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りたーにんぐ!  作者: 消しカス
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49 帝都騒乱編5 帝都への旅路


 俺達が帝都へ出発する日が訪れたのはあっという間だった。ただ、帝都のやんごとなき人たちに会うときのために、前もって手配していた俺たち用の正装が仕上がってきたり、貴族の常識と言うか、恥ずかしくない立ち振る舞いの勉強会が行われたりと、いつもと少し違うこともあったりしたのだが、俺の淡い期待とは裏腹に、地獄の特訓は通常通り行われた。

 ただ、変化もあった。トアの様子がおかしい。エリーとの魔法の練習や、アンナを含めた勉強会のような場では普段通りなのだが、偶にぼーっと考え事していたり、頭を抱えて身もだえしていたりする。それだけならさして気にはしないのだが、なんだか俺に対する態度がよそよそしいように感じる。俺と二人きりになるのを避けているというか。これから旅に出ようというのに、これは少し問題が有るかもしれない。という事で、魔法の練習などでトアと一緒にいることが多いエリーに声をかけてみた。

「さすがに気が付きましたか。……そうですね、トアの様子がおかしいことはわかっています。ですが、これはトア本人の問題ですので、そっとしておいてあげてください。特にイチロー様が変に気を回すとおかしなことになるかもしれません。イチロー様は今まで通り普通に接してあげてください。くれぐれもお願いしますね。それと、トアの様子がおかしくなった原因を知りたければミラとアンナさんにお尋ねください」

 エリーのこの言葉を聞いて、すでに嫌な予感しかしなかったのだが、言われた通りに二人に尋ねてみた。タイミングの関係でまずはアンナにそれとなく尋ねた。

「あのねー、メイちゃんを診たときに、私が、カロリナに兄弟が出来るかもって言ったのが気になったみたいで、私とギル君が何をしたのかを聞きに来たんだー。それで、そのー、夜のテクニック的なことを聞きたいのかと思って、詳しく話しちゃった。……だって、あんなにお子様だとは思わなかったんだよー。亜人種の年齢はわかりづらいし、ギル君もトアちゃんは凄い魔法使いだって言ってたから、もう大人だと思ってて……。話してる途中で、なんか反応がおかしいなーって思ったんだけど、教えて下さいって言われたら断れなくてさー。……で、会話の流れで、ミラに渡したお土産の本の事なんかも話しちゃって……。あの、ごめんなさい!」

 ………俺に謝られてもしょうがないのだが。そのあと、一応ミラにも聞いてみた。

「あー、その件か。その、言いにくいのだが、アンナが土産に持ってきた本をトアが見てしまってな。それが普通の本ではなかったというか……。その内容に少しショックを受けてしまったようなのだ。急に私の部屋に来て、しばらく話をしていたのだが、私がアルトとおばあ様に呼ばれて席を外した時に見つけたみたいでな。ベッドの下に隠してはいたのだが……。ちなみに何冊か貸してくれと言われたのでなるべくソフトなやつを見繕って貸してある。……フチ、ああいうのは遅かれ早かれ誰しもがいつかは通る道だ。私に言えるのは一つだけだ。……優しくしてやってくれ」

 ミラは真剣な顔でそう言うと、去り際に俺の肩を叩いて去っていった。もう、色々とつっこみどころしかないのだが、開き直っているのか? 優しくしてってどいう意味だよ。

 まぁ、確かにミラの言う通り、いつかは通る道なんだろうけど。トアって十二歳ぐらいだっていってかな? この世界の暦は元の世界と少し違うみたいだけど、そういう事に興味を持ってもおかしくはない年頃なのか。

 ただ、ハルにだけはそういうのを教えないでもらいたい。どうなるか想像がつくような、つかないような、なんにせよ面倒なことになるに決まっている。二人には釘を刺しておかないといけないな。


 とにかく、そんなこんなで日々は過ぎて行き、俺達が帝都に旅立つ日がやってきた。

 人数の関係で帝都へ向かう馬車の数も増え、俺たちは適当にわかれて乗り込んだ。アルファード達、居残り組の見送りを受けガサの町を後にする。

 帝都までは何事もなく進めば六日。石畳の街道が整備されているのだが、途中、難所と呼ばれる個所が数か所あるらしい。森の様な場所や谷のようになっている場所で、稀に盗賊や魔物が出没するらしいのだ。あとは、帝都とラステインの領地の間に他の領地を一つ挟むため、関所越えがあるという。ただ、今回の件は一応通達がいっているし、いざとなれば皇帝陛下の勅命の書状があるから問題ないといっていた。皇帝と会う謁見の日にも余裕を持たせて予定を組んであるので、帝都についたら観光でもしようかということになっている。

