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りたーにんぐ!  作者: 消しカス
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37 辺境冒険者編14 冒険パート3


「ゆっくりしていってね」

「もう一回言ってください」

「ゆっくりしていってね」

「もっかい」

「ゆっくりしていってね」

「……イチロー、さっきからなにしてるです? 同じことを何回も言わせて、何か意味があるですか?」

 俺が、自動人形と不毛な会話を繰り返しているのを見咎めたトアが、文句を言ってくる。

 ……意味ならある。この自動人形の声といい喋り方といい、ネットの動画でよく聞く合成音声とそっくりなのだ。ゲームのプレイ動画なんかでよく使われているアレだ。ついノスタルジックな感傷に浸っても仕方ない、と思う。

「さっきから、ニヤニヤして、気持ち悪いです」

 ニヤニヤもするわい。この人形の喋りが、ぜんぶ例の実況に聞こえてしまうんだからな。

 最初は、どっかで聞いたことある声だな、くらいしか思わなかった。喋ってる言葉も日本語じゃないし。そして、しばらく話をしていると、突然理解した、あ、アレに似てるんだ、と。それから、多分俺はずっとニコニコしている。特に深い意味はないがニコニコしている。

 この自動人形に事情を聞くのに思ったよりも時間がかかり、今は大空洞の手前の部屋の様になった場所でキャンプを張っている。

 大休憩ということで、食事も終わり、皆それぞれ自由に過ごしているのだが、エリーは自動人形のメイド服を修繕している。どうやらこの人形の境遇に思うところがあったらしい。過去の自分と、この人形を重ね合わせているのかもしれない。

 トアの浄化で幾分かましになったが、少し古ぼけた手足と、埃っぽい髪。しかし無表情の美しい造形の顔。手足の材質はわからないが関節は球体関節のようになっていて、いかにもな作りだ。首から上だけは人と変わらないように見える。生体パーツ的なものだろうか。

「出来ました。町に帰ったらもっと綺麗な服を仕立ててあげられるのですが」

「ありがとうございます。エリー」

「やっぱり連れて行くんだ」

 エリーの言葉にハルが反応する。

「ここにおいていくわけにもいかないでしょう。それに、新しいマスターもいるわけですし」

 俺は、エリーの言葉をききながら、この人形とのやり取りを思い返していた。


 エリーに拘束されている自動人形が俺に向かって話しかけてくる。といっても口は動いていない。

「あなた方を、ますたーみしあの仲間であると、判断します。ご命令を」

「あー、ミシアは知ってるけど、仲間ってわけじゃないんだ」

「それでは、ワタシに対する命令権をお持ちの方はいらっしゃいますか」

 俺は他のメンバーを見渡してから返事を返す。

「いやー、どうだろう、いない、かな?」

 その返事のあと、しばらく反応がなかった。顔の造形は美しいが完全な無表情なので何を考えているのかわからない。フリーズしたのかと心配になってきたところで、やっと反応があった。

「あー、……再設定するからちょっとマテ」

「は?」

「あ……あ……あぶあぶばばば」

「なに、どーした? バグった?」

 そのあと自動人形は小声でブツブツとつぶやき始めた。

「……マスターニ関スル情報ノ初期化及ビ再設定ヲ開始……権限ガ有リマセン……権限ガ有リマセン……ケンゲんがアり、まセ…………初期化完了。再設定ヲ開始シマス………あなたがワタシのますたーですか?」

