表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
りたーにんぐ!  作者: 消しカス
28/177

27 辺境冒険者編4 家族

 

 アルティアナやミラ、その家族との食事も終わり、今後の打ち合わせのために場所を変えることになった。

 アルティアナはもう少し話をしたそうにしていたが、トアが少し体を休ませた方がいいと言ったあと、夕食を挟んでまた話を聞かせると約束して部屋に残してきた。

 その後、落ち着いた雰囲気の、おそらく応接室であろう部屋に通され、椅子をすすめられる。椅子やテーブルも高級そうで少し緊張してしまう。


 目の前にいるのはミラの祖父と父、祖父の名前はアリオン・ラステイン。少し小柄でふくよかな体格をしている。茶色の頭髪は短めで前髪が少し後退している。彫りが深く鼻が高い、はっきりした顔立ちだが、体格のせいもあるのか優しそうな雰囲気だ。ラステイン家の現当主で、いつもは帝国の首都で中央の政務に携わっているという。

 そして、領地であるこの辺境を実質的に治めているのがミラの父アルファード・ラステイン。髪色や顔のつくりはアリオンと血のつながりを感じさせる。がっちりした体格でアリオンより頭一つ高い。短く刈り込まれた髪型も相まって、こちらは精悍な印象をうける。

 その妻であるクリスティアはもうしばらくアルティアナの傍にいるとのことで、ここには同席していない。ミラも同じだ


 アリオンとアルファードが席に付き、ギルバートはその横に控えている。その向かい側に、俺とトアは座っている。立派な椅子なのでトアが本当にお人形さんのようになっている。席に着くと同時にメイドがお茶とクッキーのようなお茶菓子を運んできた。

 お茶もお菓子も遠慮なくどうぞ、という社交辞令のような言葉の後、ミラの父、アルファードがトアに言った。


「あんなに元気な、楽しそうな娘の姿は久しぶりに見ました。改めて礼を言わせて下さい」


 本当に遠慮などせずにクッキーを頬張っていたトアは、しばらくもごもごしていたが、それに答える。


「………さっき、アルティアナにも言ったことですが、お礼ならミラとギルバートに言うべきです。彼女たちが危険な探索の旅に出ていなければ、わたしは今ここにはいないです。……それに、ミラは友達です。友達の妹を助けるのは当たり前です」


 トアはそう言ってお茶に口をつける。少し熱かったのか、息を吹きかけて冷ましてから、また口を付けていた。


「それから、先に言っておくです。わたしは辺境のゴブリンの村の子供です。人間の町に来たのも初めてです。貴族とか領主とかあまり意味がわかっていないです。もし失礼なことを言ったりしても怒らないで欲しいです。オババにも、面倒な事になるかもしれないから貴族を怒らせるんじゃない、と言われているです。よろしく頼むです」


 おお、トアさんつええ。聞きようによっては、すでに凄く失礼な言い草だよなコレ。


「……娘も言っていましたが、あなたは治癒術の先生です。私たちの方こそよろしくお願いします。……ミラはともかくギルバートに話を聞いていたので、疑っていたわけでは無いのですが、一度の施術であんなに効果が出るとは思っていませんでした」