 馬車の速度は、人が歩くスピードより少し早いぐらいで、朝出発し、何事もなければ日が暮れる前に宿があるような町につくらしい。それを六回繰り返せば帝都に到着するという。

 特にこれといってトラブルなども起きず、旅の行程を消化していく。三日目に他領との境である関所も問題なく通過した。レイクス家という侯爵家が治める領地で、治安も良く街道の整備もされているので、この先は盗賊などの襲撃はおそらくないだろうとのことだった。辺境の町が栄え人の往来が増えれば、必然的にその通り道であるレイクス領にも恩恵があるという事で、ラステイン家との関係も良好だという。アリオンも少しほっとした様子だった。

 ただ、馬車での移動は一日中座っているだけで、はっきりいって暇だ。特に俺はこの世界の字が読めないので、本を読んで時間をつぶすこともできない。会話ぐらいしかすることがないのだが、そんな俺に気を使ってくれたのかアリオンとギルバートやアンナが話し相手になってくれた。時間はあるので、帝国の経済状態とかの真面目な話から、三文ゴシップのようなくだらない世間話など内容は多岐にわたった。アンナからギルバートとの馴れ初めというのろけ話を一日聞かされた時にはさすがに少しうんざりしたが、まぁ、退屈するよりはましと思う事にした。

 色々な話をするなかで、これから会う事になっている、現皇帝陛下の人柄など、興味深い話もいくつかあった。あと、なにげない世間話の中で気になったのが、紙と本の話だ。

 帝都ではここ数年で、紙の生産技術と印刷の技術が急速に発達しているという。印刷と言っても木版や銅版のようなもので大量生産というわけではないようだが、それまでの手書きで書き写す写本が主だった時代に比べれば格段に生産量が増え、それにともなって製紙技術も向上しているらしい。庶民にも高級品だった本が手に入るようになり、文字を勉強するための教科書のような物も出回っているという。また、帝都では日刊とまではいかないが新聞のようなものもあるらしい。そして、人ある所、エロあり、というわけで、春画のようなものも流行っているようだ。結構過激な物もあるらしく、一部では問題視する者たちもいて、規制すべきではないかとの声も上がっているとか。どこの世界でも人の世の営みは変わらないな、と少し感慨深かったのだが、俺が気になったのはそこではなく、その本の出どころである貴族家、そのお抱えの絵師という人物のことだ。名前も聞いたがどうやらペンネームらしく、作風により違う名前を幾つか使い分けているらしい。エロだけでなく、昔話の英雄譚や、劇や芝居になっている有名な話を絵本としてまとめたりもしていて、絵が中心なので、文字が読めないような庶民でも楽しめると評判だという。当然貴族の間でも人気があり、特にエロ関係の本は若い貴族の娘の間で流行っていて、サロンや社交の場でも話題になっているらしい。また、子女に対する性教育の教本として買い与える貴族もいるらしく、アリオンもアルティアナに買い与えるかどうか迷っているそうだ。アルファードに相談したら、まだ早いと言われたそうだが。

 その話を聞いた夜、宿でアンナに尋ねてみると、アンナが持っている薄い本と呼ばれる物がまさにそれだった。トアに渡したと聞いたので、一応参考までに実物を見せてもらったのだが、江戸時代の春画のような、一枚ものの絵画みたいなものを想像していたのでびっくりしてしまった。なんというか、コマ割りがしてあり、ふきだしにセリフが書いてあり、効果線も引いてある。絵もリアルなものではなく少しデフォルメされたもので、ストーリーもあるようだった。字が読めなくてもストーリーがわかるのは凄いなと感心しつつ、俺は叫んだ。

