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りたーにんぐ!  作者: 消しカス
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72 帝都騒乱編28 帝都騒乱1


「マスター、その状況が、大変、なら、恐らく今の状況は、すごく大変、です」


 メイのその言葉を聞いて俺の足は止まった。

 朝起きて時計を見たら会社の出勤時間を完全にオーバーしているときの感覚、といったらいいのだろうか。今更急いでも、という思いと、少しでも早く行かなければ、という思い。そして、むしろ行かない、という選択肢とその言い訳を考え始める。そんなことをグルグルと考えてしまいその場に立ち竦んでしまった。


 数秒その状態だったが、結論としては、もの凄く行きたくないが行かないわけにもいかない、というものだった。ふと頭をに触られている感覚があった。見ると横に立っているメイが俺の頭を撫でている。メイは俺より頭一つほど背が低い。俺の頭を撫でる為に踵を上げ、手を精一杯延ばしている。もしかして慰めてくれているのか。俺のネガティブな感情がメイに伝わってしまったのかもしれない。俺は軽くため息をつきメイに礼を言うと歩き始めた。


「行こうか。皆のいる場所はわかる?」


「はい、マスター」


「表まで案内しましょう。もしかしたら私の部下たちが集まってきているかもしれません」


 ふと見るとニサが俺の近くに立っていた。ニサの提案を受け俺たちは部屋を出る。何人かの転がっている男たちを避けながら細い通路を歩き、その先のドアを開けるとそこは酒場の様な場所だった。酷い荒れようでテーブルが幾つか破壊され、椅子が転がっている。そしてそこにも数人の男たちが転がっていた。意識がない者がほとんどだが、中にはうめき声を上げている者もいる。なんともいたたまれない気持ちになりながら酒場の中ほどまで来たとき、その入り口と思しきドアが勢いよく開き数人の人影がなだれ込んできた。


「………これはいったい…… ニサ様! ご無事ですか!?」


 酒場に入ってきた者達の先頭に立っていた男がニサを見つけ駆け寄って来る。体格の良い中年のその男は、手に持っていた剣を鞘に納めながらニサに問いかける。


「〈ねぐら〉の一つが襲撃にあったと聞いて……よかった。お怪我はございませんか?」


「はい、私は大丈夫です。それより、皆の手当てをお願いできますか?」


 男はニサの言葉を受け、後ろに立っている数人に指示を出している。そして、軽く辺りを見回したあと、ニサに向き直った。


「この有様は、いったい何があったのですか? ………貴様は何者だ? まさか貴様が……」


 ニサの斜め後ろに立っている俺に気が付いた男は、鋭い視線を向けながら、剣の柄に手をかける。俺は思わず顔の前で手をパタパタさせながら、小刻みに顔を横に振る。いやいや、ホントに俺じゃないし。


「やめなさい。彼は私の大切な客人です。……ロウ様、ここはかまわずにお行き下さい。ヨトトから貴方のお仲間のことも伺っております。そして、貴方が〈抑止の英雄〉と呼ばれる本当の意味も私は存じております。自動人形を連れていることはきいていましたが、その方お一人でこの有様なのです。貴方がおっしゃった『帝都が大変なことになる』というのは、誇張でもなんでもないのでしょう」


「ロウ? ……まさか、ロウ・フチーチ?」


 俺はニサに軽く頭を下げ、俺の事を凝視している男の脇をすり抜けて酒場の入り口に向かう。外に出て軽く辺りを見回すが、路地裏のような場所でここが帝都のどの辺りなのか、どちらへ行けばいいのか見当がつかない。メイに視線を向けても、俺の横にぼーっと立っているばかりで移動を始める様子はない。


「えーと、メイ、どっちにいけばいい?」


「不明です。マスターの探査には、演算領域に通常では有りえない負荷がかかりました。そのため、この場所に至った経緯の記憶が不明瞭です」


 つまり、必死だったから覚えてない、って言いたいのか。トアやエリー達は帝都の中央広場にいるらしい。初代皇帝の石像が立っている大きな広場だ。だが、そこへの道はわからないという。まぁ、さらわれた俺が悪いんだけど。


