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りたーにんぐ!  作者: 消しカス
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67 帝都騒乱編23 公爵の屋敷へ


 ラグランの町で一晩過ごした後、俺たちは帝都に戻った。

 結局、アダ(仮)は帝都に連行することになった。一連の聖教徒たちが起こした事件は、帝国貴族を襲撃をしたこともあり結構な大事になっているようだ。事件の首謀者に近しいと思われるアダ(仮)の取調べと処遇の判断を上に仰ぎたいという騎士たちの意見はもっともなので、それに従うことにした。結局彼の本名は何というのだろうかと、少しだけ気になったが、それはまぁいい。

 とりあえず帝都に戻り暫く様子を見ることにしたのだが、やはりというかなんというか、今回の件は聖王国との国際問題になっているようで、その為かどうかはわからないが皇帝との会見も延期となっている。

 トアとエリーは相変わらず魔法の訓練をしていたり、捕えた聖教徒たちの聴取に協力したりしている。あとはアンナと一緒に魔法学院へ見学に行ったりもしたようだ。

 ミシアは俺たちと帝都まで同行し一晩過ごした後に連合国に帰っていった。俺に無事会えたことをツツミに報告し、やりかけの仕事を少し片づけてからまた戻って来るそうだ。はっきりと言わなかったが十日ほどは連合国に居ることになるだろうと言っていた。もしその間に何かあれば手紙を送るようにとのことだった。連合国に手紙が届くのは三十日くらいかかると聞いていたので、首をかしげていると、どうやら帝国と連合国の間で手紙などの小物を送る転送装置の様なものがあるらしい。そんなものが有るのなら最初からそれでミシアなりツツミなりに連絡を取ればよかったのではないかと思ったのだが、国家間の転送装置の利用は国家機密の漏洩を防ぐため厳しい制限が有るらしい。私用で使う事は当然できないし、緊急時を除いてやり取りする内容はすべて決まったものだという。申請をすれば理由と内容を精査した上で利用できなくもないが、その手間と審査の期間を考えると、冒険者でも雇って届けてもらった方が早いらしい。その手紙も国を跨ぐとなると、場合によっては検閲されるらしいのだが。ただ、今回はもしもの時はその装置を使えるようにルシアが取り計らってくれるそうだ。

 ちなみに冒険者組合や商業組合なども同様の装置を持っていて、帝都にある本部と各領地の大きな町にある支部との間で情報を共有しているという。冒険者組合の場合は、実力のある冒険者チームの所在や、新規の冒険者組合登録者のリストなどだ。ロウ・フチーチの名前があっという間に帝都に広まったのもこの装置があった為だ。

 

 俺はラステイン家の屋敷でのんびり過ごしていた。のんびりといっても軽い訓練は続けられているし、屋敷の警護に就いている衛兵や騎士団の第二部隊の隊員達と模擬戦をやらされたりしている。

 部隊長のマルダスはギルバートと旧知の仲の様で、隊員たちを交代で訓練に参加させるよう頼み込んできたらしい。最初はあまり乗り気では無さそうだった隊員たちだが、ギルバートやミラの強さには目を見張っていた。二人と模擬戦をした騎士や衛兵たちは例外なく叩きのめされているのだが、ギルバートはともかくとして、女性であるミラに負けるのはさすがにこたえた様で、訓練に真剣みが感じられるようになった。マルダスはそれを見越していたのかもしれない。そしてその二人と唯一互角に見えたのはマルダスだ。しかしミラとギルバートまだまだ本気を出していないように感じる。それはマルダスにも言えることだが。

 ただ、はっきりとわかったことが有る。訓練に参加している騎士や衛兵たちの中には厳しさに根を上げる者がいる。俺の感覚では辺境にいた頃の地獄の特訓に比べればほんのさわりの様なものなのだが、彼らには厳しいと感じるようだ。前々から少しおかしいなとは思っていた。しかし、当時はこの世界ではこのくらいが常識なのかもしれないと受け入れていた。タマムシの精神的なサポートもありなんとか耐えていたが、やはり普通に考えてもこの二人の訓練はおかしかったのだ。……まぁ、いまさら恨み言を言う気はない。そのおかげというのもいまいち納得がいかない気もするが、俺と騎士達の模擬戦は互角くらいにはなっている。


