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りたーにんぐ!  作者: 消しカス
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14 ゴブリン村編10 命の対価

 ドワーフが村に訪れた日から明けて二日、俺はひたすら薬草をすり潰している。

 秋の収穫時期と、冬に備えての準備や保存食品の備蓄など、村にとっても忙しい時期なのだが、当然この季節しか取れない薬草やキノコなどがあり、その中には採取してすぐに加工を必要とする種類もあるため、この時期、長老とトアはその作業に追われるらしい。

 そんな、もともと忙しい時期であるのに、さらに怪我人や病人に対する治療の施術や、微調整を施した専用の薬の調合などが重なり長老がパンクした。

 薬の作成は、簡単な作業をたまに手伝ったりしていたのだが、この二日はほぼ長老の家に缶詰状態で作業している。


 トアはドワーフの族長ドルフとゴブリンの狩人と共に薬草採取兼狩猟だ。


 さて、そのドワーフの族長の娘、リジー、正式にはリジーリージスという名前らしいのだが、そのリジーの治療には二十日ほどはかかるだろうということで、治療が終わるまで父であるドルフはこの村に滞在することとなった。ちなみに他のお供のドワーフ達はドワーフの里に帰って行った。本来であれば、ドワーフの里も冬備えの為に少しでも人手が必要だからだ。


「フチ。それが終わったらこっちのヤツも頼むよ。アンタなかなか筋がいい、いっそアタシの弟子にしたいくらいだよ」


「はぁ」


 昔、飲食店でバイトしていた時のことを思い出す。個人経営の小洒落たレストランだったのだが、料理の仕込みの仕事を任されたことがあり、ひたすら野菜や薬味を刻む作業や、延々と大なべをかき回す仕事があった。それ用の道具とか機械を導入すればいいのにと思ったが、手作業で行うことが店主のこだわりだったのだ。そのおかげかは定かではないが、店はそこそこ繁盛していた。まさかその時の経験がこんなところで役に立つとは。


 ちなみにミラは、長老の家にいる。本人はトアと薬草採取に行きたがっていたが、〈大口〉の毒の影響を心配した長老に、しばらく戦闘などの激しい運動は禁じられたのだ。

 ならばと薬草の調剤の手伝いを申し出たのだが、そのあまりにもな手際のため、長老にやんわりと、しかしはっきりと手伝いを断られていた。

 具体的には、鍋の撹拌をさせればこぼしまくり、すり潰しを頼めば力の入れ過ぎですり鉢を破壊する。他にも、皮をむく、切る、刻む、などの作業も全滅だった。人には向き不向きがあるのは確かだが、長老が真顔でポツリと呟いた「……これはひどい」という言葉に、思わず笑ってしまいそうになったが顔には出さなかった。


 リジーとギルバートも長老の家で療養し治療を受けているのだが、ミラはその横で三角座りをして、ぼーっとこちらを見ている。


「もう少し、難しい仕事を頼んでもよさそうだね。まったく、アンタが魔法を使えないのがもったいないよ」


「はぁ」


 ああ、俺をあんまり誉めないでください。空気読めないんですかあなた。いたたまれなくてミラの方を見れないんですけど。


 そのあと黙々と作業をしていたが、突然、ミラが長老に声をかける。


「シルビア殿……仕事をしながらでいいので、聞いてほしいのですが……」


「なんだい? あんたの仕事はそこに座って病人どもの様子を見るのことだよ。それでアタシが助かっているのはホントなんだから、あんまり気にするんじゃないよ」


 長老はミラには目を向けずドワーフ謹製の天秤のはかりでペースト状になった薬草を量っている。


「いや、そのことはいいのです。……いえ、よくはないのですが。……そのことではなくて、私は、……私達は、霊薬の代価に何を支払えばいいのでしょうか? ギルとも話したのですが、人ひとりの……妹の命の代価です。私達に差し出せるものは何でも差し上げます。出来ることは何でもいたします。何か希望をおっしゃって頂きたいのです」


