閑話 裏の話2
「あのー、どこに向かってるんですか?」
車が走り出し、しばらくたってから、聞いてみる。
「あー、とりあえず、俺の彼女が一人暮らしなんで、そこに。もう連絡も入れてオッケーは貰ってるんだけど」
啓介さんが運転しながらそう答えた。
「っていうか、あんた、最初から順追って説明しいや、あんたの兄貴はどないなっとんねん」
椎子がそう言ってくる。だから声が大きいって。アーニが怯えるでしょ。
それに最初から順追ってって言われてもなぁ。まぁ、するけど。
「お兄ちゃんと三日ぐらい連絡が取れないから、心配になってアパートにいってみたら、この人? がいた。終わり」
「終わりってあんた……」
「だって他にないもん」
一行で説明が終わってしまった。
「あの、啓介さん、何か考えがあるんですか?」
「うーん、どうにかやって、意思の疎通が出来ないかなぁと思ってるんだけど、とりあえず、彼女のマンションにいって、それからかな。藍ちゃんは? どうしたいとかある?」
「つべにアップすれば再生回数億は行くんじゃないかって思うんですけど、どう思います?」
「アホか! やめとき」
「冗談だよ」
「アンタの冗談は冗談にきこえへんときがあるからな」
あ、そうだ、掲示板。
:パンツうpまだー
:クソスレ立てんな!
:そんなことよりしりとりしようぜ
:すまん。ホモ以外は帰ってくれないか!
……
……
……
まぁ、こんなもんだよね。しかしここで燃料投下。さっきとった写真を……っと。
:http//………
:このタイプのゴブリンと意思疎通する方法を知ってたら教えてください
:なにこのURL、怖くてみれない誰か教えてー
:グロ注意
:あー、このタイプね。ってしらんがな
:ゴブリンの写真、顔を両手で隠しているが、どう見てもゴブリン。べつにグロじゃねーよ
:なにこれ、映画かなんかのキャプ?
……
……
後でまた見よう。
「あ、検問?」
「ホンマや」
後部座席から少し身を乗り出し、前を見る。まだ少し距離はあるが、確かに検問だ。テレビなんかでは見るけど、生で見るのは初めてだ。辺りは暗くなりはじめていて、パトカーの回転灯がやけに目を引く。なんだかぞわぞわする。
「藍ちゃん、一応シートベルトして。……ゴブリン君は無理かなぁ。後部座席のシートベルトで切符切られたりはしないと思うけど」
「なんやろ、なんか事件でもあったんかいな?」
「年末でもないのに、飲酒検問でもなさそうだけどな。今って秋の交通安全週間とかだっけ?」
前の座席の二人の会話をききながら、とりあえず、シートベルトして、アーニのベルトもはめる。腰の部分だけのタイプだ。アーニはあまり抵抗せずにされるがままと言った感じだった。そのあとに少し強引にアーニを抱き寄せて膝枕の状態にする。アーニは身を強張らせていたがその時も特に抵抗はしなかった。
「お願い、じっとしてて」
たぶん通じないんだけど、小声でアーニに声をかける。意味はわかってないと思うけど、私の緊張感は伝わったのか、その状態で動かない。
おまわりさんに道が広くなっている所に誘導される。その先には別のおまわりさんにがいて、車を止めるように指示して、運転席の窓側に来る。
私はここで目を閉じて寝たふりをする。なるべく自然な感じになるようにアーニの顔を隠すように手を置く。この車の後部座席の窓ガラスは結構濃いめのスモークガラス? っていうのかな、黒いガラスだから、外からは良く見えないはず。ばれないと思うけど、検問ってどこまでするんだろ?さすがに寝てるところ起こして車降りろとか言わないよね?
