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りたーにんぐ!  作者: 消しカス
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33 辺境冒険者編10 辺境の魔人


 翌日、朝食が終わり、トアがアルティアナに朝の治療を行っている間、俺とエリーはアルファードのいる執務室に呼ばれていた。

 アルファードの横には、当然のようにギルバートが控えている。

「わかっているかもしれないが、エリーゼさんの今後ことだ」

 そうだろうなとは思っていた。俺は無言で頷く。

「貴女には、この辺境の町を三百年近く、守護してもらったわけだ。その貴女が旅に出るという。また戻ってくるという保証もない。……まぁ、それは、たいした問題じゃないんだ。辺境の脅威から領民を守るのは、本来、辺境の領主家がするべき仕事だ」

 それは、確かに言われてみればそうだ。その為に衛兵だっているわけだし、領民は税金を納めているのだ。

「貴女は三百年近く無税だった代わりに、魔物退治という勤労による納税を行っていたという理屈だ。今まで数々の難事を解決してきた、正に辺境の守護者だったわけだが、今回、フチ君に同行してこの町を離れるという。しかし、問題はその目的地が東方連合国、つまり外国だという事だ。……ギル」

 アルファードに促されギルバートは一枚の紙を差し出す。アルファードは俺に見えるようにその紙を広げる。紙質が良く上等の装飾が施されている。しかし、俺はこの世界の文字が読めないので、わかるのはそれくらいなのだが。彼なりの一種のけじめというか、誠意の様なものなのだろう。

「これは、当家がこの領地を治めるにあたっての陛下からの勅命だ。曰く、彼の者がこの地を離れる事態になった場合は速やかに報告をすること。また、その原因、目的、期間、及び目的地など、判明している事柄も同じく報告することを義務とする……とまぁ、そんなようなことが書いてあるんだが……。もう一つ、目的地が他国の場合は出来る限りこれを阻止すること、とある」

 アルファードは勅命の書かれた紙をギルバートに手渡すと、大きなため息をついた。

「貴女の戦力はでたらめだ。どれほどなのか底も見えんが、少なくとも一軍に匹敵する。貴女の様な手合いは世の中には稀にいる。魔女ミシアもそのたぐいだな。しかし、貴女は我が帝国に対して従順ではない。帝国にとっては焚火にくべられた栗と同じだ、下手に触るといつ弾けるかわからない。辺境で静かに暮らしていてもらえるのが一番だったのだが……。そんな戦力が自国内ならともかく、国外に行くのはまずい。わかりますね?」

 アルファードの言いたいことはわかる。

 不安定とはいえ一軍にも匹敵するような戦力を国外に流出させるくらいなら、帝国としては、その前に彼女を排除するという選択をするかもしれない、ということだ。正面切って敵対するとも考えにくいので、暗殺の様な手段をとるかもしれない。さらに当然同行者の俺も危険にさらされるだろう。エリーゼの動機や考えはわからないだろうが、俺と親しい関係であるとわかれば、俺を捕えて人質にすることや、俺を洗脳して彼女の舵を取るということも考えられる。少し考えただけで、これくらいのことはすぐ思いつく。

「当家はこれでも歴史ある譜代の貴族でね。陛下の信も厚い。報告しないわけにもいかないが……。ラステインの名に誓って君の身を守る、後ろ盾になるというミラの言葉も嘘にはできない。異人の君には理解しにくいかもしれないが、帝国貴族が家名に誓いを立てることは結構重いことなんだ。それに……アルティアナの件もある。私だって貴族であると同時に人の親だからね」

 アルファードは執務室のクッションが利いた上等の椅子に身を沈め、遠くを見るようなしぐさをする。 

「どうしたもんかと悩んでいるんだよ。まさに義理と人情の板挟みだな」

 それまで黙って話を聞いていたエリーが口を開く。

「私が今上の陛下に直接お会いしましょう。今更ですが初代皇帝陛下の召喚に応じたことにして謁見します。その場で帝国に翻意はないと誓いを立て、三百年の辺境の守護の代価として行動の自由をいただきます。それでどうでしょうか?……たしか初代皇帝陛下直筆の召喚状があるはずです。昨日持ってきた荷物の中にあると思います。捨ててはいないと思うのですが……」