 余談だが、騎士や衛兵たちの間でミラのファンクラブの様なものが出来つつある。確かにミラは美人だし対応や物腰も身分に関係なく丁寧だ。剣の腕前はもちろんだが、ササフギ砦跡での戦いの様子や、アベル・レイクスとの決闘の件が騎士や衛兵たちの間で静かに広まっているらしい。そして古竜であるハルと対等に友人同士の様に接している姿が好感や尊敬の念を抱かせているようで、俺も訓練の合間や休憩中の騎士達からミラのことをよく尋ねられるようになった。いつのまにか俺はファンクラブの特別顧問のような立ち位置になっている。ミラ本人は気付いていないようだが、独身の騎士たちの間では模擬戦でミラに勝つことが出来たら交際を申し込んでもいいという暗黙のルールが出来ているらしく、気合の入った若い騎士がミラに模擬戦を申し込み、ズタボロに打ちのめされている姿にはなんとも言えない気分になる。


「人の姿じゃ、ミラには勝てないかもしれない」 


 訓練を見学していたハルの言葉が印象に残っている。


「ミスリル製の武器は僕たち星辰体や星幽体にも攻撃が通るからね。イチローのナイフも僕の鱗を貫いたでしょ。それにミラは【剣術】のスキルを持ってる。もしスキルを〈熟練〉したら竜の姿でもやばいかも」


 ハルが言う〈熟練〉とはスキルが限界を超えて強化された状態だという。あまり前例がないためどういう風に強くなるのかわからないが、もし戦闘系のスキルを持つ者がそのスキルを〈熟練〉すると相当な戦闘能力を得るらしい。エリーの【裁縫】スキルも〈熟練〉した状態らしいがアレは特殊過ぎて参考にしてはいけないそうだ。


「エリーやトアとも戦ったら負けそうだし、皆の中では僕が一番弱いかもしれない。僕もなにか特訓とかした方がいいかな?」


 竜の姿でブレス有り、飛行能力有りの状態のハルに勝てる者はそうは居ないと思うが、そんなふうに感じさせる他のメンバーは本当にヤバいな。

 さて、そんなハルだが基本的にはユキと一緒に行動している。訓練の見学もそうだが、二人で帝都の商業区に遊びに行ったりもしている。ユキは少し戸惑っているが嫌がってはいない様で、そんなユキにハルはなにかと世話を焼いている。


 そんなこんなで日々を過ごしていたのだが、俺は今、アリオンと共にとある貴族の屋敷を訪れている。俺が望んでいた例の絵師との面会の段取りが付いたのだ。アリオンの他にはギルバートとミラそしてメイが同行している。他のメンバーはそれぞれ何かしら用事があるようだ。というか高位の貴族と会うのを面倒だと思ったのだろう。その上俺の目的は、おそらく日本人であろう絵師と話をしたいだけだ。身の上話と日本の話題になるだろう。それを横で聞いていてもしかたがないと思ったのかもしれない。

 ギルバートは護衛としてミラは上位の貴族と縁を得る機会だとして顔見せのため同行させられている。

 貴族の屋敷が立ち並ぶ区域の中でひと際立派な屋敷に着くと、迎えてくれたメイドに応接室へ案内される。そこには壮年の女性と中年の男性が待っていて、俺たちを迎えてくれた。


「お久しぶりですね、アリオン卿。そして貴方が辺境の英雄、ロウ・フチーチですね。はじめまして、エーファ・ウムラウムと申します。こちらは当家お抱えの絵師、マコト・ホリイです。どうぞ席にお付き下さい」


 俺達はその女性に軽く自己紹介と挨拶をして勧められるままに席に着く。

 エーファ・ウムラウムという女性についてはここに来る前にアリオンから軽く説明を受けている。ウムラウム家は三公と呼ばれる三家の公爵家の一つで、元はこの地方にある小国の王家だったそうだ。レミア皇国がこの地方の平定に乗り出した際に初期の段階で同盟を結び恭順の意を示し、後の帝国建国とその後の治世においても大きな役割を果たした、歴史ある家柄だそうだ。現在でも帝国の政治に強い発言力を持っている譜代貴族の一角だという。そしてこのエーファという女性はそのウムラウム家の先代の当主だそうだ。遠い先祖にエルフの血が入っているらしく、稀に長寿の者が生まれるという事らしい。現当主はアリオンと同年代ということなので、彼女の年齢は推して知るべし、なのだが、せいぜい五十代くらいにしか見えない。少し小柄で上品な雰囲気の女性で、気品のようなものを感じる。


