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りたーにんぐ!  作者: 消しカス
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55 帝都騒乱編11 決闘


 帝都に到着して三日目の朝。俺はアリオンから今後の予定の説明を受けていた。


「陛下との謁見は予定通りだよ。ルシア様とは今日の午後に会う事になってる。君たちと話をしたあとに、陛下と打ち合わせをしたいから、早めに会いたいそうだ。それから、例の絵師だけど、君に会いたいそうだよ」


「! そうですか」


 俺としてはその絵師という人物に会う事の方が皇帝やルシアに会うより楽しみだったりする。というか、偉い人たちにはあんまり会いたくないのが本音なんだけど。


「普段は誰とも会いたがらない絵師なんだけど、君の手紙を見せたら二つ返事だったそうだ。公爵が驚いていたよ。絵師本人は何時でもいいそうだけど、あとは公爵の予定次第だね」


 俺の日本語の手紙を見て、その反応ならまず間違いなく日本人だと思うが。


 俺とアリオンはそのあと少し細かい打ち合わせをした。といっても、大きな予定はその二つで、他は帝都をプラプラするくらいしかないんだけど。


「ああ、その帝都観光の事なんだけど、気を付けてね。君たちが帝都に来ていることを知っている人は少ないけど、ザヤミの町の件もあるし、人の口には戸は立てられないからね。君は陛下の客人だし、儂の家の後ろ盾もあるから、めったなことは無いと思うけど、君たちの事を良く思っていない人達もいるみたいだし」


「ああ、聖教徒の人達ですか?」


「お、よく知ってるね。まぁ、聖教徒の一部の人達が君と竜を危険視しているのは確かみたいだけど、それ以外も色々とね。ガサの町でも色々な連中に絡まれただろう? そのたぐいが帝都にもいるのさ、あのアベル君みたいなのがね」


 あー、それは確かにめんどくさいな。


「まぁ、この帝都で、君たちの顔を知ってるものはほとんどいないから、町で絡まれることは無いと思うんだけど」


 打ち合わせも終わり、腰を上げたところでメイドが入室してくる。


「あの、旦那様。お客様がお見えです」


「あれ? 特に約束は無かったと思うけど……。それに今から少し顔を出そうと思っていた所もあるし。誰が来たの? 用件は?」


「見えられたのはレイクス家の方で、用件は、その、ロウ様との決闘を、と申しております」

 メイドの言葉に俺とアリオンは顔を見合わせて、そのあと二人でため息をついた。



 屋敷の前に立っているのは、思っていた通りレイクス侯爵家の子息、アベル・レイクスだった。その他に四人ほどの男性が立っている。そのうちの一人はランツ・ローラントという子爵家の子弟で、アベルに決闘の立会人として無理やり連れてこられたらしい。


「僕は止めたんですけど、アベル様が聞かなくて。あの、なんとか諫めてもらえません?」


 ランツはいかにも気弱そうな人物でおどおどしている。みるからに困っている様子で、なんだかかわいそうに思えてしまう。他の男性たちは彼の従者だそうだが、彼らも迷惑顔というか、明らかに覇気がない。


 とりあえず、アベル君の言い分を聞いてみることにした。


「私、アベル・レイクスはロウ・フチーチに名誉をかけた決闘を申し込む!」


「うん。それは知ってる。なんで?」


 俺の返答もついぞんざいになってしまう。もうコイツめんどくさい。


「俺は、貴様のせいでザヤミの代官を解任された。その上、全ての要職を解かれ謹慎だ。決闘で貴様を倒し、俺は名誉を取り戻す!」


 それは俺のせいじゃないだろ。知らんがな。……だんだん腹立ってきたな。


「あの、アベル様もそれからランツ君だったかな? こちらのロウ君は皇帝陛下の客人なんだよ? 彼が陛下に会う前に何かあったら儂も困ったことになるんだけど、えーと、そいうのは陛下との謁見の後じゃだめかい?」