「あの術は少しコツがあるです。……ところで、気になっていたのですが、ミラのおじいちゃん、ちょっといいですか?」


 そう言ってトアは椅子からぴょこんと飛び降りる。椅子が立派過ぎてトアにはサイズがあっていない。テーブルを回り込みトコトコとアリオンの傍に近づく。


「左足が痛いです?」


 たしかにアリオンは歩くときに、少しだけ左足を引きずっていた。


「あ、ああ、十年前の戦場での古傷でな、この時期、寒くなると痛み出すのだよ」


「座ったままでいいです。少し、じっとしているです」


 トアはアリオンの左足の膝辺りに手を当てている。


「ギルバート、預けたミシアの杖を持ってきてほしいです」


 トアにそう言われたギルバートは、すぐにメイドに言って杖を持ってこさせた。

 ミシアの杖を受け取ったトアはそれをアリオンの左足にかざして治癒術を発動させる。


 しばらく、誰も何も言わずにトアの治癒術を見ていた。やがてトアはかざしていた杖を引っ込める。


「どうです? ちょっと歩いてみるです」


 トアにそう言われ、アリオンは椅子から立ち上がりゆっくりと歩き出す。足踏みしたり軽く屈伸したりしている。


「……うそ、全然痛くない」


「たぶんもう痛まないです。ですが、もう二、三日様子を見ながら治療すれば完璧に治るです。それと、内臓が少し弱っていたので元気にしておいたです」


 アリオンは自分の胸やお腹をさすりながら言った。


「……儂の十年間はいったい……胃痛も治ってる………アルファード」


「はい」


 真剣な声で名前を呼ばれたアルファードは椅子から立ち上がり返事をした。

「……儂、この子を帝都に連れて帰りたい」


「ダメに決まってんだろクソ親父」


 そのあと、親子の心温まるやり取りがあったのだが、割愛する。言っておくが他意はない。


 アリオンとアルファードの家族間での話し合いが終わったころ、ミラと母親のクリスティアが部屋に入ってきた。


「アルトがやっと眠ったよ。……なにかあったのか?」


 ミラは父と祖父の様子に違和感を感じたのか、ギルバートに向かって尋ねる。しかしギルバートは特に何も答えなかった。場の微妙な雰囲気を変えようとするかのように、さて、とアルファードが少し大きい声を出す。


「フチ君、でしたね。娘から話は聞います。今回の霊薬と娘アルティアナの治療の代価は、君の後ろ盾になることと行動に便宜を図ること、そう聞いています。なおかつ君は霊薬の材料の発見や確保にも関わっているという話ですし、当家としては賓客待遇でお迎えします。この屋敷を自分の家だと思って自由に過ごしていただきたい。トア先生は言わずもがなですね」


「……フチ、イワズモナカってなんですか?」


 トアが俺にコソコソと聞いてくる。とりあえず無視する。たぶんアルファードにもまる聞こえだろうが。


「……えー、フチ君の当面の目標はエルフの魔女ミシアに会うことと伺っています。ミシアは現在東方の連合国の学院という合同研究施設で研究員をやっているはずですので、当家より正式な外交ルートを通じて連絡を取ろうと思っています。これには色々理由があるのですが、その辺は後で説明します」


「イワズモナカ……食べ物です?」


「……書簡で連絡を取りますが、ミシアの手元に届くのに結構な時間がかかります。おそらく三十日前後はかかるかと。返事のことも考えるとそれなりの期間がかかるわけですが、その間当屋敷でゆっくりと過ごしてください」


「ところでトアちゃん、儂のことはじいじと呼んでくれんか」


「わかったですジジイ」


「あー、じいじね、微妙にニュアンス違うから」


「……それと、フチ君とトア先生には一応冒険者の身分証を取得してもらいます。これは国境を超える際に必要になります。取得の際の身元保証は私が行いますので越境も問題ないでしょう」


