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りたーにんぐ!  作者: 消しカス
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閑話 裏の話5

 うーん、この時期でE判定はやばいなぁ。お父さんはともかく、お母さんがなぁ。


 ただ、それ以前に勉強が全然頭に入ってこない。でもその原因はわかってる。もちろんアーニ君の事もあるけど、そんなんじゃなくて、私には夢っていうか目標が無いからだと思う。


 他の子は公務員とか看護師とか、はっきりしたイメージをもってそれに向けて勉強頑張ってる。そこまではっきりしてなくても、例えば英語が得意だからそれを生かせる仕事に就きたいとか。

 とりあえず進学して、なにかやりたいことが見つかればいいなぁなんて思ってたけど、考えたらそんな軽い気持ちで大学なんて行っていいのかな。お金も凄い掛かるのに。かといってすぐに社会に出る覚悟もないし。他にも私みたいな子はいるけど、何をモチベーションにしてるんだろう。


 夕飯とお風呂を済ませて、自分の部屋で参考書を睨みつけながら、そんなことを考えていると、トイレに行っていた椎子が部屋に戻ってきた。


「いやぁ、正直、藍が羨ましいわ。ウチの家族は滅茶苦茶やからな」


「……やっぱ、まだ揉めてるの?」


「ああ、あらいかんわ、金の話しやのうて、感情の話になってしもうとる。まぁ、ウチは今年受験やからか、あんまりそないな話は振ってけえへんけど、兄貴は色々大変みたいや。……それでも藍の兄貴に比べらたどってことない話かもしらんけどな」


 椎子はそう言って少し笑った。椎子の両親はお金持ちの家の家系らしい。それで遺産相続とかで揉めているって話はきいたけど、なんだかとてもややこしいことになっているようだ。


「別にあの人らと縁切りたい訳やないけど、はよう、社会人になって独り立ちしたいわ。……さて、気合入れて勉強しよか」


 身の回りで何が起ころうと、地震でも火事でも、たとえ実の兄がゴブリンになろうと、受験生のやることは勉強だ。家庭の事情や環境は関係なくふるいに掛けられる。それはわかっているんだけど。


「アーニは何してた?」


 こんな状況で集中するのも難しい。


「藍のオトンとスマブラしとった。めっちゃ盛り上がっとったで」


 なにそれ見たい。スマブラするゴブリン。何のキャラ使ってるんだろう。やっぱクソ緑かな? ていうか私も遊びたい。


「……あかんで、ウチらは勉強や。藍のオトンにゲーム誘われてんけど、藍のオカンに釘さされたわ」


 う、見抜かれてる。そんなこと言われてもなぁ。


「後でお茶用意するからしばらく頑張りなさいやって。……それにしても、あんな謎の生き物と初めて会ったその日にスマブラやるって……比較する対象が無いからわからんけど、それが普通なんか?」


「あー、お父さん、ゲーム好きだけど最近は私も勉強しなきゃだし、久しぶりに相手がいてうれしいんじゃないかな」


 お母さんはゲームはやらないし、兄さんが家を出て行ってから、私がたまに付き合ってたけど、どっちかというと後ろで見てる方が好きなんだよね。ただ、スマブラは面白いけど。


「それよりも、藍のオカンや、あの人何者なんや? めっちゃ落ちついとるし、なんとかするって、どないする気なんやろ。役所勤めの公務員違うんか?」


「何者って言われても、お母さんは普通のお母さんだよ。何課とかは知らないけど公務員だって言ってたし、それは間違いないよ」


 それは私もちょっと思ったけど、お母さんがなんとかするっていったから、きっとなんとかするんだろう。私はそれをよく知ってる。兄さんのストーカーの絡みで色々あったけど、対応はほとんどお母さんだったし。今回の件を同列に考えるのは違うような気もするけど、私はすでに解決したような気さえしている。あの人の言葉にはなんていうか、そんな重みを感じるときがある。奇妙な冒険風に言うと凄みだ。


「……まぁ、考えてもしゃーない。学生の本分は勉強や。頑張ろか」


 その後しばらく真面目に勉強した。途中で少しお喋りしたりスマホいじったりしたけど、椎子が居てくれてよかったと思う。私一人だと煮詰まって何も手に付かなかったかもしれない。隣に頑張ってる人がいると私もやらなきゃって気になるし。