私は寝てますよー、疲れて寝てる兄弟的なやつですよー。
「すいませんねぇ、免許証見せてもらえる?」
パワーウインドウの音がしたあと、窓の外からおまわりさんが声をかけてくる。
「あの、なんかあったんですか? 事件とか?」
啓介さんがおまわりさんに話しかけている。私は目を閉じているのでわからないが、たぶん免許証を見せながら聞いているんだろう。
「いやあ、そんなんじゃないんだけど、…………はい、ありがとう。どっち方面行くの?」
「〇〇市です。家がそっちなんで」
「ふーん、あ、後ろも人乗ってるんだ。お友達?」
うわ、きたー。私は疲れて寝ている設定なので、そっとしておいてくださいぃ。
「あー、はい、妹の友達とその弟君なんですけど、……ちょっと疲れちゃったかな?」
「……その弟さんは風邪かなんか?」
「……元々風邪気味だったんですけど、ちょっと悪化しちゃったみたいで」
ここで、しばらく会話がとぎれる。……目を閉じてるのでめちゃ不安になるんですけど。
「……はい、ご協力ありがとうございました。この後も安全運転でおねがいします。……風邪も気をつけてね」
「お疲れ様ですー」
パワーウインドウの音がして車が動き出す。しばらくそのままの態勢でいたけど、もう大丈夫かな?
「もういいよ」
私はアーニの肩を軽くたたく。軽く頭を持ち上げる動きをする。私の意図が伝わったのかアーニは体を起こした。
「うおー、緊張したー」
「なんやねん藍、お前、そんなキャラちゃうやろ!」
「藍ちゃん、ナイス演技!」
「えへへ」
「ゴギャゴギャ」
緊張から解放された反動か、なんだか皆のテンションが高い。アーニもつられているのか、少し笑いながらゴギャゴギャいってる。
そのあと、四人で笑いあっていたが、椎子が少し真面目な口調でいう。
「うちら、関係あらへんよね。検問」
「うーん、免許証の確認だけだったし、番号とか控えたりもしなかったけどなぁ」
啓介さんの話では、例えばコンビニ強盗とかで検問を張ると、あんな感じだそうだ。もっとも、車の車種とか、犯人の性別、年齢とかがある程度特定されている状態の場合はってことだけど。で、手配がかかってる車種以外の車や、乗ってる人間が明らかに手配と違う場合は、検問で止めてもあんな感じらしい。
確かにいちいち止めて、根掘り葉掘り聞くのも大変だよね。ふむ、なるほど。
「あ、コンビニ。うちちょっとお手洗い行きたい。あとなんか飲みもん」
車は少し郊外にいるようだ。見覚えのない景色に見慣れたコンビニの看板が光っている。
啓介さんの車はコンビニの駐車場に滑り込むように止まる。
「藍ちゃんもなんかいる? コーヒーとか。……ゴブリン君は……カフェインとかだいじょうぶなのか? 玉ねぎは食べさせたら駄目とかないよな?」
ふふふ、それは私も通った道だ。平気かどうかはわかんないけど。
「さっき、ティーパックの紅茶淹れてあげたら、気に入ってたみたいです」
「へー、そう、じゃあ、なんか適当に買ってくるよ」
そう言って二人は車を降りて行った。
……そうだ、親に電話しなきゃ。
私は母の携帯に電話して、とりあえず、晩御飯はいらないことと、椎子と一緒にいることを伝える。兄の所に行ったんじゃなかったのかと聞かれて、少し迷ったが、予定変更して椎子と遊んでいたことにする。また連絡する旨を伝え通話を終わる。
二人はまだ帰ってこない。うーん、さっきの掲示板でも見るか。
:特定半はよう
:えとね、タグを見ると、○○県の○○市だね。スマホで機種は多分○○。背景は家の中だしさすがにわからん。
:○○市、俺の住んでるとこじゃん。
:それにしても、なかなかの合成テクよのう。
:それ思った。ゴブリンもリアルだし。CGのレベル高いよな。なんかの宣伝?
:こんな場末の過疎板でか?
:この画像加工技術でタグを取り忘れるって、あ、タグも偽装か。暇だなこいつ
:スレ主さん、至急連絡を取りたいので、このアドレスまでメールをください。○○■■△△@・・・・
:なんだこいつ
え、怖い、なんで住所ばれてるの?えーと、どうしよう。……『釣りでした』……『全部嘘だよ』……書き込みっと。
タグってなんだろ? 洋服のタグ?
:釣りでした
:全部嘘だよ
:スレ主さんですか?至急連絡が取りたいので、この番号に電話してください。0903・・・・・…
:何この流れ?
:ホモ以外帰ってくれないか?
………
………
:おいおまえらさっきの番号電話したら女がでた!!1!!
:ほうほうそれでれで
:かけたのかよ
:なんだ勇者か
:なんて言ってた?
