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  作者: 東郷十三
22/46

22、乳白色

 赤川温泉は、源頼朝時代の文知2年(1185年)に発見されたと伝えられており、この一帯十数箇所で自然湧出している。九州では車で来ることができる最も高いところ(標高1,100メートル)にある温泉であり、その源泉温度は23℃。この温度で白濁しているのは、硫黄泉としてはとても珍しいらしい。日本でも屈指の硫黄含有量を誇り、‟日本三大天然湯の華”と評される湯の華はここで限定販売されている。

石の階段を6,7段ほど登り玄関に入ると、左手に受付がある。たまたまいた主に、昨日のアドバイスの礼を言う。牧ノ戸峠をノーマルタイヤで通ってきたと話すと、よくチェーンも着けずに来たものだ、と呆れられた。

 入湯料1人500円を払い、男女別の共同浴室に向かう。硫黄の香りが強く、否が応でも温泉気分を盛り上げる。

「ねえ、いい加減教えてよ。冷たいお風呂だけじゃないんでしょ?温かいのもあるわよね?」

曖昧に首を傾け、そのまま右側の男湯の暖簾をくぐった。

「んもう!」

背中で聞いた緋乃の声は、本当に怒っているようだった。

 男湯と女湯は日替わりで場所を交代する。お勧めは右側ということを聞いていたので、今日は楽しみだ。既に4,5人入っているようで、子供の声も聞こえる。

 脱衣所から湯殿に引き戸を開けて下りると、室温が低いのに震えた。天窓が開けてあり、時折外から吹き込んでくる風で天井近くの湯気が舞っている。こうしておかないと、充満する硫化水素ガスで危険とのこと。正面と川に面している右側が壁一面ガラス張りになっており、採光がとてもよい。改装されたばかりだというのに、蛇口は既にガスの作用で黒ずんでいる。それほどここの湯の硫黄含有量は多いのだ。湯殿の手前側には2人がやっと入れそうな冷泉の湯船、奥には窓に面して加熱された湯で満たされた広い湯船がある。かかり湯をし、奥の湯船にゆっくりと体を肩まで浸ける。湯温は高くなく、白濁した湯で自分の胸さえ見えない。窓の外には楓の木が何本か見え、紅葉の季節にはすばらしい眺めを見せてくれそうだ。


 しばらく紅葉の時期に見えるであろう光景を想像していると、露天風呂から子供の泣き声が聞こえてきた。



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