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りたーにんぐ!  作者: 消しカス
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閑話 裏の話7

「僕も貴女のことは知ってますよ。四重の魔女ミシア。あっちでは有名人です」


 ナナイさんはお代わりのコーヒーを啜りながら、すました顔で言った。


「お会いした、というより、お見かけした、と言った方がいいかな」


 その言葉を聞いたミシアさんはこめかみに手を当て思い出すような仕草をした。


「……あー、もしかして、ノージアの北限に住んでいる、精神寄生体の一族ですか? ということは、その体は元は貴方のもではありませんね? ………なるほど、わかりました。魔力探知ですか。それで私がフチさんの家にいることを突き止めたのですね?」


 ミシアさんはなにやらうんうんと頷いている。えーと、新しい単語が出てき過ぎてもうわけわかんないんですけど。


「……少し感心しました。よくこんな危険な存在と一緒にいられますね。ツツミやフチさんの話では、こちらの世界は魔術というものは存在せず、代わりにカガクというものが発達していると聞きましたが、そのカガクとやらで御しているのですか?」


 ミシアさんの言葉の後半は泉さんに向けられている様だったけど、泉さんがそれに答える前にナナイさんが口を開いた。


「人聞き悪いなぁ。人を危険物みたいに言わないで下さいよ。それに魔素の無いこちらでは今の僕に出来ることはほとんど有りませんから。めちゃくちゃ無害な存在っすよ」


「………そういう事にしておきましょうか。……さて、私達はそろそろお暇します。イマイエイさんも待たせていますし、また、後日出直しますので」


 そういうとミシアさんは立ち上がり、謎言語でアーニに声を掛ける。声を掛けられたアーニは一緒にゲームしていたお父さんにゴギャゴギャと言った後、部屋の隅に置いてあったディバッグを手に取りこちらに向かってきた。


「あ、ミシアさん。帰る前にこの場にいる人たちに浄化をかけて欲しいんですけど。そしたらわざわざ病院に行かなくて済むんすよ」


「はぁ、よくわかりませんが、それくらいなら……」


 ナナイさんが言うには浄化というのは消毒の様な効果がある魔法、ということらしい。魔法と聞いて少し期待してしまったりしたんだけど、ミシアさんが私達に向かって手をかざしたあと、なにか光ったりとかそんな事は特になかった。強いて言えば軽く風の様なものを感じた気がしたけど、それで、浄化という魔法は終わりらしい。なんだか拍子抜けだ。


「それでは、お騒がせしました。入れ替わりでイマイエイさんがここに現れますので、ご了承ください」


 ミシアさんは部屋の真ん中にアーニと二人で並んで立っている。そのミシアさんに向かってアーニがゴギャゴギャと何かを告げているようだ。


「………えーと、アイさんとご家族に改めてお礼を、とのことです。それと、また遊びに来てもいいかと言っていますが……」


 その言葉を聞いた私とお母さんは顔を見合わせる。


「………うちは別にかまわないけど……」


 お母さんはそう言って今度は泉さんの方に視線を向けた。


「……あー、あとでこういった事件に巻き込まれた者に配布するマニュアルを渡す。当然守秘契約を結んでもらうことになるが、まぁ、その辺は大丈夫だろう」


 泉さんは頭を掻きながらそう言った。


「では、本当にこの辺で」


 そう言ってミシアさんとアーニは目の前から消えた。特に光ったり煙が出たりということは無く本当にパっと消えてしまった。そしてミシアさんの立っていた場所には兄さんが座り込んでいた。少し俯いてぼーっとしている。


「……お兄ちゃん?」


 暫く動き出す様子が無かったので恐る恐る声をかけてみる。私の声に反応して兄さんはゆっくりと顔をあげる。


「…………藍?」


 兄さんは私の顔を確認した後、辺りを見回す。


「……あれ? 実家? なんで?」


 兄さんは座ったまま、キョロキョロと辺りを見回し慌てている。


「さて、さっきの女が嘘を言っている風でも無かったが、一応裏を取らせてもらう。話を聞かせてもらおう」


 泉さんの言葉で今度は兄さんに事情聴取が始まった。一応、入国管理局の二人と須藤さんの紹介をしたあと皆でテーブルに着く。今度はお父さんも話に加わるようで、また椅子が足りなくなったけど、お父さんが書斎から椅子を持ってきていた。


 兄さんは暫く話すのを渋っていた。どうも信じてもらえないと思っていた様で、お母さんやお父さんに促されて、ゆっくり話始めた。どうやら頭がおかしいとか、薬物使用を疑われるのを恐れているようだが、その気持ちはわからなくもない。