「エロ漫画じゃねーか!」

「それ、今、帝都ですっごい流行ってるんだよー。私も手に入れるの苦労したんだから、使ってもいいけど変な液体で汚さないでね」

「使わねーよ!」

 正直ちょっと使いたかったが、反射的にそう答えてしまった。失敗した。

 俺はその本を見て確信した。この本を書いているのは日本人だ。そのうえ、アリオンから聞いた話の感じでは漫画を、特にエロ漫画を描きたいが為だけに、この世界の製紙技術や印刷技術を発展させたふしさえ感じる。その貴族のお抱えの絵師って人に会う事が出来ないだろうかと思ってアンナに聞いてみると、公の場には一切姿を現さない謎の人物で、男か女かもわからないらしい。帝都に住んでいるのは確かなようだが。うーん、アリオンに相談してみるか。渕一郎が日本の事について話したいと伝えてもらうか、日本語で手紙を書いてもいいかもしれない。その絵師が本当に日本人なら、反応はあるはずだ。俺が逆の立場なら会おうとすると思う。正直面倒なだけだと思っていた帝都行にも少しやる気が出てきた。

 ちなみに、一応トアに渡っているという本の内容を確認したのだが、冒険者パーティーの男戦士と女魔法使いの純愛物とか、盗賊の男と女魔法使いの危険な恋とか、英雄になった幼馴染と偶然再会した女魔法使のやけぼっくい的な話とか、そんな内容らしい。なんだか作為的なものを感じるのだが、気のせいだろうか。


 問題が発生したのは四日目の夕方、レイクス領で一番大きい町だというザヤミの町の入り口でのことだった。なにやら町に入るのを足止めされているらしい。しばらくたっても馬車が動かないので、何事かと皆降りてくる。

 見ると町の入り口の門の前に兵士らしき男たちが数十人ほど立っており、ギルバートを含むこちらの従者たちとなにやら揉めているようだ。アリオンがそちらに歩いて行くので俺たちもそれに付いて行った。

「なにごとだい?」

 アリオンがギルバートにそう声をかける。

「申し訳ございません、お館様。どうやら少し行き違いがあるようです」

 ギルバートがアリオンにそう言い終わるかどうかのときに、揉めていた人垣の中から一人の青年が進み出る。

「あなたがアリオン卿だな? 私はアベル・レイクス。このレイクス領を治める、ザナク・レイクスより、この地の代官を任されている。なにやら辺境の英雄なる人物を帝都に連れて行くそうだが、そのようなどこの馬の骨ともしれん人物を、私が治める町に入れるわけにはいかん」

 アベルと名乗ったその人物は、なにやら得意げな顔でそうまくし立てる。白を基調とした豪華な鎧を身にまとい、濃い赤のマントを羽織っている。背が高くすらっとした細身で男にしては髪が少し長めだ。整った顔をしているが口ひげは似合っていないように思う。歳が若いせいかも知れない。俺と同じくらいか、少なくとも三十歳には届いていないだろう。

 アベルのその言葉を聞いた俺とアリオンは顔を見合わせる。

「えーと、アベル殿? 今回の件は皇帝陛下の勅命で動いておりまして、通していただくわけにはいきませんか? なんなら陛下がしたためられた勅命の書状をお見せいたしますが」

 アリオンは丁寧な口調でそう告げる。伯爵より侯爵のほうが偉いんだったかな。

「その必要は無い。見せられても真贋の確かめようがないからな。陛下の勅命というのも怪しいものだ。そのような大事であれば私に話が無い訳がない」

 俺とアリオンはまた顔を見合わせる。

 ……コイツ馬鹿なのか? もしアリオンが嘘を言っているなら、皇帝の名を使って嘘を言っていることになるんだぞ? それがこの国でどれほどの罪になるのかは知らないが、そんなのただで済むわけないだろ。そんなん異世界人の俺でもわかるわ。それに真贋がわからないっていったって、皇家のサインなり紋章なりがあるはずで、それを高位の貴族が知らないはずはない。それを確認したうえで本物なら皇帝の勅命を邪魔したことになるし、もし偽物なら、そんな物まで作って嘘をつくアリオンの罪が重くなる。それを見せるって言ってるんだから嘘でも本当でも大事だと、少し考えればわかりそうなものだが。逆にコイツが何を考えているのかがわからない。

「お館様、この町を迂回するルートもありますが、到着は三日ほど遅くなります。いかがいたしますか?」

「うーん。まいったなぁ、陛下との謁見の期日には間に合うけど、早めに着いて諸事の調整をしたかったんだけどね。だいたい話がいってないはずないんだよ。今日はここの領主館で晩餐を頂いて、休ませてもらう手筈なんだし」

