ロイヤルナイト、というやつだ。選考の基準としては当然人格なども考慮されるが基本的に完全な実力主義に基づいているらしい。建前上は身分の貴賤は関係ないとされていて、過去には平民から成りあがった例もあるにはあるそうだ。そして現在の騎士団長は史上初めての獣人種の団長で軍務の将軍位と兼任しているとか。だが、それに選ばれることがどうしてラステイン家の力を抑えるということになるのだろう。普通に考えれば名誉な事だし、逆にラステイン家の権勢は増しそうな話だけど。そう思って尋ねると、ミラはため息をつきながら答えてくれた。


「普通に考えればそうなのだが、騎士団に、特に第一騎士団に所属する者は、身分や肩書というしがらみを捨て去り、帝国の為に尽くすことが一義となる。そして、その命令権は基本的に皇帝陛下が持っている。ということになっている。まぁ、建前だがな。つまり、私とギルをラステイン家の者ではなくしてしまう、というわけだ。あるいは私達を手元に置いてラステイン家の手綱を取る、という見方も出来る」 


「断れないのですか?」


 難しい顔をしながら答えるミラにエリーは重ねて質問した。


「難しいな。下手に断れば帝国に対して従順ではないとみなされるかもしれない。だが、無理強いもしてこないだろう。なんせ我が家の後ろ盾は竜だからな。私やギルは竜の友だという事になっている。私達の意に沿わない決定をしたとなれば、友人である竜が暴れだすかもしれないからな」


 ミラはそう言いながら、ハルに目をやる。


「僕はミラやギルバートのことは好きだよ。友達だと思ってる。なんならホントに暴れようか?」


「その気持ちは有難いが、この件に関しては検討の余地がある。というか、本来帝国に叛意があるわけでもないので、受けても構わない話なんだ。ラステイン家が力を持ちすぎているのも事実といえば事実だしな。あとは気持ちの問題というか、ぶっちゃけて言うと面倒くさいというか……まぁ、いざとなったら私を誘拐でもしてくれ。その時はお願いする」


「わかった。まかせて」


 いくらなんでもぶっちゃけ過ぎだろうと思ったが、気持ちはわからなくもない。貴族同士の腹の探り合いや脚の引き合いは確かに面倒そうだ。


「まぁ、現状の確認はこれくらいでいいだろう。今後の予定というか、フチの帰郷の件だな。これはミシアから頼む」


「あ、はい。えーと、これから話すことはくれぐれも内密にお願いします。コレ、連合国の国家機密なので。……世界間の転移の技術の確立は順調に進んでいます。転移陣の設置場所の選定や、タイミングの問題などいくつかの課題はありますが、この辺は順次片付けていくしかないですね。ただ、一つ大きな問題がありまして……」


 ミシアは俺の方をまっすぐに見つめながら、はっきりと言った。


「フチさんの世界間転移は、現状ではハッキリ言って不可能です」


 ……は?

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