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  作者: 東郷十三
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4、温かい水

高速道路を玖珠インターで降り、県道から国道へと左折する。

「なんだかうれしそう。」

「ああ、懐かしくってね。この辺はアウトドアに夢中だったころ、キャンプの帰りに良く通った場所なんだよ。」

「へぇ、こんなところまで来てたの。何もできないくせに、よくキャンプなんかに来たもんだ。」

「あ、馬鹿にしてる。これでもみんなをうならせたシェフさ。」

「バーベキューにシェフはいらないと思うけど?この前のミーティングのとき、『バーベキューなんて火おこしの炭の並べ方だけ知ってればいいんだよ。』って言ってなかったっけ?」

「ばれてたか。」

「見え透いたことを言うから。」

国道を粟野の交差点で右に折れ、川に沿って進む。温泉は温められた地下水であるから、それが流れ込む川の水も当然温かい。気温が低い早朝には川面から湯気が立ち上り、流れ全体を覆ってしまうほどだ。その光景を緋乃に見せたかったのだが、この時間では残念ながら気温が上がってしまい、湯気はそれといわれてはじめて気がつくほどおぼつかない量しかない。

「ここから先にいくと温泉郷がいくつかあるけど、お勧めは泊まりじゃなくて“立ち寄り”、今日のパターンだね。男女に分かれての共同風呂が基本で、一人数百円払えば檜風呂・岩風呂・川底風呂・露天風呂・内湯等楽しめる。」

「ふうん、コスパいいんだ。なんかスーパー銭湯みたい。」

「いやいや、そんなのと比べちゃ申し訳ないよ。お湯は100%かけ流しだし、お湯の質が全然違う。」

「どう違う?」

「そりゃぁ、ここで湧きだしてるから新鮮だし、色々体のためになる成分が入ってる…らしいし。」

「要するに、よくわからないってことか。」  


 川を離れ山手に向かった道をしばらく行くと、両側に民家の一部を改築した“湯処”“家族湯”が現れはじめる。看板が掲げてあるものの施設と言うには貧相な建物だが、それぞれに特徴があり気分に任せて温泉を巡る“温泉ホッピング”も楽しい。また、1時間1,500~3,000円で貸切れる休憩所付の“家族湯”を利用すれば、気の置けない仲間同士でゆっくりと楽しむことができる。さらに進むと川岸の“壁”の元から温泉が湧いていることで有名な老舗の旅館が左手にある。立ち寄りもできるのだが、温泉の湧いている壁までは30メートルほど坂を下らねばならず、朝から徒歩での往復はハードすぎる。


これから行く川底温泉は、まだ“人気温泉スポット”とは言えない静かな所だ。宿泊できる旅館は、一軒のみ。そこの湯殿は川にせり出すように立てられた母屋の下、壁で囲われた川の一部。湯船は川上方向から三つ並んでおり、それぞれの湯船の底から、ぶくぶくと泡を出しながら湯が湧き出している。しかしすべての湯船の温度を賄っているのは、一番川上のもののすぐ横から湧き出る80℃以上の源泉。その湯が順番に三つの湯船を下り、湯を‟熱め”、‟適温”、‟温め”と変える。この湯殿は女性も一緒に入ることができる。もちろん女性専用のものも別棟にあるのだが、『宿から少し離れた川を見下ろす建物の中にあって、どこかの家庭の浴室のようでまったく情緒がない。』と雑誌で酷評されていた。それよりは、メインの湯殿でゆったりしたほうが良いだろう。もちろん、男性が入っていれば気が休まるどころじゃないだろうが。もう一軒は立ち寄り専門の施設で、宿泊はできない。温泉回数券があるせいか、朝に夕に近所から散歩がてら風呂を浴びに来る。もちろん県外からの入湯客も多く、以前、四国から来た旅行者に会ったことがある。


短いトンネルを抜け山間の村に入ると、山陰でまだ日が当たっていないということもあろうが、ところによっては屋根に15センチほどの厚さの雪が残っている。田はふんわりと白く覆われ、あぜ道の中央だけが細く薄茶色だ。まさに雰囲気は“雪国の閑村”。


 やがて道に陽が当たるようになり、いったん細くなった道が広くなる頃、左手の川に沿って右にカーブすると最初の目的地“せせらぎの湯”だ。

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