 ここ二日でギルバートは目に見えて回復した。喋るのはもちろん、食事もできるようになり、視力も回復した。まだ体を動かすのは辛そうだが、自分でトイレに行ったり、顔を洗ったりなどは問題なく出来るまで回復している。今も体を起こしミラと一緒に長老の方に視線を向けている。


 ミラは、スヤスヤと眠っているリジーの方にチラリと目をやり、言葉を続ける。


「……ドワーフ達は鉄具や便利な道具をこの村に提供しています。しかしそれ以上に、同じ大辺境に生きる者として、……不遜な言い方かもしれませんが、借りを返す機会がある。命の借りを、命で返す機会が、この大辺境であればきっとあると思うのです。……私達にはそれがむずかしい」


 ミラは少し俯いて軽く息をつき、続ける。


「金貨や宝石が必要ならばご用意致します。あるいは武器や食糧でしょうか。しかし、それらの物が本当に必要か、妹の命の代価として十分なのかとなると、そうは思えないのです。……浅慮な私ではあなた方が欲している物がわかないのです。ですから、なにか欲しいもの、もしくは、私達に出来ることをおっしゃっていただきたい。無茶なことでもかまわないのです。出来るだけのことをいたします。むしろ、そのような要求こそ私達が望むところなのです」


 長老は作業の手を止め、首や肩をもみほぐしながら言った。


「ふう、アンタの言う通り、なにか欲しいものはといわれてもねぇ、金貨や宝石は、まぁ、あっても困らないが無くても困らない、はっきりいって使い道が無い。出入りの行商人はいるが、基本的に物々交換みたいなやり取りだし、何を買うのかって話さ。そうだね、強いて言えばなんだが……」


「なんでしょう? 私達が用意できるものなら……」


 ミラが少し身を乗り出す。


「少し前にフチに提案を受けてね、今度、行商人が村に来た時に相談してみようと思っていたんだが……」


「はい」


「家畜だよ。ヤギやニワトリさ。少数なら村の中でも飼えるし、乳や卵はたしかに魅力的だ。不都合があれば肉にしてしまえばいい。まずはためしに五、六匹づつくらいでも手に入れられないかと思ってね」


 たしかに、提案というか卵とかミルクは手に入らないのかってのは言った。……俺だって異世界モノの定番、マヨネーズとかお菓子とか作って、コレウメー、フチサンスゲー、みたいな知識チートをやってみたかったのだが。……しかし、この村、卵どころか酢とか植物性油も基本的にはない。料理の味付けは岩塩とハーブみたいな香草やスパイスが数種類、あと、野草や森の果物。まぁ、これがけっこう旨かったりするんだけど。


「なるほど」


 ミラは少し俯き考え込む。


「ただ、この大辺境で生きた家畜を運ぶのはおそらく大変だろう。普通に歩いてもこの村から人間の町まで五日か六日、家畜を連れてとなると……護衛の問題もある。とりあえず、行商人に相談だけでもしてみようと思っていたのさ」


「……たしかに、シルビア殿の言われる通り難しい点もありそうですが、……それは是非、当家で用立てさせていただきたい」


「ふむ……」 


 長老はミラに向き直り話だした。


「この際だから言っておくけど、アンタが貴族で金持ちだとしても、アタシ等にとっていいことなんて一つも無いのさ。むしろ逆でね、貴族って立場が足かせになる場合もある」


 気を悪くしないでくれ、と断ってから長老は続ける


「例えばの話だが、アンタが人間の町からこの村まで家畜を連れてくるとする。万全を期すならどの程度の規模を考える」


「そうですね、家畜の数にもよると思いますが、大型の馬車に乗せて運ぶとしても、餌や物資、世話をする人員、護衛と……けっこうな大所帯になるでしょう」


「そうだね、そしたら、町の人間や護衛の冒険者はどう思う?貴族が大人数の護衛を付けて荷馬車で辺境の亜人種の村に行く。なにかあるにちがいない。そこにもし霊薬の噂でも流れようものなら、この村はどうなると思う?」


「それは……」


 ミラはなにか言おうとしたが、言葉がつづかない。


「一商人が家畜や物資を運んでくるのはいい。あの商人は変わり者だから、で終わってしまう話だよ。実際この村で加工した毛皮や干し肉は人間の町ではそこそこな値がつくらしいしね。危険を冒しても利益を得たい、不自然なことじゃない。ただ、アンタやアンタの家が、となると話が変わってくる……フチ、ちょっと一休みしよう」