「そしてあなたが信義の剣ギルバート、そちらが剣姫ミリアナ。お会いできて光栄ですわ。本来であれば、ウムラウム家当主がお迎えするべきところですが、私が無理を言って替わってもらったのです。まずそのことをお詫びさせて頂きます」

「……あの、エーファ様、その剣姫、というのは?」 


 エーファの言葉にミラが動揺している。


「あら、ご本人はご存じないのですね。騎士たちの間で評判ですよ。剣鬼ギルバートの愛弟子にして古竜の友、辺境にて稀代の英雄を見出した麗しき姫。帝国騎士団にはうちの家の縁者も何人かおります。現在あなた方ラステイン家の警護をしている第二部隊にも」

「いや、それは………お恥ずかしい限りです」


 ミラは恐縮して顔を赤くしている。騎士達のミラの扱いはそんなことになっていたのか。ふふふ、英雄に祭り上げられた俺と同じ居心地の悪さを少しでも味わうがいい。


「今日はたっぷりとお話を聞かせていただきたいですわ。そのために息子に仕事を押し付けて……とその前に、ロウさんはホリイとお話をするために来たのでしたね。ホリイと同郷であることも伺っております。積もる話もお有りでしょう。別室を用意しますのでそちらでお話しください。その間に貴方の活躍のお話しはミリアナ姫から伺いましょう」


 俺の書いた日本語の手紙からその話が伝わったのだろう。エーファの心遣いに感謝の言葉を述べる。


「後で昼食を用意いたします。その時にまたお話をお聞かせください」


 その後、メイドに案内され客間のような部屋に案内された。メイは当然の様に俺に同行している。そこでメイドがお茶とお菓子を用意してくれた。そのメイドは退室せずにドアの所に控えているようだ。流石に二人きりにはしないように言われているのかもしれない。テーブルに着くように勧められたが、椅子に座る前に改めて日本語で自己紹介をする。


「はじめまして、渕一郎です」

「ああ、はじめまして、堀井誠です。……日本語で喋るのなんて何年ぶりかなぁ」


 俺の日本語に少し驚いた顔をしたあと、笑いながらそう返してくれた。俺より背が高いが少し細身だ。日本人にしては彫りが深い顔で少し眠たげな感じがする二重瞼の目が印象的だ。


「いやぁ、君から日本語の手紙が届いたときは驚いたよ。でも、よく僕が日本人だってわかったね。名前も異人だってことも極一部の人しか知らないはずなんだけど」


 堀井は椅子に腰かけながら俺にもう一度着席するように促す。


「漫画、みましたよ。ピンときました。これは日本人だなって」

「あ、見たの? もしかしてエロいやつ?」

「はい。知り合いが持っていたやつをちょっとだけですけど」

「うわ、ちょっと恥ずかしいなぁ。……どんなヤツだった?」

「ゴブリンが出てくるヤツです」


 アンナが持っていたエロ漫画だ。ミラに貸していたのを返してもらったと言っていた。結局なんとなく機会を逃して借りることはできなかった。


「あのシリーズかぁ、結構初期の奴だね。アレ、ゴブリンの団体からクレームがきてねぇ。イメージが悪くなるからやめてくれって。再版もしてないから今じゃ結構貴重な本なんだけど。トルコ風呂改名事件を思い出したなぁ」

「? トルコ風呂って蒸し風呂みたいなやつですよね?」


 たしか子供の頃読んだシャーロックホームズのシリーズのどれかで、ホームズはトルコ風呂が好きだって書いてあったような覚えがある。親だか学校の先生だかに尋ねたらサウナみたいなものだと教えられた。


「あ、君の年代じゃ知らないかなぁ。僕もタイムリーな世代じゃないんだけど、ソープランドってあるでしょ? アレ昔はトルコ風呂って呼ばれててね、トルコ人からイメージが悪くなるからその呼び名をやめろってクレームがきて、ソープランドって名前に改名したっていう事件があってね……いや、そんな下らない話はどうでもいいんだけど。……でも懐かしいなぁ」


