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りたーにんぐ!  作者: 消しカス
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24 辺境冒険者編1 ガサの町


 ガサの街を目指してゴブリンの村を出発して三日、旅は順調に進んだ。

 特に何事もなく、こんなものかと思っていると、実はタセルの【探知】のスキルによって、魔物との戦闘を極力避けているとのことだった。急に休憩したり、歩く速度が早くなったりするのはその為だったのかと、納得してしてしまった。


 四日目に避けるのが難しいとのことで、十匹ほどの狼の魔物と戦闘になった。タセルのスキルのおかげで、安全に先制攻撃できたのだが、トアが一瞬で殲滅していた。魔法の植物の蔦であっという間に絞め殺していた。前から凄いなぁと思ってはいたが、益々磨きがかかっている。なんというか凄みを感じる。タセルとその連れの二人も呆然としていた。


 その戦闘の時にトアがなにやら棒のようなものを手に持っているのに気が付いた。いかにも魔法の杖っぽい見た目だ。聞くとエルフの魔女ミシアが村に忘れていった物らしい。会った時に返しておいてほしいと言われて長老に持たされたとのこと。


「へー、それって強いの? 魔法が強くなる的な?」


「うーん、全体的にいい感じになるです」


 いい感じか……なるほどわからん。


「魔法の杖は魔力の消費を抑えつつ魔法の精度を上げると言われていますね」


 横で聞いていたタセルが口を出してくる。


「生活魔法程度では、効果は実感できませんが、難しい魔法や大魔法ほど効果があると言われています」


 タセルは興味深そうに杖を見ている。


「値打ちものですか?」


 あまりにマジマジと見ているので、声をかけてみた。


「元冒険者なので多少の興味はありますが、リスクの方が高そうです。触らぬ魔女に呪いなしってね」


「えーと、そんなにヤバい人ですか? 知り合いですよね?」


「私の口からは何も言えません、命が惜しいですから」


こんな調子で魔女ミシアについては一切語らない。ミシアに同行した遺跡探索についての内容は守秘義務があるらしい。雇用の際にそういう契約になっていたそうだ。ただ、一緒に旅をして、タセルや連れの二人のことは少しだけ分かった。

 タセルは、話好きで気のいい兄ちゃんといった感じだ。実際はいい歳した既婚者なのだが、好奇心旺盛で少し落ち着きがない。元々の性質なのか、商人として鍛えられたのか、愛想が良く人好きするタイプだ。

 逆に寡黙で落ち着いた雰囲気なのが中年の護衛、ダナだ。必要な事以外はほとんど喋らず、黙々と仕事をこなしている。元冒険者で引退を考え始めた所に、商会の専属護衛として契約を持ち掛けれたそうだ。

 もう一人の見習い風の人物、リックは、聞けば本当に見習いだった。ガサの町の近くの農村の農家の三男で、行商に訪れたタセルに頼み込み、弟子にしてもらったそうだ。今回も護衛ではなく見習いとして同行している。見た目は少し気弱そうな少年だが、実際の年齢も十三歳だか十四歳だかで本当に少年だった。

 ちなみにダナとリックは人間だ。この世界には亜人種がいるので、見た目通りの年齢じゃない場合があるのがややこしい。ドルフは三百歳超えてるって言ってたし。


 その後も順調に旅は続き、町に到着する前日の夜営での何気ない世間話のなかで、こんなに何事もなく辺境を旅するのは普通はあり得ないと、ギルバートがタセルのスキルの有用性に改めて感心していた。


 そして、六日目の昼、ついにガサの町に到着した。街は五mはありそうな石壁に囲まれている。東西南北に大きな門があり、通常は閉ざされていて、有事の際や大きなイベント事のときぐらいしか開門しないという。あとで聞いた話だが西側の外壁が一番高く厚く作られているという。もともとはここにあった砦の遺跡を修繕して利用されているらしい。だからどうしたという話ではあるのだが、古い歴史のある構造物はロマンを感じる。