「ええ!? そんなの聞いてないですよアベル様!? 僕、そんな、立会人なんてやりませんからね!」


 アリオンの言葉にランツは慌て始める。そうこうしている間にこちらのメンバーも屋敷の前に集まってきた。


「そういって煙に巻いて逃げる気だろうが、そうはいかんぞ! ランツ! お前が立ち会わねば、俺が勝っても証明する者がいないからな。付き合ってもらうぞ!」


 慌てているランツにアベルは相変わらず勝手なことを言っている。しかし、コイツは本当に……。


「お前いい加減にしろよ! 俺はお前んとこの社長に呼ばれてるお客さんなんだよ! それを係長のお前が邪魔してどうする! お前の上司の部長も怒られるし、お前の部下にも迷惑かかるだろ! そんなこともわかんないのか!?」


「え? しゃちょ? え?」


「で? 決闘? お前が俺を殺すのか? それとも俺がお前を殺すのか? それでどうなる!? どっちにしたって大事になるのがわかんないのか!?」


 コイツ一人のおかげでどれだけの人が迷惑するのかと考えると、なんだかホントに腹立ってきて、つい怒鳴ってしまった。


「おっ、イチローが怒ってるです。珍しいです」


「そうですね。イチロー様は怒るよりいじけるタイプですから。それはそれで面倒くさいんですけども」


「私はフチに怒られた事があるぞ。少し特殊な女性の好みについて言及すると怒ることがある」


「あ、それ僕興味ある。女性の好みって、どんなメスが好きかってことだよね?」


「マスター、敵ですか? 排除しますか?」


「そこ! 聞こえてるから! 特にミラ! それからメイ、この人は敵じゃないから!」


 くそう、こっちの仲間にも何人か説教が必要な奴がいるな。面倒くさいってなんだよ。傷つくんですけど。


「まぁ、いいじゃないか。フチ、決闘を受けてやれ」


「は?」


「アベル! 人死にがあっても困る。木剣での試合なら受けよう。お前が勝ったらどう言いふらしてもかまわない。それでどうだ?」


 ミラが突然そんなことを言い出す。


「では、私が立会人をしましょう。アベル様、それでいかかですか?」


 ギルバートが一歩前に出てアベルに告げる。


「ふん、信義の剣、ギルバートか。確かに貴方なら公平な判定をするだろう。わかった、それでいい」


 アベルもそれを了承する。なにやら、俺を置き去りにして話が進んでいく。アベルはやる気だ。いや、こいつは最初からやる気か。



 それから、あれよあれよと準備が整い、いつのまにか俺とアベルは木剣を持って向かい合っていた。え、なにこれ、なにこの展開。


「それでは、アベル・レイクス殿とロウ・フチーチ殿の試合を執り行います。立会人と勝敗の判定は、私、ギルバート・トゥーティアが行います。公平な判定を行う事を我が剣に誓いましょう。よろしいですか?」


「フチ! 始まってすぐに降参するのは無しだぞ。もしそんなことをしたら、わかってるな?」


 木剣をもって呆然と立ち尽くす俺に向かって、ミラがそんなことを言ってくる。くそう、読まれてるな。わかってるなって、わかってねーよ、なにするつもりなんだよ。


 俺は別にコイツや他の人たちに、ヘタレだとか腰抜けだと思われても全然かまわない。実際その通りなんだし。きつい訓練を受けていたのも、最低限自分の身を守るためで、誰かに勝ちたいとか、誰かを痛めつけるためじゃない。

 とういか、木剣とはいえ練習用の模擬剣とは違う。急所に当たればただでは済まないだろうし、受けそこなえば骨の一本や二本折れてもおかしくない。アベルはいざとなれば治癒の魔法があるので少々の怪我をしてもいいかもしれないが、俺の場合はそいうわけにもいかないんですけど。


 そんなことを考えていると、ギルバートが試合開始の合図を出した。


 俺は木剣と小盾、アベルは木剣を両手で構えている。開始の合図を受けじりじりと間合いをはかっているようだ。


 掛け声とともにアベルが切りかかって来る。まずい。まだ心の準備が出来ていない。


 剣の間合いに入った瞬間に【思考加速】を発動させる。初撃は袈裟切り、問題はその後だ。ミラがやってるような基本の型なら横薙ぎの払いなんだが、意表をついて足元を払ったり、突きもあるかもしれない。が、アベルの打ち込みは意外と鋭い。俺がタマムシのサポートを受けずに自身で行う【思考加速】はそんなに時間を引き延ばせない。俺は、とりあえず袈裟切りを大きく避けていったん距離をとることにする。


