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りたーにんぐ!  作者: 消しカス
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63 帝都騒乱編19 戦いの跡


 目の前には二人の美しいエルフが立っている。フード付きの白を基調とした高級そうな外套を纏った女性と、旅人風の丈の短い革製の外套を纏った女性。装いこそ違うが、二人はまるで鏡に映したように同じ顔をしていた。


「ロウさん、あの、私、ルシアです。それで、こちらが私の姉のミシアです。お取込み中のところ突然押しかけてすみません」


 白い外套を纏った女性が申し訳なさそうに頭を下げる。


「いやぁ、フチさん、おひさしぶりです。あ、これ、お土産です。辺境で買ったお菓子なんですけど。名物ドラゴン饅頭」


 旅人風の格好をした方の女性が小さな包みを差し出す。


「あ、はい、どうも」


 俺は包みを受け取る為に剣と盾を地面に置き、両手でそれを受け取る。


「あれ? あんまり驚いてないですね」

「あー、いえ、驚きましたよ。ミシャさんですよね? おひさしぶりです」


 平然とお土産を受け取る俺に、ミシアは少しいぶかし気で、周囲の人たちは驚きから立ち直っていないのかまだ呆然としている。

 ミシアの登場にはとても驚いている。いや、驚いた、といったほうがいいのか。俺は【思考加速】した状態で、十分に驚いた後にじっくりと可能性を検討した。その結果、こういうリアクションになってしまった。ミシアは【転移】のスキルを持っていて、ミシア自身が行ったことのある場所なら自由に転移することが出来ると聞いていた。ここに突然現れたのもそういうことなのだろう。ただ、ルシアまで同行してくるとは思わなかったが。


「……姉様、先に言う事があるでしょう?」

「わ、わかってるって」


 二人の女性……ルシアとミシアは小声で話している。


「えーと、フチさん、……ゴメンね!」


 ミシアはピースサインを目の位置で横にした状態で謝罪の言葉を口にした。空気が固まる。はっきり言ってどう反応すればいいのかわからない。というか流行ってんのか? そのポーズ。

 ミシアは数秒その姿勢だったが、場の空気にいたたまれなくなったのか、やがて姿勢を正し深々と頭を下げた。


「……申し訳、ございませんでした」


 その横ではルシアがため息を吐きながら頭を抱えている。俺はその様子を見ながら、先ほどから考えていた一つの予想をつい口に出してしまった。


「あの、ミシャさん、………もしかして、出待ちしてました?」


 俺のその言葉にミシアは跳ねるように頭を上げる。


「!! ほ、いえや、今! 今来たとこだし!」

「……姉様………だから言ったのです。遠くから見ていないで早くお手伝いに行きましょうと。タイミングがどうとか、訳のわからないことを……。ロウさん、うちの姉が本当にすみません」


 ミシアの隣でルシアはペコペコと頭を下げている。その姿になんだか言いようのないシンパシーの様なものを感じているところに横から声がかかる。


「ちょうど今からお茶にしようと思っていた所です。イチロー様、そのお菓子はこちらにいただきましょう」

「あ、はい」


 俺はエリーにミシアの土産だという菓子を渡した。


「えっと、この状況でお茶、ですか? 」


 ルシアは辺り一面に広がる骸骨たちを見渡しながら呟く。まあ、言いたいことはわかるが。


「あー、ミシャさん。色々と話すことが有るのですが、今ちょっと立て込んでまして、少し待ってもらっていいですか? ちなみに、後は消化試合のようなものなので、登場のタイミングとしては微妙なところでしたね」

「う、いえ、私こう見えてもすっごいですよ! この骨どもを潰せばいいんですよね! 見せますよ! 紫炎の使い手の実力とやらを!」


 トアかハルが元気になればなんとかなると思っていたのだが、ミシアがやる気になっている。この骨たちを何とかしたいのは確かなのでお願いすることにした。


「ルーちゃんはダウンしている人を診てあげて。……しっかし、魔素薄いなぁ。まぁ、なんとかなるか……」


 ミシアはルシアに声をかけたあと、ブツブツ言いながら台地の中央に進み出る。そしてしばらく集中したようなそぶりを見せた後、その魔法は発動した。

 晴れ上がった空から次々と火の玉の様なものが降り注ぐ。大小様々な火球は骸骨たちを砕きながら地表に触れると爆発し周辺の骸骨たちを吹き飛ばし地面にはクレーターを作っている。どうやら隕石ではないようだがそれなりの質量を持っているようだ。