 目の前にエルフとゴブリンがいてパっと消えたんだよ、って、もし椎子辺りが言って来たら私だって信じないし病院に行くように勧める。

 兄さんの話をある程度聞いて、ミシアさんの言っていたことと相違点が無いことを確認した後、須藤さんがタブレットを見ながらお母さんに告げる。


「室長、ありました。………堤祐造。十五年前に深夜バスで事故にあい行方不明です。集中豪雨で弛んだ地盤が地震によって崩落したようです。山から流れ込んだ土石流に飲み込まれ、高速道路から数百メートル押し流される事故だったようですね。バスの乗客にケガ人が数人いたようですが初期の段階では死者は確認されていませんでした。ただ行方不明者が三人出ているようです。うち一人はその後遺体で発見。しかし、その時の地震と土石流で市街地と山間の老人養護施設に被害があり、報道はそちらが中心となったため、バス事故の方はあまり報道されなかったようです」


 ツツミさんの名前が須藤さんの口から出た所で、兄さんが反応した。


「あ、母さん、俺その人に仕事誘われたんだけど。なんでも、ステイリアって所で、一緒に働かないかって。そのツツミって人、国の代表みたいなことをやってるみたいなんだけど、なんか人材が足りないって言ってた」


「それで、アンタなんて答えたの?」


「とりあえず考えさせてくれって言っておいたけど。学校もあと半年くらいはあるし。ただ、待遇はよさそうだったけど。もともと地方公務員目指してたし、結構いいかなって思うんだけど……」


 お母さんは兄さんの話に一つため息をついて言った。


「………詠の人生だから詠の好きにしていいけど、社会保険とか年金とかどうなってるのよ? その辺の話もきちんと確認するのよ?」


 え? 心配するとこそこ? だって異世界だよ? 兄さん異世界に就職するの? 


「あー、あと、そのミシアさんって人には気を付けろだってさ。基本的に善人だけど、すんごいトラブルメーカーだって言ってた。悪意が無い分質が悪いって。堤って人の話の三分の一ぐらいはその人の愚痴だったな、今思うと。なんか爆発とか起こすらしいよ、昔の漫画かって言ってぼやいてた」


 兄さんのその話を聞いたナナイさんがくつくつと笑いを漏らしている。なんか有名人だってチラッと言ってたし何か思い当たることが有るのかな? でも言われてみればなんとくなく納得してしまう。今回兄さんが巻き込まれたのは偶然だけど、入れ替わるのになんでゴブリン使ったし。もっと当たり障りない人材はいなかったの? そして渕さんはどうなったんだろう。兄さんも会ってないらしいし。


「さて、私達も帰ろうと思うのだが、……私は今回の件で内調分室に貸しを作ったと考えていいのか?」


 泉さんは笑っているナナイさんを肘で突き、お母さんに向かってそんな事を言い出した。


 お母さんは須藤さんと顔を見合わせてから、懐から何かを取り出した。


「これ、何だと思います?」


 お母さんの手に在るのは、掌の中に納まるくらいの大きさの四角いプラスチックのモノだった。なにやらボタンが幾つかついている。


「あそこと、あそこ、あとそっちね。今までの会話はすべて録画しています。あ、カメラを壊しても無駄です。録画と同時に海外の大手検索サイトのサーバに送らていますから。因みにアカウントは昨日作ったものですがパスワードは私と須藤さんの他にあと数名の者で共有しています」


 お母さんはそういってニッコリと笑った。


「………そんな動画を見て信じる者がいると思うか? 今の荒唐無稽な話を」


「世の中には荒唐無稽な話ほど好む人がいますから。それに、睦月という名の人物が宮内庁に席を置いていたことは少し調べればわかる事ですし。政府が極秘で異世界人の入国管理を行っている、なんて話し、好きな人は好きでしょうね。本気で信じるかどうかは別として」


「……内調分室の存在を明かすわけにはいかないだろう」


「その辺りは動画を編集してどうとでもなりますし。アーニ君の写真と一緒に公開すれば、再生回数どれくらい行くかしら」


「…………なるほどな、家に案内されたから何を考えているのかと思っていたが、こういう仕掛けがしてあったということか」


「本当は私の家でなくても良かったんですよ。喫茶店でもファミレスでも。隠しカメラを設置する作業なんて五分もあれば済みますし。ここに連れてきたのは私の誠意の様なものだとお考え下さい」


「……私が内調分室の存在を言いふらしたらどうする?」


「動画や写真もなしにですか? 仮にあったとしても、その辺りの情報操作は私達の得意分野ですからそれもどうとでもできます」


「……誠意って、いったいなんだろうな」


「さぁ、少なくともカボチャではないことは確かですね」


 お母さんのその言葉でしばらく会話が途切れてしまった。ちょっと気まずい沈黙が流れる。でも最後のやり取りはいったい何だったんだろ? 急にカボチャとか出てきて意味わかんないけど、なんか特別な符丁みたいな感じなのかな?