 堀井は用意されたお茶に手を延ばしながら目を細める。たしかにそんな話をこちらの世界でする機会は無いだろう。


「えーと、色々聞きたいんだけど、渕君でいいかな? こっちに来てどれ位経つの?」


 堀井の言うこっちとは、この世界ということだろう。


「俺はたぶん半年ぐらいですね。じゃあ、俺の身の上から話しましょうか。でもその前にお土産があるんですよ」


 俺はメイに預けていた手荷物から、ミシアから貰った品物を取り出す。手土産のことは珍しい菓子と酒だということで事前に了解を得ている。おそらく堀井は公爵家にとっては重要な人物だろう。断られるかとも思っていたが、俺の後ろ盾はアリオンなので信用してもらえたのだろう。


「これは! ……こんな物どこで!? まさか今まで食べずに持ってたのかい? でも……」


 堀井はテーブルに並べられた缶ビールやチョコレートに驚いて動きが止まっている。


「米もあるんですよ。最近手に入れたんですが、せっかくなので一緒に食べようと思って持ってきました。厨房を使わせて貰う事って出来ますかね?」

「それは、たぶん大丈夫だけど……最近手に入れたって、いったいどうやって……」

「その辺も順追って話します。行きましょう」


 俺は堀井とともに屋敷の厨房に向かう。一人暮らしを始めたころ炊飯器が故障して、しばらく普通の鍋で米を炊いていたことがあるので要領はわかっている。今回はガスじゃなくてカマドだがなんとかなるだろう。

 厨房に着き昼食の準備をしている料理人に頼んでカマドを使わせてもらう。ホントは1時間ぐらい米を水に浸けておきたいのだが、今回は十分くらいにする。その間に使用人の一人に魔法で氷を作ってもらい缶ビールも冷やしておく。

 作業をしながら俺がこの世界に来てからの話をする。タマムシのことは伏せているが、魔女ミシアのこと、ゴブリンの村や、古竜の事などを簡単に説明していく。その間堀井はあまり口を挟まずに聞いていたが、俺の話よりも米の事が気になっていたのかもしれない。やがて鍋がぐつぐつと音を立て始める。


「この匂いですでに少し泣きそうなんだけど」


 厨房には米を炊いたときの独特の匂いが立ち込めている。


「ああ、でも公爵様が昼食を用意するって言ってましたね。結構な量があるんで、そのときにみんなで食べますか?」


 ミシアに貰った米は二キログラムほどだろうか、中途半端に残してもしかたないと考えすべて使った。


「……うん、それでもいいけど、先に少しだけ頂いていいかな? せっかくなら炊き立てを食べたい。それに………たぶん泣いちゃうからね」


 赤子泣いても、と言われるが途中で何回か様子を見る為にちょっとだけふたを開ける。見た目が炊き上がったら蒸らす。鍋で炊くときは蒸らすのが大事だと勝手に思っている。堀井はそわそわしているようだが、十分に時間をかける。その間に話をしながら薪を細く割りそれをナイフで削って箸をつくる。白いご飯を食べるならやっぱりお箸が必要だ。俺の身の上話がひと段落した時に少しだけ味見してみた。ばっちり炊き上がっている。俺も少し泣きそうになってしまった。

 料理人に濃いめに味付けした焼肉を用意してもらい、それらを持って先ほどの部屋に戻る。メイドにも運ぶのを手伝ってもらった。

 しゃもじは無いので大鍋をかき混ぜるときにつかう大きな木匙で皿によそう。炊き立ての白いご飯の香りが漂う。俺と堀井は手を合わせ「いただきます」と挨拶したあとに、それを口に運んだ。口の中に馴染み深い味と香り、食感が広がる。


「………うまいなぁ」


 堀井は一口ほうばってゆっくり噛み締めたあと、ポツリと呟いた。厨房で少しだけ話を聞いたが堀井はこちらの世界に来て十五年になるという。ツツミも十五年ぶりに帰郷したとミシアが言っていた。なにかあるのかもしれない。

 だが今はそれどころではない。俺は半年程度だがそれでも泣きそうになってしまった。そして目の前の堀井は泣いていた。泣きながら白飯を食べている。その姿をみて俺もちょっと泣いてしまった。十五年ぶりの白飯はたしかに泣けるだろう。

 はたで見ているメイドはこの異様な雰囲気にどうしていいかわからずオロオロしている。そのメイドをみて頭によぎったことをつい言葉に出してしまった。


「……凄い絵面ですよね。男二人泣きながら白飯食べるなんて」

「………たしかにそうだね」


 俺のその言葉に堀井は笑う。涙で頬を濡らしながら、泣きながら笑っていた。 


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