「こっちだ。大通りまで案内する」


 どうしたものかと途方にくれかけたとき、横合いから声がした。見ればダナが路地を歩き始めている。慌ててそれを追いかける。


「あの、ダナさん」


 ダナの後ろを歩きながら声をかけたが、返事は無い。俺はかまわず気になっていることを聞いてみた。


「……この後、大丈夫ですか? その、今回の件でなんか罰を受けたりとか……」


 ダナは暫く無言で歩いていたが、俺の問いかけに答えてくれた。


「……君を先生に……ニサ様に引き合わせるという依頼は果たした。俺はこの足で帝都を出る。……あいつらも俺に追っ手をかけたりまではすまいが、……しばらくはタセルの行商に付き合うことにする」


 俺はダナのその言葉に少し笑ってしまった。怒られるのが嫌だから逃げると言っているようなものだ。ダナは気にする風でもなく前を歩いている。


「それと、……ダナさんは気が付いていたんじゃないですか? 病の治療にはあそこが関係しているってこと」


 どこに耳があるかわからないので、随分とぼかした言い方になってしまったが、意図は伝わっているはずだ。

 ダナはタセルの行商の護衛としてゴブリンの村に訪れている。シルビアが魔法薬を扱っていることは知っていたはずだ。そして、その行商の帰り道にはミラも同行している。アルティアナの病の事まで知っていたかどうかはわからないが、貴族であるミラがゴブリンの村に居たという事実だけで、その重要性に思いを巡らすことはできる。しかし、ゴブリンの村の話がニサの口から出ることは無かった。ミラが魔の森を目指して旅に出たことをダナに確認した、と言っていたにもかかわらずだ。


「………なんのことかはわからないが、俺が受けた依頼は、君とニサ様を会わせるということだけだ。……それ以外の事は頼まれていない」


 俺はダナのその答えで確信した。彼はゴブリンの村の事をニサに話していない。もしダナがゴブリンの村の事をニサに話していたなら、ニサはなんらかの行動を起こしていた可能性がある。辺境の僻地にあるあの村は辿り着くことさえ困難だが、この世界にはタセルのようなスキルを持つ者もいる。ニサの人脈ならそんな人材を確保することも容易だろう。それでもしゴブリンの村に何かがあれば、ラステイン家はシルビアとの約束を守られなかったことになる。それはきっとアルファードやミラには耐えがたいことだろう。

 だが、ダナにはそんなことは関係ないはずだ。それでもゴブリンの村の事を明かさなかったのは、単純にあの村を、あの小さな村で平和に暮らしているゴブリン達を思っての事かもしれない。ゴブリンの村を旅立つ前の晩のことを思い出す。村中のゴブリン達が集まって焚火を囲みお祭り騒ぎをしているのを、ダナは少し離れたところからじっと見ていた。彼の胸中はわからないが、あの村のゴブリン達に何らかの手が及ぶのを望まなかったのではないか。俺にはそう思えた。


「ダナさん、今度酒でも飲みましょう」


「………俺は君をさらった相手だぞ」


「ええ、ですから、ダナさんのおごりで」


 俺の言葉に返事は無かった。しばらく無言で歩いていたが不意にダナは立ち止まった。


「この路地を抜けて右に曲がれ。そうすれば裏通りに出る。そこを左に進めば大通りだ」


 ダナの言葉に頷き、指示された方向へ進もうとしたとき、俺の足元になにかがまとわりついてきた。それは黒い猫に似た生き物で、俺のズボンの裾に噛みついて引っ張ている。


「………どうやら迎えが来たようだな。それはおそらく使い魔の一種だ。……そんな型は見たことがないが」


 猫のような生き物は俺のズボンを引っ張るのをやめて、少し離れた場所でこちらを見ている。ダナの言う事が確かなら、この生き物に付いて行けばいいのか。


「じゃあ、また。辺境で会いましょう。メイ、行こう」


 ダナに軽く頭を下げ小走りに駆け出す。少し進んだ時に後ろから声が掛かった。


「フチ君、………旨い酒を用意しておく」


「……はい!」


 俺は振りかえりそう返事をして、走り出した。少し進んでもう一度振り向いたときにはダナの姿はすでに消えていた。

 またこの世界で約束が増えてしまった。日本に帰るつもりでいる俺はこれ以上その手の繋がりや用件を増やすべきではないのかもしれない。だが悪い気分ではない。むしろ、その約束が果たされる日を少し楽しみに感じている。俺は自分の顔が笑っているのを意識しながら、猫のような生き物の後を追った。