「これは……【流星雨】ですね。しかし この魔素の薄さでなかなかの規模です。さすが、といったところですか」


 エリーは地面に座り込みメイが用意したお茶を飲みながらのんびりと眺めている。


「すごいなー、こんなのおとぎ話の中の魔法だよ。本当に使える人がいたんだー」

「古代の召喚魔法の一種ですね。まず召喚魔法自体がほとんど失伝していますが、特にこの【流星雨】という魔法は使える者がいないというか、使う者がいないというか……いわゆる浪漫魔法と呼ばれるものです」


 土産の饅頭を片手に感心しているアンナにエリーは解説を始める。

 どうやらこの【流星雨】という魔法、威力は高いが使用する状況がかなり限られるようだ。まず屋外でしか使用できないこと。そして敵と味方が入り乱れるような乱戦では当然味方にも被害が出るので使えない。主に城や砦などでの防衛戦でしか使用されないらしい。攻城戦に使うと占領したい城や砦を破壊してしまうからだ。その上、難度も高く魔力の消費も大きいという。


「状況にもよりますし一概には言えませんが、もし戦時であっても、アンナさんが研究している広域魔法の方が使い勝手も良く効果的でしょう。【流星雨】は、はっきり言って使いどころがない魔法です。ただ、この魔法は威力と見た目の派手さ、そして習得の難しさも相まって、魔法を生業にする者にとっては一種の浪漫、憧れなのです」


 やがて降り注ぐ火球の雨はやんだ。骸骨たちはその数をだいぶ減らしたが、まだまだ残っている。しかし、この魔法を二、三回繰り返せば何とかなりそうだ。そう思ったのだが、どうやら連発は厳しいらしい。


「魔素が薄い分、魔力でカバーしたから思った以上にきつくて……しばらく休めば使えると思うけど、……この魔法コスパ悪すぎですね」


 ミシアそう言うとエリーやアンナの方に近づいていき挨拶をし始めた。ルシアは白竜の女性の様子をみているようだ。


「あなたが、魔女ミシアですか」


 エリーはなんだか難しい顔をしている。


「……私の貴女に対する感情は少し複雑なのです。……自身の滅びを望み、安息の眠りについていたお母様を遺跡から持ち出し、あまつさえそれを人の身に与えるなど、本来であれば到底許せないことなのですが……貴女のその行いで、お母様が新たな生を得たことは確かです」


 エリーはそこで言葉を止めると暫く考え込む。なんとなく場に緊張感が漂う。ミシアは神妙な顔で言葉の続きを待っている。……あれ? 俺に謝ったときとだいぶ様子が違うけどそれは? ……俺もなにかそれっぽいことを言った方がよかったのか?


「………やはり、お母様が生を望まれた事を寿ぐべきなのでしょう。そして、私も……」


 エリーはまたしばらく沈黙し何事かを思案するそぶりを見せた後、おもむろにメイが用意したお茶を差し出しす。


「……私達は貴女に会うために旅をしてきました。よろしくお願いします」


 ミシアはお茶の入ったカップを受け取る。緊張感が少し和らいだ気がする。

 エリーにとって、タマムシとは神のような存在だと言っていた。色々と思う所があったのだろう。


「界渡りの事など、お話ししたいことはたくさんあるのですが、もう少し落ち着いた場所でゆっくりお伺いしたいですね。まずはこの場をなんとかしないと」


 その後、皆で軽く自己紹介の様な事を行い、簡単に現状を説明する。騎士の内ルシアの顔を知っていたのはマルダスだけで、他の騎士たちは名前は知っているが、会ったことは無かったそうだ。そして、そのマルダスも稀代の魔女であるミシアとルシアが姉妹であることは知らなかったようで、ただ唖然としていた。

