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りたーにんぐ!  作者: 消しカス
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5 ゴブリン村編1 おいでよゴブリン村

 目が覚めると、槍を持った小柄な4匹の緑の生き物に囲まれていた。


 最初は宇宙人かとおもったが、格好が荒い布製のシャツとズボンに革の胸当てというファンタジー風の格好をしている。それをみて思い浮かんだ単語はゴブリンだった。緑だし。


 その姿をぼんやりと見ていたが、やがて急激に覚醒する。小屋? 物置? 六畳くらいの部屋の片隅で、槍を突きつけられている状況だ。


 換気用なのか、跳ね上げ式の窓が開いているため部屋の中はそこそこ明るい。日の入りぐあいから、太陽は高いようだ、昼間に近いのだろか。


「おい、なんでこんなところにニンゲンがいるんだ」


「見張りはなにやってたんだよ? 昨日の見張り誰よ?」


「ニンゲンのくせに、おいらたちの村で寝るって、なんなんですか? 余裕ですか? 馬鹿ですか?」


「……殺そう」


 ゴギャゴギャとしか聞こえないが、何と言っているのかは不思議と理解できる。夢だと思いたいが、これは夢、じゃない。なぜだか確信がある。


 四匹は似たような見た目、というか見分けがつかん。……いや、最初に喋った奴がちょっと装備がいいような気がする。皮の胸当ても少し豪華だし、突きつけられている槍もコイツだけ金属製だ。リーダーみたいな感じだろうか?


 俺はゴブリンの様な生き物たちの様子を見ながらゆっくりと体を起こす。


「おい、動くな」


「お、反抗する気?」


「なんですか? さ、刺しますよ」


「……よし殺そう」


 ゆっくりと両手を上げる。この時すでに確信があった。


「あー、怪しい者じゃないです」


 ベタで月並みだが、咄嗟のときはこんな言葉しかでない。口から出たのは彼らの言葉だ。思ったよりゴギャゴギャ言ってる自分にびっくりしながら続ける。


「えーと、殺すのは勘弁してください」


 ゴブリンの様な生き物達は呆然とこちらをみている。


「……しゃべった」


「……しゃべったな」


 いい装備のゴブリンの様な生き物と、その隣の奴が呆然としながらつぶやく。え、そんなにびっくりすることなの?


 ゴブリンの様な生き物、……もうゴブリンでいいや。は俺に聞こえない様に小声でコソコソと話し合いをしていたが、やがてどう対応するか決めたようだ。


「……おまえら、ちょっと見張ってろ。怪しい素振りを見せたら殺していい。……おい」


 そう言って、いい装備のゴブリン、仮にリーダーとしよう。が、もう一匹をつれて小屋を出て行った。ちなみに小屋の出入り口は一メートルくらいの隙間に厚手の布が垂れ下がっているだけだ。リーダーが出ていくときに布を捲り上げて留めていったので、小屋の中はだいぶ明るくなった。


 何やら物騒な事を言い残していったので、とりあえず身動き一つせずにじっとしてることにした。その間に、このような状態に陥った経緯を思い出そうと記憶を探る。


 昨日は確か、アパートの隣室に住む友人を飯に誘った。結局その友人は留守だったのだが、その彼女と思しき人物がいた。彼女と判断した理由は色々とあるが、簡単に言うと、俺の隣室の友人は、俺が思っていたよりも上級者だったということだ。

 それで、なんだか妙な成り行きで、何故か俺はその女性と食事に行くことになった。

 駅近くの行きつけの居酒屋に行って………。特に何事も無く少し酔っぱらってアパートに帰って寝たはずだ。

 でも、変な人だったなぁ。面白い人だったけど。そういえば夜中にドアをノックされたような気がしないでもないけど……。


 そんな風に自身の記憶を探っていると、出ていったゴブリンが戻ってきた。リーダーっぽいゴブリンはもう一匹、さらに小柄なゴブリンを連れてきたようだ。


 見張っていた三匹のうち二匹に外へ出るように促し、小柄なゴブリンが目の前に座る。両脇にリーダー風のゴブリンともう一匹が槍をもって立つ。小柄なゴブリンはどうやら、結構歳をとっているようだ。他のゴブリンと違い、ローブの様なものをはおり、数珠のような腕輪や牙や角の様なものがジャラジャラついた物を首から下げている。呪い師だろうか? いかにも魔法でも使いそうな見た目だ。


 目の前に年老いたゴブリンとその両脇に槍を持ったゴブリン。しばらく無言のまま対峙する。ローブの奥の表情はよく読み取れないが、じっとこちらを観察しているようだ。


 ……

 ………

 …………


 観察しているんだよな? こいつ、寝てないよな? と、少し心配しだしたころ、老ゴブリンが口を開いた。


「……アンタ、名前は?」


 あ、思ったより声高いな。しゃがれ声というか、裏声?