「ジジイ、イワズモナカってなんですか?」


「すいません。せめておじいちゃんでお願いします」


「? わかったです。おじいちゃん」


「トアちゃん、孫の治療が終わったら、儂と一緒に帝都に……」


「おいジジイ、ちょっとこっちこいや」


 そういうとアルファードはアリオンを引っ張って部屋の隅に連れていく。


「……トア、イワズモナカってのは、トアがいま食べてるお菓子の名前だよ。あんまり食いすぎると晩飯が入らなくなるぞって心配してくれたんだよ」


「そうですか、ミラのお父さんはいいやつですね」


 ギルバートが、え? みたいな顔でこちらを見ているが気にしない。今この瞬間からこの菓子の名前はイワズモナカだ。そういう事にしてくれ。


 そのあと、アリオンはメイドさんに連れられて部屋から出て行った。トアもミラとクリスティアに連れられてどこかに行ってしまった。


 アルファードは大きくため息をつくと、椅子に深く腰掛け背もたれにもたれかかる。


「あの、なんかすいません。大変そうですね」


「あー、悪いが普通に喋らせてもらうよ。ギル、お前も座れよ」


 アルファードはメイドさんにワインとつまみを頼むと俺に向き直る


「フチ君はイケルくちかい?」


「旦那様、さすがにお酒はまずいと思いますが」


 ギルバートが横からたしなめる。


「昔みたいにアルって呼べよ。……娘のこともそうだが、お前が死んだって聞いて、ホントにショックだったんだぞ。もし本当に死んでたら、俺の娘が殺したようなもんじゃないか。アンナとカロリナにどう謝ればいい」


 よく話を聞くと、ギルバートとアルファードはもともとは年の近い幼馴染で、帝国騎士団に入団し主従として常に行動を共にしていた仲だったそうだ。同時期に互いに結婚し子供が生まれる。アルファードの子、ミリアナ、アルティアナ。ギルバートの子カローリナ。韻を踏んでつけられた名前をもつ三人は姉妹の様に育つ。

 そして、十年ほど前の他国との戦争で手柄をあげ、ラステイン家は陞爵。辺境の鎮護を命じられアルファードは領地経営に専念することになる。その際にギルバートは従士として同行し、現在はラステイン家従士長としてアルファードに仕えている。アルファードにとっては人生の大半を共に過ごした親友であり相棒。陰に日向に支えてくれる、ある意味自分の妻よりも信頼している相手だそうだ。


 ギルバートはミラの教育係も務め、剣術の師匠でもあるらしい。自分の娘の様に思っているミラが妹の命を救うため旅に出るのを止めることはできなかった。そしてミラが救おうとしているのは親友の娘の命でもあるのだ。


「だから、今日くらい良いだろう? 死んだと思っていた娘と親友が生きて帰ってきて、末の娘の不治の病も治るときた。おまけに親父の胃痛もきれいに治った。今日は祝いだよ」


 そういってワインの入ったグラスを掲げる。


「そういえば聞いたよ、フチ君は古竜を退治したって? ギルとミラからあらましは聞いているが、どういうことだい?」


「すいませんフチさん、管轄領内に古竜が出たなんてことは、領主と代官に報告しないわけにもいきませんので」


 ギルバートが少し申し訳なさそうに言う。そりゃまぁ、たしかにそうだよな。しかも古竜の死体は消えてしまって死んだのかどうかもはっきり分かっていないわけだし。


「事情が事情だし言いふらしたりはしないが、気持ち的には今すぐ町の酒場に行って吟遊詩人どもの物まねでもしたいもんだよ。我が帝国に竜殺しの勇者ありってね」


 なんというか、親子だなぁ。


 その後、ワインを飲みながら話をした。竜退治のことやゴブリン村での暮らしのこと、ドワーフの族長ドルフやその娘リジーの話など、話題は尽きない。


「ところで、ギルさんの奥さんってどんな人なんですか?」


 男三人で飲みながら、俺が何気なく発した問いに場の空気が変わる。アルファードとギルバート何も答えない。あー、聞いたら駄目な奴だったか。


「あ、すみません。まずかったですか?」


 二人は、顔を見合わせたあと、アルファードが口を開いた。


「あー、フチ君が思っているような事はないんだ。普通に生きてるし元気なんだが……」


「妻のアンナは、今、帝都の魔術学院で講師をしているのです。二年の契約で次の春には帰って来るのですが」


「ギルの前で少し言いにくいんだが……」


 そう言ってアルファードは説明しだす。

 ギルバートの妻アンナはもとは平凡な商家の娘で、大恋愛の末ギルバートと結婚したらしい。大恋愛といっても、アンナの猛アタックにギルバートがほだされた形だったそうだ。


 ギルバートの騎士団入隊を追いかけて、帝国騎士団の魔術師部隊に入隊。ギルバートのためだけに入隊したようなものだったが、魔法の才能と努力で部隊長にまで登り詰め、騎士団と魔法部隊の連携行動や合同訓練など、現在の帝国騎士団運営の基礎になるような案を多く発案する。当然ギルバートと少しでも一緒にいる機会を増やすためなのだが、帝国上層部には優秀な人材と認識されてしまう。