:パンツの色きいたか?
:え、相手がもしもしって言ってきたから切った。だってこえーもん
:なんだ無能か
:パンツの色きけよ無能
:いたずらはやめてくだい。スレ主さん画像の件で至急連絡ください。番号は0903・・・・・・・
:なにこいつこえー
:つりでしょ?
:にしても番号晒すか?
:パンツの色教えてくだしあ
………
………
なに、この流れ。ホントに怖いんですけど。
コンビニで買い物を済ませた後、啓介さんの彼女のマンションに向かった。
そこは私の地元というか、家の近くだった。繁華街からはすこし離れているけど、駅も歩いて行ける距離だし、ちかくにコンビニもある。オートロックのソコソコ家賃も高そうなマンション。
「一応合鍵もあるんだけどね」
啓介さんはなんとなく言い訳っぽくそういって、エントランスのインターホンを鳴らす。すぐに返事がありマンションの自動ドアが開いた。
部屋番は201号室。ドアの前で呼び鈴を押すと、中から、はいっていいよ、ってこえが聞こえた。
アーニは私のされるがままというか、手を引いて歩くと抵抗はしない。怯えているかんじじゃないけど、警戒はしているようで、しきりにキョロキョロしている。自動ドアとかエレベーターにいちいち驚いていてちょっとかわいい。
とにかく、四人でぞろぞろと部屋の中に入っていく。
「おー、その子がゴブリン君だね」
1DKのあんまり広いとは言えない部屋で待っていた女性は、そう言ってアーニをマジマジと見ている。
私と彼女は啓介さんに促されて簡単に自己紹介する。
山科秋さんと言う名前で啓介さんと同じ大学のいっこ上の学年だそうだ。眼鏡をかけて、黒い髪はお団子にしている。パジャマのかわりなのか、ゆったりしたトレーナーとラインの入ったジャージのズボンという楽そうな格好だ。まぁ、自分の部屋ならこんなかんじだよね。
椎子は何回か会ったことがあるようで、軽く挨拶していた。
「さて、どうしたもんか、名前くらいは聞いてるんでしょうね?」
秋さんは啓介さんが買ってきたお菓子の袋を開けながら尋ねてくる。
私は今までの経緯と、アーニの紹介をした。といっても、わかっていることは何もないのと同じだが。
「えーと、うちドッグフードとかないけど、なに食べるの?この子」
みんなアーニを何だと思っているのか。あ、ゴブリンか。……まぁ、人のことは言えないんだけど。
「ていうか、どうやってそんな格好させたのよ? 言葉通じないのに」
アーニの格好は紫のスカジャンに黒のニット帽というチーマーに憧れる中学生みたいな格好だ。しかし、なんでスカジャン? これ誰のチョイスなんだろうか。
私と啓介さんはアーニに服を着せたときの様子を説明した。
「ふーん、そのお祈りするみたいな恰好で頭を下げるのが、モノを頼むしぐさなんだ。けっこう人間とかわらないのかな?」
秋さんはなにやらノートにメモをしている。
「とりあえず、はいといいえ、くらいは覚えさせないと、話が進まないわね」
皆の名前をアーニに覚えさせる。そして完全に名前を覚えたら、次はアーニの前で簡単な寸劇をする。たとえば、私が椎子に「あなたは椎子ですか?」と質問する。椎子は当然「はい」と答える。そのあとに、また椎子に今度は「あなたは秋ですか?」と質問する。これは違うので「いいえ」と答える。こんなのをひたすら繰り返す。アーニは、とりあえず、はいといいえ、は覚えたようだった。
すごいなぁ、私、こんなの全然思いつかなかった。アーニと二人でテレビぼーっと見たてもんなぁ。秋さんとは歳もそんなに変わらないはずなんだけど、大学生ってなんか、すごい大人って感じがする。
そのあとも、大きいとか小さいとか、ありがとう、とか、有る、無いとか、ジェスチャーやイラストで教えられそうな言葉を教えていた。
「そういえば、藍ちゃんはどうする? 家に帰るなら送っていくけど」
気が付くと、けっこうな時間がたっていた。確かに家に帰らないとヤバい。私の家は連絡さえちゃんとすれば、そこまで厳しくはないんだけど、さすがに急な外泊はいい顔をしない。数日前から予定しているならともかく。