 アベルの剣撃は袈裟切りから横払いの基本の型だった。しかし、大きく避けたつもりだったのだが、結構ギリギリだった。踏み込みがちがうのか。危なかった。


「ほう、避けるの上手いようだな」


 アベルはふたたびゆっくりと構えながら、そんなことを言う。ヤバかった、態勢も少し崩れていたし、問答無用でたたみかけれていたらいいのをもらっていたかもしれない。


「いくぞ!」


 アベルはそう言うと猛然と切りかかって来る。


 アベルの踏み込みからの打ち込みの鋭さはヤバい。避けるより受けを中心にした方がいいかもしれない。しかし、コイツ思い切りの良さが凄い。木剣だから喰らっても死ぬことは無いとの考えが、動きの良さに拍車をかけているのかもしれない。二発ほど木剣と小盾で受け流し、三撃目を大きくかわす。少し体がほぐれてきたような気がする。


 アベルはアホだが剣の腕は確かだ、みたいなことをミラが言っていたのを思い出す。たしかにミラやギルバートほどではないが、コイツは強いのかもしれない。


 何度かそんなことを繰り返し、だんだんとわかってきた。アベルの剣撃は確かに鋭いが、組み立てがなっていない。ガムシャラというわけではないが、三撃、四撃目の後を考えていない。

 ミラやギルバートは当てるまで攻撃を止めないからな。俺に剣を振らせてその隙をつくなんてことも普通にやってくる。はっきりいってあの二人の剣はもっとえげつない。


 俺は【思考加速】を使いながら、アベルの攻撃を盾で受けると見せかけ紙一重でかわす。俺が受けると思っていたのだろう、アベルの体が少し泳いだ。俺はその隙を見逃さず、アベルの脇腹に木剣を打ち込む。


 やった、勝った。終わりでしょ? そう思ってギルバートに目をやる。ギルバートは何も言わない。え? なんで? 終わりじゃないの?


「ふん、そんな腑抜けた一撃で俺が倒せるものか! 俺はまだ負けていないぞ!」


 アベルはそんなことを言いながら立ち上がり、木剣を構える。いやいや、腑抜けた一撃って結構痛そうにしてたじゃんか! つい力が入って強めに打ち込んじゃったし。だいたい、昔のヤンキー漫画じゃあるまいし、木刀で全力で人を殴れるわけないだろ! それに今のは試合なら文句なしの一本でしょ!? なんなの!? と思ってギルバートに再び目をやる。ギルバートは少し申し訳なさそうに苦笑いしている。


 俺はギルバートのその表情を見て悟った。あ、訓練なんだこれ、と。


 ギルバートは俺に対する訓練の時、いつも少し申し訳なそうな表情をする。うちのお嬢様がごめんね、みたいな顔をしているが、訓練自体はミラより厳しかったりする。はっきり言ってたちが悪い。


 その後、俺とアベルの試合という名の訓練は続けられ、三回ほど同じ様な事を繰り返す。何度かひやりとする場面もあったが、俺は一撃も喰らっていない。


 俺はうずくまっているアベルに告げる。


「あのー、もうやめません? 俺も昼から用事あるんで。これで気が済んだら帰ってもらえませんか?」


 一発いいのが入ったし、そうとう痛いはずなんだが、コイツの根性は凄いと思う。しかし、それ以上に、俺の【思考加速】もそろそろきつい。俺は痛いのは嫌なのでこのへんで終わってくれないかと思い、そう声をかける。


 俺の言葉を聞いているのかはわからないが、アベルはしばらくうずくまっていたが、やがて立ち上がり、木剣を投げ捨てた。そして少し離れた場所で観戦していたランツの方へと歩き出す。アベルはランツに預けていた自身の剣をむしり取るように奪うと、俺の方を向き剣を抜いた。