「え、いや、ちがいますけど……」

「あなたがワタシのますたーですか?」

「いえ、ちがい……

「あなたがワタシのますたーですか?」

「いや、あの……

「あなたがワタシのますたーですか?」

「………ちが

「あなたがワタシのますたーですか?」

 え、なに、壊れたの?ホントに壊れたスピーカーみたいになってるんだけど。っていうか、選択肢的な問題なのかなぁ、やっぱり。

「………はい」

「了解しました、再設定を開始します。再設定完了。ご命令をマスター」

「無理やり言わせたじゃないか!」

「そんなことありません、マスター。はよせい、とは思ったけど」

「え?」

「ご命令を、マスター」

 今なんか変なノイズが……。ま、まぁいい。

「えーと、ところで名前は?」

「……前のますたーには五号と呼ばれていました。型式は、COPPE‐5、です」

「うーん、五号は少しかわいそうかな」

「マスターにはワタシの呼称を変更する権限が有りますが」

 その言葉を受けて、俺はエリーの顔色をうかがう。

「……そこで、何故私の顔を見るのかはわかりませんが、……たしかに、五号はあんまりですね。お名前をお付けになられればよろしいのでは?」

「よし、魔人の許可が下りたので、何か考えよう」

「イチロー様? 今何か

「そうだな、五号か……うーん、…………メイってのはどうかな?」

 五月にちなんで、さつきって感じじゃないから、メイだな。

「メイ……了解しました。設定完了」

 そのあと、安全を確保しやすい場所に移動し、なぜこんな所にいるのか事情を聞いた。


 この自動人形は十年前の遺跡調査の際に、ミシアによって荷物持ち兼雑用係としてここにつれてこられた三体の自動人形の内の一体。そして、どうやら調査終了の際に置いて行かれたようだ。以来十年間、この洞窟の奥で命令を実行しつづけていたとのことだった。

 命令の内容は、周囲の安全確保の為の警戒と報告。もともとが雑用目的で作成されており、戦闘能力はほとんど与えられておらず、本来、戦闘を伴うような命令は与えれていなかった。

 調査終了間際の突発的な戦闘で三体とも致命的に破壊されたと判断され、この場所に放置された。だが、その内の一体はその後に再起動し、同型の大破した二体の自動人形のパーツを流用して、長い時間をかけて自己修復を行い、命令を遂行していた。その際に安全確保の命令を拡大解釈し、洞窟内の魔物の駆除を行っていたらしい。キマイラやワイバーンなど強力な個体があふれる洞窟内で、不意打ちや毒、簡単な罠など用いて淡々と駆除していったそうだ。

 ただ、もともと戦闘能力に乏しい上に、自動人形なので行動の幅が少なく、何度も破壊され、その度に修復を繰り返し、自己を少しづつ強化して、延々と戦闘を繰り返していたとのことだ。

 十年の時を費やし、洞窟内の魔物をほぼ駆逐したのだが、そこに活動期になった古竜のハルが現れる。幾度か戦闘を挑んだが全く相手にならず敗走。しかし、受けた命令を放棄するわけにもいかず、竜との戦闘で負った傷を自己修復しながら、記憶の検索を行ったところ、過去のミシアと仲間たちの会話データから、休眠期の古竜の話題と逆鱗という弱点があることがわかった。しかし戦闘能力的に駆除は困難と判断し、排除の方向で作戦を立て、実行したという。つまり、ハルの逆鱗に細工をし、暴走させて洞窟外に追い出す作戦だ。


「……じゃあ、元を正せばそのミシアってやつがだいたいすべての元凶ですか?」

「原因、くらいにしとこうな、トア」

 元凶って、感じ悪すぎ。ただ、俺がこの世界に来たのも、タマムシが遺跡から回収されて、俺の脳内にいるのも、竜が森に現れて戦うことになったのも、死にかけたのも、エリーと知り合ってこの遺跡の調査に来ることになったのも、すべて、大元の原因はミシアだ。そう考えるとすごいな、あの酔っ払いエルフ。悪魔かなんかかあいつ。あ、魔女か。


 休憩も終わり、洞窟の深部に進むことになった。自動人形のメイも当たり前の顔でついてくる。いや、顔は無表情なので、当たり前の顔かどうかはわからないのだけど。

 出発の時に、エリーが小声で声をかけてきた。

「自動人形の……メイのことです。自動人形に詳しくないのですが、あの子は長期間、この遺跡の高濃度の魔素にさらされ続けたせいで、おそらく半魔物化しております。理屈はわかりませんが自我が目覚めつつあるように見えます。……町に戻ったら、工房で診てもらいましょう」

「あ、そうなの?」

「また、危機感のない……私の話をきいていましたか? 魔物化しているかもしれない、と言ったのですよ?」

「あ、ああ、そうだね、気を付けるよ」

 それは 辺境の魔人とかナントカの混沌とか人化した古竜族とかより、大変なことなのだろうか?