 そうして二時間ぐらい経ったころ、お母さんが私達を呼びに来た。お茶を用意してくれたようだ。椎子と二人でリビングに行くと、お父さんとアーニは今度はマリカーやってた。アーニはコントローラーを操作するときに滅茶苦茶体が動いていて、それを見て椎子と二人で笑ってしまった。


 その後お茶を飲みながら、少しだけ一緒にゲームして遊んだりしていたら、あっという間に時間は過ぎていった。アーニはリビングに布団を敷いて寝るらしい。お父さんも今日はリビングで寝るそうだ。ゴブリンとゲームして遊んだ最初の人類かも知れない、とか言いながら少しはしゃいでいた。ちなみにお風呂も一緒に入ったらしい。それはさすがにどうなのって思ったけど、まぁ、お父さんがいいならいいか。椎子は何か言いたそうな顔だったけど。


 お父さんとアーニはまだ遊びたそうにしていたけど、最終的にはお母さんからもう寝なさいって怒られていた。


「あなたたちもそろそろ寝なさい。明日、あちこちでこのこと喋っちゃだめよ。お父さんもよ。会社の人に写真送ったりしたらダメですからね。ネットにアップするなんてもってのほかですから」


 お父さんは神妙な顔で頷き、アーニは首をかしげていた。


 私達が挨拶して部屋に戻ろうとしたときにアーニが声を掛けてきた。


「アイ、オヤフミ、オヤフミ」


「うん、おやすみなさい」


 私達は部屋に戻って暫くお喋りしてから眠りに就いた。


 結局啓介さん達から連絡なかったし、こちらから連絡しても繋がらなかった。




 翌朝、アーニは朝からカレーを食べていた。

 昨日の夕飯の時も三杯もおかわりしてたけど、カレーという言葉を覚えたようで、朝食の準備を始めたお母さんに「カレー、カレー」といってペコペコ頭を下げてきたらしい。そうとう気に入ったようだ。ゴギャゴギャいいながら、スプーンで掻き込む姿が微笑ましい。


 その後私と椎子は部屋に戻って勉強したりお喋りしたり、たまにリビングでアーニと一緒に遊んだりしながら一日過ごした。


 お父さんは病欠ということにして会社を休んだようだ。一日中ゴロゴロしたり、アーニとゲームしたりしていた。


 お母さんは何やら部屋に籠ってあちこち電話したりパソコンで何かやっている様だった。そして夕方にお父さんと車で出て行ってしまった。なんでも今回の件の事情を知ってそうな人を迎えに行くそうだ。


 どういう事か聞きたかったけど、バタバタと準備をして出て行ってしまった。

 そして、お母さん達が出て行ったあと一緒に勉強していた椎子が突然こんなことを言い出した。


「藍、ウチちょっと家に行って来るわ。忘れもんしてもうた。藍のオカンの手前言い出せんかったんやけど……」


「え? それってどうしても必要なモノ?」


「ああ、パンツや。荷物に入れたつもりが入って無いねん。さすがに藍のパンツ借りるわけにもいかへんやろ?」


「私は別にかまわないけど」


「ウチが構うわ! パンティやで! なんていうか抵抗ないんか?」


 うーん、洗濯してるし、洗濯して返してくれれば別に問題ないと思うけどなぁ。そりゃ、椎子が男だったらやだけど。


「じゃあ、うちで洗濯するとか」


「その間ウチはノーパンで過ごすんかい! ………はぁ、もうええわ。とにかく行ってくるから。またタクシー使うからすぐや。藍はまっといて。なんかあったら連絡してや」


 椎子はそう言うとスマホでタクシーを手配して出て行ってしまった。

 私はしばらく一人で部屋で勉強していたんだけど、急に一人になってしまってなんだか勉強も身が入らなくなってしまった。学校とか塾の先生も勉強は集中力が大事だって言ってるけど、なんとなく集中できない。まぁ、みんなすぐ帰って来るだろうし、それまで休憩しようと思いリビングに行くことにした。アーニのへたくそなゲームでも見ながらお茶でも飲もう。