 アルファードとギルバートは顔をみあわせる。

「それしか、ないでしょうなぁ。……しかし、初代皇帝の直筆の召喚状とは、書陵部の連中が喜びそうな品だな」

「三枚くらいあったと思いますよ」

 エリーはそういって笑った。

「それと……」

 アルファードは俺の方を見て言った。

「君の旅にミラを同行させようと思う。表向きはお目付け役だな。譜代貴族の子弟が同行しているとなれば、他の貴族に対する牽制にもなる。そしてエリーゼさん、あなたが私のコントロール下にあると思わせることができる」

「そして、あなたの家は忠臣としての誉をえる、ということですか?」

「他意はないよ。結果的にはそうなるかもしれないがね。そもそも、あなたを支配下に置いていると思われるのもリスクなんだ。そんな戦力を得て何かを企んでいるのではないかと疑われる。それに、ミラを同行させた上で、もし君たちが帝国に反旗を翻したら、当家はおそらく断絶だ。……これは君たちに対する私の精一杯の誠意なんだ」

「……失礼な言をお許しください。伯爵様のご厚意に感謝を」

 アルファードはエリーの言葉を聞いて笑いだす。

「はっはっは、辺境の魔人に謝罪と感謝を受けるなど、初代皇帝でも不可能だったのにな。……いや、失礼した。それと当主は私の父なので、私はまだ伯爵ではないですよ」

 アルファードはギルバートにミラを連れてくるように指示する。今の話をミラに伝えるためだ。

 部屋にやってきたはミラはアルファードの説明を受けて喜んでいる様だった。

「いやぁ、どうやってフチの旅に同行する許しを得ようか考えていたのだが、まさか父上の方から頼まれるとは。よろしく頼む、フチ、エリー。エリーも私のことはミラと呼んでくれ。あ、そうだエリー、後で昨日の条件でいいので私とも立ち会ってくれないか?ああ、アルトやトアにも教えないとな。失礼する」

 ミラはそう言うや否や、返事も聞かず部屋から出て行った。

「……すまん、ちょっとアレな娘なんだが、よろしく頼むよ」

 アルファードは本当に申し訳なさそうな顔で俺たちに頭を下げる。

「たしかに、ミリアナさん……ミラさんは腹芸が出来るタイプには見えませんね。……それはそうと、わたし、辺境の魔人、なんて呼ばれていたんですか?……もう少し他になかったんでしょうか……」

 辺境の魔人……もの凄くしっくり来てると思うけど。

「ともあれ、アルトの治療やミシアに送った書簡のこともある。春まではこの屋敷でゆっくりしてほしい。それまで俺は各方面に便宜を図ろう……所謂根回しだな。忙しくなりそうだ。春になったら皆で帝都に行くとしよう」

 アルファードとの打ち合わせも終わりその場は解散となった。


 そのあとトアがエリーに呼び出され説教されていた。

「トアさん、もうイチロー様からもお叱りを受けていると思いますので、多くは言いません。少しだけ。……自分の身も守れない者が大切な人を守ることはできません。人だけでなく、物、事柄、矜持。あなたが生きてさえいれば一度失っても取り戻せるものもあるのです。治癒術然り、条件は厳しいですが死者蘇生の術さえあるにはあるのです。しかし、あなたが倒れてしまってはその全ては失われ取り戻すことは不可能となるでしょう。まずあなたが無事であること。自分の身を投げうつようなことはやめて下さい。わかりましたか?」

「……イチロー、きょうじってなんですか?」

「きいているのですか?」

「はい!」

「とはいえ、トアさんの魔法の才能は素晴らしいです。私は古い魔法をいくつか知っているのですが、教わる気がありますか?」

「!! はいです! 教えてほしいです!」

「少し難しい魔法なのですが、トアさんなら私より上手に使えるようになるかもしれません、いえ、きっとそうなるでしょう。お時間がよろしければ裏の練兵場に行きましょう。ミラさんも待っていますので」