「なにか?」

 俺の微妙な表情に気が付いたのか、薄く微笑みながら問いかけてくる。だから怖いって。

「いや、……目的の場所ってどのくらい歩く?」

「それほどはかかりません。そうですね、そろそろお母様にお声掛けをしてもよろしいかと」

 エリーが言った通り、一時間も歩かないうちに目的の場所についた。

 目に入ってきた光景は、きいていた場所のイメージとは大きく違っていた。エリーには枯れた地底湖跡があると聞いていたのだが、そこは透明な水で満たされ、底の方に淡く青い光を放つ結晶の様なものが所々にあった。そのため地底湖全体が薄く青く光り、とても神秘的な雰囲気で満たされている。地底湖の大きさはよくわからないが野球場くらいだろうか? 結構広い。これにはエリーも少し驚いていた。

「地下水脈の流れが変わったのか、雪解けの水が流れ込んだのか。……太古の昔、ここは水ではなくお母様で満たされておりました。お母様は私を含む最初の四人の他にも多くの混沌の使徒を生み出し、役目を終えた使徒達の多くはまたお母様に還っていきました」

「すごいなぁ、こんな場所この洞窟にあったんだ、知らなかった」

「キレイです」

 ハルやトアも驚いている。

「どう? タマちゃん。なんか思い出しそう?」

『いや、どうだろう。懐かしいような気はするが……』

「ここからではわかりづらいですが、この地底湖の底に古い石棺がございます。私が最後にお母様にお会いした時、お母様はそちらに」

『ふむ、イチロー、口だけ貸してくれ』

 そういって、タマムシは俺の口でエリーに話しかける。

「全部思い出したわけではないが、眠りについたままアニマに還ろうとした理由は、なんとなく見当がついたよ」

「そうですか……」

「後で落ち着いた場所で話そう。……私の用事は済んだが、どうする、もう帰るか?」

「もういいです? ……タマムシにとっては大事な場所ではないのですか?」

 横で話をきいていたトアがタマムシに話しかける。

「……確かに感慨深いものはあるが、今の私にとっては大事な場所ではないよ。さぁ、他の皆がよければ帰ろう。あの青い光を見ているとなんだか吸い込まれてしまいそうだ」

 タマムシにそう言われるとそんな気もしてくる。この神秘的な光景が、急にうすら寒い、なんだか触れてはいけない物のように感じ始める。

 他の皆に確認したが、特に反対意見はなく、とっとと地上に戻ることにした。


 途中、洞窟の大空洞まで戻った時に、ハルに確認する。

「ハルはどうする? この洞窟は多分元通りだし、ここでニート生活……元の生活に戻る?」

 俺がそう言うと、ハルは少し不満げな顔をし、エリーは呆れ顔になった。

「僕の名前まで付けてそりゃないよ。竜は強者が好きなんだ。一緒に行くよ。……これで晴れて僕も混沌の勢力の一員だね。エリーもそれでいいよね?」

 ハルの言葉にエリーは軽くため息をつく。

「イチロー様が名付けを行って、ハルがそれを受け入れた時点でそうなると思っていましたが。……ハルの世話はイチロー様が責任を持ってお願いしますね」

 だから、そんなペットみたいに言うなって。

「僕、ついでに、つがいの相手を探そうと思ってたんだけど、イチローもいいかなって思ってるんだ、どうかな?」

「!! それはダメです!」

「あ、トアでもいいよ。トアが強いの、僕見てたからね。同族を探し出すのは難しいかもしれないから、他種族でもいいかなって思ってるんだけど、どうせなら強い個体とつがいたいんだ」

「? だいたい、お前、オスメスどっちです?」

「まだどっちでもないけど、イチローはオスでしょ? トアもオスだよね? だから僕、メスになろうかと思うんだけど」

「お前が何を言っているのかよくわからないですが、……でも、わたしに喧嘩を売っているのはわかったです!」

 エリーはまた軽くため息をつくと、ゆっくり歩き始めた。

「……どうでもいいですが、移動を始めましょう。メイ、荷物をお願いできますか?」

「了解しました。エリー」

「トアとハルも、暴れるのは遺跡を出てからでお願いします」

 外に出る道すがらに、詳しく聞くと、古竜の子供、つまり幼体は性別が分化しておらず、見つけたパートナーに合わせて性別を決定するという。それは、古竜種があまりにも個体数が少ないためで、同種同士で出会った際に少しでも子孫を残す可能性を上げる為にそうなっているということだった。

「話ではそう聞いていましたが、他種族でもかまわないとは初めて聞きました。まぁ、トカゲの性事情になど興味が無いのでどうでもいい話なのですが」

「え? トアはメスなの? だって、胴体の胸の所になにもないのはオスだって、人型種はそれでだいたいが判別できるって母様が……。ああ、トアもまだ幼体なんだね! じゃあ、メスになるって決めたんだ? もしかしてイチローとつがいたいから?」

「お前、ちょっと黙れです。表に出たら練習中の魔法の実験台にしてやるです」

 俺は、なんだかにぎやかになったなぁ、と思いながら、こちらに火の粉が飛んできても嫌なので、聞こえないふりをして黙々と歩くことにした。

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