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りたーにんぐ!  作者: 消しカス
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18 ゴブリン村編14 決戦


 翌日、日が昇ってしばらくたち、皆すでに配置についている。俺の配置場所は落とし穴から少し離れた丘の上だ。そこへミラがやってきた。


「よくもまぁ、これだけえげつない罠を思いつくものだ。異人というのはみなこうなのか?」


 全部俺が考えたんじゃないわい。たしかに思いついたことは何でも言えって言われたので、いろいろ発案はしたけど。


 「まず、でっかい穴を掘りましょう」と言ったら、頭がおかしいんじゃないかコイツ、みたいな目で見られた。落とし穴は誰でも思いつく基本だと思うのだが、竜の巨体を落とすような穴を掘るなんて、思いもよらなかったようだ。

 だが、俺の思いついた作戦ではわずかな時間でも竜を足止めすることが必要だ。その辺りの事を順追って説明すると、皆は納得してくれた。

 というか、この大きな穴を重機も無しに十日ほどで掘ってしまう魔法と労働力がすごいよ。ダメもとで言ったことがほとんど採用されている。

 ただ、ヤマタノオロチ作戦とか毒餌作戦は却下された。暴走状態の竜に狙って何かを食べさせるのは難しいだろうという理由だ。


「持ち場を離れて大丈夫なんですか?」


 ミラの感心しているのか嫌味なのかわからない言葉聞きながし、気になったことを言ってみる。


「おそらく、あと二刻ほどでここに誘導できるだろう、とのことだ。それを伝えに来た」


「あ、はい」


 ミラの言う二刻はだいたい一時間くらいなので、作戦前の最後の連絡だな。


 この作戦のキモは長老とトア、二人の魔法だ。そのため、ミラとギルバートがトアに、ドルフともう一人のドワーフが長老のそばに付き不測の事態にそなえる。あとのゴブリンとドワーフは周辺の警戒と穴に落ちた後の追い打ちという名の嫌がらせの係だ。どうにもならなかったら、出来るだけ足止めの工作をして、ばらばらに散らばって逃げることになっている。

 一部のゴブリンたちがその場に残り、竜を再び森の中に誘い込むことになっているが、それはいわゆる決死隊だ。

 希望者から選別したメンバーはフレジを始めとしたベテランの狩人ゴブリンたち、計四人。彼らの経験と身体能力なら、竜の誘導という仕事をやり遂げ、尚且つ帰還する可能性も無くは無い、といったところだ。だが、村のゴブリンやドワーフたちの安全や避難の事を考えると、ある程度森の奥深くまで誘導しなければならない。そして、それが成功したとしても、今度は危険な森の中を彷徨うことになる。


 生きて帰ることはまず出来ないとわかっているはずだが、それ以上に村を守りたいという思いが強いのだろう。


 作戦の成否に関わらず、火の玉の様な魔法を空に打ち上げ村に伝えることになっている。作戦失敗なら次の作戦に移行する。次の作戦といっても、村の住人をどこに避難させるかという話だ。竜の動向を見ながら、幾つかの避難場所候補のどこに移動するかを決定し、避難を始める手はずになっている。

 本当に最悪の場合は人間の町に避難して、ミラを通して領主の兵を出してもらうことも視野に入れている。


「まさか、竜と戦うことになるとはな。しかも伝説の古竜だ。……フチは怖くないのか?」


「うーん、怖いはずなんだけど……、感覚がマヒしてるのか……なんとも変な感じです」


 普通の魔物や魔獣でも恐ろしいのに、今度はドラゴンときた。日本人的平和ボケなのか、死ぬかもしれない、と頭ではわかっていてもいまいち実感がわかない。普段の生活で死を身近に感じることは無いので、本当の意味で死の恐怖というものを理解していないのかもしれない。


