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りたーにんぐ!  作者: 消しカス
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19 ゴブリン村編15 覚醒イベント?

 

 竜の死は確認した。

 確かに死んでいるのだが、長老は警戒を緩めなかった。竜の死体をさらに魔法で拘束し、下半身は完全に沼に沈め、さらに【硬化】の魔法でがちがちに固めてある。つまり、本当にコンクリートで固められたような状態だ。ここまで用心するのには理由がある。古竜の逸話では死んだはずなのに復活する話は珍しくないからだ。


「あれだね、たぶん古代蛭の一種だと思うんだけど」


 穴の周りに集まり、上から竜を見下ろす。長老、ドルフ、ミラ、ギルバート、そして俺。他のゴブリンやドワーフも周囲の警戒をしながら穴の中の竜を見下ろしている。


 竜は首や両腕、翼の付け根などを太い木の根や蔦で厳重に縛り付けられ、地面や穴の側面に縫い付けられている。

 その首の下部分に赤黒い塊が付着している。それを指さしてドルフは誰に言うでもなく呟いた。


「もう、このまま、ここに埋めてしまったほうがよいのではないか?」


 俺もそう思う。もうまるごと埋めて無かったことにしませんか。


 元々の作戦では、マンドラゴラ攻撃で、気絶、もしくは行動不能に陥れば、その間に暴走の原因と思われる逆鱗部分の付着物を取り除き、厳重に拘束し様子を見るというものだった。正気に戻れば、交渉して解放。暴走が収まらないようなら、数日様子を見ながら、どうしようもなければ逆鱗を攻撃しとどめをさす、というものだった。

 まさか死ぬとは思っていなかったので、戸惑っているのだが、長老の行動は当初の予定通りともいえる。長老が気にしているのは、この竜の親。つまり山脈の頂きに住むという銀竜の存在だ。子供の喧嘩くらいでは出てこないだろうが、死んだとなれば話は別だ。怒り狂って暴れたりでもされたら、この竜よりもやっかいなことになりかねない。


「その、古代蛭とやらが暴走の原因なのだろう? それを取り除いてしまったら、その親竜が現れたときに、それはそれで面倒なことにならんか?」


 ドルフの言う事はもっともだ。暴走の原因と思われるものを取り除くと、言い訳が難しくなるというものだ。

 それに対し長老は言う。


「逆鱗に偶然あんなものが付くと思うのかい? 逆にアタシ等が疑われるのが落ちさ」


 長老の言い分は、逆鱗に蛭を寄生させ、さらに罠にはめて殺したと疑われる、と言っているのだ。


「古竜種は不死だと言われています。なにかの理由で死を迎えても、最後に卵を生み残し、生まれ直す話や。あとは、特に理由もなく生き返ったり、心臓が三個あるから死なない、とかいう話がありますね」


 ギルバートが横から口を出す。


「どう見ても死んでいる。とてもこれが生き返るようには思えないのだが」


 確かに竜の死は慎重に何度も確認したし、その体はすでに冷たくなっている。ミラの言う通り、確かにこれが生き返るとは思えない。


「フチ、アンタの意見を聞こうか」


 長老から急に話を振られて、ちょっと慌ててしまった。


「えっと、あー、このまま埋めてしまうのもアリかなぁとは思うんですけど、もっと拘束して万全の態勢を整えてからその古代蛭? をとってみましょうか。……それで、十日ぐらい様子見て、腐り始めたりしたら埋めちゃう、とか?」


「ふむ、フチがそういうなら、仕方がない。日が暮れるまでまだ時間がある。とっととやってしまおう」


 俺の言葉にドルフが答える。そして、異を唱える者はない。ミラは何回も頷いている。……なんなの?


「今回の古竜退治の功労者はどう考えてもフチだろう。お前が言うなら文句を言う者はいないさ」


 俺の訝しげな視線に気が付いたのか、ミラは言う。


「町に帰ったら、吟遊詩人の真似ごとをして、ふれて回りたいくらいだ。我が帝国に竜殺しの勇者あり、とな」


 この人とはゆっくり話をする必要がありそうだ。

 少し呆れて他のメンバーを見渡すと、ギルバートは苦笑い。ドルフは素知らぬ顔をしている。長老はゴブリンに梯子を持ってくるように指示を出している。そして、トアは俺を見てニヤニヤしている。……なんかむかつくんですけど。


 竜の拘束をさらに強化し穴の縁に梯子を掛ける。さて、誰が行くかとなったときに、トアが手を上げる。


「わたしが行くです」


 そういって俺の方を見る。その顔は相変わらずニヤニヤと笑っている。


「ついて来いです。勇者様」


 ……このやろう。こいつともお話をしなければならないようだな。


 梯子を下り、竜に近づく。俺とトア、そしてミラが同行している。足元は長老の魔法でコンクリート床みたいになっているので歩きにくいことはない。あっさりと竜の胸元に辿りついた。