「はい。今日は帰ります。また明日来てもいいですか?」
「わかった、ちょっと送って来るわ、椎子はどうする? 家帰るか?」
啓介さんは秋さんにそいうと、椎子にも声をかける。
「秋さんが良かったら、うちはここに泊まりたいんですけど」
「あたしは別にいいけど。椎子ちゃんがソファーでいいならね」
椎子の家は少し事情があって、両親は関西にいる。色々あって今はこの町で兄の啓介さんと二人暮らししている。その色々っていうのは両親の不和とか遺産がどうのとか、聞くことは聞いたんだけど。大変だなぁとか、ふーんとしか思わなかった。それよりも、兄妹二人でラッキースケベ的な事とか、こう鬱屈したリビドーを拗らせたり的な事は無いのかと、つい真剣な感じで聞いてしまった。椎子はあきれていたけど、笑っていた。まぁ、最終的にはガッツリ引いていたけど。
「あ、でも、アーニ君はどこで寝るんや? うちもさすがにゴブリンと添い寝は厳しいで。処女の女子高生としては」
「おまえなぁ、処女とかいうなっていつもいってるだろ」
「アハハ」
「ゴギャゴギャ」
楽しそうな雰囲気に後ろ髪をひかれる気分だったけど、帰ることにする。
「じゃあね、アーニ、また明日。バイバイ」
秋さんの部屋を出るときにアーニに声をかける。
「アイ、……アイガト、アリガト」
アーニはお祈りするみたいに手を組んで、ぺこぺこしている。
その姿を見て、……なんだろう、なんか変な感じがした。
わくわくとも違うし、嬉しい? うーん上手く言えないな。
自宅に帰り、お風呂に入る。電話して夕食はいらないといっていたので、ご飯の用意は無かったんだけど、少しだけ残り物を食べて、さっさと自室に行く。
一応受験生なので、机に向かって参考書を広げるけど、全然頭に入ってこない。こんなに集中できないんじゃ意味がないので、少しだけ進めて切り上げる。
そういえば、と思ってスマホでさっきの掲示板を覗く。
:さっきの番号から、めっちゃかかってくるんだけど。こえー
:なぜ番号飛ばしたし
:俺もかけた。ちょっと話した
:パンツの色きいたか?
:マジか、何話した? それからパンツうざいきえろ
:女じゃなかったぞ
:おとこ?
:すまんホモ以外は帰ってくれないか
:おとこのパンツはいらん
:画像のことを何か知っていますか、だって。知らないって言ったら切れた。
:必死か、こえー
………
………
………
ふと思い立って椎子に電話する。アーニの様子を尋ねたりしたあと気になったことを聞いてみる。
「写真で住所がわかるのかな?」
〈うん? どういうこと?〉
掲示板のやり取りを簡単に説明する。
〈ふーん、ちょっと待ってな…………兄貴とちょっと代わるわ、なんか言いよる…………〉
啓介さんに電話を代わるらしい。
〈もしもし、電話代わったけど。えーとね、最近のスマホとかで撮った画像は、GPSとかの位置データがくっついてるらしいよ。俺もよく知らないんだけど、なんかそういうのに詳しい奴が言ってた。浮気調査とかで役に立つとか、……検索すればでてくるよ〉
へぇー、そんなことになってるんだ。写真とか簡単に撮って、ラインとかインスタに上げてるけど、そんなの知らなかった。
〈でも、それだけじゃ個人の特定は無理だと思うから、心配しなくていいと思うけど、他に書き込んだりアップしたりしてないよね?〉
「はい、画像は1枚だけで、書き込みも三回くらいかな」
〈その掲示板のアドレス、送ってくれる?こっちでも見てみるから〉
「はい」
そのあと、また明日の朝から秋さんのマンションに行くことを告げると、迎えに来た方がいいかときかれたので、歩いていくからいいと断った。歩きだと二十分ぐらいかな。
「いやぁ、藍ちゃんがトイレ教えておいてくれんだろ? 助かったよ。秋はなんか微妙な顔してたけど」
……ふふふ、それも私が通った道だね。
その後少し話して、挨拶して電話を切った。
翌日、さっそく秋さんのマンションに向かう。
「おはよう、藍、これ、アンタにも送ったるわ」