「あ、はい。渕です。渕一郎といいます」


 とりあえず名乗ったが、特に何も反応は無い。相変わらず俺の事をじっと見ている。しばらく沈黙は続き、なんだか居心地が悪くなってきたころに、老ゴブリンはまた呟くように言った。


「…………アンタ、異人だね?」


「え? あ、はい? いえ」


 ヤバい、声の高さに気をとられて内容が入ってこんかった。……もしかして雌っていうか、おばぁちゃんゴブリンですか?


「この大辺境でアンタみたいな魔力のない人間が一人でいるってのも考えづらい。よっぽどのスキルを持っているならわかるが、それでも一人ってのはね」


「えーと、あの、ここはどこですか?」


「ふむ、本当にアタシらの言葉がわかるんだね。……ここは人間どもが西端とか大辺境とか呼んでる所さ。さらにその端の小さなゴブリンの村さね。西は銀槌山脈、北は魔の大森林、南は荒野と砂漠、一応、帝国領ってことになってはいるが、文明圏のどん詰まり、外側と言ってもいい」


「はぁ」


 異世界、なのかなぁ。


 ドッキリとかやらせにしては壮大すぎるよね。言葉とか。うーん、しかし自分でも驚くほど落ち着いている。普通もっと、慌てたり混乱したりすると思うんだけど。……なんとも奇妙な感覚だ。異世界だということをなんだか自然に受け入れている。そして同時に、そんな自分自身に違和感を感じる。なんだコレ。


「あの、魔力とかスキルって言われてもちょっと」


「それを詳しく説明すれば夜が明けちまうよ。そのうちおいおい説明してやる。……ただ、あんたは魔力もないし、スキルもない。アタシも異人に会ったのはこれで二回目だけど、異人は、……異界から来た人間をアタシらは異人と呼んでいるんだが、異人は変に魔力があったり変わったスキルをもってたりするって話なんだがねぇ」


「はぁ」


「そうだね……後天的にスキルを得ることがあるけども、アンタの場合、魔力が少なすぎる。まず無理だろうねぇ。あぁ、アタシは【鑑定】持ちだから間違いないよ」


「はぁ」


 ……あれ? なんか凄い才能が! 的な展開じゃないの? ……いや、意志の疎通ができるだけマシか。言葉が通じなかったら最初の時点で殺されていたかもしれない。


 しかし、全く未知の言語だと思うのだが、普通に喋れている自分自身にも違和感しかない。……夢じゃないよな? 夢なら覚めて欲しいんだけど。


「さて、アタシもアンタにいくつか聞きたいことがある」


 それから暫く老ゴブリンの質問がつづいた。と、いってもこちらに言えるのは目が覚めたらここいたことぐらいしか言えない。あとは前の晩、変なコスプレ女と酒飲んだとか。


 隣室のヤツとは歳も近く、結構仲良くしていたのだが、あいつ、そんな趣味だったのか、とか、それを受け入れてる彼女なんだ、とか、少し衝撃的だったのだ。まぁ、人の趣味にとやかく言うつもりはないのだが。


 老ゴブリンからは、そのコスプレ女の見た目や話した内容などを根掘り葉掘り細かく聞かれた。


「ふむ。その女の名前を言えるかい?」


「えーっと、たしかミシャとかそんな名前だったと」


 俺がそう告げると、老ゴブリンは暫く考え込み、小刻みに震えだした。何かの発作かと少し心配になったが、どうやら笑っているようだ。やがてこらえきれなくなったのか、大声で笑い出した。しかも引き笑いだ。両脇のゴブリンも引き気味だ。


「……ふう、アンタ、もしかしてニホンってところから来たのかい?」


 笑いが収まり、老ゴブリンは語りだす。


「!! 日本知ってるんですか?」


 まさかこんなゴブリンの婆さんの口から日本って言葉が出てくるとは。びっくりしてちょっと前のめりになると、脇のゴブリンから、すかさず目の前に槍が突き出される。老ゴブリンはそれを軽く手で制し、続ける。


「アンタが会ったのは、有名な魔女さ、ミシア・シャラ・サフィア・サファイアス。……東の賢者、亜人の盟主、クァドラのミシア……と、色々な呼び名があるが、一番有名な呼び名は翡翠の死神。敵に回すとろくな目に遭わないってね。ここ数年は一人の異人に付きまとって、なんでもその異人は遥か東で国を興したって噂さ。その異人の故郷がニホンって所らしい。いつかニホンに行くのがここ最近の目標だって言ってたよ」