 前々から思っていたのだが、ゴブリンの村で二か月以上暮らして、順応しているのも変な感覚だ。普通なら先行きや将来の不安で鬱になってもおかしくないと思う。髭剃りのほかに心配事はないのかと。言葉にしにくいのだが、なんだか感情にフィルターがかかっているというか、俺ってこんなに楽観主義者だったか? という思いが不意に湧き上がっては消える。まぁ、ストレスでハゲるよりはいいかと、なるべく気にしない様にはしているのだが。


「……あー、フチに聞きたいことが……いや、今度にするか……」


 俺が少し考えこんでいると、ミラがとなりでなにやらモジモジしている。なんだろう、気になるんですけど。


「もしかしたら、今度はないかもなんで、言ってください。気になります」


「縁起の悪いことを言うな! ……しかし、そうだな……フチ、お前は……」


 ミラは、なにやら言いにくそうに、顔を伏せたり、剣の柄をいじったりしている。なにこれ? フラグたってた? 友達になってくれとは言われたが、まさか、これが吊り橋効果というやつか?


「その、こんな時に聞くのもどうかと思うんだが……フチ、お前は……」


 来たのか? これは来たんじゃないか?


「……フチは、幼女趣味なのだろうか?」


「……はぁ!?」


「いや、気を悪くしたなら謝るが、少し気になってな」


「……一応、先に言っておきますが、違います。……今後のこともありますので、そう思った根拠をお聞かせ願いたい!」


 後半すこし声が大きくなってしまった。なにいってんだこの人。俺のドキドキを返せよ。


「いや、貴族の間では特に珍しい性癖ではないので、私はさほど気にしてはいないのだが。先々、我が家に招いたときに、妹のアルティアナのことが心配になってな。さっきも言ったが、貴族の娘は十歳ほどの年齢で嫁にいくものいる。それに脂ぎった中年貴族が年端もいかぬ少女を、その……な? ……そいう話は貴族の間では珍しくないので、本当に私は気にしないのだ、しかし……」


「だから違うって! 俺はロリコ……幼女趣味なんかじゃないです!! それで! どうして! そう思うのか! 教えていただけますか!?」


 そういえばこの人、初めて会ったとき薄い本がどうとか言ってたな。……あとでギルバートに尋ねよう。


「違う……のか? ……しかし、トアやリジーといつも仲良くしているだろう? 一緒に寝たりしているし。それに、その言葉使いだ。トアやリジーには親しげなのに私に対しては丁寧というか、距離を感じる。てっきり少女が好きなんだろうなと」


「それは、……言葉使いは仕方ないでしょ? ミラは貴族だから、無礼者! とか言っていきなりキレて切りかかってくるかもしれないし。トアやリジーと一緒に寝てるのは、あいつらが俺の寝床に潜り込んで来るんですよ リジーなんてまだほんのガキんちょ……子供じゃないですか」


「あの二人は同い年だぞ。今年で十二歳だそうだ。さっきも言ったが十歳で嫁にいく者もある。同衾するのは感心せんな。というか、お前、私の事をそんな風に思っていたのか?」


「同衾ってアンタ……」


「それに、リジーがな……。いや、そうか、違うならいいんだ。……そうだな、できれば言葉使いを改めてくれ。私にも、もっと親しげに話してくれた方が嬉しい」


「……わかった。善処します……するよ」


「そろそろ戻らないとまずいな。では、おたがい頑張ろう」


 そういうと、ミラはさっさと行ってしまった。なんなんだ、俺ってそんなふうに見られてたのか? くそう、作戦が始まる前にどっと疲れた。あとでトアとリジーにも言っとかないとかないとな。もしかしてギルバートにもそんなふうに思われているのか?


