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やりたいことなんて…

職員室に屋上の鍵を取りに行くと、貸出中という文字が目に入った。

どうせどこにいてもうるさいし、まぁ行ってみるか

俺ーー里内信矢は、屋上につずく階段へと向けて歩き出した。

意味もなく、静かなところを探しているわけじゃない。

理由ならちゃんとある。『死ぬまでにしたいことを考える』ためだ。

今まではそんな事考えたこともなかったけど、昨日の夜、弟に忠告されたから。

『お前は、明日消える』って。


明日、サッカー部は朝練があると聞いて、その日はいつもより早く寝床についた。けれど11時ごろ、いきなり弟に起こされた。

「なんだ?トイレ怖いのか?」

「トイレは怖くないけど、今から話すことは兄ちゃんにとって怖いことだよ」

弟はそう言いながら、真剣な目で俺を見てきた。

今はあまりいじらない方がいい俺の頭がそう言った。だってこんな真剣な目をした弟を見たのは初めてだから。

「お兄ちゃん、お前は明日死ぬ」

いきなりだった。

「は?どうした」

俺はとぼけた声を出した。

弟に死ねって言われる兄はいるかもしれないが、死ぬって忠告される兄なんて聞いたことない。

「そんなに深く考えないで。『死ぬ』って言っても、ただこの世界から消えるだけだから」

「死ぬも消えるも変わらないだろ」

まぁねと弟は笑った。そしてその後すぐに声のトーンを落として言ってきた。

「でも『キレイ』に消えるんだよ。何も残らない。キレイさっぱりね。」

『何も残らない』その言葉に少しだけ『悲しみ』という感情が含まれているような気がした。

「 『何も残らない』ってどの範囲?」

「人の記憶にも残らないよ。たぶん…ね。僕もそうだったから、お兄ちゃんをのぞいて」

今弟は、確かに「僕もそうだった」と言っていた。ということはーーーー

「お前はもう…。消えてんのか?」

その言葉を聞いて弟は自分の部屋に帰ろうと動き出していた足を止めて、俺の方を見て悲しそうに笑いおやすみと言ってきた。『悲しいなら泣けばいい』、そんな言葉が出ないほど、弟のおやすみは悲しさであふれていた。


俺は階段の途中で足を止めた。

朝、玄関で母さんが「頑張って」と手を振っている横で弟は泣いていた。自分の存在に気づかない母さんのエプロンの裾を引っ張りながら。

そりゃあ弟のことが記憶に残っている人が一人もいなくなるんだもんな。

そして今日。俺もこの世界からキレイに消えて、弟みたいな存在になる。

それを考えたら、一回止まった足が動かなくなったしまった。

『どうしてこうなったんだ』

俺は自分の人生、楽しくないなんて思ったこともない。死にたいと思ったこともない。

『怖い』

その場で縮こまろうとした俺の耳に小さな音が聴こえてきた。

屋上のフェンスを登る音。

フェンスを……登るーーーー

まずい。 俺は動かなかった足を力ずくで動かし、駆け出した。

フェンスの外にいると思われる、一人の人を助けるために……。







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