 部屋を出てリビング行こうとしたがそこで足が止まってしまう。アーニのゴギャゴギャと言う声ともう一人女の人の声が聞こえてきたからだ。


 その声はどうもお母さんの声じゃないようなので、なんとなく息を飲んでしまうしまう。お客さん? そう思って足音を忍ばて玄関に確かめに行ったけど、それらしき人の靴は見当たらない。

 聞こえてくる声の調子は、言い争っているようにも聞こえるし、楽し気なようにも聞こえる。しばらくその場でじっと聞いていたが、やっぱりお母さんの声じゃないようだ。そして日本語でもない。でも英語とも違うし聞いことのない言葉だ。


 このまま玄関に立っている訳にもいかないので、また足音を忍ばせながらそっと歩きリビングに向かう。何かあったら逃げようと思って、靴を履こうかとも行こうかとも思ったけど、さすがに抵抗がある。泥棒じゃないんだから。自分の家だし。


 息を殺しそっとリビングをのぞき込むとテレビの前でアーニと知らない女の人が座ってゲームをやっていた。二人とも凄く楽しそうで、めっちゃ体と手が動いている。やってるゲームはマリカーかな?


 ゆっくりとリビングに入って暫く二人の後ろ姿を眺めていたが、ゲームに集中しているのかこちらに気が付く様子は無い。

 アーニは相変わらずゴギャゴギャ言っているが、女の人は違う言葉だ。でも二人は意思の疎通が出来ているように見える。女の人の格好は紺色のジャージみたいな姿で、金色の髪を緩い三つ編みにしている。アーニの知り合い?


 このままでは埒が明かないので、とりあえず声を掛けてみることにする。


「あのう、こんにちは?」


 私が少し遠慮がちに声を掛けると、さすがにこちらに気が付いたようで、振り返って話しかけてきた。でもその言葉は聞いたことのない言葉で全然わからない。

 女の人は私が戸惑っていることに気が付いたのか、アーニと少し話した後で改めて私に向き直り話しかけてきた。


「はじめまして。私、ミシアといいます。あなたがアイさんですね?」


 その言葉は流暢な日本語だった。





「ウチのアーニがとても世話になったようで。ありがとうございます」


「いえ……」


 今、私はアーニと一緒にいた女性とテーブルに座り向き合っている。アーニは一人でゲームをやっている。

 女性は自分の名前をミシアと名乗った。外国人なのは間違いなさそうで、ヨーロッパ系の顔立ちというのだろうか。もの凄く美人で、髪は少し白っぽい金髪。年齢は私より少し上くらいにしか見えない。格好は紺色の三本ラインのジャージ。サイズが合っていない様で少しブカブカだ。というよりも何より目を引くのは長く尖ったその耳だ。これはエルフ耳というものだろうか。ハンズ辺りに売っているのかもしれないが、アーニみたいなのが居るんだし、もしかして本物のエルフさんなのか。それともバルカン星人とか。


 そのミシアさんは私が用意したお茶を口にしながら、チラチラとアーニの方を気にしている。アーニを、というより、ゲームが気になるのだろうか。


「あの……うちのお母さんは? ああ、えっと、他に誰かいませんでしか?」


「いえ、私がここに来たときはアーニだけでした」


 やっぱりお母さんが連れてきた人じゃないんだ。車の音はしなかったし、まだ帰って来てないとは思っていたんだけど。

 というか、この人日本語上手いな、とか、どこから入って来たの、とか考えがまとまらない。何から聞けばいいのかわからない。せめて椎子が隣にいてくれたらって思う。仕方ないのでとりあえず思った事を聞いてみることにする。


「えーと、アーニは、っていうか、あなたは何者なんですか?」


 私が少し考え込んでいる間に、ミシアはアーニのやっているゲームをチラ見どころかガン見していた。私の質問に我に返ったようにこちらに向き直る。


「あ、はい。私の今の立場はある国で研究員のようなことをやっています。アーニはうちで雇っている雑用係ですが……、これで通じてます? 私の日本語おかしくないですか?」


「はい、大丈夫です。いえ、あのう、私が聞きたいのは、……そうだ! 兄さんのこと知りませんか? 今井詠っていうんですけど、アーニはその兄さんの部屋にいたんで、私がつれてきちゃったんですけど」