 俺たちは西門の横に有る勝手口のような小さい入り口でチェックを受けた。小さい入口といっても普通自動車ぐらいなら、余裕で通れるほどの大きさだ。


 町への人の出入りは基本的にすべて記録されるそうで、俺とトアは身分証がないため少し時間がかかった。近くの農村の村人ということにして、ミラとギルバートが保証人となり臨時の通行証を発行するが、後に町の中で正式な手続きをしろということだった。


 行商人や冒険者はそれぞれの組合が発行する身分証があり、それ以外の一般人が町を出入りするためには、ある程度の期間有効な通行手形が発行されるらしい。パスポートみたいなものか。


 門番はミラが貴族であることを知っていたため、大変恐縮していたが、規則は規則ということで、変に融通を利かせたりはしなかった。それはそれで大変素晴らしいことなので、ギルバートなどは満足そうにしていたが、ミラは微妙な表情だった。


 ともあれ、無事にガサの町に入ることが出来た。結構大きな町で、それなりに活気があるように見える。俺やトアはいかにも田舎から出てきたおのぼりさん丸出しでキョロキョロしている。それでも西門の周辺は余り栄えていないらしい。門の外は幾つかの小さい農村があるだけで、あとは荒野と原野しかない。別の町につなが街道があるわけでもないからだそうだ。強いて言えばよその地区より冒険者向けの値段の安い宿屋があったり、馬などの預かり所があるという。あとは蚤の市のような露店や軽食の屋台が目立つ。


「このあたりの屋台で摘まみ食いもいいんだが、商業区の酒場か食堂に行こう。久しぶりに白いパンが食べたい」


 ミラがそう言って先を歩き出す。ギルバートは先触れのために領主館へと向かうとのことで、ここで別れた。


 この町には商業区、工業区、住宅区という風に大まかに分かれているらしい。町の中心地に商業区、北側に工業区、東側が住宅区、南側は港があるそうだ。


「食事ならうちの家内の手作りでよければご馳走しますが」


「それは有難いのだが、またの機会にお願いしたい。もう昼下がりだし、お手を煩わせるようで気の毒だ。そうだな、どこかお勧めの店などあるだろうか?」


 ミラはタセルの申し出をやんわりと遠慮して、食事のおいしい店を知らないかと尋ねている。


「それでしたら、最近、帝都で繁盛している食堂が暖簾分けをして、この町の商業区の外れに店を出しまして。私はまだ行ったことがないのですが、結構な評判のようです。名前はたしか、銀月の雫亭だったかと」


「そうか、ではそこに行ってみよう。タセル殿や皆さんもよかったら一緒にいかがだろうか? 是非、ご馳走させていただきたい」


「申し出は大変うれしく思いますが、私は先に店に戻らないといけません。商品や荷物もありますし。そうですね、よかったらリックにご馳走してやってください。そのあとで時間があるようでしたら私の店においでください。リック、案内を頼むよ」


 滑らかな石畳の道を歩き、町の中心部に向かうにつれ建物も立派になっていく。大きなものは四階建てはありそうだ。煉瓦や漆喰で出来たいかにも古そうな建物や比較的新しい建物が混在している。基本的に白系の漆喰で統一されているので、町の雰囲気は明るい。欧州の古い町並みといった感じだ。野菜や果物を売る八百屋のような店やバッグや洋服を扱う服飾店、金物中心の雑貨店など、見ているだけで楽しい気分になる。


 トアはローブのフードを被り、俺のローブの裾を掴んで、あいかわらずキョロキョロと辺りを見回しながら歩いている。人通りが増えてきたこともあるのか、少し緊張しているようだ。


 大通りに出て少し進んだところで、タセルは挨拶をしてダナと一緒に自分の店へ帰って行った。一本裏の通りに店があるそうだ。

 勧められた食堂に着き、ミラが適当に注文していた。焼いた肉はもちろん、魚料理やビーフシチューの様な食べ物、腸詰肉と野菜のポトフっぽい物。そして柔らかいパン。ハチミツを付けて食べたら不覚にも泣きそうになってしまった。ずっとイモと肉と野草だったからなぁ。