「……あー、なんだか無性に豆乳が飲みたくなったなぁ。俺ちょっとコンビニ行ってくる。なんか買って来るものある?」


 なんとなく気まずい沈黙を破り、お父さんがそう言いながら立ち上がった。


「あ、ウチもちょっとコンビニに……」


 そう言うと椎子も立ち上がる。


「あ、お父さん、牛乳と卵を買ってきてください。お金持ってる?」


「大丈夫。ちょっと行ってくるよ。あの、お母さん、……その、ほどほどにね?」


 そう言い残して、お父さんと椎子はそそくさと出て行った。というか逃げた。しまった、私も付いて行けばよかった。なんとなくタイミングを逃してしまった。ていうかお父さんすごいな。


「ちょっと見てみましょうか。ミシアさんがどいう風に現れたのか気になりますし」


「え? そんなわざわざ見なくてもいいんじゃないかなぁ。別に今じゃなくても」


 私は、お母さんの言葉にちょっとだけ慌ててしまう。まずい。ミシアさんと一緒にゲームやってるところを見られたら、変に思われるかもしれない。しかし、私の言葉で逆に気になってしまったのか、お母さんは須藤さんの持っていたタブレットを操作して、動画を再生させてしまった。


「この辺りかしら?」


 お母さんはそう言うとタブレットを皆が見えるようにコーヒーカップに立てかける。

 映し出された動画はアーニが一人でゲームをやっている姿だった。そこに何の前触れもなくフッとミシアさんの姿が現れる。後ろから声を掛けられてミシアさんに気が付いたアーニはなにやら文句を言っているように見える。対するミシアさんはまぁまぁって感じでヘラヘラしている。余り反省しているようには見えない。しばらく言い合いをしている様だったが、やがて二人は並んでソファーに座りゲームを始めた。

 ヤバい。そろそろ私が来てしまう。しかもこのアングルではリビングの入り口が写っていない。これはマズい。


「お、お母さん、あのね、私もちょっとコンビニに……」


「なにか欲しいものが有るなら今お父さんに電話すればいいじゃない」


「あ、うん」


 終わった。私終了のお知らせ。


 私は両手で顔を隠し、俯いた姿勢をとる。は、恥ずかしい。


「あ、藍だ。………は? ………一緒にゲーム始めた? ……初対面のエルフとゲーム始めたよ。お前スゲーな藍」


 やめて、お兄ちゃん。実況しないで。……私も渕さんのこと言えなかった。改めて言葉にされると酷い。確かに初対面のエルフ耳と会ってすぐゲームする女子高生ってなに?


「………お手本見せてドヤ顔してる。………お前、スゲーな」


 もうやめて、お兄ちゃん。私のライフはゼロだよ。

 私は顔を隠している両手の指の隙間からチラリと様子を伺う。そしたらみんな私の方を見ていた。うあー、恥ずかしい。私を見ないで。


「…………藍、あなた……ちょっとずれてる子だとは思ってたけど……」


 お母さんは動画の再生を止めながら、そんなことを呟いている。


「ち、違うんだよ、お母さん。あのね、写ってないけどミシアさんがゲームやりたそうにしてたから、それで……」


 その後、なんとなく言葉が続かない。また少し気まずい沈黙が流れる。


「………逸材だな」


「………ですねぇ」


 穴が有ったら入りたい気分の私をしり目に泉さんとナナイさんが何やら話始めた。


「そもそも、言葉も通じない緑色の謎生物に食べ物を与え、トイレの使い方を教えて、その後一緒にテレビを視ていたとはどういう事だ」


「まぁ、そんな正体不明の人型の生き物に突然出会ったら、逃げ出すか、動けなくなるかでしょうね。その後で、警察にしらせるとか、っすかねぇ」


 なんか言われてるけど、そんなんじゃないんです。ほら、緑の生き物が兄さんである可能性がビレゾンだから……、いや、今どきの女子高生は初めて会った言葉の通じないゴブリン風の生き物に食べ物を与えて一緒にテレビ見るのは普通の行動です。………ダメだ。言葉にするとやっぱり酷いな。思い返せば最初に取った行動は写真を撮って椎子に送るとかやってたしな、私。


「……ふむ、今井藍だったな。お前、大学卒業したらうちに来い。閑職だが、一応、省庁付きの国家公務員だぞ」


「……泉さん、それは……」


 泉さんは突然そんなことを言い出した。その言葉にお母さんが何か言いたそうにしているが、泉さんはかまわずに続けた。


「うちの職場は中々適性があるやつが少なくてな。事情を一から説明するのも大変だし、一応極秘の部署でもある。慢性的に人手不足なんだよ。報告書が書ける事務職が欲しいところだったのだが、お前なら現場も行けそうだ。どうだ?」


 どうだって、そんなこと急に言われても……。と、この辺は普通の女子高生っぽいんじゃない。なんて思いながら、悪い気はしていない私がいる。というか、スカウトだよ。青田刈りだよ。金の卵だよ私。


 しかし、そんな少しいい気分も一瞬で終わってしまった。お母さんの言葉によって。


「いえ、泉さんそういう事ではなく、……この子の学力では省庁付きは無理かと……」


 ………現実は厳しい。


 私はそう思った。

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