 そういって長老はお茶の準備を始めた。


「アンタの妹の病気のことを知っているのはどのくらいいる? そしてアンタがその治療薬を探して旅に出たことを知っている人間は何人いるんだい? 貴族様の娘が冒険者を雇って辺境に旅に出た。なにをしに? ……勘ぐる人間は少なくないだろう。そして、アンタが旅から帰ってきたら不治の病だった妹の病気が治った。なにをした? どこにいった? 何を手に入れた? ……となる。それがエルフの秘薬となれば、ゴブリンの村一つ滅ぼしても手に入れたい人間もでてくるだろうね。アタシが心配しているのはそいうことだよ」


 長老は木の椀にお茶をいれ、俺とミラに差し出す。


「勘違いしないで欲しいのは、アタシはアンタたちを疎んじてるわけじゃないってこと。アンタの妹だって助けたいと思ってる。そしてアンタの気持ちも少しはわかるつもりさ、ずっとドルフの娘を診てきたんだからね」


「……はい……ではどうすれば……」


「ふむ。まず、アンタの妹は助ける。これは約束しよう。症状がどのくらい進行しているのか知らないが、おとぎ話のエルフの隠れ里を探しに行くほどってことだろう? なるべく早く治療はする。ただ、そのことは少なくとも一年は秘密にしな。アンタたちの探索は失敗に終わった。辺境で魔物に襲われほうほうのていで逃げ帰った。妹の治療法は見つからなかった。しかし何年か経って、奇跡的に病が治った。この何年かってのが大事さ。長ければ長いほどいい。アンタたちの探索行と結び付けて考えるヤツが出てこないくらいね」


 長老は音を立ててお茶をすする。


「ふむ、淹れ方があるのか……トアが淹れた方が旨いね。えーと、アンタが代価を払いたい気持ちはわかるが、アンタの立場ではどうしたって大ごとになる。……本音を言えば、気持ちだけいただいて、あとはもうアタシ達にはかかわらないでもらえるのが一番なのさ」


「それは……しかし、そいうわけには……」


「そいうわけにはいかない、だろう。アンタの言いたいこともわかるよ。アンタの連れが動けるようになるまでまだ少し時間がかかる。それまでにいい案が出るかもしれない、良い落としどころがあればいいんだけど」


「……はい」


 ミラは一度も口をつけていなかったお茶をゆっくり口に含む。そして、真剣な表情で考え込む。


「ただ、問題があってね……」


 長老は調剤の作業を再開させながら、話をつづける。


「……はい?」


「エデ病の治療は、毎日の投薬と同時に精霊魔法系の治癒術を施術しないといけない。そして病状と体質によるが、短くて二十日ほど最長で三十日以上かかる場合もある」


「はい」


「で、どうするんだい? 私がアンタの家に行くのかい? それともアンタの妹をここに連れてくるのかい?」


「……あ」


「アタシもそんなに長くこの村を空けるわけにはいかない、かといってアンタの妹をつれてくるのも、さっきいった理由で難しいだろう」


 ミラはしばらく考え込み、絞り出すように言った。


「……治癒術を教えていただくわけには……」


「ふむ、教えるのはかまわないが、精霊魔法に適正があるやつに心当たりがあるのかい? 霊薬の秘密を守れるやつだよ」


 長老にそう言われ、ミラは黙り込んでしまった。


「……まぁ、考えが無いことも無いんだが……」


「それは?」


 長老の言葉にミラは反射的に聞き返す。しかし、そのあとの会話は続かなかった。長老に家に駆け込んで来た者があったからだ。


「シルビア、入るぞ!」


 掛け声と同時に家の中にはいってきたのはドルフだった。


「なんだい? 今大事な話を……」


 ドルフは家の入口の水瓶から木の椀で水を汲み、一息に飲み干してから言った。


「怪我人じゃ、今はトアが見ておるが、あまりいい塩梅ではなさそうでな」


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