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  作者: 東郷十三
41/46

41、昔話

 他人という言葉に心が冷えた。確かに、元は縁もゆかりもなかった見ず知らずの2人だ。それが1年ほど前に仕事を通じて出会い、話す機会が増え親密になった。今では月に1,2度2人で食事に行ったりドライブしたりしている。親密な関係と言えるのかもしれんが、その程度の頻度で一緒に出かける女性は他にもいるし、緋乃にも話している。と言って、彼女が単なる遊び友達の1人かときかれれると、答えに窮してしまう。一体なぜこの女性と一緒にいるのか?理由を説明するのは難しい。しかし、とにかく同じ空間にいると安心する。他の女性といるとどうしても気を使ってしまうが、彼女といると何も考えず寛いでいられる。心と心の距離が近いということだろうか。


 昔話、いや子供の頃の話は確かに封印しておきたい。小学生の頃、小心者で意志の弱かった私は、いじめっこの格好の標的だった。学校内はおろか、下校時にも付きまとわれあれこれと悪さをされた。学校に行くのが苦痛で嫌で、仮病を使って休むことがしばしばあった。もちろん親にそんなことは話せない。お堅い仕事をしていた共稼ぎの両親に話そうもんなら、私の不甲斐なさを叱るより先に学校に怒鳴りこんで行っただろう。その頃の思い出のほとんどは、そういった辛い日々のものでしかない。

 もちろん、わずかながらも楽しみもあった。一人っ子カギっ子だったので、母親が帰ってくるまではテレビを見放題だった。何を観ていたのか良くは覚えていないが、箱の中で色々な景色が移り変わり日本人でない人が現れるのが不思議だった。しかし仮にこんな思い出話をしたとして、話し手本人はノスタルジーに浸って幸せかも知れんが、聞かされる側にとっては理解を超え苦痛をも感じまいか。


生まれたときからカラーテレビを観ている世代に、白黒テレビで観た空と雲とのコントラストの美しさなど到底わかりはしまい。


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