 トアもやはりやわらかいパンは美味しかったらしく、両手に持って必死にかじっていた。かわいい。


 食事も終わりリックの案内でタセルの店に向かう。

 タセルの店は革製品を中心に扱ういわゆる雑貨店だった。店内はガラス製の窓がいくつかあり明るい。町を歩いているときも思ったのだが、結構ガラス窓が普及しているようだ。小さい板ガラスの寄せ集めのような窓で透明度は低かったり、厚くて波打ってたりする。えーとガラス製の窓が普及したのって何世紀だっけか? この世界の文明度がよくわからん。


 店に着き一息ついて、さてミラの屋敷に行こうかと腰を上げたときメイド服姿の人影が駆け込んできた。


「ミラお姉ちゃん! ……じゃない、ミラ様! 本当に無事だったんですね!」


 駆け込んできた人物は店の入り口で店内を見回し、ミラに目を止めるとそう叫んで近くに駆け寄ってくる。少し暗めのブラウンの髪を後ろで三つ編みにして眼鏡をかけた少女だ。歳は十四、五歳くらいか。走ってきたせいなのか息が上がり、白い肌が少し紅潮している。というか眼鏡があるんだ。まぁガラスがあるんだからレンズもあるのか。


「おお、カロリナ。元気にしていたか?」


 ミラはその人物の呼びかけに軽く手を挙げて答える。


「……本当に無事でよかった。……あの、いますぐ屋敷にお戻りください! もう皆、混乱して大変なんです!」


「うん? ギルが来なかったか? 混乱しないようにと先触れで行かせたのだが」


「お父さ……ギルバート様は見えられました。ただ、先日より大旦那様がお屋敷にお見えでして……」


「お爺様が? ……それは珍しいな。何用だろうか。しかし、それでどうして混乱するのだ?」


「それが、大旦那様がみえられたのは、その、……ミリアナ様とギルバート様の葬儀の打ち合わせのためでして……」


「はあ?」


「とにかく! 早く屋敷にお戻りください。もう本当に大騒ぎなのです!」


 カロリナと呼ばれた少女は、ミラの手を取るとグイグイと引っ張って連れて行こうとする。


「まてまて! フチ、トア、後で迎えをよこすからここにいてくれ! タセル殿、二人を頼む」


 ミラはそう言い残すと、半ば引きずられるようにして店を出て行った。


 俺とトアは店の奥の商談などで利用する応接間に通され、そこで待つことになった。時刻はもう間もなく夕刻といった頃合いで、出されたお茶とお茶菓子を頂きながら、何をするでもなく待っていたが、やがて、完全に日が暮れた頃、先ほどの少女が訪れた。彼女は簡単に自己紹介をして要件を告げた。


「申し訳ございません。明日の昼頃にお迎えに伺います。タセル様にはこちらからお話を通しておきました。本来であればすぐにでもお屋敷にお越しいただき、アルティアナ様にお会いして頂きたいのですが」


 カロリナはそう言って深々と頭を下げる。


「あの……」


 カロリナは頭を上げると少し言いにくそうに言葉を続ける。


「本当にアルティアナお嬢様の病気は治るのですか? ミラ様がそうおっしゃっていたのですが……」


 俺とトアは顔を見合わせる。


「……診てみないとなんとも言えないですが、ミラに話を聞いた限りではリジーより症状は進んでないです。きっと治るです。わたしはそのために来たです」


「……明日、必ずお迎えに伺います。どうかアルティアナお嬢様をよろしくお願いします」


 カロリナもう一度頭を下げると、そのまま帰っていった。


 そのあとタセルの妻の手作りの夕飯をいただき、客間で休ませてもらった。

 久しぶりに、本当に久しぶりにベッドで柔らかい寝具に包まれて眠った。夜中に別のベッドで寝ているはずのトアが俺の毛布に潜り込んできたが、いまさらなので特にどうするでもなく、そのまま朝まで寝てしまった。

 

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