 間近で見る竜の巨体は、死んでいるとはいえ迫力がある。

 逆鱗に付着した異物には微妙に手が届かない。なにかちょっとした踏み台の様なものがあれば届きそうだ。そう考え手ごろな岩か何かがないかと辺りを見回していると、トアが俺の袖を引いてきた。


「さ、勇者様、ウマになれです」  


 確かに、肩車でもすれば楽に届きそうだけど。


「トアさん、その勇者様ってのは、やめてください」


 俺はそう言いながらトアを肩車する。


「もうちょっと、前です。はい、今の位置です。……やっぱり古代蛭です。こんなにデカいのは初めて見たです。もう死んでるですけど」


 トアはそういって俺の上でもぞもぞしている。上を見れないのでよくわからないが、その古代蛭とやらを引きはがすのに苦労しているようだ。


「むぅ、すごい食いついているです。うわー、ブヨブヨして気持ち悪いですぅ」


「トア、私と代わるか? 岩か何か足場があれば、私でも届きそうだが」


 横で見ているミラが見かねて声をかけてくる。


「だい、じょう、ぶです。もう、少し……えい!」


 トアの掛け声とともに蛭の死骸は剥がれたのだろうか、上のトアが大きく動いたので少しバランスを崩してよろけてしまった。



 次の瞬間、何が起こったのかよくわからなかった。


 なにか大きな音が頭上から聞こえたと思ったら地震のように足元が揺れた。そのままヨロヨロと倒れそうになり、しゃがみこんでしまう。トアはその拍子に地面に降り立ち音の方向に目を向ける。俺もトアが降りたので上を見上げる。


 そこには大きな口を開け、空気が震えるような絶叫を発している竜の頭があった。


 最初に思ったのは、マジか、で、次に思ったのが、拘束してるから大丈夫だよね、で、その次が、とりあえず逃げよう。だった。


 竜の首のところに巻き付いている太い木の根っこみたいなやつは今のところ大丈夫っぽい。拘束が効いてる。大丈夫だ竜は動けない。トアとミラは? とりあえず穴の上にあがろう。梯子は……


 そう思って辺りを見回したとき、目に入ったのは竜の左腕の拘束が切れかかっているところだった。肩の所と手首のところを木の根や蔦で厳重に地面や穴の壁面に縛り付けてあったのだが、手首の拘束が切れかけている。ミシミシという音が聞こえてきそうなほどの力の込められた左腕によって、だんだんとほつれ、ちぎれていく蔓草のロープがくっきりと目に入ってくる。そして、竜の腕がそのまま拘束から解放され、横なぎに振るわれるとしたら、……その方向にはトアがいる。トアは呆然と竜の頭の方を見ていて、左腕の拘束が緩んでいることには気が付いていない。


 時間の流れがゆっくりになった気がした。トアに声を掛けようとして、なんと言えばいいのか咄嗟に出てこない。「危ない」でいいのか? なにが危ないのか伝わるのか? かえって注意を引いてしまって、竜の腕に気がつかないんじゃないのか? じゃあ、「竜の左腕が」だろうか? 「右を見ろ」か? それでいいのか? 伝わるのか? そんなことを一瞬で考えながら結局出た言葉は「トア!」の一言だけだった。

 そう叫んで、トアを突き飛ばす。と同時にものすごい衝撃で吹き飛ばされる。大型バイクに跳ねられたみたいだと思った。いや、大型バイクにはねられたことはないんだけど。

 そのまま飛ばされ穴の壁面に打ち付けられ、跳ね返って地面を転がる。


 息ができない。目の前がチカチカしている。頭を打ったのか? 左肩と背中が熱い。腕が折れてる? 足は? トアはどうなった? 竜は?


 俺は身のまわりを確認しようと、体を仰向けにする。そこで目に入ってきたのは、今まさに拘束から解き放たれた竜の右腕が俺に向かって振り下ろされようとしているところだった。手を翳したりすることもできず、できたのは目を閉じることだけだった。


 目を閉じてその時を待った。しばらく待ったがなにもおこらないので、ゆっくりと目を開ける。


 色がおかしい、と、一番最初に思った。セピア色というか、モノクロというか。


 そして目の前に炬燵と、そこに座って本を読んでいる少女が目に入ってきた。少女の後ろには竜の右腕がある。まさに振り下ろそうとしている状態で止まっているように見える。……時間が止まっている?