「イマイエイさんなら、知ってますけど、ええと……イマイさんの妹さんですか?」


「あ、すいません。私は今井藍と言います。詠は私の兄です」


 テンパって名乗るのを忘れていた。向こうは最初に名乗ってるのに、何やってるんだろう私。恥ずかしいなぁ。


「なるほど。それなら事情をお話ししておいた方がいいかも知れませんね。アーニがあなたとこの家の人に凄くお世話になったと言っていたので、お礼をいったらお暇しようと思っていたのですが。……それでは、最初からお話ししましょうか。そのエイさんのこともありますし」


「兄は無事なんですか?」


「ええ、今は私の友人のツツミと話し込んでいます。イマイさんは戸惑っているようでしたけど、ツツミにとっては十五年ぶりに会った同郷の人物な訳ですから、なかなか話題も尽きない様です。私はタイミングを見て抜け出してアーニを迎えに来たわけですが」


 この人の言っていることはよくわからないけど、兄さんは無事らしい。その言葉を聞いて少しだけ安心する。

「それでは、どこから話しましょうか……」


「あ、ちょっと待ってもらう事ってできますか?」


 どうやらこのミシアという人は最初から事情を話してくれるようだけど、私だけで聞くのもの大変そうだ。アーニもそうだけど、この人も普通の人じゃなさそうだし。


 私の提案にミシアさんが頷いたのを確認して、私はお母さんに電話することにした。電話はすぐに繋がった。


「あ、お母さん? 藍だけど、今どこにいるの?」


『ああ、藍、わたしなら今駅に居るけど、どうかしたの?』


「えっと、アーニを迎えに来たって人が今うちに居るんだけど、なんか説明してくれるって、それで兄さんの事もあるから……あ、兄さんは無事みたいだよ。今は誰かとお話ししてるんだって、それで、……」


『ちょっと落ち着いて。とりあえず危なくはないのね? どんな人なの?』


「女の人で、アーニの雇い主なんだって。えーと、日本人じゃなさそうだけど、日本語ペラペラで、紺色のジャージ着てる」


『……あなたの言ってることは一つもわからないわ。すぐ帰って来るから待ってなさい。その女の人も待たせておいて。私はちょっとお客様を連れてくるから。あ、あの人達かしら。お茶菓子が戸棚に置いてあるから用意しておいてちょうだい。じゃあね。藍、そこにいるのよ?』


 お母さんはそう言うと、私の返事を待たずに電話を切ってしまった。


「………えーと、私の母がすぐ帰ってきますので、説明してもらうのはそれからでいいですか?」


 スマホをテーブルに置きながらミシアさんにそう声を掛ける。


「え、あ、はい」


 ミシアさんは、私が電話でお母さんと話している間に、またアーニの方を見ていたようだ。そんなに気になるのか。


「あのー、ただ黙って待ってるのもアレなので、やります? ゲーム。うちの母が来るまでですけど」


「はい! 是非」


 その後しばらく三人でゲームをして遊んだ。アーニとミシアさんはものすごく下手でコントローラーと一緒にもの凄く体が動いていた。まぁ、ゲームするのは初めてみたいだから下手なのは仕方ないけど。ちょっとお手本を見せたら尊敬されてしまった。ミシアさんはアーニがなんて言ってるかを通訳してくれて、なんだかちょっと不思議な感じがした。言葉が通じて自由に会話が出来るっていいなって少し思った。


 そんな風に過ごしていると、家の前で止まる車の音とドアが閉まる音が聞こえた。椎子がタクシーで来たのかとも思ったけど、椎子なら家の前に乗り付けたりしないだろう。お母さん達が帰ってきたのかもしれない。お客を連れてくるって言ってたし。

 私はミシアさんに、お母さんとお父さんが帰ってきたことを告げて、ゲームを止めてテーブルに着くように言う。一緒にゲームしてる姿なんて見られたら、また何言われるかわかんないし。でも今回の件のことがわかりそうなお客さんってどんな人なんだろう。


