表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
りたーにんぐ!  作者: 消しカス
36/177

35 辺境冒険者編12 冒険パート1


 この辺境の荒野には、少なくともしばらくは来ることはないと思っていたのだが、そんなに経たないうちにまた戻って来ることになるとは。

 この世界の移動手段は、馬か馬車か徒歩だ。そして、この辺境ではだいたいが徒歩だ。その上、大量の旅の食料を背負って歩かないといけない。ロバを手配すればよかったことに気が付いたのは、三日ほど歩いたあとだった。

 メンバーは、俺、トア、エリーの三人。

 ミラが同行したそうにしていたが、今回は遠慮してもらった。タマムシのことをまだ話していないという事もあるが、アルファードの手前もある。何しろ一度死亡扱いになったのに、大して間を置かずに、また辺境の荒野に赴くのはさすがにどうかと言う話だ。

 ちなみに、アルティアナの治療は終わらせてある。これで万が一のことがあっても大丈夫というわけだ。

 アルファードは、本当は俺とトアの同行には難色を示していたのだが、俺が頭を下げて頼むと渋々了承していた。理由は適当にでっち上げた。竜のその後が気になるから、とか、お世話になったゴブリン村が心配だからとか。まぁ、それらの理由が全部嘘というわけでもない。

 ただ、アルファードにとって、エリーとトアの模擬戦は衝撃的だったらしく、身の危険に関しては、あまり心配はしていないといっていた。

 エリーは、本当に食事や睡眠の必要が無いらしく、旅の間の夜の見張りや警戒はだいたいやってくれた。また、キャンプ中の糸の結界の性能が素晴らしく、これにはトアも感心していた。

 夜営の時にエリーに食事の件を尋ねると、空気中の魔素を吸収して活動できる体になっているそうだ。詳しく説明しましょうか? と言われたが、謹んで遠慮しておいた。この人結構お喋りっていうか、説明好きだよな。

 ただ、トアが後でこっそりと教えてくれたが、魔素を魔素のまま吸収しそれで生きていくという事は、ごく一部のスライムの様な原始的な生物以外には、まず不可能なはずで、特に魔法を扱うものは理屈でなく本能で無理だとわかることだという。ハッキリいってあり得ないと言っていた。

 旅は順調だが、目的地の遺跡に近づくにつれ、薄く積もった雪が目につき始める。そして朝晩の冷え込みも辛い。だが、もうしばらく経つと一面の雪景色となり、山脈の麓は二メートル以上積雪する場所もあるという。

「まだ間に合うとは思いますが、本格的な雪の時期になると、遺跡の入り口が判らなくなるほど積もりますから」

 エリーの言葉にトアも頷いている。たしかに長老も雪の季節は大変だみたいなことをいってたしな。

 寒さに耐えながら旅を続ける。魔物との戦闘はあったが、エリーとトアが一瞬で殲滅するので、時間的ロスもなく、本来八日ほどかかると見ていた行程だが、六日で目的地である遺跡に着くことが出来た。全体の行程としては行きに八日、遺跡調査に二日、帰りはゴブリン村に立ち寄るので十日ほどの日程を組んでいる。冒険者組合には三十日で予定を提出してきた。ていうか、着いたのはいいけど、帰りに同じ距離を歩くことを考えるとうんざりするなぁ。

 

「ここです。元が町だったのか、宗教的な施設だったのか、詳しいことはわかっていません。ただ、麓の遺跡、と呼ばれています。現在の人類の有史以前からあるといわれていますが、詳細は不明です」

 五メートルほどの高さの古い苔むした石柱の前でエリーは言った。遺跡といっても何かしらの建造物があるわけではなく、その石柱以外は城址のように石垣や建物の土台だけが残っているような場所だった。雪が積もっていてわかりづらいが、結構大きな遺跡のようだ。

「奥に地下遺跡への入り口があります。行きましょう」

 少しだけ雪に足を取られながら、進んで行く。特に見るものもないので、黙々と歩く。一時間ほど歩いただろうか、ふいにエリーが声を発する。

「あ、いますね」

 なにが? とも思って、エリーが見ている方向をに目をやると、山の岩肌に大きな石作りのアーチがあり入り口の様になっている。ここが地下への入り口か。と、その入り口の所に小さい人影があるのに気が付いた。地下への入り口の前で座り込んでいるようだ。

 少し近づくと、向こうもこちらに気が付いたのか、立ち上がってこちらのほうを振り返る。

 おもったより小柄で毛皮のローブのようなもので体を覆っている。こんなところで何しているんだろう。一人ってことは無いだろうから、ほかに仲間がいるんだろうか?