「ひさしぶりだな、イチロー」


 少女が声をかけてきた。……なんと日本語だ。パタンと本を閉じ炬燵の上に置く。


「忘れたのか? ……タマムシだ。お前が付けた名前だぞ」


 そういって少女はニヤリと笑う。黒髪ショートの前髪ぱっつん。どっかで見たな。


「いま、お前の視覚を操作して私の姿を見せている。まぁ、幻覚のようなものだな」


 少女は立ち上がり炬燵の上に立つ。俺の高校時代の学校指定の紺色のジャージを着ていた。少しぶかぶかだ。炬燵の上に乗るなんて行儀悪いな。なんて、ぼんやり考える。


「なるほど、イチローのイメージした私はこんな姿だったのか。はっきりした映像で見るのは初めてだな」


 えーと? 何言ってるかよくわからん。


「あれ? ホントにわかってない? あの、エルフの魔女と酒飲んでる時に注射かなんかされただろう? 言葉が喋れるーみたいなやつだ。あれが私なんだが。あー、脳みそに寄生する的な生き物と言えばいいのか?」


 あー、あれかぁ、そういえばあの人そんなこと言ってたなぁ。まぁ、言葉が喋れるのは助かったけど。



 タマムシと名乗る少女はわざとらしく咳ばらいをして話を続ける。


「……ずいぶん悩んだのだ。古竜はなかなかに魅力的だからな。不死に近い肉体、条件にもよるが単純な戦闘力では最強に近い……しかし」


 少女はそう言って左腕を伸ばす。その先には今までなかったはずの本棚があった。それをみて俺は完全に思い出した。この本棚は俺の実家の部屋の本棚で、この少女はこの世界に来た時に見た夢に出てきた少女だ。


「……この漫画本というやつが、意外に面白くてな。お前から離れるとコレが見れなくなる。それに、お前は元の世界に帰るつもりなのだろう?」


 そう言うと、本棚から一冊の漫画本を取り出す。


「これの続きを読みたいのだ。お前が元の世界に戻れば読めるのか?」


 あー、それね、そろそろクライマックスだよね。楽しみにしてるんだけど、俺、コミックス派だから、立ち読みとかネタバレとかも見ないようにしてたんだ。そういやそろそろ最新刊が出てるかもしれんな


「やはりそうか。この十二巻でめちゃめちゃピンチで終わっているからな。続きが気になってしょうがないのだが」


 そうそう、それなー、途中のヒロインの表情も伏線っぽいし、仲間にもあやしい奴が……って、なにこれ? 夢? 走馬灯? ……走馬灯だとしたらずいぶんアホな走馬灯だな


「夢ではないが、走馬灯は近いな。この世界にきて蓄えた魔力でイチローの脳に根を張った。これでイチローの体を自由に操れる。今は全力で思考を加速している状態だ」


 あー、もしかして覚醒イベント的な感じですか? 力が欲しいか? みたいな?


「覚醒するのは私だ。イチローは特になにも変わらん。しかもイチローの体はろくに体内魔力がないから私もあまり出来ることが無い。……ただこの状況はイチローでは確実に死ぬので、私が運転を替わろうというのだ。イチローが死んだら漫画が読めんからな」


 運転?


「この肉体の操縦と言えばいいのか? 私なら肉体の潜在能力を限界以上まで引き出せる」


 ふーん、一心同体、私はあなた、あなたは私、みたいな感じか?


「気持ちの悪いことを言うな、そうだな、二心同体、だな。私は私、お前はお前だ」


 気持ち悪いとかひどいな。ようは俺の体に寄生してるってこと?


「その考えで問題ない。イチローの脳に寄生している。今までは宿主を変える可能性も考えて、表層に住んでいた。気分や感情のコントロールを少し行っているくらいだったんだがな」


 感情のコントロール?


「そうだ。目覚めたらゴブリンの村で、挙句は最強ドラゴンが襲ってくるようなクソ展開でも、沈んだ気分になったり、鬱になったりしなかっただろう?」


 あー、なるほど。


「今回は、イチローの体を操縦する為、脳の深部まで根を張った。イチローを壊さないようにするのにだいぶ魔力と神経を使ったよ。この体は魔力が無さすぎる。いままで溜めた魔力がほぼ無くなってしまった」


 えーと、俺を乗っ取るってこと?


「やろうと思えば出来るが、私にメリットが無い。イチローが元の世界に帰るのはイチローに任せたほうがスムースにいきそうだし、私は漫画の続きが見たいだけだ。それに……」


 ……それに?


「……いや、とりあえずこの局面を切り抜けよう。竜を倒すぞ」


 えー? 逃げた方がよくない?


「竜があの拘束を外せないなら逃げるのも有りだが、なんともいえん。それにイチローの今の怪我の状態で長距離逃げるのはたぶん無理だぞ。拘束が効いているうちに殺す。目と耳は繋いでおいてやる。だまって観ていろ」


 おっ、かっこいい。だまってみていろ、だって。


「……あー、死んだらごめんな」


 ………え?


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