 ミラのおかげで緊張はほぐれたような気がするが、緊張していた方がよかったような気もする。そんなことをぐるぐると考えていると、その時がやってきた。


「みんな、来るですよ!」


 少し離れた場所にいる俺にも、トアの声ははっきりと聞こえた。鹿の魔物に【共感】を使い竜を誘導していたトアだが、すでに魔法を解いている。鹿の魔獣〈森大鹿〉が森の茂みから飛び出して、こちらに向かってくる。その後ろの森がザワザワと揺れたかと思うと、木々をなぎ倒しながら、その巨体が姿を現した。


 思ったより大きくはないのか? 少し離れた場所から見ているせいもあるかもしれないが、最初に感じたのはそんな感覚だった。建売の一戸建ての家くらいの大きさ、それより一回り大きいくらいだろうか? 正確な大きさはわからないし、それがわかったところで、今はもう意味は無い。しかし、落とし穴の大きさは十分だと感じた。


 森から全身を現し、しかし、躊躇するそぶりや立ち止る様子はない。銀色というより、ガンメタっぽい色の鱗におおわれた体。頭の両側に羊の角のようなりっぱな巻角がある。大きな翼、意外と長い手足。そして太い尻尾。体を起こし、後ろ足だけで一歩、二歩。三歩目を踏み出したとき大きくバランスを崩し、頭から落とし穴に落ちていく。遠くから全体を見ている俺でも震えが来るような大迫力だ。穴の側で待機している皆はどう感じているのだろうか。


「段取り通りにやるぞ、慌てるな!」


 ドルフの大声が飛ぶ。


「弩班、放て!」


 穴の両側から、大型のクロスボウによって特製の矢が発射される。矢には網がくくりつけられていて、その網が穴に落ちた竜に覆いかぶさる。

 網目の一つ一つは一メートル四方もあるような目の荒い網だが、全体にトリモチが塗りつけて有り、水に浸けて保管していた。乾燥すれば粘性を増すため、時間がたてばたつほど絡みつき動きにくくなるはずだ。

 頑丈な蔓草を縒り合せ、ちょっとやそっとではちぎれないはずだが、竜の膂力がどの程度なのか不明なため、あくまでも嫌がらせだ。翼の動きを制限し飛行能力を少しでも封じたいという思惑もある。


 罠や迎撃作戦は飛行行動はないという前提で行っているが、穴に落ちた竜が空を飛んで逃げだしたらそこまでだ。ただ、これは少しでも効果があればいいな、ぐらいのもの。今回の迎撃作戦の本命は長老とトアの魔法だ。


 トアと長老が同時に別々の魔法を発動する。


 最初に浴びせた網の材料である蔓草は、本来叩いたり、水にさらしたりしてきちんと加工したほうが、柔軟性がでたり強度が増したりするのだが、今回は採取したばかりのものを縒り合せ網状にしてある。生命力の強い種で、採取した状態でしばらく放置するとその場に根を伸ばして繁殖しようとするらしい。つまりこの網の蔓草はまだ生きている。


 トアが使っている【緑縛】という魔法は植物の蔓や根で対象を捕縛する魔法で、精霊魔法系の割とポピュラーなものだという。魔法の発動と同時に覆いかぶさっていた網からウネウネと新しい蔓草が伸び、それが竜の体に絡みつく。

 そして、竜の足元は長老が発動した【泥漿】の魔法によって、粘性の高い泥沼のようになっている。事前に穴の側面や周りを【耕土】の魔法で柔らかく崩れやすくしているため、竜が暴れたり這い上がろうとすればどんどん崩れていく。崩れた土は足元で【泥漿】の魔法によって粘性の高い泥沼に変えられていく。アリジゴクと泥沼を合わせたような状態だ。


 ちなみにここまでほとんどが俺の発案だったりする。物理攻撃や攻撃性の魔法はほとんど効果が無いだろうという予想の元、思いついたことを何でも言えといわれたので、落とし穴掘って速乾コンクリ流し込めばいいのに、というのが今回の基本コンセプトだ。


 クロスボウによる投網、トリモチ、泥沼を作る魔法はないのか、毒は使えないか、と次々に出てくるアイデアに皆、少し引いていた。だが、こんなの誰でも思いつく。皆、竜という埒外の存在に戸惑って通常の思考が出来ない状態だったのだろう。ゴブリンたちが使っている罠もこんな感じのものはあるし、その規模を大きくしただけだと思うのだが。


 途中から、トアも【泥漿】の魔法に切り替えている。すでに竜の足元は完全に粘性の高い泥沼の中に沈んでいるようだ。


「よし、十分じゃろう! 皆、退避じゃ! 穴から離れよ!!」


 ドルフが大声でがなりたてる。穴から少し離れた場所で様子を伺っていたゴブリン達やドワーフ達、そして、トアや長老も魔法の発動を中止し落とし穴から離れる。皆が十分に距離をとったと判断したのだろう。ドルフが叫んだ。


「フチよ、やれい!!」


 俺が立っている丘の上には、俺の身長より大きい投石器が鎮座している。シーソー式と言えば伝わるだろうか? 