 エリーはそう言うと立ち上がり、さきに行ってしまった。その後姿を見ながら、トアは俺に話しかけてくる。

「……エリーは少し怖いです」

「ああ、俺もそう思う」

 なんか俺まで怒られている気分だった。淡々と理詰めで説教されるのはきついからなぁ。


 練兵場につくと、エリーが言っていたようにミラが待っていた。ギルバートと軽く剣の模擬戦をやっていたようだ。

「お、待っていたぞ。体もほぐれたし、エリーがよければ早速始めたいのだが」

「本当に昨日と同じ条件でいいのですか?あの条件は私に有利過ぎると思うのですが」

「ああ、胸を借りるつもりでやらせてもらうよ」

 その後少し準備をして、ミラとエリーは練兵場で向き合っていた。

 エリーは昨日と同じように何も持たずに自然体で立っている。対するミラは右手に、ギルバートの黒鋼鉄の鉈剣、左手にドルフに貰ったミスリルの剣を持っている。そして、それとは別に腰にナイフを差している。

「立ち合いは、私が行います。準備はよろしいですか?」

 ギルバートが二人に声をかける。二人は軽く頷くと互いを見やる。

「では、始め!」

 ギルバートの合図とともに、ミラはエリー向かって走り出す。ミラは、エリーの攻撃が自身の背後のかかしに届く前に、エリーを組み伏せるかエリーの背後のかかしを攻撃するしかない。つまり速攻だ。対するエリーは昨日と同じように糸を飛ばしている。

 ミラは走りながら剣を振り糸を払う。両手に持った剣を大きく振り回し、流れるような動きで一瞬も止まることは無い。糸がすべて見えているわけではないと思うが、剣の遠心力も利用して、縦に横にとアクロバティックな回転するような動きで糸に手足を取られたりしないように気を付けているようだ。

 ミラはあっという間にエリーに近づく、もう少しで剣の間合いというところで、エリーの糸で足を取られる。態勢を崩しながら苦し紛れなのか、黒鋼鉄の鉈剣をエリーの足元に投げつける。残ったミスリルの剣で糸を切り払いながら、エリーとその後ろのかかしとの軸をずらす。かかしは目の前だがまだ剣が届く距離ではない。エリーは当然かかしをかばうようにミラとかかしの間に割り込もうとするが、先刻のミラが投げた鉈剣が地面に刺さっていて邪魔をしているため、一瞬だけかばうのが遅れる。その一瞬を逃さずミラはかかしにナイフを投擲した。だが、そのナイフもエリーがスキルで発生させたシルクのハンカチのような布で防がれていた。しかし、そこで二人の動きが完全に止まる。

 その状態で一呼吸置いた後、ギルバートが宣言した。

「ミラお嬢様の勝ちとします」

 よく見ると、ミラが投げたナイフが、エリーがスキルで発生させた布を貫いて、少しだけかかしに刺さっている。

「お見事です。……そのナイフ、わたしの【手巾】を貫くとは。それにその剣も。もしかしてミスリル製ですか?」

「ああ、剣は友人から授かった物たが、ナイフはフチに借りたものだ。黒剣はギルのものだな」

 そう、ミラは俺のミスリルのナイフをトアのお説教が始まる前に借りにきたのだ。

「初見殺し、と言うやつだな。次は同じ手は通用しないだろう?」

「剣術も見事なものでした」

「流刃、という型なんだ。流れる水のように動きを止めない。剣の重さと遠心力で切り裂く。振り回されないように振り回す。結構難しいのだが、今日はうまくいった」

「……もう一度、お手合わせをお願いできますか?」

「いや、悪いが勝ち逃げさせてもらう。トアの仇も打てたしな」

 そういってミラはニコリと笑う。いい笑顔だ。

「そうですか。……なんでしょうこの気持ちは、これが悔しいというものでしょうか。初めての感情ですね」

「どんな強敵でも、作戦を練り準備をすれば勝てないことはない。フチから教わったことだよ。なにしろそうやって古竜すら倒したんだからな」

 急に俺の名前が出て少しびっくりしていると、ミラが俺に話しかけてきた。

「さてフチ、お前に剣術を教えよう。少しくらい自分の身は守れるようになってもらわないと、魔法も身体強化も使えない上に、治癒術の効きも悪いんだからな」

 それはそうなんだが、改めて言われると、なんだかクるものがあるな。まぁ、考えていたことではあるし、少しだけお願いするかな。少しだけね? 痛いのはやだよ?

「トアさん、私たちは向こうで魔法の鍛錬でもしましょう。いくつか見させてもらっていいですか?」

 トアがエリーに魔法を教わっているのをしり目に、ミラとギルバートに結構な勢いでしごかれてしまった。いや、ありがいことではあるんですが。

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