「木剣などでは本気になれん! 使い慣れたこの剣なら俺は貴様などに負けはせん! 勝負を受けろ!」


 こ、コイツは……。また勝手なこと言いやがって。


「あー、イチローもあんな言い方無いです。あれじゃ、相手は怒るに決まってるです」


「確かにイチロー様には偶にイラっとさせられることがありますね」


「いや、あれはきっと作戦だな。相手を怒らせて剣筋を鈍らせるつもりだ」


「イチロー、僕、少し飽きてきたー。メイにお茶を淹れてもらって休憩にしようよ」


「マスター、お茶ですか?」


 こ、こいつらは……。またなんか勝手なこと言ってる。


「とはいえ……」


 そう言って、ミラが俺とアベルの前に進み出る。


「さっきも言ったが、真剣の勝負は受けられん。どうしてもいうなら私が受けよう。お前もこのままではおさまりが付くまい」


 アベルはミラの言葉を受けニヤリと笑う。


「ふん、辺境の田舎剣技などたかが知れている。その上女だと? 相手にならん! それになんだその古ぼけた剣は? 辺境にはそんな物しかないのか?」


 ミラの動きが止まる。俺に背を向けているのでどんな表情をしているかはわからないが、雰囲気が変わったのはなんとなくわかる。


「……これで、私にも理由ができたな。お前の決闘を受けよう。いや、こちらから申し込む。……ギル!」


 ギルバートはため息をついている。しかし、止めようとはしない。俺も、なんとなく口を挟めなくなってしまった。よりによってドルフに貰った剣を貶すなんて、アベルはアホだな。


 アベルとミラはお互い剣を抜いた状態で向かい合う。


「これより、アベル・レイクス殿とミリアナ・ラステイン殿の決闘を執り行います。立会人は私ギルバート・トゥーティアが務めます。略式となりますが、双方、いかような結果になろうとも、遺恨を残さぬと剣に誓いを」


 ギルバートはいつも通りの落ち着いた声でアベルとミラにそう告げる。


「どのような結果になろうと遺恨は残さぬとこの剣に誓おう。……決闘となれば、俺は相手が女でも容赦はせんぞ」


 アベルは真剣な表情でミラを睨みつける。


「私もこの剣に誓う。……さっさと始めよう」


 ミラは軽く剣を素振りしながら、いくぶんなげやりに言い放つ。


 二人の誓いの言葉の後、ギルバートの合図で決闘は始まった。


 アベルはまたじりじりと間合いをはかっている。ミラは特に気負う様子もなく、いつものように剣を構えている。やはり真剣の勝負となると緊張感が違う。見ているこちらも息を飲んでしまう。

 二人はしばらく、対峙していたが、呼吸をはかっていたのか、それともなにかきっかけがあったのか、不意にアベルが裂ぱくの気合とともにミラに切りかかる。


 ……甲高い金属音の後、アベルの剣は宙を舞っていた。そしてミラの剣はアベルの首筋に当てられている。落ちてきたアベルの剣が地面に刺さる。二人は数秒その姿勢のままだったが、やがてミラが剣を引いた。


「剣を拾え」


 呆然としているアベルにミラは静かな口調で言う。アベルはしばらく動かなかったが、気をとりなおしたように、地面に刺さっている剣を引き抜く。


「今度はこちらから打ち込む。ちゃんと受けろよ」


 ミラの言葉に、アベルは気圧されたように剣を構える。ミラはおもむろに右手で剣を振り上げる。左手には革製の鞘を持っている。少し遠い間合いで剣を振り下ろしそのまま体を回転させる。勢いのついた剣がアベルを襲う。

 流刃の型だ。

 アベルは斜め上から振り下ろされるミラの剣を受け止めるべく、自身の剣を掲げる。反応できただけでも凄いと思う。ミラの動きはそれほど早く鋭かった。


 俺は反射的に【思考加速】を使ってしまい、その瞬間を見た。ミラの剣はアベルの剣を切った。折ったのではなく切ったのだ。ミスリルの剣がアベルの剣の中ほどまで食い込んでいくのはっきりと見た。そして次の瞬間にはミラが左手に持った革製の鞘がアベルの横面を打ち据えていた。

 鞘での一撃を受けたアベルはぶっ飛び、頬を押さえ悶絶している。いくら革製といっても当然芯が入っている。角ではなく腹の部分で殴ったようだが、あの勢いなら相当に痛いはずだ。というか、よく気絶しなかったな。


「これが辺境の剣技だ。そしてこの剣は大切な友人から賜った私の誇りだ。お前ごときの血で汚したくない。負けを認めろ」


 ミラはミスリルの剣をうずくまるアベルの鼻先に突きつけ静かに告げる。


「……俺の、負けだ」


 アベルは絞り出すように言った。


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