「じゃあ、殺しますね」

 エリーがいった言葉を一瞬理解できなかった。今なんて言った?

 戸惑っていると、エリーが糸を飛ばす。

 一緒に旅をしてわかったことがある。エリーは模擬戦の時はハッキリいって手加減していたと。旅の途中で現れた、あの〈ビッグマウス〉ですら瞬殺していたのだ。あまりの瞬殺っぷりに驚いていると、「殺すだけなら簡単ですので」と言っていた。

 それはともかく、ほっとくとこの人が一瞬で簡単に殺される。

「ちょっと待った!」

 すぐ止めたつもりだったが、もう毛皮のローブの上から糸で巻かれている。でも間に合ったかな。

「はぁ、待つのはかまいませんが……」

 エリーはとりあえず手を止めてくれたようだ。

「うわー! なにこれ!」

 糸で巻かれた人物は立ったままもぞもぞしている。まぁ、何者かもわからないわけだし、軽く拘束したままでいいか。

「えーと、ここでなにしてるんですか?」

 少し離れた場所から問いかける。

「え? なに?」

「ここでぇ! なにしてるんですか!」

「なにって……あれ? アンタは……」

 小柄な少年? は暗めの灰色の髪で羊の角みたいな角がある。獣人種ってやつだろうか。

「……もうよろしいでしょうか? 殺しますね」

 エリーが俺の顔見ながら、にっこり微笑む。 

「待って待って! いったいなんなの!? さっきから!」

 俺は慌ててエリーを止める。その笑顔が怖いわ!

「……イチロー様、目の前のコレは、調査依頼の対象。……つまり、古竜ですよ」

 エリーは、何言ってるのコイツ、みたいな顔で俺を見る。……いやいや、それは俺が貴女に向けたい表情だからね。


 エリーが嘘を言う理由もないので、半信半疑ながら、とりあえず小柄な少年に事情を聞くことにした。ちなみに、拘束したままだ。

 確認すると、森で暴れていた古竜で間違いないとのことで、あの撃退戦のあと、しばらくして目覚めたが、長期間暴走状態の上、短いスパンで二回の死亡はさすがにこたえたそうで、落とし穴の拘束を抜け出せなかったそうだ。そこで、昔両親から教わった人化の魔法の事を思い出し、体を小さくすることで罠と拘束から抜け出したはいいが、今度は竜の姿に戻れなくなったという。もう少し休めば元の竜の姿に戻れそうだけど、と言っていた。

「あんた、僕の逆鱗をナイフで刺した人でしょ!?」

 ……しかも俺のことを覚えていた。まずい。

「いや、あれは俺だけど俺じゃないっていうか……」

「まぁ、それは別にいいんだけど……」

 いいのかよ!

「イチロー様?」

 エリーが俺を見てにっこりと笑う。この人怖い。

「待ってって、……ほら、原因の調査だから、なんで暴れたか聞かないと」

「……殺してしまえば原因も何もないと思うのですが……イチロー様がそうおっしゃるのであれば」

 はぁ。エリーが言ってることはわからないでもないけど。

「そうだトア、トアはどう思う?」

「……わたしはどっちでもいいですが、……そうですね、コロスならエリーに習った新しい古い魔法の練習台にしたいです。そいつがホントにあのときの竜なら、そいつのせいでイチローが死にかけたです」

 うわー、怖い。引くわー。二対一かよ。こいつらはダメだ。とりあえず、事情を聞いてみよう。

「えーと、なんで、森で暴れてたんだい? あの古代蛭だっけ? あんなのが、なんだっけ、あの弱点的な場所に偶然付くとも思えないんだけど?」

「そう、それなんだけどさぁ、ぼくここに住んでたんだけど、寝起きにあのぶよぶよしたやつ付けられて、それでワケがわからないうちに外に連れ出されてさぁ」

 ふむ、なるほどわからん。

「ここに住んでるって……。えーと、順追って最初から話してもらおうかな」

「最初、最初かぁ……」

 そう言うと、古竜の少年は生まれたときからの話を始めた。まぁ、最初っていったのは確かだが。

 彼は、この辺境の銀槌山脈の山頂に住むという、銀竜の子供だそうだ。彼の話では銀竜が父で黒竜が母らしい。今まで銀の竜が住んでいるって話は聞いたことがあったが、黒い竜の話は初めてきいたな。生まれてしばらく両親と暮らしていたが、ある程度成長すると住処を追い出された。両親曰く、つがいになる相手を探しに行けと。古竜種は個体数が少ないので同種を探し世界中を旅するのだそうだ。最近は人間の数が昔に比べて増えてきているので、母親の竜が人化の魔法と人間の言葉を教えてくれたらしい。少年は面倒に思ったが、やみくもに探すより、人間の町で情報を集めたりと、覚えていて損はない、と説得されたという。