 「こんな感じの石を飛ばすやつを作れないか」と、簡単な図解をみせながらドルフに聞いたら、ドワーフ達が一日で作ってくれた。凄く簡単に言うと、公園にあるシーソーの片側に飛ばす石を、そして反対側にもっと大きな石を落とせば、位置エネルギーを利用して、テコの原理で石が飛んでいくという、原始的な武器だ。ここに置いてあるのはもう少し高度なつくりだ。飛ばす石や弾によって威力が変わるが、デメリットは連射きかないことと、一発撃つのに結構な労力が必要ということか。


 今回は、すでに弾がセットされている。弾の重さや射出角度、動力となる重りの大きさまで何回も試験して微調整を繰り返し、落とし穴の手前まで飛ぶようにセットされてある。重りを支えているロープを切れば、弾がすっ飛んで行くという寸法だ。

 誰でも出来る簡単な仕事なので俺に任された。ロープを切るだけの簡単なお仕事です。


「了解」


 特に何の感慨もなく躊躇もなくあっさりとロープを切る。さすがミスリルのナイフよく切れる。そして風切音を発しながらすごい勢いで放物線を描いて飛んでいく弾。


 今回の切り札、マンドラゴラさんです。


 葉っぱを何枚か採った後、持て余し気味だったマンドラゴラ、ここが使いどころでしょう。という俺の提案が採用され、対古竜迎撃戦の切り札に選ばれたのだった。


 つまり、落とし穴はほんの少しの間だけ、足止めするためのもの。確実にマンドラゴラの悲鳴を至近距離で聞かせるためのものだ。


 何しろ至近距離でその断末魔を聞いたら死ぬという。マンドラゴラの声、相手は死ぬ。みたいな。

 その効果が魔法的なものなのか、呪いみたいなものなのか、なにひとつわかっていない。ただ、わかっているのはその声を至近距離で聞いた者は死ぬ、という理不尽な効果のみ。


 古竜相手に効くのか分からないが、これでまったく効果無しなら、皆で全力で逃げることになっている。唯一の不安材料は射出の際にバケツが壊れないかというものだったが、似たようなバケツに土を詰めテストし、そこも一応クリアしている。

 何回もテストしたとおり、弾というか、マンドラゴラは落とし穴の手前に着弾した。そしてそれは、這い上がろうともがいている竜の眼前、まさに目と鼻の先だった。


 植木鉢代わりだった木製のバケツが壊れ、中の土と一緒に大根みたいな物体が飛び出す。その瞬間、甲高い、女性の悲鳴のような、金属を擦り合せたような、不快な不協和音が衝撃波と共に同心円状に広がる様が確かに一瞬だけ見えたような気がした。


 距離があるとはいえ一応耳を塞いでいたのだが、それでも予想外の大音量に思わず目とじてしまった。


 竜は這い上がろうとした姿勢のまま固まっていたが、やがてぐらりと傾き、地響きをたてながら、仰向けに倒れた。

 ドワーフたちは網を打ち込んだ大型のクロスボウに矢をつがえ、巻き上げ機で弦を引いている。少しでも動きが鈍っているようなら〈ビッグマウス〉の毒を弩で打ち込む手はずになっているからだ。


 だが、竜は弱っているどころか、そのまま動く気配が無い。


 長い間誰も動かず、言葉を発しなかった。


 

 やがて、トアがゆっくりと近づいていき、言った。


「あー、これは死んでるですね。たぶん」


 伝説の古竜は死んだ。あっけなく。


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