 ギルバートとの結婚を機に家庭に入っていたのだが、二年前に帝都に新しく魔術学院が開院することとなり講師として招かれたそうだ。だいぶゴネたようだが、招へいの嘆願書に皇帝陛下の名前があったため断るわけにもいかず渋々帝都に行ったらしい。


「最近、帝都ではああいうのをストーカーというらしいな」


「付きまとう者、ですか。言い得て妙というか、私たちが若いころには無かった言葉ですね」


「いやぁ、本当にお前が生きてて良かったよ。ミラとお前が辺境で死んで、俺がアンナに殺されて、アルトも病気で死ぬ。へたしたらラステイン家は断絶していたかもなぁ」


「アンナもさすがにそこまではしないでしょう。……たぶん……」


「というわけでフチ君、もしアンナ事情を聞かれることが有ったら、ギルは、死にかけた、ではなく、少し怪我をした、ぐらいで頼む」


「……頼みます」


 なんとなく、変な空気になってしまったのを察したのか、アルファードが、ところで、と少し大きめの声で言った。


「そういえば、ミラの奴ミスリルの剣貰ったんだって?」


「ちなみに、私も貰いましたよ。さすがにミスリルではないですが」


「あ、ギルさんも何か貰ったんですか?」


「町に来る時の旅で腰に差していただろう? あの鉈剣だよ。二人に渡して、お前だけ何もやらんわけにもいかんな、ってドルフさんがね」


「あー、あの刃が黒いやつですね。少し重そうでしたけど、鉄製とはちがうんですよね」


「黒鋼鉄製だね。重さと遠心力で切るんだ。コツがあるんだけど慣れると剣や鎧ごと叩き切れる」


「ドルフってなんだかんだでいいおっさんでしたよね」


「なんだよ、おまえら仲いいな。俺ちょっと妬いちゃうよ」


 アルファードが茶々を入れてくる。そして話に出てきた黒鋼鉄の鉈剣とミスリルのナイフを見たいと言い出し、ギルバートがそれを取りに行くために部屋を出ていった。

 扉が閉まってから、アルファードが少し真面目な顔で話しかけてきた。


「ギルの命が助かったのは君のおかげだと聞いている。重ねて礼を言わせてくれ」


 アルファードはそう言って頭を下げる。


「……ゴブリンの長老が言ってました。霊薬の材料を運良く見つけたり、古竜を退治したり、色々あったけど、ギルさんの命が助かったのが一番の奇跡だって。運命って言葉は嫌いだが、まるで今は死ぬときじゃないって運命で決まっていたようだって。たぶん俺がいなくてもギルさんは生き延びてましたよ。そう思います」


「……そうか」


 アルファードはそう呟いてしばらく無言だったが、手に持っていたグラスのワインを一気に飲み干してまた話し出した。


「ところで、フチ君はうちのミラのことをどう思うかね? ちょっとアレなところがあるが、結構な器量よしに育ったと思うんだが。身内以外であれのことをミラという愛称で呼ぶ男性は君が初めてなんだよ。そこは父としてやはり気になるというか、どうかな?」


 あー、ちょっとアレっていうか、あの人結構アレだぞ。家族以外の男性ならドルフもそう呼んでたけどな。というか、この人少し酔っぱらってんのか、めんどいなぁ。


 ギルバート、はやくきてくれー。


ちょっと書き足しました。

少し長いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