「出ていけって言われてもさぁ。いくところないし。人間の町にも行ったことはあるけど、いまいち馴染めなくてさ」

 とりあえず、山を下りた所にある、目についた洞窟の奥に住みついて、活動と休眠を数十年周期で繰り返していたらしい。

「パートナー探しはそのうち行くつもりだったんだけど……」

 さらに聞くと、活動期も特に洞窟から出ることは無く、洞窟内の大型の魔獣を捕食して、満腹になったらまた休眠するという生活を延々と繰り返していたらしい。百年後に本気出す、的なことだろうか。

「それで、この前また目が覚めたんだけど、洞窟の中の得物がなんかすごく少ないの。で、しょうがないからまた何年か寝ればまた餌も増えるかと思って寝ることにしたんだけど、うとうとしだしたときに、逆鱗にあのぶよぶよをつけられて、それで……」

 洞窟はこの遺跡の入り口の他に、北の方の山の中腹に竪穴のような出入り口があるらしい。何者かに逆鱗に古代蛭を付けられて、暴走状態でその何者かを追いかけて、その竪穴の入り口から外に出たということだった。

 暴走中もぼんやりと意識があり、大まかな成り行きは覚えているらしく、穴に落とされて、拘束され、マンドラゴラの悲鳴を聞かされ、逆鱗にナイフを刺されるのを、夢の中にいるような感覚で見ていたそうだ。

 落とし穴の拘束を抜け出した後、ここまで戻ってきたはいいが、もしかしたら、まだ洞窟の中に古代蛭をつけた人物がいるかもしれない、また同じ事をされても困る、という事でここで途方に暮れていたらしい。

 その辺はまぁいい。問題なのはこの竜の少年に悪意を持っている人物がいるってこと。その上で洞窟の外に誘導したってことは、森というか外界で竜が暴れるのをわかってやったってことなんだろうか。

「どんな人だったかわかる? その……ブヨブヨを君につけた人」

「……人型で間違いないと思うけど、あんまり大きくなかった。……あとすばしっこかった」

 うーん、それだけじゃな。

 

 事情を聞いた後、エリーとトアに相談する。最初は興味なさげに話を聞いていた二人だが、第三者というか、竜の逆鱗に細工をした存在はやはり気にかかったらしい。

「なるほど、この地下遺跡の奥の洞窟に、その悪意を持った何者かがいるかもしれないと」

「元をただせばそいつが元凶ということです?」

 人型というのも気になる。こんな人里から離れた遺跡に人?

「まだこの中にいるとは考えにくいけど、確認はしたほうがいいよな?……タマムシの件もあるから遺跡内部には行く予定だったんだけど」

 俺の言葉にエリーは頷く。

「わかりました。では、とりあえず、その古竜を殺してから中に入りましょう」

 あーもー、だれかー。

「……逆にききますが、殺さない理由はなんでしょう? たとえこの竜に細工をした人物がいたとしても、この竜がいなくなれば、同様の騒動は防げますし」

 顔に出ていたのか、俺の表情をみて、エリーはそう言った。それは、たしかにそうなんだが。

「……えーと、君は、人間のことをどう思っている? というか、君を殺した俺を恨んでいないのか?」

 竜の少年にそう尋ねてみる。

「うーん。アンタに恨みとかは別にないよ、夢の中の事みたいな感じだったし、結局生きてるしね。……僕の親が言ってたことがよくわかった。……人間は敵に回すと面倒だからなるべく殺すな、って。まさか二回も殺されると思わなかったけど」

 特に人間に敵意があるというわけでもないのか。というか、敵意があって人に害を成していたら、町で噂にならないはずがない。

「君は、名前はなんていうんだ?」

「・・・・・・だよ」

 それは、グルルルゥ、みたいな唸り声にしか聞こえなかったが、意味はわかった。

 おそらくその唸り声は竜の言葉で、タマムシがゴブリン語やこっちの世界の言葉と同じく、俺の脳に刷り込んでいたのだろう。その意味は……。

「“春を告げる者”か、……じゃあ、とりあえず、ハル、って呼んでいいか?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