秋さんの部屋に入るなり、挨拶もそこそこに、椎子がスマホで写真をみせてきた。その後、ラインで何枚かの写真と動画を送ってくれた。アーニがお菓子を食べてるところとか、寝顔の写真とか、手を組んで頭を下げる例の動作の動画があった。えへへ、ちょっとうれしい。
「えー、それでは、今日の行動予定を発表します」
頭がぼさぼさの秋さんが、マグカップ片手に皆にそう告げる。
「とりあえず、昨日の掲示板の電話番号に電話してみます。こちらのことは知られずに何か聞き出せないかってところです。その後は、うちの大学の信用できそうな教授に相談するとかなんだけど、……それでいいかな?」
秋さんは私にそう聞いてくる。すでに皆で相談して、あとは私の意見を聞いてからって話だったらしい。当然私に否はない。
たしかに掲示板の書き込みは不自然と言うか、必死だった。普通、電話の番号を不特定多数が見る掲示板に載せたりしないし、嫌がらせで嫌いな人の番号を載るのはあるかもしれないけど、そんなことしたら、へたしたら警察に捕まるんじゃないのかな? わかんないけど。
そのあと、朝食を食べながら、電話でどんな風に話すかとか、こう聞かれたらこう答えるとか、皆で思いついたことをシミュレーションした。私は自分の家で軽く食べてきたのでお茶だけもらった。
アーニは慣れてきたのか、パンを美味しそうに食べながらゴギャゴギャいっていた。
「じゃあ、かけてみるね」
秋さんはそう言うと、スマホをスピーカーモードにしてテーブルに置く、そして口の前に人差し指を持ってくる。しゃべるなってことだ。
三回ほど呼び出し音が鳴って、プツッて音がした。電話が繋がった。
〈はい〉
電話の声は女性だ。
「あの、掲示板の画像の件でお電話したんですが」
秋さんは落ち着いた声で言う。他の皆は少し緊張気味だけど、なんだかいたずらをしている時みたいな
ちょっと浮ついた感覚もある。わたしだけかな?
〈画像の件ですか、どんな画像?〉
……この人わかってて聞いてる。知らなかったらこんな反応しないよ。
「……あの、緑色の宇宙人みたいなやつの画像です」
一応、この問答も想定内だ。色んなパターンをノートに書いておいたので、このタイプの反応だった時の対応のページをめくる。
〈……あなたはあの画像の生き物の事をしっているのか? ……もしかして今一緒にいるのか?〉
電話の向こうの女性の声が急に緊張感を増す。
「えっと、その前に伺いたいんですけど、あなたは何者ですか? 警察?」
〈私たちは法務省の……〉
そこで、声が途切れ、ガサゴソと言う音がする。
〈……あー、すいませんお電話かわりました〉
しばらくして、聞こえてきたのは、男の声だった。
「……えーと、さっきの女の人は?」
〈えーと、ちょっとお手洗いに行きまして、それより、あの緑色のがそこにいるんですか?〉
「……こちらの質問が先です、あなた方は何者ですか? さっき法務省とか聞こえましたけど」
〈……お答えできません。それより、あの生き物について知っていることを教えてください〉
「………えっと……」
〈……もしかして、そこにいますか?〉
「……あの」
〈いるんですね?〉
「いや、あの」
〈今から伺いますので、そこにいてください〉
プツっという音と共に通話が終わる。
しばらく誰も何も言わなかった。何今の怖い。伺いますってここに来るってこと? 怖いんですけど。
「えーと、質の悪いいたずらだよな? 来るって言ってたけど」
啓介さんがわざとらしく明るい声で言う。
「そ、そやな、今から来る的なことをゆうとったけど、まさかな」
椎子もそう言って、ひきつった顔で笑っている。
「最初の女のひと……法務省って言ったよね。それと私たちって……、啓介、検索して。私は教授にメールしてみる」
秋さんはスマホを手に持つと素早い指操作で何かを入力している。教授っていう人にメールしているんだろうか。
「皆も一応着替えて、いつでもここ出れるように。アーニ君は……そのスカジャン以外なんかないの?」
当のアーニは勝手にお茶のおかわりを入れて飲んでいた。いつのまにか馴染んでいる。ウケる。