 そんなことを考えていると、玄関が開く音とお母さんの、ただいま、の声が聞こえてきた。私はミシアさんにリビングで待っているように告げて、玄関に出迎え行く。


「おかえりなさい」


 そう言いながら玄関に行くと、少し驚いてしまった。なんだか人がいっぱいいる。


 お母さんと、お父さん、そしてもう一人の女の人は見覚えがある。たしか須藤さんという人でお母さんの同僚の人だ。偶にだけどお母さんを車で送って来てくれたりして、うちでお茶を出したりしたことがある。まだ若く見えるけどビシッとスーツを着ていていかにも仕事が出来そうな美人さんだ。

 そしてその後ろに二人の人物。こちらは見覚えが無い。男の人と女の人。男の人は若くてちょっとイケメンだけど、なんだかくたびれた感じがする。ネクタイは曲がってるしスーツもすこしヨレヨレだ。そして女の人の方は若いっていうより幼い感じがする。背も低いし歳も私と同じくらいか下手すると年下のようにも見える。顔は美人だと思うけど、黒のスーツがとても似合っていない。なんだか服に着られているって感じ。そしてスーツ姿なのに長い黒髪を結んだり結い上げたりせずにそのままにしている。なんだかとても不自然な感じだ。


「藍、お茶菓子用意してくれた? おせんべいがあったでしょ?」


 お母さんは靴を脱いで、げた箱からお客様用のスリッパを出しながら、そんなことを言ってきた。


「あ、うん。今アーニとミシアさんっていう女の人にお茶出して待ってもらってる。……えっと、こんにちは」


 私はお母さんの質問に答えた後、玄関に立っている人達に軽くお辞儀をしながら挨拶した。須藤さんは何回か会ったことあるからか、笑顔でお邪魔します、と返事をしてくれた。男の人は少しヘラヘラしながらこんちわーとか言ってる。もう一人の女の人は真面目な顔で軽く頭を下げただけだった。


 皆で連れだってリビングに行くとアーニとミシアさんはおせんべいをかじっていた。私達の姿を見て、ミシアさんはモゴモゴしながら慌てている。でも、アーニはともかく、この状況でよく出されたお菓子を食べれるなぁ。

 ミシアさんは立ち上がると、しばらくモゴモゴしていたが、口の中のおせんべいを飲み込んでこう言った。


「はじめまして。私はミシアというものです。このゴブリンのアーニの雇い主といったところです。こちらのイマイアイさんを始め、イマイさんのご家族にはアーニが大変お世話にになったようで。あらためてお礼申し上げます」


 あ、やっぱりアーニはゴブリンなんだ。じゃあミシアさんはやっぱりエルフなんだろうか。女バルカン星人という可能性もビレゾンだけど。

 私がそんなことを思っていると、なんだか皆静まり返っている。お母さんもきょとんとしている。


「あ、あれ? 私の日本語おかしかったですか?」


「ううん、バッチリだったよ。TPOも完璧だよ」


 私はミシアさんにサムズアップする。そして、サムズアップの意味というか、この動作の意味って伝わるんだろうかとちょっと不安になる。星新一のSFみたいに、ミシアさんの国ではとても失礼な動作だったりしたらどうしよう、とかそんなことを考えてた。


「えっと、本当に日本語がお上手なんですね。すみません。ちょっとびっくりしちゃって。私が藍の母の今井真衣です。こっちが私の夫の今井雅俊。なにやらウチの息子の詠のこともご存知だと伺っております。お待たせして申し訳ありません。えーと、今この場にいるほとんどの人が初対面の人ばかりなので、軽く紹介をさせていただきますね」


 そう言うとお母さんは少し前に進み出て、皆の顔が見える位置に移動する。


「私とお父さんは今言ったから、えーと、この子が今井藍、私の娘で高校生。で、こちらが私の同僚の須藤薫子さん」


 お母さんの紹介に私と須藤さんは軽く頭を下げる。


「そしてこちらのお二人が、入国管理局の泉睦月さんさんとナナイニイチさんです」


 お母さんの紹介に泉さんという若い女の人は一瞬だけ驚いた表情を見せてそのあと軽く頭を下げていた。ナナイさんという男の人はどうもーとかいいながら頭を下げる。でもナナイってたしか……。


「お母さん、ナナイさんって………」


「そ、昨日アンタたちを追い回した人たち。法務省傘下の入国管理局特殊事案対策室別室の人達よ」 

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