 なんか、そんなような話を酒飲みながらしたような。話半分にきいてたからなぁ。


「あの魔女の知り合いならあんまり無碍にはできないね。アンタがアタシらの言葉を喋れるのも魔女の仕込みだろうし、なにか狙いがあるのか……。とりあえずアンタはどうしたいんだい?」


「えーと、できれば家に帰りたいかなと……」


 なにがなんだかよくわからないが、どうって聞かれたらそりゃ帰りたい。


「ふむ、そいつはアタシじゃ何ともできないが、あの魔女にもう一度会えればなんとかなるんじゃないのかい? どうやったのか分からないが異界に行ってアンタをこっちの世界に飛ばすくらいだからね」


「はぁ」


「まぁ、暫くはここに居な。魔女に会いに行くのもそう簡単なことじゃないし、色々と知りたいこともあるだろう。あとでアタシの弟子をやるから色々と案内してもらんだね」


 話は終わりとばかりに老ゴブリンは立ち上がる。小屋を出ていきながら、護衛のゴブリンにも声をかけている。


「その人間は客人扱いだ。殺すんじゃないよ」


 槍を構えたゴブリンにそう言い残してリーダー風のゴブリンを連れて小屋を出て行った。どうやら一匹は見張りの為にこの場に残るようだ。


 なんとなく手持ちぶさたになったので、身の回りの確認をする。どうやら飲みに行った時の格好のままらしい。長袖のシャツにパーカー、ジーンズのズボン。あとは腕時計。財布とスマートフォンはポケット。見張りの隙を見て確認したが、スマフォはやっぱりというか、なんというか圏外だった。海外でも使える契約だったんだけど、まぁ、異世界だったら無理だわな。


 この状況も、壮大なドッキリとか、色々理屈をこねれば説明可能なんだろうが、やっぱり異世界なんだろうなという確信がある、というか、納得しているというか。うーんなんだろうこのモヤモヤする感じ。とりあえず携帯の電源は切っておこう。


「おい、アンタ、なにコソコソしてる?」


 一匹だけ残った見張りのゴブリンが槍を突きつけてくる。


「妙な真似するなよ。ババァは客人だって言ってたけど、おいらは納得してねぇし、ニンゲンなんてコボルトより信用ならねぇってアニキも言ってたからな」


 ゴブリンは鼻息荒く捲くし立てる。比較対象のコボルトの信頼度がよくわからないので何とも言えないが、この世界にコボルトがいるのはわかった。はぁ、とか、すいません、とか、適当に返事を返していると小さな人影が小屋に入ってきた。


「おお、これがニンゲン! 近くで見るのは初めてです!」


 小屋の入口に両手で頭の横を押さえた少女が立っている。身長は見張りのゴブリンより少し低く一メートルくらいか。先ほどの老ゴブリンのようなローブ? マント? をまとっている。赤毛でぼさぼさのショートヘア、アホ毛が三本ぐらい出ている。顔は一言でいうとたぬき顔というかあらいぐま顔というか、小動物系の女の子だ。顔の造形は人間とあまり変わらない。愛嬌があって可愛いらしいが顔色が若干緑っぽいから、この子もやっぱりゴブリンなのだろうか。ゴブリンの雌ってこんな感じなのか。


「おう、トアじゃねぇか、何しに来た? ここには近づくなって聞いてねぇのか?」 


 見張りのゴブリンが少女にむかって声をかける。


「オババに言われてきたです。そのニンゲンの案内役です」


「ババァにいわれたのか。おめぇ一人か? 大丈夫なのか?」


「このニンゲンはメチャメチャ弱いから大丈夫ってオババは言ってたです。だからセトも帰っていいです。そういえばクロが探してたですよ」


「あぁ、あいつ畑の周りに新しい罠をしかけるから手伝えって言ってたな。ちょっと行ってみるか。ババァの言う事に間違いはないんだろうが、用心しろよ。なんかあったら大声で呼べ。いいな?」


 ゴブリンは小屋の出入り口に歩き出す。ふむ、こいつセトっていうのか。


「はい。セトも村の外に行くなら気を付けろです」


 ゴブリンの少女は小屋を出ていく見張りのゴブリンを見送ってこちらに向き直る。


「さてニンゲン、わたしがお前の世話係のトアです。なんでも聞くといいです」


 トアと名乗った少女は微笑む。しかし両手は頭のよこに置いたままだ。


「村を案内する前に一つ聞きたいのですが……ニンゲンはゴブリンの耳を集めるのが趣味って本当ですか?」


 それがトアというゴブリンの少女との出会いだった。


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