 アリオンとギルバートは小声で話し合いをしている。他のメンバーも俺の周りに集まって来る。うーん、エリーあたりが暴れだす前になんとか穏便にすませたいものだけど。

「えーと、アベル様? よろしいですか?」

「なんだお前は?」

 アベルは俺から声をかけられ、じろりとこちらをにらむ。

「俺、えー、自分はフチ、じゃない、ロウ・フチーチというものです。少しお尋ねしたいのですが」

「ほう、おまえがかの英雄と呼ばれる人物か。いかにも胡散臭いな。竜を倒したという話だが、トカゲの子供を倒した話を大げさに吹いているのではないのか? まったくそんな話を信じる辺境伯もどうかしている。周りにいるのがお前の仲間か? 女子供ばかりではないか。市井の人々はこんな者達を恐れているのか? とんだお笑い草だな」

 アベルはそう言うと薄笑いを浮かべる。なんともわかりやすい嘲笑の笑みだ。うん、わかった。コイツ馬鹿だ。

「何コイツ? イチロー、僕、コイツ殴りたい」

「次に何か喋ったら縫い合わせますね」

「なんだか新しい魔法の練習をしたくなったです」

「マスター、排除します。ご命令を」

「ああ、アホのアベルか」

 あーあ、ほらみろ、一触即発じゃないか。この人たちを抑えるのも大変なんだぞ。それと最後ミラ、なんて言った?

「あー、アベル様!」

 俺は他のメンバーを牽制するため、少し大声を出す。

「な、なんだ?」

 アベルは俺の大声に少しだけ身構える。

「今の話だと、ここを通れないのは俺たちだけで、アリオンさん達は通っていいんですよね?」

「あ、ああ、そうだな、アリオン卿は別に通ってもかまわない。お前たちはダメだ」

 俺はアベルのその言葉を聞いて、アリオンに告げる。

「と、いうことなんで、俺たちは一つ前の町に引き返します。そこで待ってますので。ってことなんで、皆も行こう」

 俺の言葉を聞いたアリオンはそれだけで合点がいったようだ。

「では、アベル殿、私だけ通してもらいますね」

「あ、ああ」

 そのあと、アリオンは馬車に戻る前に俺の方へ近づいてきて小声で話しかけてくる。

「いやぁ、レイクス家の嫡男は出来が悪いという噂は聞いていたけど、まさかここまでとは。陛下の勅命を意図的に邪魔するっていうのは、いってみれば国家反逆罪だよ? 下手したら領地没収で爵位の返上も有りえる話なんだけどなぁ」

「あの、なるべく穏便にお願いします。だれかが怪我をしたわけでもないですし」

「わかってるよ、彼の父であるザナク卿とは戦友だしね。個人的にも仲よくしている。ただそれだけに心配だよ。あんなのが後継ぎではお家が立ち行かないだろう。もう子供って歳でもないはずなんだけどなぁ」

「えっと、死刑とかホント勘弁してくださいね。寝覚めが悪すぎる」

「ああ、ザナク卿にも言っておくよ。じゃあ、明日には迎えをよこせると思うから」

 アリオンはそう言って馬車の方へ向かっていった。従者たちとそれを乗せた幌馬車を引き連れて町の門を潜っていく。

 ギルバートとアンナもこちらに残っている。賓客用の馬車は六人乗りなのだが、ギルバートが御者を務めるらしい。

「もう、ガサの町に帰ろうよ。僕、馬車飽きちゃった。僕がこの箱ごと皆を運ぶからさぁ」

 動き出した馬車の中でハルがぼやく。

「ハル、帝都観光に行くです。もう少しの我慢です」

「しかし、先ほどの彼はなんだったのでしょうか? 私達の邪魔をしたら、なにをどう考えても大事になることぐらい、コボルトでもわかりそうなものですが」

 エリーのその言葉をきいたミラが笑う。

「アホのアベルはアホで有名だからな。しかしあそこまで馬鹿だとは知らなかった」

「そうです! 新魔法を試すチャンスだったです。おしいことをしたです」

 そういえばトアはそんなことを言っていたな。

「トア、新魔法とは以前言っていた例の魔法ですね? 本当に完成したのですか?」

「理論は完璧です。でもなかなか試す相手がいないです。最近は町でも絡まれなくなったですし」

「そうですか、……あの恐ろしい魔法が完成したのですか」

 え、なに? 怖いんだけど。っていうかエリーが恐れるってどんだけ?

 その後、その新魔法について尋ねたが、見てのお楽しみという事で、結局教えてくれなかった。

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