 しかし、そんないい気分はすぐに霧散してしまった。猫のような生き物の後を追い、ダナの言っていた裏通りを抜け大通りと思しき場所に出たときに、目に入ってきた光景に俺は思わず足を止めてしまう。俺を案内している猫とまったく同じ生き物があちこちにうろついていて、慌ただし気な衛兵の姿も数人確認できる。そしてなにやら白い火の玉のようなものが何個か宙を漂っていた。もしかして、帝都の大通りすべてがこんな感じなのだろうか。

 少しの間呆然としていると不意に日差しが遮られた。なんとはなしに空を見上げると巨大な竜の姿が目に飛び込んでくる。ハルが超低空飛行で帝都の空を旋回していた。その手に何か持っている様だったので目を凝らしよく見ると白い髪が風にたなびいているのがわかった。ユキを抱えて二人で俺を探しているのか。

 ハルが旋回して俺の上を飛ぶような形になったとき、抱えられているユキと目が合った気がした。ユキも俺に気が付いたのだろう俺を指差して何か言葉を発しているように見える。正直なところ、また路地裏に引っ込みたいところだが、そういうわけにもいかない。


 俺は自分の顔の筋肉が引きつるのを意識しながら、ユキとハルに向かって力なく小さく手を振った。

 近くにいた衛兵に声をかけ、中央広場へ連れて行ってもらう。衛兵は白い火の玉に向かって俺を発見したことを報告していた。これはあとで聞いた話なのだが、この火の玉はミシアの魔法で、火の玉に向を通して声のやり取りが出来るというものらしい。衛兵の連絡をミシアが集め、指示を出していたようだ。

 そしてこれも後から聞いたのだがこの黒猫のような生き物はトアが作り出した魔法生物だということだった。衛兵と共に歩いている俺の周りにどんどん集まってきて、今は数十匹ほど俺の足元を歩いている。傍から見ると異様な光景だろう。

 ハルは旋回飛行を止めたようだ。俺と衛兵が一緒にいるのを確認した様だったので、広場で待っているのかもしれない。この大通りはハルが竜の姿でも問題ない道幅だが、翼を広げることを考えると全然足りない。この帝都の街中ではハルが着陸できる場所は限られている。空中で人型に姿を変えそのまま落下して着地することはできるだろう。しかし、その場合全裸で街中に現れることになる。それはそれで問題がありそうだ。

 衛兵と、そして大量の猫たちと共に歩きながら、警察に捕まったらこんな気分なのだろうか、などと考えていると、前方から一人の騎士が駆け寄ってきた。ササフギ砦で共に戦った第三部隊の隊長のローマンだ。


「おう、ロウ君、無事だったようだな。怪我はないのか? ………今回はすまなかったな。これは騎士団と衛兵隊の責任だ」


 そう言ってローマンは頭を下げる。


「いえ、油断していた俺が悪いんです。今日辺境に立つ予定でしたから、気が緩んでしまって」


「いや、我々は君の警護が仕事だったのだから、………この話はあとだな。とにかく広場に急いでくれ。君の仲間たちを何とかしてほしい。大変な騒ぎに……はもうなっているが、とにかく行こう」


 ローマンと彼が連れていたもう一人の騎士が先導して歩き出す。その間にも猫たちは集まってきている。俺の後ろには少し離れて町の人たちの行列ができていて、通りの脇には何事かと俺を眺める大勢の人達がいた。衛兵だけならまだしもこの猫たちが問題だ。否応なしに視線を集めてしまう。

 通りのざわめきの中には竜が飛んでいたのを見たという声や、その竜が中央広場に降りたらしいという話声が聞こえてくる。


 しばらくその状態で歩く。歩くというより連行されている気分なのだが。その間にも猫と野次馬は増えていく。まるでパレードのような大行列を作りながら進むと、やがて前方に大勢の人だかりとその向こうに竜の姿のハルがみえた。


 ハルは俺に気が付いたようで、俺に向かって竜の姿のまま器用に手を振っている。

 心の中でやめてくれと念じながら、俺はまたしても力なく小さく手を振り返した。


やっと帝都がソーランしました。

一時期はサブタイトルを変えようかと思いました。

帝都編もそろそろ終わりです。

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