43、本音
「わかった、話せそうなことがあったら話すよ。」
「だめ。隠したままにしないで、みんな話して。お願い。」
左腕をつかみ、顔を覗き込むようにして言った。強い口調から、心からの願いであるのがわかる。
「わかった。昔の事を話すことで、君の言う‟他人”でなくなるのならそうする。」
「ありがとう。」
ほっ、と思わず胸に手をやった。だがそれは自分の思い通りになった安堵からというより、こちらの苦しみを和らげることが許されたことへの喜びと感じ取れた。何気ない仕草に現れる優しさがいとおしい、いやありがたい。
「ところで…」
いや、ききたいことはひとつなのだが、どう切り出したものか。彼女からの答えが怖いのもある。しかしそれ以上に、おかしな言い方で彼女の機嫌を損ねやしまいか、分をわきまえぬ不躾なことを言う人だと呆れてしまうのではなかろうか、などと考えてしまう。相手に過度の期待をかけるのは迷惑だ。所詮、舞い上がっているのは自分だけではないのか。
「ね?そうやって私のこと気遣ってる。いいから言って、直接聞きたい。」
「まいったな。すべてお見通しってわけだ。」
「ずっと、あなたの事をもっと知りたいと思い続けてきたから。」
視線をこちらに向け優しく微笑んだのもつかの間、あの表情に変わった。
「初めのころは、ただの女好きの遊び人だと思ってたんだけど。」
「ひどいな、それ。でも、否定はできないか。」
「あっさり認めた。だから私に近づいてきたんでしょ、ペン貸してくれって。」
「またその話?はいはい、確かにその通りです。でもそれは、君に惹かれたからだよ。」
「嘘はいらないよ。私、自分が色っぽくもセクシーでもないのはわかってるんだから。」
「いやそういう対象としてじゃなく、他の女性と違う、なんていうか柔らかさとか暖かさとか。何か居心地がよさそうな気がして。」
「あ、プヨプヨしてお布団みたいだったって言いたいんだ。ひどい。」
「そ、そんなことは思ってもいないよ!太ってるなんて言ったことないじゃない。」
「…今言った。」
「あ…だからそうじゃなくて…」
「プッ!ハハハ、あなたってホントは真面目なのよね。これもあなたの恋人になってからわかったんだけど。」
笑い声の中に聞こえた二文字が耳に留まった。聞き違えたかと思い、確かめようと尋ねた。
「恋人?」