 ミシアは皆の紹介を受けたあと、ルシアに呼ばれ、ぐったりしているハルとトアに近づいて行き、なにやら術を施している。


「……治ったです。私の治癒術は効果が薄いのに……。これは何の魔法です?」

「トアちゃん、でいいのかな? 君が使っているのは精霊系の治癒術でしょ? 今私が使ったのは神聖系の治癒術だよ。軽い状態異常や病気なんかも治せるんだけど」

「……その話しは、とても興味があるですが、……まずはこの骨を片付けるです」

「なんとか出来そうですか? トア」


 エリーは相変わらずお茶を飲みながらゆっくりとくつろいでいる。


「考えは有るです。……でもゴーレム達が少しもったいないです」

「このゴーレムは魔石核式ですね。私が核を取り出します。あとで使い方を教えましょう」


 エリーは暴れているゴーレムのそば行き針と糸で核を取り出す。いつか見せてもらったメイの魔石核のような紫色の宝石の様なものだ。核を取り出されたゴーレムは一瞬で崩れ去り岩の塊になってしまった。

 その間にトアは台地の中央部で待機していたが、二体目のゴーレムが崩れ落ちたのを確認した後魔法を発動させた。

 台地の周囲の骸骨たちが地面に沈み込んでいく。【泥漿】の魔法だ。しかもかなり広い範囲を粘性の高い泥沼に変えている。そして範囲の外にいる骸骨たちもこの台地に向かってきているので次々と沼に飲みこまれていく。しかし、同時に俺たちが立っている台地も沈んでいるようだ。


「えーと、【泥漿】の魔法は知ってるけど、この規模は……」

「姉様、あの子がお話しした黒魔導士。そして神代の杖の主です」

「え!? あの杖使えたの!? ていうかアレ使い物になったの!?」

「……姉様、仮にも氏族の秘宝ですよ。そんな言い方は……ともかく、トアさんは杖に名付けを行い、その主として認められたのです」


 ミシアとルシアは小声で話している。その会話を横で聞いている間に、骸骨たちはすべて泥の中に飲み込まれてしまった。


「お、おい、トア、このままでは私達も沈んでしまいそうだが、大丈夫なのか?」


 いつのまにか台地の高さはほとんどなくなっている。ミラは少し焦った様子でトアに声をかけている。


「はい。これから仕上げをするです」


 トアは少し集中した後に魔法を発動する。【硬化】の魔法だ。周囲の泥沼は固まったコンクリートのような状態になり台地の沈下も止まったようだ。平らになった地面との差は十センチほどしかない。魔法を発動し終えるとトアは座り込んでしまう。


「……さすがに疲れたです。やっぱり広域化は難しいです」

「あのねートアちゃん、魔法の広域化は普通そんなに簡単にできないんだよー。今の魔法なんて私が教えて欲しいくらいだよー」


 座って息をついているトアにアンナがお茶とお菓子を差し出す。


「この杖のおかげです。タセルの店に売りつけようかと思っていたですが、役に立ったので勘弁してやるです」


 魔杖トアリサリスという立派な名前をもらったはずなのだが、扱いは相変わらずのようだ。


「お見事です、トア。魔法に関してはもう私より上ですね。アンナさんの判定では同着だったようですが、今回はトアに勝ちを譲りましょう」

「……いえ、わたしが三体目のゴーレムを破壊した時には、骨達の召喚は止まっていたです。近くだったからわかるです。勝負はエリーの勝ちです」


 トアはお茶に口を付けながらエリーと話をしている。


「お二人は何の話をしているのですか?」


 エリーとトアの会話が気になったのか、ルシアがミラに尋ねている。ミラはこの戦いが始まった時のやり取りを簡単に説明した。


「はぁ、競争、ですか……」


 ルシアは何とも言えない表情で黙り込んでしまった。うん、気持ちはわかる。トアはともかくとしてエリーやハルは苦戦したようだし、おそらく数万はいたであろう骸骨達の対応を誤れば、俺たちは苦戦どころか死んでいたかもしれない。そんな状況で競争しようとか言ってるのは少し………だいぶおかしいと思う。

 そして、そのあとしばらく無言だったルシアがポツリと呟いた言葉に、俺は重ねて共感してしまった。

 俺たちの周りには半径百メートル以上の、まるでコンクリートで整地したかの様なまっ平らになった地面が広がっている。……なんだか郊外にある大型スーパーかパチンコ屋の駐車場みたいになってしまっている。台地だった場所にほんの少しだけ残っている崩れかけた砦の壁が、出来の悪い安っぽいオブジェに見えて仕方がない。


「……この場所は、帝国の歴史の上では重要な史跡なのですけど……」

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